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二代目大谷廣松夫人・青木夕実さん「歌舞伎俳優 ご夫人方の装い」vol.8  ―どれだけ着物が必要になるのか、震えていました

二代目大谷廣松夫人・青木夕実さん「歌舞伎俳優 ご夫人方の装い」vol.8  ―どれだけ着物が必要になるのか、震えていました

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今回は二代目大谷廣松さんご夫人にご登場いただきます。劇場での装いから、結婚をきっかけに着物と出会い、着られるようになるまでのお話、思い入れのあるお品についてうかがいました。

2025.01.27

よみもの

三代目大谷廣太郎夫人・青木果歩さん「歌舞伎俳優 ご夫人方の装い」vol.7  ―祖母の着物に義母の帯、受け継いだ着物をまとって劇場へ

劇場でお客さまをお迎えする装い

――「劇場でお客さまをお迎えするさいの装い」をテーマにお越しいただいております。どのようなものをお召しなのでしょうか。

義母から常々言われているのが、『控えめに、お客様よりも絶対目立たない。でもよく見たらいいものだとわかる着物を着なさい』ということなんです」

「その教えを守りながらも、着るものにはどこかに自己紹介を入れたいと思っていますので、今日は主人、廣松の役者色である浅葱色に近いライトブルーに、廣松にちなんだ『松』の柄の着物、帯には明石屋の紋である雪輪……とトリプルで。詳しい方がみたら、”廣松尽くし”とわかってしまうかも(笑)」

浅黄色に近いライトブルーに、廣松にちなんだ松の柄の着物

役者色にリンクさせた地色に、廣松さまのお名前にちなんだ松の柄をあしらって

――さわやかなお着物ですね(撮影は初秋)。生地は楊柳縮緬でしょうか。とてもお似合いです。いつごろ誂えられたんですか。

「籍を入れる直前だったと思います。この着物は妊娠7ヶ月のときにも着ました。帯の位置で、お腹のふくらみが一層実感されたりして。着物ならではですよね」

帯には明石屋の女方の紋である雪輪

帯には、明石屋の紋にちなんだ雪輪を

――紋は水仙丸を入れられているんですね。

女方だと水仙丸

ゑり善にて誂えた着物と帯

明石屋の紋は『丸十』なので、紋付きだと丸十を使うんですけれど、立役でも少しやわらかいお役だと『大の字雪輪』。女方だと『水仙丸』になるんです

2021.10.18

よみもの

あなたの家紋、知っていますか? 「きくちいまが、今考えるきもののこと」vol.38

結婚を機に着物の世界へ

――着物は昔からお召しだったんですか。

結婚を機に着物の世界へ

「いいえ、着物は完全に結婚がきっかけですね。

ずっと着物に憧れはありましたが、成人式も着ませんでしたし、小さいころ、七五三で一度は着たようなのですが、記憶になく。結婚を機に、初めて着たようなものです

――そこから一転、着物を着る生活に。

「はい、着ることを求められる世界に入りました」

――不安などはありませんでしたか。

青木夕実さん

「ありました。私としては、清水の舞台から飛び降りる覚悟でした。

着物だけでなく歌舞伎のこともよくわかっていなかったので、知らない土地を切り拓いていく感じといいますか。

でも一番怖かったのは、どのくらい着物を用意したらいいのか、どんな着物を買ったらいいのか、そこがわからなかったことですね。費用面でも、いったいどのくらいかかるのだろう……と」

――たしかに不安になりますね。

「結婚にむけて、準備万端でないと気が気ではなかったので、勉強もしました。

主人は歌舞伎の家の生まれで歌舞伎ネイティヴですし、義母は祇園街にいたくらいの着物ネイティヴですが、私は完全なるゼロからスタートですので、少しでも追いつきたくて。まずは着物の本をたくさん買って読みましたね。

さらに初めて着物を買いに行くにあたり、個人的に知識を詰め込もうと思いまして、着物の色合わせの先生をネットで見つけたので、クラスを受講しようと意気込んでいたんです。

けれど、紹介文に『いつも歌舞伎の奥様を参考にしています』って書いてあって(笑)。

着物は仕事着

……大人しく義母に習おうと決めました。

それで義母に買い物についてきてもらい、初めての着物は、義母と主人と3人で京都まで行きました。

最初の買い物、ものすごく楽しかったです!

――お義母さまとしてもうれしかったのでは。

青木夕実さん横

「そうでしたら私もうれしいですね。その日は、明石屋の父が東京駅まで送ってくれて。

私は洋服がすごく好きなので、同じような選び方をするのではないか、買いすぎるのではないかと心配した父から、車を降りるさいに『仕事着だからね!』と念を押されました。

着物にかんしてはやはりその側面が大きいので、自分の好みを出さず、義母の教えに忠実に、まわりに溶けこむように……と意識して選んでいます

着付けは義母からの特訓で

――今日もご自身でのお着付けかと思います。どのように習得されましたか。

着付けも義母から教えてもらいました。結婚してすぐに、3日間2時間ずつくらいの修行期間がありまして。一日に3、4回着ていました。鏡を見て自分で満足がいかなかったら、また着直したりもしていましたね。

