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着物インフルエンサー・YouTuber きものすなおさん

「着物は知れば知るほど楽しい。もっと着物を広めたい」。京都山科で着付け教室を営むきものすなおさんがSNSをはじめたのは、そんな一心からでした。Youtubeで着物について発信し活動するなかでみえてきたのは…着られなくなった着物たち。「たんすの着物を循環させたい」と語るすなおさんに、着物に対する想いを聞きました。

YouTubeチャンネル登録者数、8.5万人(2020年6月現在)。
インスタグラム、Twitterでもフォロワーを伸ばす着物インフルエンサー、きものすなおさん。

きっかけは成人式の振袖。着物を着ると「理想の私」になれる

もともと着物には興味がなかったというすなおさん。
「大学時代はバイクと木村カエラさんが好きで。金髪だったこともあります」と笑います。

革ジャンを着てバイクに乗るのが趣味だったすなおさんが着付けをはじめたきっかけは、成人式の振袖。

「着付けを習わない?」

と誘われ、祖母と母も通った近所の着付け教室へ通いはじめます。
そこで衝撃を受けたのが、振袖を羽織った時のなめらかなシルクの感触、絹布の重み、ぱっと顔が華やいだこと、着物の模様の美しさ―

「変身願望が満たされるというか。着物を着ると理想の自分に近づける気がしました」

「絶対、習いたい!」

そこからは夢中になって着付けを学びました。
「帯や着物がもらえるよ」と着付けの先生に言われ、賞品を目当てにコンテストに出場するようになったすなおさん。
コンテストに挑戦するなかで、着付けの練習を日々重ねていきます。好きだった中原淳一の描くレトロな美人画のような…理想を思い描きながら着付けをしますが、なかなかたどり着けない。
そうやってどんどん、着物の持つ奥深さや魅力にのめり込んだといいます。

七五三や浴衣…意識はしていなかったけど、着物は身近なものだった

着物は身近な存在だった

着物に明確な興味はなかったとはいえ、日本文化への憧れはどこか根底にあった、と話すすなおさん。
そして振り返ってみれば、着物は幼い頃からすなおさんの身近な存在でした。
七五三には衣装を着せてもらい、夏には浴衣を着る。
実家には、祖母や母の着物もたくさんあったといいます。

「子供のころに着物を着せてもらい、なんとなく好き、とは思っていました」

着物を着て別人のように変身した自分はうれしい。そんな着物にまつわる幸せな体験。
最近、小さなころや10代のころの記憶や体験がとても大切だと気がついたそうです。

「今では成人式の振袖まで着物を着たことがない人も多いのではないでしょうか。若い人、10代の子に1回、着物を体験してほしい。若い人も着物に関心のある人は多いですし、10代の子たちにアプローチすれば、着物の文化は存続していけると確信しています」

一般的にYouTubeは若い人が観るもののイメージがありますが、すなおさんのYouTubeチャンネルの登録者はなんと60代の方が一番多いそう。そこで、若い世代にも着物を知ってほしい!と最近TikTokもスタートしました。

YouTubeをはじめたのは「動画が一番伝わりやすいから」

大学生のころに「全日本きもの装いコンテスト関西大会」で優勝。
その後、世界大会でも準優勝と輝かしい結果を残したものの、卒業後は会社員として就職し、着物とは全く関係のない仕事に就きました。
それでもやっぱり着物への思いは断ち難く、着物メーカーの販売の仕事へ転職。

「周りには、着物は売る側になると嫌になるよ、着物を嫌いにならないでね、って言われました。でも、着物が嫌になったことは1回もないです」

着物の販売の仕事は充実していましたが、妊娠を機に退職、自宅で着付け教室をスタート。

着付け教室で教えるかたわら、SNSとブログをはじめます。
子供を寝かしつけてから、着付けの様子を写真に撮り、ブログを書く日々。
「動画の方が伝わりやすいのでは」と考えるまでに長くはかかりませんでした。

2019年1月にYouTubeをスタート。
「YouTuber・きものすなお」の誕生でした。

ただ、YouTubeをはじめるのには抵抗もあったそう。

「動画は写真と違って修正もできないし、100回くらい取り直したこともあります。最初は時間もめちゃくちゃかかりました」

それでも、分かりやすい動画は評判を呼び、チャンネル登録者数も順調に伸びていきます。

すなおさんいちおしのコンテンツは、帯の結び方を解説した『【完全版】お太鼓の結び教科書【ポイント柄も自由自在】』。

「この動画は教室の生徒さんも一緒につくったようなものです。着付けで悩むポイントってみんなだいたい同じ。教室の生徒さん全員の悩みのポイントを集めてつくりました」

「黒留袖の会」を主催、一番のうれしい経験に

そんな活動のなかでもとりわけ心に残ったできごとが、自身主催の「黒留袖の会」でした。

集まってくれるのかな…という不安から、実際に集ったのは60名もの着物ファンの方々。
すなおさんの動画を観て着付けの練習を重ね、黒留袖の着付けは難易度が高いのにも関わらず、ほとんどの方がご自身で着付けて来てくれたそうです。
また後日お礼のお手紙も多く寄せられたとのこと。

