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大島紬を未来へつないで 「オフィシャルアンバサダーが伝えたい大島紬の魅力」vol.5(最終回)

大島紬を未来へつないで 「オフィシャルアンバサダーが伝えたい大島紬の魅力」vol.5(最終回)

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知られることの少なかった戦時中、そして戦後8年間の苦難の時期を乗り越えて一斉を風靡した大島紬。そして今再び生産反数が激減し、世界に誇るすばらしい技術が失われようとしています。大島紬を未来につなげるために私たちにできることは何でしょうか。

2022.08.30

まなぶ

大島紬は着てこそ楽しい 「オフィシャルアンバサダーが伝えたい大島紬の魅力」vol.4

こんにちは。
きものLifeプロデューサー・星 君枝です。

思えば、大島紬アンバサダー就任当時は「大好きな大島紬をもっとたくさんの方に知ってもらいたい」という単純な想いでいました。

ですが大島紬のことを深く知るにつれて、「大島紬を未来につないでいきたい」という強い想いを持つように私自身が変化。そのきっかけとなったのは、昨年奄美大島訪問時に大島紬アンバサダー・プロジェクトの秋葉代表から、大島紬の第二次世界大戦後の歴史をお聞きしたことでした。

戦時中、そして戦後に復興するまでの想像もできないほどの大変な苦難を乗り越えながら、技術を守り、発展させてきた絣織へのこだわり、また産地ならではの苦悩も知ることになりました。

大島紬のルーツ

奄美大島

着陸前の飛行機から見た奄美大島

奄美大島は、のんびり、ゆったりとした雰囲気が感じられる自然豊かな島。

本州にはない、初めて見る植物がとても多く、車窓から奄美大島ならではの風景を見るのも楽しみのひとつ。

奄美大島 月桃の実

染料にも使われる薬草の月桃。花のあとに赤い実をつける

大島紬の起源は、1300年以上も前とされています。

明治中期までは真綿から紡いだ紬糸を使用した「大島紬」として市場に定着していたため、今なお古来の名称がそのまま受け継がれています。

現在は生糸を用いますので、「大島織」「大島絣」などといったほうが合っているのではないか、という声もあがっていますが「大島紬」が愛されてきた歴史は長く、このままの名称が今後も引き継がれるのではないでしょうか。

また奄美大島に自生する植物を染色に用いたのが、現在の、テーチ木(シャリンバイ)と泥で染める「泥染」のルーツともされています。

奄美大島 奄美市大浜海浜公園

奄美ブルーともいわれる澄んだ碧い海。サンセットを待ちましたがこの日はあいにくの曇り空

知られることが少なかった大島紬の歴史

大和朝廷の時代から琉球王朝の統治に変わり、その後は薩摩藩の直轄地となった奄美大島。当時はバショウ布など自然のものが日常着に使われていました。養蚕も盛んで、自家用に、クズ繭で織った紬も着用していたようです。

江戸時代は「琉球紬」として扱われていた大島紬。薩摩藩の圧政にも苦しめられ、1970年には島民に「絹布着用禁止令」が出されます。島民は厳しい統制下で手紡ぎの糸を使い、原始的な地機で織るという染織に心血を注ぎ、大島紬独特の織りを守っていたのです。

明治になると現在の高機が開発され、量産できるように「締機(しめばた)」も使われるように。そして現在に受け継がれています。

大島紬01
大島紬02

大島紬について調べていった経緯で知ったことがあります。

それは、太平洋戦争が始まり第二次世界大戦ののち、昭和21年に奄美大島は日本の本土と行政分離され、当時の沖縄と同じようにアメリカの占領下におかれていたということ。

つまり奄美大島は、その期間は日本ではなくアメリカの領土だった、ということです。

戦時中の奄美大島はアメリカ軍の空襲を受けて工場や機材などが焼失、昭和20年には大島紬の生産ができなくなり、その間に鹿児島に渡った生産者も多かったそう。

大島紬を復興しようにもアメリカの領土のためまず繭の調達が難しく、また生産しても日本に流通させるのにまた困難を極めました。昭和28年に日本復帰となり大島紬復興の道が開かれてからも、苦難の連続…

このような歴史を知ると、厳しい状況でも大島紬の伝統と産業が守られてきたからこそ現在私たちが大島紬を楽しむことができている、と感謝の気持ちでいっぱいになります。

世界に誇れる技術がなくなっていく

大島紬の魅力のひとつに、「緻密な経緯絣(たてよこがすり)」があります。

経緯絣の種類には「一元式(ひともとしき)」「片ス式(かたすしき)」「割り込み式(わりこみしき)」があります。

※総絣もありますがここでは割愛

一元式(ひともとしき)

大島紬 一元式

一元式の絣

風車のような十字の絣。

片ス式(かたすしき)

大島紬 片ス式

片ス式の絣

T字のような絣。

割り込み式(わりこみしき)

