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年月を経た槌目に感謝『鍛金工房 WESTSIDE33』の鍋たち 「京都できもの、きもので京都」vol.21

年月を経た槌目に感謝『鍛金工房 WESTSIDE33』の鍋たち 「京都できもの、きもので京都」vol.21

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人が手を動かして時間をかけてつくった良質なものは、修理やお手入れを経て、また次の10年20年をともにすることができる。きものとの共通点を感じてやまない、三十三間堂西隣の鍛金工房を再訪しました。

2025.01.30

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よみもの

山崎陽子さんのコラム「つむぎみち」(全13回)はこちら!

山崎陽子さん

銅の玉子焼器は20年もの、ゆきひらやしゃぶしゃぶ鍋は15年が経ちました。

毎日のように使って、時には焦がし、ガシガシ洗ってもへこたれない。それは職人が金槌で丹念に叩いて加工成形した「鍛金たんきんだからこそ。

久しぶりに訪問し、玉子焼器をお手入れに出したらピカピカになりました!

プロの料理人が愛用する銅、圧巻の品揃え

鍛金工房 WESTSIDE33

『鍛金工房 WESTSIDE33』

もともとは西陣織の糸染め用の鍋など、業務用の専門的な金属鍋を作っていたこちらの工房。

やがて老舗店から鍛金鍋の注文を受けるようになり、料理人の評判が評判を呼んでそちらがメインの商材となったそう。

米寿を迎えた寺地茂さん、今でも自ら料理をするといいます

米寿を迎えた寺地茂さん、今でも自ら料理をするといいます

「鍛金製品の卸しだけでは未来につながらないし、料理家の方たちからのリクエストもあり、1994年にギャラリー&ショップをオープンしました」

と、社長の寺地茂さんは振り返ります。

私が『WESTSIDE33』を知ったのは、「京の台所」というテーマでの雑誌取材がきっかけでした。確か料理研究家さんのご紹介だったように記憶しています。

それが20年ほど前のこと、寺地さんにいろんなお鍋を見せていただき、銅の玉子焼器を購入しました。

何しろサイズ展開が豊富で、それぞれの生活スタイルに合ったサイズが見つかります

銅の玉子焼器

こちらは卵2個でふっくらした玉子焼が作れる12×12cmの銅製、ナラ材のハンドルの角度や握り心地もよく、毎日のお弁当づくりに欠かせない相棒となりました。

15cmのアルミのゆきひら鍋

写真提供/山崎陽子

次に訪れたときに、15cmのアルミのゆきひら鍋を求め、こちらはひとり分のお味噌汁を温めたり、ゆで卵を作ったり、少量の野菜を茹でたり、炒めたりとちょっとした煮炊きに活躍しています。

細かな槌跡と美しいうろこ模様、手仕事ならではのアルミのゆきひら鍋

アルミ鍋

アルミ鍋の利点は軽くて取り回しがしやすく、熱伝導率も高く、耐食性があり手入れがラクという点。

特にWESTSIDE33では、純度の高いピュアアルミを使用して、金槌で根気よく叩き、美しいうろこ模様を打ち出しています

寺地さん

「手で打つのにはちゃんと理由があって、打つ場所によって金槌を変えながら力を加減できるし、表面積を増やすことで熱伝導率もよくなる。

それにうろこの大きさや形も味があって美しいでしょう?

道具は見た目も大事、見栄えがいいことも美味しさの一部ですからね」

と寺地さん。

アールの部分の微妙なカーブ

実は我が家にはもうひとつゆきひら鍋があり、それなりに有名な工房の品ですが、今回見比べてみて、WESTSIDE33のうろこの細かさに驚かされました。

アールの部分の微妙なカーブ

鍋底に細かく打たれた槌跡、アールの部分の微妙なカーブ、液ダレしない注ぎ口の角度のつけ方など、手数が全く違うのです(「茂作」の小さな刻印もさり気なくて好き)。

ついWESTSIDE33を手に取ってしまうのには、こんな理由があったのだと改めて気づかされました。

うろこの細かさに驚かされました

ちなみに、市販のゆきひら鍋の多くは、機械で模様をつけているそうです。

ついWESTSIDE33を手に取ってしまう

手付き四角鍋は、夫が単身赴任中の自炊に活用

15年前、大阪に単身赴任していた夫は、京都のライターさんに教わりWESTSIDE33へ。

そこで自ら料理をするという寺地さんに、単身自炊に便利なアイテムとして小さめな手付きの四角鍋を勧められて購入。

族と旅する鍋

「きちんと出汁さえとれば、あとはここに適当な材料を入れるだけ。なんでも美味しくなるよ」と教わり、台所に立つようになりました。大阪のデパ地下で買い物して、ひとり鍋を楽しんでいたようです。