自身主催の黒留袖の会

「喜びを感じました。達成感もありましたし、本当にうれしかったです。会社員のころは、仕事をしていても目標があるわけでもなく、飲み会の幹事すらもイヤで逃げているような人間でした。そんな私が、自分がやりたい!と思い一から企画して発信し、人を集めて…」

YouTuber・きものすなおになってから、最も心に残る経験となりました。

ミッションは「着物を全世界に広める」「たんすの着物を循環させる」

着物は高価で敷居が高い、マイナーなもの、というイメージを変えたい。
日本だけでなく全世界に着物を広めたい。そのためには着物をもっと多くの人に知ってもらい、手に取ってもらう必要があります。

「着物といったら○○さん、という存在が着物にはない。着物をメジャーなものにするために、着物といえばすなお、という存在になりたいです」

すなおさんにとってYouTubeやSNSでの発信は、着物を多くの人に知ってもらうための手段のひとつ。着物好きな人が着物を着て集まるリアルなイベントなどの企画も、今後はもっと行っていきたいと考えているそうです。

すなおさんがSNSで発信する目的は、最初のステップとなって着物への間口を広げること。
そしてそこで大切にしているのは「悩みに答える」姿勢。
初心者が着物を着るときに出てくる困りごとや、他人に相談しにくいことを解消できれば、と心がけていらっしゃいます。

「動画をアップしたりイベントを企画するのも、継続性を考えると、ボランティアではなくビジネスとしてやっていけるしくみをつくりたいです。私ひとりではやっぱり限界がある。いろいろな人に活動してもらえれば、着物をもっともっとたくさんの人に知ってもらえます」

そして、SNSを通じて着物好きな人たちと交流したり着付けを教えたりするなかで、着物に関心を持ち着物がほしいと思う人がいる一方で、もう着る機会はないものの「思い出のある大切な着物を処分できない」と悩む人がいることを知ります。

嫁入り道具の黒留袖、成人式の振袖…
人生の節目や門出の記念に、一生ものとあつらえたはずの着物たち。
幸せを願う家族の思いの詰まった着物たち。

「着物販売の仕事をしている時でさえも見たことのないような、本当にいい黒留袖がたんすで寝かせたままだったり、一生に1回着るだけだったり…しまい込んでいたらそのまま朽ちてしまう。本当にもったいないです」

着ることがなくなってしまった着物がある一方で、着物が好きで着たいと思っても高価な着物には手が届かない人もいる現状。せっかくのいい着物も寝かせたままにしていたら、シミになったり、虫に食われてしまったりして着られなくなったというのはよく聞く話。
しまい込まれている着物とほしい人をマッチングし「循環するシステム」をつくることも、すなおさんの目標です。

着物は簡単、難しくない。もっと着物を着てほしい

SNSに届くメッセージには目を通し、質問にはできる限りおひとりずつ回答。
着物を着てみたいけど、着物に関して不安に思っていることや困っていることがあれば力になりたい―すなおさんはそう考えてSNSを運用しているといいます。

「まずは着物に興味を持ってくださった、ということがうれしいです」

着物に興味を持っているのに着付けができない人が多いことも、活動を通じて感じていること。
着たいと思う誰もが着物を着られる世の中にしたい、関心のある人にまずは家で寝ている着物を着てみてほしい、というのがすなおさんの願いです。

家にある着物を取り出して着てみて、着物に合わせる帯が欲しい、小物がほしいという人が増えれば、呉服市場も活性化します。市場が活性化すれば、着付け教室や着物をつくる職人さんも潤うのではないか…
着物は知れば知るほど楽しいし、決して難しいものではない。
興味を持ったら気軽に着物を着てほしい、そう願ってSNSでの発信をされています。

「着物はすばらしい文化です。日本人が一番きれいに見える衣装だと思いますし、大量生産大量消費でファッションのサイクルが早くなっていくなか、代々受け継いだ着物は、ご先祖様とのつながりまでもが感じられる特別なもの。着物という伝統を、絶やしたくないです」

愛娘とも着物で過ごす

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