その特訓の甲斐あって着られるようになりましたが、結婚式が2023年4月28日、そして廣松のお舞台の初日がすぐあとの5月2日だったでしょうか。

幕が開いてからの1ヶ月間、毎日劇場へご挨拶にうかがうのですが、義母から『ヘアセットと着付けは絶対に自分でしなさい』と言われて。

初日は支度に2、3時間かかりましたね。正直、二度と見返したくないくらいの出来でひどかったのを覚えています。

歌舞伎座へ向かっている最中に頭が弾けてしまって(笑)、美容室へ駆け込んだこともありました。歌舞伎座では一番の新参者ということもあり、時間に余裕をもって向かっていたのでまだ助かりました。

支度は2人で連携プレー

はじめのころ、支度をしながら主人に『お願い! 手伝って』と言って、返ってきた言葉が『帯締め以外は、あんまりわからないよ』だったんです。役者は着せてもらうからそうですよね、でも当時の私はわかっていなくて。

いまは2人で試行錯誤したおかげでいい連携プレーができて、洗顔からヘアセット・着付けまで30分で済むようになりました。2人だと早いんです。

主人は、『いつも着物を着ている母をみていたから、歌舞伎座に行く前から疲れてしまうのはかわいそう。どうせ劇場へは一緒に行くんだし、手伝うよ』と言ってくれて、率先して手を貸してくれるんですよね……

大丈夫でしょうか。役者に着付けを手伝わせしまうなんて!(笑)」

――廣松さん素敵です!そんな経緯があっての今の着姿なのですね。ところで、歌舞伎俳優の妻として「着物以外」で気をつけていることはありますか。

字の練習をしています。いただきものが多いので、お礼状を書きますから。

まったく上達しなくて恥ずかしいかぎりですが、練習は続けています」

着物意外では字を。

思い入れのあるお品

――思い入れのあるお品をお持ちいただいております。

京和工藝さんにお願いして作っていただいた産着

フルオーダーで誂えたご子息の産着

宮中にもお納めされている呉服屋、京和工藝さんにお願いして作っていただいた息子の産着です。

ゼロから社長の国見さんと相談して作りました。地紋から選んで、図案、染め、友禅、刺繍と。自分の着物でやりたかったことを全部詰め込んで楽しかったです。

黒は高貴な黒紅色で、裏雲取りに、若松を。

黒は高貴な黒紅色で、裏雲取りに、廣松の子どもなので若松を。

通常の産着は七五三で仕立て直せる仕立てが主流ですが、歌舞伎俳優の家では、七五三のときには紋付になるので、本当の一つ身で、産着にしかならない仕立てになっています。

”この家族で新しい伝統を作りたい”という想いも込めています

――かわいらしく、またとても凛々しい産着ですね! そしてこちらの水色のお着物は?

ご主人からのプレゼント

「はじめて着物を買いに行った日が、結婚前、独身最後の誕生日だったんです。それで主人が『最初で最後の独身時代の着物はぼくが買いたい』と贈ってくれた一枚です。

当時、主人は27歳でしたので、まだ予算が少ないなかがんばって購入してくれた特別な小紋ですね。いつも、意味のあるプレゼントを考えてくれるんですよ

――うれしいですね。橘が遊ぶように配されて、かわいらしい柄です。

「この着物を着て、家族の顔合わせに参加しました。まだ着付け特訓の前だったでしょうか。はじめて自分で着た、思い出の着物でもあります」

――こちらの黒地の着物は?

星座がモチーフの着物

「祇園の元芸妓さんがされている長吉呉服店のポップアップでみつけた、星座モチーフの着物です。

主人が『かに座』で私が『射手座』なんですが、たまたま私たちの星座がなかったんです。そしたら、八掛に星座を入れてくださって。家族ができたらまた増やせるな、と思えて、うれしい一枚になりました」

遊び心のある着物

こういう遊び心のある着物は京都の南座で着たいな、となるんですよね。劇場によって着たい着物が変わるのも面白いですね」

2024.11.22

よみもの

【いて座】ここではないどこかを常に夢見る 「12星座で選ぶ、わたしに一番似合う着物」vol.6

着物ファンへのメッセージ

着物初心者で、着物を着て出掛けるのに怖じ気づいてしまう方は、ぜひ、義母のインスタグラムを遡っていただき、私の歌舞伎座デビュー当時の写真をご覧になってください。勇気を持っていただけると思います(笑)。

襟の幅も左右違ったり、おはしょりも汚いし、もうグズグズのグズグズで、ちょっと動いたら脱げそうな状態で歌舞伎座にいましたから」

2024.11.10

よみもの

大谷友右衛門夫人 青木かずこさん 「歌舞伎俳優 ご夫人方の装い」vol.6  ―歌舞伎俳優の妻はみな”プロデューサー”

「ですので、そんなに気にしなくても大丈夫です。たくさん着ることでどんどん綺麗になっていきますし、着る機会を増やすことが大事だと思っています。

私自身も、インスタグラムのストーリーズに着物姿をアップしたり、今後も楽しんでまいります。」

着物ファンへのメッセージ

公演情報

2025年3月1日(土)より新宿THEATER MILANO-Zaにて、大谷廣松さんが出演する舞台『SEIMEI』が上演されます。

チケットなど詳細はこちらのサイトをご参照ください。

また3月24日(月)、東京ウィメンズプラザホールにて、大谷廣松さんの歌舞伎ワークショップ「大谷廣松の歌舞伎を知ろう!」が開催されます。

市川右若さんと歌舞伎化粧実演・隈取りワークショップも同時開催。入場無料です。

詳細はこちらのサイトをご参照ください。

取材・構成・文/渋谷チカ
撮影/TADEAI 久野藍

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