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着物の知恵を、持続可能なファッションへ 『ラ リーニュ ロペ』コミュニケーションディレクター 久保まゆみさん 「今、きもので輝くひと」vol.3

「ラ リーニュ ロペ」は、生地を無駄にしない直線裁ちの手法を使い、着物の美的感覚を随所に取り入れたファッションブランド。コミュニケーションディレクターを務める久保まゆみさんに、サステナブルで世代を超えて愛される着物の魅力を伺いました。

着物の知恵を取り入れた、エイジレスでタイムレスなドレス

「着るもののサステナビリティを突き詰めていったら、着物以上のものはないと。いわば、”着物の知恵から学ぶドレスづくり”をしています」

こう語るのは、ファッションブランド『ラ リーニュ ロペ(LA LIGNE ROPÉ)』の久保まゆみさん。
ブランドのコミュニケーションディレクターを務め、ビジュアルや言葉・パッケージに至るまでの表現全般を統括し、いわば”ブランドの世界観”をつくり出す役割を担っています。

ラ リーニュ ロペ ドレス(レッド)

ラ リーニュ ロペが誕生したのは2018年のこと。

その3年前、2015年に国連がSDGs(持続可能な開発目標)を掲げ、アパレル業界でも持続可能性の観点からものづくりの見直しが始まっていた頃でした。

「自分でもこの仕事に携わっていてちょっと悲しくなってしまうのですが、ファッションは、経済成長と価格競争のなか、原料調達から生産・流通などの過程で環境にダメージを与えてきたということは否めません。

世の中の流れを見ても、アパレル業界にいる私たち自身の反省としても、このままではいけない、という思いがありました。

そこで、未来に向けた挑戦のひとつとして、環境に配慮した”循環型ファッション”を実現できないか。ラ リーニュ ロペは、そうして発足したブランドです」

できる限り捨てるものなく、必要な分だけを長く大切に使う——

サステナビリティを服づくりで実現していくにあたって、ラ リーニュ ロペの立ち上げチームが行き着いたひとつの答えは、日本で古くから愛されてきた「着物」でした。

糸をほどけば一枚の反物に戻る着物は、生地に一切の無駄がなく、何度も仕立て直して長く着ることができ、着古せば他のものに作り直して使うことができます。この究極のサステナビリティに着目し、ラ リーニュ ロペでは、生地の裁断で「直線裁ち」という着物の手法を取り入れたのです。

ラ リーニュ ロペ ドレス(ベージュ)

「もちろん通常の服の生産でも、なるべく無駄の出ない裁断の工夫はしていますし、リサイクル素材を使った生地を使うといったやり方もあると思います。

でもサステナブルなものづくりを考えたときに、着物以上に極めたものってないと思うんですよね。ものを大切にして長く使うという、私たち日本人が古くから受け継いできた方法が、すでに身近にある。そのお知恵を拝借するというのは、ごく自然な流れでした」

また、ラ リーニュ ロペのドレスは、無駄を極力抑えた製法に加え、デザイン面でも女性を美しく見せる着物のエッセンスを取り入れています。

ラ リーニュ ロペ ドレス(ボルドー)
ラ リーニュ ロペ ドレス(ブラック)

首回りがすっきりと見える衿のあわせや、うなじの艶めく曲線を強調する抜き衿。細く長く見える直線的なライン。
振り袖のように、ふんわりとボリュームを出すことで小顔に見えるシルエット——

着物にインスパイアされたディテールが、ドレスの随所に表現されています。

ラ リーニュ ロペ ドレス(カーキ)
ラ リーニュ ロペ ドレス(イエロー)

「ただ着物を洋服につくり変えるだけでは着物の文化に失礼ですから、“着物風”のデザインを目指しているわけではありません。着物と洋服は違うという前提に立って、着物の洗練された機能性を洋服で表現したいと考えています。

着物を着たときは、自然と立ち居振る舞いが変わってきますよね。ラ リーニュ ロペのドレスも、袖を通したら所作がいっそう美しく変わる、そういう存在になれたらと思います」

製法だけでなく、輸送コストに配慮して国内生産を選択し、シーズンコレクションではなく新作ができたら発表する、というように、製造・販売全体を通じて持続可能性を追求しています。

またブランドとして社会活動にも参加。事情により七五三や成人式のお祝いができない子どもたちのために着物で祝うプロジェクトチーム「イチゴイニシアチブ」を応援しています。

イチゴイニシアチブ主宰・市ヶ坪さゆりさん

東京を中心に、児童養護施設や乳児院の子どもの七五三や成人式を着物でお祝いするボランティアチーム「イチゴイニシアチブ」を主宰する市ケ坪さゆりさん。活動を通して気づいた着物の良さと、子どもたちとの触れ合いの中で伝えたい想いについて伺いました。

さっと着るだけで華やぐ、ラ リーニュ ロペのドレス。一着、また一着と、日常の中に取り入れて、長く楽しみたい気持ちが生まれます。

和洋ミックスで「ふだんの自分」らしい着こなしを

長くアパレル業界に身を置いてきた久保さんは、さすが、とてもおしゃれ。
この日の装いは、「季節の変わり目に着られる単の着物がほしくて」と、今夏仕立てたものだそうです。

