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すっきりとしたその先は「きものは布」第五回

すっきりとしたその先は「きものは布」第五回

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これからの私たちの生活の中にきものや帯をいい環境で保管し、さらに楽しんでいくために、「これから購入するもの」「実際に必要なもの」「残したいもの」「次世代へ渡していきたいもの」を私たち自身が選んでいかなくてはなりません。同時に先人たちが選んだ目の前にあるきものや帯も選別し、受け継いでいく必要性があります。

コラム 「きものは布」

きものは布

古代の人は、樹皮や草を編んだり、獣の皮などが身体を覆うものでした。
身体を衣服で覆う唯一の動物である人間は、布でできた“衣服“に進化をさせ、洋服としてそして和服として受け継がれ、そして楽しみになりました。
洋服だけでも生活がまっとうできる現代、着物は通常着ではないながらも、日本の文化として纏い、憧れ、大事にしています。
すでにある着物や帯、そしてそれらを作り、着ていた先人達への尊敬の念も含めて、まずは身近なタンスやその他収納の内側と向き合うことからはじめましょう!

第五回 すっきりとしたその先は “次世代へ着姿やキモノを伝えていくアイコンとして”

日本の女性の洋装化が見られるのは明治時代。
それまでは全ての女性はきもので毎日を過ごしました。
きものは平面にたためる布であったために、百数十年を超える年月をも超越し、現代に残ってその姿を私たちに見せてくれます。
その「形」は色や柄、染織は変わっても同じ一枚の布から作られています。

振袖は成人式や未婚者の第一礼装、留袖は既婚者の第一礼装という立ち位置が現代も受け継がれ、風呂場で着るために生まれた湯帷子(ゆかたびら)は「ゆかた」として今も夏の象徴的なファッションとなっています。
現代のきものや帯は100年後はどのようになっているのでしょうか。
日本家屋の畳の部屋や茶の湯など和の文化がある限り、その時代を生きる人たちへ受け継がれていきますが、もしかしたら透明な糸や光る糸、何かデジタル機能を持つ衣服となるかもしれません。

快適な住まいや収納を心掛ける現代では、湿気やカビがつくような劣悪な保管状態が減ってきました。
きちんと整理・管理すれば、孫・ひ孫までも残すことができるかもしれません。
実際に今も湿気や光の管理が行き届いた蔵の中のきものは100年以上劣化しないで残っています。

江戸時代から続く蔵の内部

写真は、江戸時代から続く蔵の内部です。
 
これからの私たちの生活の中にきものや帯をいい環境で保管し、さらに楽しんでいくために、「これから購入するもの」「実際に必要なもの」「残したいもの」「次世代へ渡していきたいもの」を私たち自身が選んでいかなくてはなりません。
同時に先人たちが選んだ目の前にあるきものや帯も選別し、受け継いでいく必要性があります。

再利用の方法は現代の生活に合わせてアイデアを駆使するとたくさんあり、その先は時代とともに変化しています。
ゆかたがかつては赤ちゃん用オムツとなっていた時代から、今は西陣織の帯が高級バッグになったり、振袖がウエディングドレスになったり、モードの材料としてリメイクされています。

同時に職人さんが減って作れなくなった織物や染物もハギレさえ残れば、もしかしたら将来それを再現する技術者が出てくるかもしれませんし、実際に1000年以上前の染めや織り・組みの技術が現代に復元復興され、新たな染め・織り・組みの技術となって今のきものや帯に再現されています。

「今あるモノ」を着て残して伝えていくことは決してたいそうなことではなく、日々の暮らしの中で実践できることです。効率よく選別し、それらに現代の新たな色や柄のきものや帯をコーディネートしながら、古いものを新しいものと合わせて着こなして行くことはとても価値があることだと思います。

