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甘春堂 氷の節句に『水無月』を 「京都・和の菓子めぐり」vol.8

甘春堂 氷の節句に『水無月』を 「京都・和の菓子めぐり」vol.8

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6月の京都に欠かせないお菓子の代表格『水無月』。早い店では春先から店頭に並ぶ一方で、「夏越の祓」当日の6月30日にしか作らないというお店もあり、それぞれにこだわりが感じられるお菓子です。毎年決まった店でという方も、「今年はどこの水無月にしようかな」という方も、はたまた水無月を初めて食べるという方にもおすすめしたい老舗の一品をご紹介します。

鴨川のすぐ東をはしる川端通の正面。
北側と西側の両方に入口を構える建物が、1865(慶応元)年創業の菓匠「甘春堂」本店です。

菓子屋としての創業はその頃ですが、元々は今より川幅の広かった鴨川の畔りのこの場所で「藤屋」という渡し船などを行う船宿だったそうです。
暖簾の染め抜き紋「上り藤に五三桐」にその名残がうかがえます。

これからの1ヶ月間、忙しくなるのが6月の京都に欠かせない『水無月』作り。

甘春堂本店の店舗外観

さて、京都の人にはおなじみの『水無月』ですが、全国的に食べられているお菓子ではありません。そもそも『水無月』とは、何なのでしょう。

甘春堂の水無月

旧暦の6月1日は「氷の節句」「氷の朔日」といわれ、室町時代には幕府や宮中で年中行事が行われました。御所ではこの日に御室や衣笠、高野などにあったという氷室(ひむろ:冬の間にできた天然氷を夏まで保存するための自然の冷凍庫のような場所)から献上された氷を口にして暑気払いをしていました。

昔は氷室の氷を口にすれば夏痩せしないといわれており、宮中では臣下にふるまわれることもあったようです。

しかし、当時の庶民は到底口にできるはずもなく、三角形の氷片に見立てて作られたのが『水無月』なのです。表面の赤い小豆には魔除けや厄除けの願いが込められています。

水無月製作風景

『水無月』はういろう生地の上に小豆を散らし、蒸しあげるのが基本的なスタイルです。
白さが眩しい甘春堂のういろう生地は米粉がベース。

「現在は蒸した時に沈殿や分離がしにくい『水無月粉』を製菓材料屋さんから仕入れることもできますが、昔ながらの和菓子屋では、米粉や餅粉、小麦粉、浮き粉など、その店独自の配合で生地を作っています。材料が同じでもそれぞれ食感や見た目が異なるのが面白いところですよね」

こう教えてくれたのは、7代目社長の木ノ下稔さん。

水無月製作風景

甘春堂では、蒸しあがった『水無月』の表面に寒天を塗っています。
まさに氷を思わせるツヤ感…!

繁忙期になるともっと大きなサイズの型で蒸しあげますが、どんなに大量になっても必ず手切りでひとつずつ三角形に仕上げていきます。

水無月製作風景

ピアノ線などのワイヤーで一気に切る方が格段に早く、大量に切れるにもかかわらず、庖丁による手切りにこだわるのは「角を潰さないため」だそう。

ピシッと角の立った見た目からは意外なほど柔らかな食感のギャップもうれしい驚きです。

ちなみに、どうしても少しずつ出てしまう端の切り落とし部分は職人さんたちのおやつになるんですって。

水無月製作風景

断面にわずかに残る小豆の皮を爪楊枝できれいに取り除く最後の仕上げ。

『水無月』は気取らずにいただける庶民のお菓子ではありますが、細部まで美しさを追求する姿勢に、お茶席の上菓子を任される老舗たる矜持が感じられます。

水無月製作風景

半年間の穢れや厄を落として、残り半年の健康を祈願する「夏越の祓(なごしのはらえ)」。
昨年に続き、今年も健康への切なる願いを託して、6月30日だけでなく何度でもいただきたいと思います。

甘春堂の水無月

店頭販売のほか、オンラインショップでお取り寄せが可能ですので、遠方の大切な方にも京都の初夏の味をお届けしてはいかがでしょう。

撮影/スタジオヒサフジ

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