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書家/プレゼンテーションクリエーター 前田鎌利さん(番外編) 「彼らが”和”を想う理由」vol.2-3

書家/プレゼンテーションクリエーター 前田鎌利さん(番外編) 「彼らが”和”を想う理由」vol.2-3

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インタビュー前後編では、「次世代へ引き継ぐこと」への念いを話してくださった前田鎌利氏。それはすなわち、「先代から受け継ぐこと」と立場が違うだけで同じこと。番外編として、逆方向からの視点、そして鎌利氏の今後の展望などについてご紹介する。

インタビュー前後編にて「次世代へ引き継ぐこと」への念いを話してくださった前田鎌利氏。

それはすなわち、「先代から受け継ぐこと」と立場が違うだけで同じこと。
何を受け継いできたかを思い起こせば、何を引き継いでいきたいのかおのずと見えてくるかもしれない。文化とは、そのような個々の想いの集合体ではないか。

番外編として、逆方向からの視点、そして鎌利氏の今後の展望などについてご紹介する。

前田鎌利先生

「書家」であり、かつ「プレゼンテーションクリエーター」と紹介されることが大概であるが、すでにご本人は全ての肩書きから超越し”THE 前田鎌利(まえだかまり)”以外の何者でもない。常に自然体。誰に対しても変わらず接するところが老若男女を問わず好かれる所以だろう。『継未-TUGUMI』の教室にて、お話を伺った。

父・末治郎から受け継ぐ

「親父・末治郎の血なんじゃないかな」

鎌利氏の父、末治郎は大阪で一旗上げた商売人であった。

前田鎌利氏の継未にて

「親父はもともと商売をやりたいって思っていたようです。20代で終戦を迎え、商売をするなら大都市でやるべきだと福井から大阪に出ていったようです。当時入ったうどん屋で”大阪は食の街”という店主の言葉から、今でいうコンビニみたいな何でも売っている駄菓子屋をはじめたそうです。

その日のお菓子やパンを仕入れなきゃいけない。
でも元手がないからと、朝お袋の着物を質屋に出して資金を作り、その日の売上で買い戻すっていうのを毎日行っていたらしいんです」

この時、母・袖子は父・末治郎から「手に職をつけた方がいい」と言われ、着付けの講師となる。

鎌利氏が一歳の時に実父(末治郎の息子)が亡くなり、幼い兄弟は祖父母であった末治郎と袖子夫妻に養子として迎えられる。子供たちがまだ小さいから、身寄りが多くいる地元に戻って親戚筋が多いところで育てた方が良いと、一家は大阪から福井に戻ることとなる。

太陽の塔の下で遊んでいる写真が1枚残っているが、大阪の記憶はあまりないようだ。地元に戻り、一家は内職も含め色々な仕事をしていたらしい。

「親父の働く姿を見ていたら、働くの大変そうだな、真面目に勉強しなきゃと、ぐれている暇はありませんでした」

遠い記憶を辿り、懐かしそうに話す鎌利氏。

前田鎌利氏のタフな精神力

インタビュー前後編でもお伝えした鎌利氏のタフな精神力とポジティブな行動力、変化に柔軟に対応する剛柔のバランス。極めて当たり前のことのようにこなす、そのルーツはここにあるようだ。

商売人気質で働き者で家族想い。
大正生まれの末治郎さんの念い(おもい)、ここに受け継がれる。

囚われない書

前田鎌利氏の書

鎌利氏の書は自由だ。

型にも枠にも囚われず、何にも縛られることなく伸び伸びとしている。何かの瞬間に動き出す有機物のようだ。

「独立書家として、古典を学びつつアートも見ながら、自分が好きなものって何だろう、何でこれが好きなのかって好きな理由を深掘りして、自分の書風を作りあげています」

鎌利氏ならではのプラスアルファの付加価値を増やすことも意識されている。
ひとつに凝り固まると職業書家になってしまうので、なるべくそのときの”感情”が表現できるよう、いろんな書風で書けるようになりたいと考えているとのことだ。

「上手い下手の2軸の価値観と評価軸だけではなく、好きか嫌いかも含めて、なぜそれが好きでなぜ嫌いなのかという自己解釈を自分の中に持つ。
その軸を持つために内観をするアプローチが大事だと思っています」

今後の展望

成し遂げたいことは全然何も実現してないし、何も終わっていないと言う鎌利氏。

”足るを知る”という価値観もあるが、足るを知れば終わってしまう。

「”これ”を成し遂げたいっていう”これ”が、絶えずフレキシブルに動きやすい。
実現手法が多様化していて、ひとつはプレゼンだったり、ひとつは書だったり。ツールが違うだけでやっていることは一緒。念い(おもい)を伝えることは同じです」

なんと今まさに、私設の図書館の設立も進めているそうだ。
地元・福井県鯖江市で、人と人が交われるコミュニティーとして棚を作り、その本箱に自分が好きな本を置いて貸し出せる仕組みだという。

「少なくとも20、30人の本箱のオーナーさんがお互いに交流できるコミュニティができ、コラボーレーションもできる。そして一般の人も本を借りに来られる。

僕はサテライトで東京にいながら、東京とその場をつなぐハブ役。定期的に鯖江に行って話をしたり東京の人を連れて行ったり、地元との関係人口を増やして結果地方創生につながる。

このプロジェクトは、本棚のオーナー自身が伝えたいことを本を通じて伝えられるものであると同時に、図書館という器が僕の伝えたいことを伝えるツールとしてあるわけで…だからツールっていっぱいあって、終わりはありません」

前田鎌利氏が進める私設図書館
珍しい前田鎌利氏の着流し姿。筆者は塩沢紬に小糸染芸の染め袋帯を締めて

インタビュー後、この場にいた関係者がみな、鎌利氏にお気に入りの言葉を書いてもらうというサプライズをいただく。その言葉たちは秘密だが、そのどれもが誰かに感化され、誰かから受け継いだ言葉だった。

書も着物も、そうやって誰かの心に響いたり胸に残ったら、自然と次世代に継いでいけるのかしら。

もちろん、”かっこいい大作戦”とともに――

前田鎌利氏

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