久保まゆみさま後ろ姿

浅黄がかったベージュを基調とした着物と帯は、いずれも糸の素材感がざっくりと感じられる紬織りのもの。
晩夏から秋にかけての季節にも映える、シックな色合いです。

いかにも着心地・締め心地が良さそうな風合いは、糸から紡がれたという生い立ちがその所以。意匠家・永井直美さんのオリジナルで、帯は白地を染めたものだそう。

久保まゆみさま帯と小物
久保まゆみさま帯を後ろから

シンプルな表情の着物と帯に長襦袢はマスタードイエローの鱗文様を合わせて、ちらりとのぞく襲ねのおしゃれ。

生地は紬やちりめんを選ぶことが多いという久保さん。紬愛好家と思いきや、時に染めものも好むといいます。

ピンクがかったグレーの地に松の柄が染め描かれた友禅染めの着物はお気に入りで、よく登場するそう。

松柄の染めのきもの

そしてなんといっても素敵なのは、小物の合わせかたです!
シンプルで落ち着いたテイストの着物に大ぶりのサングラスを合わせ、赤いリップで引き締まった印象に。

久保まゆみさま横顔

ほかにも洋服の小物を取り入れてコーディネートすることが多いという久保さん。

袖幅をたっぷりとったオーバーコートや大きめのバッグなど、上級者の着こなしでありながら、ちょっと真似してみたくなるものばかりです。

バッグ、サングラス、リップなどの小物類
着物にキルティングコート
着物にキルティングコート
ポンチョコートで
ポンチョコートも選択肢のひとつ

「もちろん羽織も持っているんですけれど、こういう普通の洋服のコートやマントを合わせて着るのが好きで。

着物を着ても、ふだんと変わらない生活をするのが理想なんです。
だからこういう組み合わせも特別なことではなくて、着物で車の運転もするからサングラスをかけて、買い物もするからバッグや巾着も持ちます」

笑顔の久保まゆみさま

「でも、着物の着付けに関してはあまり着崩したりするのは好みではなくて、わりときちんと正統派に着たいなと思っています。

私がお茶を習っている先生を見ていると、とってもコンフォータブル(快適に)に着物を着ていらっしゃるんです。着物の美しさはきちんと出しながら、ちっとも窮屈な感じがしない。
私はまだまだですけれど、そんなふうに着こなせたら理想的ですね」

サステナブルに受け継ぐ着物

空を見上げる久保まゆみさま

長く着物を愛好し、さまざまなシーンで楽しんでいる久保さん。ですが「着物にちゃんと向き合うようになったのは子どもが生まれてから」とのこと。

日本では、日常生活での装いは洋服が主流になってからも、冠婚葬祭や人生の節目の際には着物を選ぶ方が多くいらっしゃいます。久保さん自身もお母様からその習慣を受け継ぎながらも、社会人になりたての頃は着物を着るライフイベントはそうそうありませんでした。

「子どもが生まれると、子どもの産着から始まって、お宮参り・七五三・入学式・卒業式そして成人式や結婚式と、ぐっと着物を着る機会が増えますよね。それで、そのときどきに母から借りたり、新調したりして、よく着物を着るようになりました。

最近はお茶を始めまして。お祝いごとのときだけでなく、もっと日常的にも着物を着たいなと思っています」

お嬢様も、幼い頃から節目ごとに着物に親しみ、かつて久保さんがあつらえた着物を仕立て直して着るようになっているとのこと。従妹どうしでシェアして、それぞれの着こなしを楽しんでいらっしゃるそうです。

「同じ着物でも、帯や着方を変えれば雰囲気もずいぶん変わります。私と妹弟にはそれぞれ娘がいるのですが、三人三様、全然違って見えますよ」

お嬢様の成人式の装い
晴れやかに装った振袖姿

今は、七五三でつくった可愛らしい手鞠柄の着物を、成人用に仕立て直している最中だそうです。

幼い頃に肩上げ腰上げをほどこして仕立て、成長に応じてサイズを調整しながら長く着られるのも、着物ならでは。

お嬢様の手鞠柄のきもの

「娘が生まれた頃に私が着ていた着物を、今の娘たちが仕立て直してまた着る。そういう面でも持続性が高く、着物は本当に素晴らしいなと。古典柄が好きというのもありますが、20年前の私が着物を選ぶ基準と、今選ぶ基準は違うかというと、そんなに違いません。何十年経っても同じものを楽しめる、それが着物だと思いますね」

若い人にもどんどん着物を楽しんでほしいという久保さん。着物は日本の文化がつまった”総合芸術”だといいます。

「世界に出ていくにも、自分の国の文化を知っておくことはとても大切なことです。自分を知らなければ、いくら発信しても世界では通用しませんから。

着物の素晴らしさは伝えきれないくらい奥深いものです。私たち洋服をつくっている者としては、着物の魅力を知ってもらう入り口にもなれるように、私たち自身も勉強しながらラ リーニュ ロペのドレスをつくっていきたいと考えています。

今、着物を楽しんでいる娘たちが、孫にもその魅力を受け継いでいってくれたらいいな——
そんな光景を、私も楽しみにしているんです」

久保まゆみさまの笑顔

構成・文/伊藤宏子

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