〔 赤いアイテムの攻略 〕

古いきものの整理を依頼されて目につくのは「朱赤系」の色です。
「赤い」ことに「ハレる」という価値があった時代では、紬には真っ赤な八掛(裾まわし/裏地)をつけ、表がシックなきものには紅絹(モミ)という胴裏を、さらに朱赤の襦袢、朱赤の裾除け(腰巻)そして朱赤の帯、朱赤のコート…
時代を感じる一番の色となっています。
今は昭和レトロ、アンティークの愛好家にとってはキーカラーとなっていますが、新たに作られるきものや帯には多用されない色で、好みの動向、製作者意識や糸染めの技術、染料の変化がそこにも見て取れます。

かつてのきものにある赤は見えない場所、あるいは効果がある場面ではそのまま着用するのもいいですが、帯の色を変えるだけで現代風に着ることができます。
また、そのまま朱赤の帯を巻く場合は個性的で大きめな帯留めを使い、朱赤の部分が強く主張しないように使う方法があります。

あるいは、赤い八掛がついていたきものの八掛だけを、表の色にコーディネートした色に取りかえて仕立てたり、帯締めをきものの地色に合わせた小物にするだけで、コーディネートに現代の感覚を入れることができます。

写真は、数十年前の奄美の龍郷(たつごう)柄の大島紬の真っ赤な八掛を、地色である泥染めの黒に近い色に取りかえたきものです。
朱赤に限らず、強い色の色無地のきものの場合は、一度反物に戻してから「抜染(ばっせん)」という加工で地色を漂白してから好きな色に染めなおすという方法も有効です。
「着にくい色のきもの」が「着ていきたい色のきもの」へと変貌をとげます。
四角い布だからこそできる加工です。

〔 コーディネートの可能性 〕

地色選びは服を選ぶ感覚に近づける

きものというファッションは色や柄デザインなどを自在に選ぶことができ、帯、そしてきものがキャンバスとなっていろいろな表現ができます。

もちろん「場」にふさわしい選択は必要ですが、きもののコーディネートだからといって色選びが特別なわけではありません。
地色選びは服を選ぶ感覚に近づけることで普段の自分のままで出かけられますし、得意な色、自分らしい色を選ぶこともできます。

◆洋服でも得意な色をきものや帯に選ぶ
◆「ポイント」や「強調 」として赤や強い色を使う
◆きものと帯を同系色にする
◆柄ものと無地のもののコーディネート
◆柄ものに柄もののコーディネート
◆顔色の映りをよくするための半襟選び
◆モノトーンを効果的に使い着姿全体の色数が増えないようにする
◆帯締め・帯揚げは極力、きものや帯の柄の中の1色に近い色のものを選ぶ

多色使いのコーディネートは、私たちスタイリストも難しいと考えます。
着られるご本人が色に紛れてしまい、きものや帯ばかりが主張するからです。
色数や色の方向性(暖色系または寒色系など)を雑多にしないのは、着姿が際立つきものと帯合わせ・小物選びのコツです。

加工を含めたコーディネートの可能性を考えて、タンスに眠っているきものや帯たちにあらためて向き合っていってください。

〔 自己表現のアイコンとして 〕

きものやタンス、そしてご自身の心に風を入れて、現代の着こなし自体を「未来へ残す象徴的なファッション」にしていきましょう。

ご自宅のタンスの中にあるきものや帯は、他の誰も持っていないオリジナルなものがほとんどです。
同じ産地、同じ織りや染めでも、まったく一緒というものはまず少ないです。
きものを着るということは、さまざまなちょっとした判断をするだけで、自分だけのファッションと個性の発現を確立することができます。
それが自分自身を表現し、存在感を持ち、未来への記憶となるのです。

ご自身だけではなかなか判断できない場合、どうぞお気軽に専門家へお尋ねください。
きもの一着、帯一本でも、相談に乗っていただける先はあります。
その際には、希望をしっかりと伝えてご自身本位の意向やこだわりを表現してください。
一枚の布として生まれたきものや帯が、新たな息吹を受けて、きっと豊かな生活のアイテムになっていくことと思います。

おわり

雑誌七緒

七緒vol.45 2016春号』(プレジデント社)
ここやかしこ・宇ゐ先生監修
”「たんすの着物」を整理する。”
バックナンバーでお楽しみください。

 

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