大島紬 割り込み式

割り込み式の絣

とても複雑な絣織。IとEの組み合わせのようにも見える。

従来の大島紬の多くは一元式で織られていたそうです。

高い絣合わせの技術を要する一元式は減少して現在織り上げられているものはほとんどが片ス式。一元式は希少になりました。

そしてなんとも残念なことに…

織元さんによると、割り込み式を織れる職人さんはもういらっしゃらないとか。

大島紬はひとつ高度な技法を失ってしまったのです…

お手持ちの大島紬の絣模様をじっくりと見てみてください。もし「一元式」や「割り込み式」の作品の場合は大変希少なので、ぜひ大切に着てあげてくださいね。

妹の大島紬を私らしく

昨年、妹が病で天国に旅立ちました。

母が妹の結婚の際に持たせていた着物の中に泥大島もあり、「一度も袖を通していない」と生前に聞いていました。

「一緒に大島紬を着て奄美大島に行こうね」と励ましていましたが叶わない夢となり、着物は私が引き取ることに。もともと合わされていたのは茶系の袋帯でした。

大島紬 泥大島

左:妹の泥大島に合わされていた茶系の袋帯 右:私の白の博多織名古屋帯

引き取った日にそのままの組み合わせで着てみましたが、分かってはいたものの、私には似合わない。

置きコーディネートでは茶系の帯や白系の帯がよく合っていて、茶系が苦手な私も、白い帯でトーンを上げればスッキリ着こなせるかと思いきや…

大島紬 泥大島 大島紬アンバサダー 星 君枝

しつけ糸をつけたまま着用

なんだか垢抜けなくて納得がいきません。

この泥大島を私らしく着こなしていくことこそが、母と妹の想いを受け継いだ私の使命。さっそくコーディネートを考えてみました。

黒い帯を合わせ、帯揚げの色をアクセントに。クール系にすると、”似合う”に寄せられます。

大島紬 泥大島 大島紬アンバサダー 星 君枝

この泥大島を着こなすには、黒や濃い色の帯でカッコイイ系にして、メイクもクール系にしようと考えています。

また寸法が合っていないことや八掛に苦手な赤茶がついているということもあり、仕立て直しをお願いしていました。

八掛は、柄の色ともリンクする紫色に。これからさらに、”私に似合う”、そして好みの感じに着こなすための帯も探していきます。

大島紬を着こなすコツ

形が同じでも、仕立て方や帯まわりを替えるだけで印象が変わる着物。それゆえに「着物は着る人がデザインする」ともいわれています。

例えば、仕立て方。

大島紬 白大島 白正藍染 窪田織物 大島紬アンバサダー 星 君枝

左右非対称の白大島。顔まわりに左側の柄のない部分をもってくるよう和裁士さんに依頼

左右非対象の柄づけの場合、顔に近い衿にどちらをもってきたいのか、また、ほっそり見せたいなどの要望があればそれを叶えるためにどうしたら良いのか。

お店の方や和裁士さんなどプロの方にご相談しながら、自分の理想に近づいていくことが大切です。

また帯まわりは、同じ着物でも帯や小物を替えるだけでコーディネートの幅が広がります。

大島紬 白大島 都喜ヱ門 大島紬アンバサダー 星 君枝 大島紬コーディネート

雪輪柄の白大島に黒、紫、白の帯をコーディネート。白い帯との組み合わせが一番のお気に入り。衿の柄出しは指定して和裁士さんに依頼

パーソナルカラーを取り入れると顔映りも良くなりますね。その日のテーマやイメージに合わせてコーディネートを考えるのも楽しいです。

つないでいきたい想い

10年後、20年後はますます生産反数が減少し、絣織の作品は今よりもずっと高価になっていくと言われている大島紬。今私たちにできることは、お持ちの大島紬をどんどん着て楽しんでいくことではないでしょうか。

大島紬 縞大島 大島紬アンバサダー 星 君枝

お気に入りの縞大島。藤色〜ごく淡いピンクのグラデーション

絣織にこだわらず、縞大島でも大島紬に変わりはありません。着心地の良さを味わい、大島紬をもっと多くの方に知ってもらうこと。それが産地への応援になります。

素敵に大島紬を着ている方がいらっしゃれば、見た方に「私も大島紬を着てみたい!」と思ってもらえるきっかけにもなります。

秋から冬、そして春にかけては、着物でのお出かけには絶好の季節。あなたらしく素敵に大島紬を着こなして、街に飛び出してみませんか?

そして「大島紬が素敵」ではなく、「大島紬を着こなしているあなたが素敵」とほめられたら…

ますます大島紬が、そして着物が楽しくなりますよ!

これからも大島紬の魅力を多くの方へ

「オフィシャルアンバサダーが伝えたい大島紬の魅力」は、今回で最終回となりました。

これまでご覧いただいたみなさま、また、掲載にあたりご協力いただきました本場奄美大島紬協同組合、本場大島紬織物協同組合、大島紬アンバサダー・プロジェクトのみなさまに感謝申し上げます。

これからも大島紬の魅力を多くの方に感じていただけましたら幸いです。

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