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素顔の見えない“江戸城の怪人”一橋治済 「知ってた?べらぼうなお江戸話」vol.6(最終回)

素顔の見えない“江戸城の怪人”一橋治済 「知ってた?べらぼうなお江戸話」vol.6(最終回)

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裏で糸を引き世論操作し周りの権力者を利用して御三卿の1人から将軍の父に上り詰め権力を恣にした“江戸城の怪人”が本当はどんな人物だったのか―― この方、本当にただただ“悪”なのでしょうか?

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知ってた?べらぼうなお江戸話1

一橋治済ひとつばし はるさだ――

11代将軍 徳川家斉の父であり“江戸城の怪人”との異名もあったとかなかったとか……

いわゆる「政治の表舞台」には立たず、ひたすら陰で暗躍し世の中を操っていたと言われる恐ろしい人物です。

家格だけがプライドの御三卿当主たち

治済は8代将軍 吉宗の孫にあたり、吉宗が自身の将軍血脈を繋げようと作った御三卿のひとつ、一橋家の2代目当主です。

「御三家」と「御三卿」がわかりにくいのですが、徳川家康直系の「御三家」よりは格下ながら将軍候補を出せる家柄なのが「御三卿」。「御三家」とは違い、治める国を持たず江戸住みになります。

ドラマの前半でも揶揄気味に言われていましたが、大名ではない「御三卿」は独自の収入が無く、幕府の経費で家格に恥じない立派な暮らしをさせなければならないため、幕府財政からしたら少々厄介な存在。

さらに彼らに任されている役割はあくまで、「将軍家の後継がいなかった場合のスペアを出す」こと。

種馬としての機能しか期待されておらず、冷静に見ると御三卿当主たちって家格だけがプライドでちょっと生きづらそう……

この前提を土台にして治済の生涯と行動を見ていくと、心根の歪んだヴィラン設定にも納得いくものがあります、が……

この方、本当にただただ“悪”なのでしょうか?

世政治闘争に必ずついて回る世論の操作

祖父である吉宗公が、将軍になる過程や幕政の中でも謀略やしのび(スパイ)を駆使したと言われていることから、裏で糸を引いているイメージを持たれやすいのかもしれません。

事実……ちょうど将軍の後継争いと老中の政争のど真ん中で、自分は無傷ですべて優位な立場でことが運んだのは、やはり偶然とは言えそうにありませんけどね。

ただ、大昔から現代に至るまで権力者による歴史の改ざん、世論の操作は政治闘争に必ずついて回りました。

日本史で学んだ田沼意次たぬま おきつぐは、賄賂と汚職まみれの悪代官(老中だけど)イメージではなかったでしょうか? それもまた、今では実は政権を奪った松平定信によって作られた風説の影響ではないかとも言われています。

知ってた?べらぼうなお江戸話2

中国史でも唯一の女性皇帝 則天武后そくてんぶこうは、その治世において民衆の暴動が少なく身分を問わず能力に応じた登用など良い政治をしていたにも関わらず、死後、男性皇帝によって悪評を流布され極悪非道女帝として印象操作をされていた、ということもあります。

現代でも、ちょっと前まで悪の親玉とばかりに叩かれていた政治家が、政権交代したり亡くなった後に全然違った人物像が見えたりインターネットで組織的・戦略的に世論操作をしていたことがわかって騒ぎになったりしていますよね。

結局、残された文書から推察するしかない歴史上の人物については特に、状況証拠をもとにわかりやすいイメージを作られてしまうのは仕方のないことではありますね。

誰にも分からない“江戸城の怪人”の正体

治済の権力欲として有名なのは、田沼派から定信派に乗り換えて息子の将軍跡目争いに勝ったにも関わらず、定信との確執が生まれた「尊号一件そんごういっけん」があります。

光格天皇からの、実父ではあるが身分としては大臣以下だった閑院宮典仁かんいんのみやすけひと親王へ太上天皇の称号を贈りたい、との願いを松平定信が徹底的に拒否し、朝廷との関係が悪化した一件。

実はこの「ただ親の身分を上げることを許可するだけ」のことに定信が執着し許可できなかった裏には、一橋治済の存在があったと言われています。

光格天皇は孝行からの思いでしたが、同時期に治済は自ら「将軍の父であるにも関わらず御三卿の当主でしかない自分を『大御所様』として扱え」という横暴な要求をしたというのです。

つまり定信は、この似て非なる二つの事案に挟まれていました。

朝廷の願いを聞いたら必ず治済が「それが通るなら自分も」と言ってくるのが見えている。だから絶対に治済に好都合な前例を作るわけにはいかなかった、というわけです。

知ってた?べらぼうなお江戸話3

ただ!

実はこれも史実としての確証はないのです。あくまでも通説・一説として状況から歴史家が考察している“可能性“なんですよね。

裏で糸を引き世論操作し周りの権力者を利用して御三卿の1人から将軍の父に上り詰め権力を恣にした“江戸城の怪人”が本当はどんな人物だったのか――

ただただ純粋に“真っ黒な悪人”だったのかなんて、誰にも分からないのです。

文化・芸術から垣間見える怪人の“心“

でも、そんな素顔の見えない怪人の“心“が垣間見えるものがありました。

能をはじめ文化・芸術への造詣の深かった治済は、かの有名な『風神雷神図屏風』の裏面の制作を酒井抱一に依頼したことが、下絵に記された名前から明らかになっています。

俵屋宗達による迫力満点の豪快な風神雷神を尾形光琳が模写した金屏風の裏に描かれたのは、その神々のおかげで雨が降り、地面で静かに濡れそぼる草花という「因果」。

この絵に込めた治済の意図は分かりません。でもこの静と動というギャップある絵を表裏に配置する発想とセンスには驚きました。

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それは御武家さまでも同じ。なんなら武家の方が庶民よりもずっと身動きできない締め付けがあったであろうことは想像に難くありません。

治済とて、策を弄せずじっとしていれば将軍家と近い距離にありながら国を動かすことには関われずただ飯を食い、使えるか分からないスペアとしての子作りだけをする家系の当主です。人が生きる上で必要な“やりがい“からはほど遠い人生ですよね。

治済は、その環境の中で持ち前の頭脳をフル回転して“家”の繁栄と地位向上を成し遂げた人、とも言えるのではないでしょうか?

風神雷神の活動が、地の草花を潤す……

そんな因果関係を裏表に描かせた治済には、自分の人生だけでなく一橋という家の行く末を何代も先まで見据え、家にとって最良の「果」をもたらすための行動を江戸城の風神雷神たちに働きかけていたのかもしれませんね。

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