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集う人へ心を寄せて― イメージコンサルタント 村田志乃さん 「今、きもので輝くひと」vol.2

集う人へ心を寄せて― イメージコンサルタント 村田志乃さん 「今、きもので輝くひと」vol.2

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イメージコンサルタントの村田志乃さんは、オフの時間のほとんどを着物で過ごし、ご友人と着物イベントを立ち上げたというほどの着物好き。日常から晴れの場までどんなシーンでも着物を楽しんでいらっしゃる村田さんに、着物の魅力をうかがいました。

初夏の新緑に映える爽やかな装い

村田さんにお会いしたのは、新緑がまぶしい初夏のころ。石畳の美しい庭園をそなえた一軒家レストラン「ソンブルイユ」でのことでした。

村田志乃さまとソンブルイユにて

村田志乃さんは米系航空会社のフライトアテンダント、サービストレーニングのインストラクターを経て、語学学校や大学、企業での英語研修に携わってきました。2013年には株式会社RADIANTを設立。ホスピタリティ業界向けの英語接遇研修や個人・法人向けのイメージコンサルティングなどの事業を行っています。

またプライベートではワインやシャンパーニュへの造詣も深く、2009年にはワインエキスパートの資格を取得。フランスの食文化や伝統の振興、そして愛好者同士の交流を図る親睦団体であるサーブルドール騎士団、ロティスール協会、カルヴァドス協会に所属し、サーブルドール騎士団では卓越した会員実績を有する者としてコマンドールの称号を授与されています。

欧米の文化をベースに公私ともに活躍している村田さんですが、一方ではプライベートの時間はほぼ着物で過ごし、和の文化をこよなく愛していらっしゃいます。東西のカルチャーをどちらも積極的に楽しんでいらっしゃる村田さんに、ぜひお話をうかがいたいと思いました。

中川正洋さんの訪問着

葡萄柄の着物は中川正洋さん作。

生地にぱらぱらと染め抜かれた白い模様は「薪糊(まきのり)」といって、薄く乾かした糯糊を細かく砕いて生地に撒いてから染めるという難易度の高い技法を使ったもの。軽やかに優しく、爽やかな印象です。

同じ生地でバッグも制作

同じ生地でバッグも仕立てられたとのこと。こういったお楽しみは着物ならではのものですね。

帯周りもすっきりと

また、西陣の帯には爽やかな黄緑色の帯締めを。足もとを見ると、草履の前ツボも帯締めに合わせた黄緑色。細やかなコーディネートが光ります。

「ここはフレンチレストランですしお庭もきれいですから、それも意識して葡萄の柄を選んでみました。手持ちで緑色の小物はすごく多くて、仲良しの帯締め屋さんにも、『村田さんって、緑のイメージですよね』って言われます。暖色でも寒色でもなくバランスの良い色相で、すごく好きなんですよね」

村田さんは経営者などを対象に、外見などの非言語コミュニケーションも含めたイメージコンサルティングも行っています。

そのスキルとして色彩検定は一級を取得。色彩に関する豊富な知識は、着物のコーディネートにも生かされています。

にこやかな笑顔がステキ

「明度や彩度の高低差、柄の大きさ、生地の目の粗さ細かさの組み合わせなどでコーディネートを考えています。生地が粗くざらざらしているほどカジュアルで、緻密になるほどエレガントな印象になります。また、色相がかけ離れたものを組み合わせてコントラストをつけるとダイナミックな印象に。色相のトーンを下げるとソフトな印象になります。

そうやって試していくと、自分はここが一番はまる、しっくりくる、というのがわかってきます。もし自分に似合うものがどんなテイストなのか迷うことがあったら、そんなふうに左脳を働かせて選んでみるといいですよ」

オペラ座での賞賛、ますます着物に魅了される

オペラ座にも着物で

「仕事のときは、自分自身の情報はそぎ落とす必要がありますから洋服です。
でも、たとえば夕方4時半に仕事を終えて5時半に家に帰ったら、30分くらいでぱっと着物に着替えて、主人と食事に出たりしています。