この四角鍋は数年後、息子のひとり暮らしの台所道具になりました。

京都の店から大阪、東京、再び京都へ。そして、家族と旅する鍋は、今は東京の息子のキッチンに収まっています。

寺地さん

そしてもうひとつは、我が家の冬を支えるシンプルな大きめのアルミ鍋

シンプルな大きめのアルミ鍋

写真提供/山崎陽子

寄せ鍋や豚しゃぶはたいていこの鍋です。スプーンは豆腐をすくったり、締めの雑炊を取り分けたり。

あたりが柔らかく、豆腐や白身魚、白子などもこのスプーンだと崩れないので重宝しています。

調理器具やテーブル周りの小物

鍋だけでなく、さまざまな調理器具やテーブル周りの小物が充実しているのも、こちらの工房の特徴。

知り合いの料理家がサービングスプーンを愛用していて、いつか欲しいなあと思っています。

調理器具やテーブル周りの小物

焦げついた玉子焼器が、新品のようにピカピカに!

20年使っている玉子焼器を持参

今回、20年使っている玉子焼器を持参しお見せしたところ、メンテナンスが可能ということでお預けしました!

焦げつきやキズ、銅の変色など、酷使の跡をお手入れしてもらいましたが、新品が送られてきたのかと勘違いするほどの仕上がりにびっくり。

新品が送られてきたのかと勘違いするほどの仕上がり

磨きのみのメンテナンスとのことでしたが、こんなにきれいになるとは!

そういえば、11年前に買ったファースト着物を洗い張りに出し、先日それが戻ってきました。

裾が擦り切れ、全体にくたびれた感じでしたが、こちらも見違えるほどきれいな1枚の布になって再び着物になる日を待っています。

人が手を動かして時間をかけてつくった良質なものは、修理やお手入れを経て、また次の10年20年をともにすることができる。そんなことを感じた出来事でした。

いずれ次の世代に受け継いでもらえたら

もうお弁当づくりは過去のことになり、毎日のように玉子焼器を使うことはありませんが、いずれ次の世代に受け継いでもらえたらどんなにうれしいでしょう。

ついWESTSIDE33を手に取ってしまう

店名『WESTSIDE33』の由来は、”三十三間堂の西隣”にあることから

本日の着こなし

ふっくらとした真綿の紬がしっくりきます

立春を過ぎても寒い日が続きましたが、それでも梅は開き、良い香りを漂わせてくれています。

こんな季節には、ふっくらとした真綿の紬がしっくりきます。

廣瀬澄子さんの飯田紬「手おりの中の手織」

廣瀬澄子さんの飯田紬「手おりの中の手織」は、経糸も緯糸も手紡ぎの草木で染めた糸を使い、蚕が描いた8の字のカールを生かして空気の層を織り込むようにやさしく織り上げられています。

淡い光にほのかに浮かぶ網代の市松模様が、無地紬にニュアンスを添えて。

帯は山岸幸一さんの作

帯は山岸幸一さんの作、紅花と紫紺で染めた手紡ぎ手織りの八寸です。かなり前のもので、コレクターの方に譲ってもらいました。

帯留めは『TOD jewelry』の銀製の横見梅。

「TOD jewelry」の銀製の横見梅

淡いピンクの三分紐に通して帯を飾ってみました。大好きな梅のモチーフは2月の楽しみです。

小林純子さんの裂織布の生地であつらえてもらったもの

コートは小林純子さんの裂織布の生地であつらえてもらったもの。バッグはロンドンで買った『マルベリー』、リュック紐を付けられる2way仕様です。

洋装のニュアンスを入れたアウターはブーツとの相性もよく、寒い日の外出が気楽になりました。

撮影/弥武江利子

2024.02.04

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