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ARLNATA(アルルナータ) 寺西俊輔さん(後編) 「彼らが”和”を想う理由」vol.3-2

ARLNATA(アルルナータ) 寺西俊輔さん(後編) 「彼らが”和”を想う理由」vol.3-2

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どのようなきっかけも人と人の繋がりから成るが、何を感じるか、何を想うかは、双方の関係性に委ねられるもの。『ARLNATA(アルルナータ)』率いる寺西俊輔氏と関わる人たちはみな、彼に自然と心を開いているようだ。小さな輪は少しずつ大きくなり、伝統産業にも新たな循環がはじまっている。

アルルナータ・寺西俊輔さん

”伝統を現代(いま)に纏う(まとう)”を掲げ、呉服業界に新たな風を起こしている『ARLNATA(アルルナータ)』。「会社でもブランドでもなく”プロジェクト”」と話すのは、代表の寺西俊輔氏。現在、丹後の民谷螺鈿や日本三大紬である大島紬・牛首紬・結城紬などのテキスタイルを用いて、新たな価値を”洋服”という形で創造・発信している。大阪のアトリエにてお話を伺った。

フロンティア精神

寺西俊輔氏

呉服業界というと、古く長い歴史とともに伝統文化の継承を担い、他業界に比べて”畏れ多い”ような印象をいだく方もいるだろう。

畏敬の念がありながらも物怖じすることなく、ARLNATA(アルルナータ)寺西俊輔氏は今や、世界的に評価される丹後の「民谷螺鈿」や、日本三大紬とされる大島紬・結城紬・牛首紬などの産地の織元とも縁を紡ぎ続けている。

織元によっては、彼のことを”救世主”とも称する。

伝統産業の現場においては、何か今までにない新しいことや違うことを行いたい気持ちがあっても、難しいことが多い。

そんな時に寺西氏との出会いがあって、彼となら一緒に新しい可能性に挑戦してみよう、楽しんでみようと心底思えたのだろう。そして「反物=着物」としてだけでなく、洋服の形にすることへの抵抗感も、払拭できたのだろう。

今も次々と繋がるご縁は、すべてご紹介によるとのこと。

着物の反物との出会いは、パリで開催される素材見本市『プルミエール・ビジョン』だった。

あまりの美しさに感動した寺西氏は、丹後・奄美大島・石川・米沢と全国の産地に直接足を運んで話を聞き、実際に職人さんの手仕事を見に訪れているようだ。

「世界中、どこでもやっていないようなことを日本ではやっている。これをちゃんと伝えさえすれば、絶対に世界に通じると思いました」

前例もなく、唯一無二の存在として究極のオリジナリティを追求し続けている寺西氏。

「例がないので手探りです。苦しみながら楽しんでいます」

静かに優しい眼差しは、熱く物語る。

循環を促す

螺鈿のテキスタイルを用いた洋服

反物の新たな可能性を追及するだけではなく、ものづくりにおける”職人さん”方への深い想いもあるようだ。

「僕自身パタンナーという技術職で、実際、手仕事はすごく大変です。

ファッション業界は華やかに見えますが、99%は本当に泥臭い。職人の給与は低く、呉服に限った話ではなく職人が金銭的にも社会的にも評価されるようにならないと持続しない。

着ること、買うこと、お金を落とすこと自体が、職人に対する投資です。
そのお金があるからこそ次のものづくりができるわけで、これこそがまさに循環。そのようなことを意識できるような人がひとりでも増えれば、もっともっと、ものづくりの環境はよくなると思います」

ARLNATAの目指すところは、循環を促し、継続性を生み出すこと。

単にお金があるから買うのではなく、そのお金がどこにいくのかまで思考を巡らせてみよう。果たしてその行為が真の循環の一助となるのか。

買うことで循環を促す

真のラグジュアリーとは

真のラグジュアリーとは

今や世界中どこにいても、ネット環境さえあればクリックひとつでモノもサービスも買える便利な時代。作っている人を知ることも、商品自体を見ることもなく。

様々な価値観が混在する中、寺西氏が考えるラグジュアリーとは

「人と人の繋がりこそが本当のラグジュアリー。
実際に自分の体を運んで空気を感じ、現地の人とコミュニケーションを取るなど、今後は”実体験”にすごく価値が出てくると思っています。

着物や伝統産業はまさに背景に人が関わっている。特に、誰々さんが作った、など顔が分かるプロダクトです。ARLNATAも、人の顔が想い浮かぶ、人の存在を感じられるようなものづくりや発信の仕方を心がけています」

その服がカッコイイから買う。カワイイから買う。
プラス、どういう人が作っているんだろうな、と。

時には、直接目で見て触れて話を聞いて、五感を研ぎ澄まして買い物をしてみよう。背景にどなたかの存在を感じられるかもしれない。

人の存在を感じられること自体が”ラグジュアリー”なのだと。

ファッションと着物 ③伝統の可能性

伝統とは?

「伝統を継承したい」と声高にいうのは簡単だ。

しかし、真に協力や貢献をしようとなると難しい。
”伝統”という言葉は好印象で見栄えがいいことから、一過性の活動やプロモーションに利用されてしまうこともある。

「伝統は、時代の空気や需要を吸い上げながら変化していくものだと思っています。
昔のやり方だけに固執していてはいけないし、どうしても必要であればそれは置いておいて、今の時代にあったものを並行して表現していくことが必要です。

一方で、着物としての存在は絶対に消してはいけない。

現実的に考えると、着物よりも洋服の需要が多く海外にもアピールできる時代なので、着物だけでやっているのはもったいない。”テキスタイル”という見方をすれば可能性はとても広いので、それを広げていく。この輪を、もっともっと大きくしていきたい。

すべて人との繋がりからご紹介いただいていて「関心があればぜひお願いします」とアプローチしています。少しずつですけど、大きくなっている実感があります」

人と人の繋がりを、人一倍大事にされているようだ。

産地にとっては、一緒に前を向き共に未来を見て、さらなる可能性を広げてくれる新たな存在として。

寺西氏は、今も全国の産地と縁を紡ぎ続けている。

今後の展望

今後の展望

「全国の産地とコラボレーションしていきたい。

どこかに旅行に行った際にその土地の美術館や有名レストランへ行くのと同様に、その土地のARLNATA(アルルナータ)のお店に行き、そこにしかない作品を買えるようにしたいなと」

小さな輪がどんどん大きな輪になっていく。
自分だけでなく関わる他者も含めて、新たな可能性という循環の輪が少しずつ大きくなっていったら…

日本の伝統産業も進化し継続できるのかもしれない。

寺西氏から見る未来は、とてもあたたかく優しい。

インタビューは、奥様のMolly氏もご一緒だった。

美しいだけでなくかわいらしさもあり、その場にいた全員がすぐにファンになってしまった。

奥様のmolly氏

寺西氏とはミラノから一緒で、自身のファッション業界でのキャリアを考え残る気持ちもあったが、一緒に日本に帰国をする選択をしたそうだ。

「俊輔は、やりたいことを貫くタイプ」

寺西氏を心から信頼し、プロジェクトに参加するならば後からではなく、スタートアップの(つらくて)一番楽しい時間を一緒に、と思ったそうだ。

ふたりが紡ぎだす未来に、着物ファンとしても期待したい。

藤田陽子さんのコラムはこちら。
24コラム×3パターン=72のコーディネートは圧巻です。

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