ふだんのお買い物も着物で出かけますね。着物を着ていないのはゴルフの時くらいかしら。なんとかしてゴルフも着物着てやれないかなって思ってるんですけどね(笑)」

こんなふうに日常から着物を楽しんでいる村田さん。海外でも観劇などに着物を着て出かけるそうです。米国の航空会社でのキャビンアテンダントからキャリアをスタートした村田さんのこと、海外でも自分らしく過ごすことに長けているのでしょう。

笑顔でお話しされる村田さま

「でもキャビンアテンダント時代は、着物なんて全然(笑)。学生時代に着付けを習い、講師の免状をとるまでやったんですが、それはとことんやらないと気が済まない性格だから。気持ちとしては嫁入り前の花嫁修業くらいのものだったんです。
もちろんきれいな着物を着るのは楽しいですから、それはそれでよかったんですけれど、結婚してからは着物からすっかり遠のいていました」

そんな村田さんが着物の良さに開眼したのは、40代に入ってからのこと。パーティーなどの場に着ていく楽しさを発見したのだといいます。

パリ・オペラ座にて
大晦日のオペラ鑑賞は、加賀友禅・菊田宏幸先生の訪問着で

「私はワインも好きで、ワインの催しなどにもよく行くのですが、ドレスコードがロングドレスの会がよくあるんです。40代に入って、20代や30代とは違う華やかさが出せる装い、それって着物じゃない?ということに気づいて。着始めたら、周りからの評判が思った以上に良かったんです。

フランスのガルニエ宮(オペラ座)に着物で行ったときは、素敵な紳士の方が『マニフィーク!(=すばらしい!)』を連発してくださって(笑)。新オペラ座や、ギメ東洋美術館に行ったときも、すごくたくさん声をかけていただきました」

場に映える研究は怠らず、着物で自分らしさを

東洋の美術を愛するフランス人にとっては、着物はアートのように見えるのかもしれません。村田さんにとって着物はテキスタイルで遊ぶ楽しみがある、といいます。

「着物は洋服と違って、型が決まっています。シルエットはみな同じで、ほかの要素がないからテキスタイル勝負みたいなところもあるんですよね。生地の質感や色、その組み合わせは無限で、それが楽しいんです」

この日見せていただいた帯も、まるで絵画のよう。
クリムトの作品、凱旋門とエッフェル塔をあしらった染め帯は京友禅染匠『成謙』のものです。

クリムトの作品と凱旋門を描いた染め帯
クリムトの作品と凱旋門を描いた染め帯

「先日、緊急事態宣言のあいまに、シャンパーニュを楽しむ会があったんです。ずっと自粛していて、1年ぶりの会でした。エッフェル塔の帯はそのときに締めていきました。みなさんフランスが恋しいですから、思いを馳せるきっかけになるかなと思いまして。

会ごとにテーマが設定されていることが多いんです。例えば初夏であれば白ブドウのみで作られるブラン・ド・ブランのシャンパーニュを楽しむ会だったり。すっきりとした酸やミネラル感を楽しめるエレガントな印象のシャンパーニュに合わせて着物も白や黄緑など、爽やかな色を選びます」

前帯部分に描かれたエッフェル塔
前帯部分に描かれたエッフェル塔

また伊藤若冲の作品をモチーフにした帯も、織りであったり刺繍であったり雰囲気はさまざま。白象をあらわした白色の帯と葡萄柄の帯は『弓月』のものです。

若冲の白象をあらわした織り帯と刺繍帯
若冲の白象をあらわした織り帯と刺繍帯
若冲の葡萄柄の織り帯
若冲の葡萄柄の織り帯
刺繍帯の前帯に描かれた鳥たち
刺繍帯の前帯に繍いあらわされた鳥たち
刺繍帯の前帯に描かれた動物たち
刺繍帯の前帯に繍いあらわされた動物たち

ご自身が楽しむのはもちろん、周りの人にも心地よい気分や楽しい気持ちが伝わるような着こなしがほんとうに上手な村田さん。どんなふうにその日の着物を選んでいるのか聞いてみました。

「レストランだったら必ず、お店のウェブサイトを見て色調やトーンを確認します。バックが黒だったら黒系の着物はやめる。インテリアに縦線・横線が強調されてシャープな印象があったら、着こなしにもどこかにモダンな線を入れます。こちらのお店は曲線をインテリアに取り入れているのでそれを意識して。そんなふうに、その場所に沿うようにしています。

周りの人も楽しくなるように着こなしにも気を配る——そんな思いが、素敵な場所にはごく普通のこととしてあふれているんですよね」

階段にたたずむ村田様

着物を着る楽しさを伝えるイベントを企画・開催

着物を通じて自分らしさを表現しながら、対する相手とのコミュニケーションや調和も考えて着物を楽しんでいる村田さん。その楽しさをもっと多くの人に知ってもらいたいと、2018年、2019年には、着物イベント「着物ランウェイin東京」を企画、開催しました。

「着物に興味があるけどよくわからなくて……」「着物を持ってるんだけど、タンスに眠っているわ……」そんな方にとって、着物を着るきっかけづくりになるイベントです。

着物ランウェイ in Tokyo 2019
着物ランウェイ in Tokyo 2019

「もともと友人から、親につくってもらった着物があるのに一度も袖を通したことがないという話を聞いて、こういう人はたくさんいるんじゃないかと。じゃあ1回着てみよう、と思えるイベントをやれたら面白いね、というところから始まったんです。

行けば着物を着付けてもらえて、きれいな着物を着てしゃなりしゃなりとランウェイを歩いてみて、写真なんかも撮ってもらえたら……楽しそうじゃありませんか?」

「開催費用はクラウドファンディングで、スポンサードしてくれたお店や企業のみなさんには出店してもらって。知り合いに声をかけて、着付けやランウェイの指導、カメラマンなどほとんどボランティアで、楽しんでやってもらいました」

会場ではお抹茶サービスも
会場ではお抹茶サービスも

「この日は、この着方はだめ、この組み合わせはだめ、というのは一切なしにしよう、というのを一つだけ決まりごとにしました。まずは着物を着ると楽しい、と思ってもらえるようなイベントにしたかったんです。コスプレイヤーの方など見ていると本当に着こなしが自由で、私自身、着物に対する凝り固まった考えから解放されてすごくおもしろかったですね」

2020年以降はコロナ禍で中断してしまっていますが、どんな人でも着物を思い切り楽しめるこのイベントの再開が、本当に待ち遠しく思えます。

着物が和の世界への入り口に

着物の世界を広げていく活動をしている村田さんですが、ご自身も、着物を着るようになってからは、より一層「和」の世界を深めていくようになったといいます。

もともと好きだった歌舞伎に加えて、能や文楽、古典文学などにも興味をもつようになりました。

「着物を着るようになり、着物の柄にまつわる物語や歴史に目がいくようになって。そうしたら日本の古典をもっと知ったら、もっと楽しいなと思うようになりました」

髙樹のぶ子著『小説伊勢物語 業平』、吉岡幸雄著『源氏物語の色辞典』

「今読んでいるのは、吉岡幸雄さんの『源氏物語の色辞典』、それから伊勢物語を現代語訳した、髙樹のぶ子さんの『小説伊勢物語 業平』です。すごくおもしろいですよ、在原業平はイタリア人も真っ青、という感じの伊達男で(笑)」

「現代語訳ですから古語そのものではないんですが、言葉のチョイスが現代にはないものだったりしてぐっとくるフレーズもたくさんあります。これを読み終わったら、また次の和の世界に興味が湧いて、どんどんつながっていくのかなと思います。かしこまって和を勉強する、というのではなく、興味のおもむくままに深めていくのが楽しいですね」

今、着物の世界に興味を持っているけれどなかなか踏み込めない、という方にも、着物は特別なことという思いはもたずに楽しんでほしい、と村田さんはいいます。

「近所のスーパーにちょっと買い物に行くときでも、着物を着ていても振り向いて見られない、今日は何かイベントあるんですか?って聞かれない、そんな時代になるといいなと思っています。着物でもスウェット感覚で着られるものもありますし、その人にとって一番着やすいスタイルで生活の中に根ざしていくといいなと。

浴衣をお持ちの方は多いと思います。まずタンスから出して、最初は眺めるだけでもいいです。見て、きれいだなと思ったら着てみる。そして着たら出かけましょう。

きれいなものを見れば、気持ちって上がるものです。それを着て出かける楽しさを知れば、あとはどんどん楽しくなりますよ」

レストラン廊下を歩く村田様

構成・文/伊藤宏子
撮影/五十川満

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