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イチゴイニシアチブ主宰 市ケ坪さゆりさん

東京を中心に、児童養護施設や乳児院の子どもの七五三や成人式を着物でお祝いするボランティアチーム「イチゴイニシアチブ」を主宰する市ケ坪さゆりさん。活動を通して気づいた着物の良さと、子どもたちとの触れ合いの中で伝えたい想いについて伺いました。

かけまわる晴れ着姿の子供たち
撮影:端 裕人 HIROTO HATA

Facebookでイチゴイニシアチブの活動報告を見ていると、とにかく明るくポップな雰囲気の文体と、晴れ着姿の子どもたちの写真が印象に残ります。顔が見えないのに、満面の笑顔であることが伝わってくるようです。

晴れ着姿で神社へ
笑顔がこぼれる七五三

自分が何かするときは、こんな表現は絶対使わないと決めていた

鮮やかな晴れ着姿がかわいらしい七五三
撮影:長谷川 恵一 KEIICHI HASEGAWA

「Facebookでは、“虐待”や“かわいそう”などの表現は使わないようにしています。以前、目にした児童虐待防止のポスターの写真とコピーがすごく嫌だったから」。

子どもを大切にしようというメッセージが、こんな後ろ暗い表現でしか伝えられないのかとやるせなく、ポスターの貼り方の雑さまで忘れられませんでした。

「虐待や貧困はネガティブな問題だけれど、現場で子どもにいっぱいお祝いの言葉をかけて、触れ合っていると、ネガティブな表現ではなく、そのまま子どもの素晴らしさを伝えたらいいじゃないかと思えたんです」。

市ケ坪さんの普段のお仕事はファッション業界のPR。商品やブランドの魅力を人々にどう伝えるのかを考え、発信するプロフェッショナルです。「イチゴイニシアチブ」という名前や、イチゴをモチーフにしたバッヂなどの活動アイコンも、そうしたイメージに合わせたブランディングの妙かと思いきや、「狙ったのではなく、自然発生的に出来上がっていった」ものなのだそう。

イチゴイニシアチブの活動に関しては、頭で考えるより先に体が動いたり、周りから与えてもらったと感じることの方が多いのだとか。

cafe 634 児玉夫妻によるコーヒーワークショップ

「施設を訪問する際に、アイスブレイク的に着けていったイチゴのブローチが子どもたちに受けたので、じゃあイチゴグループだねなんて話していたんです。そしたら、その時のフォトグラファーが『一期一会じゃない?』と、意味を見出してくれました」。

一期とは、“一生の始めから終わりまで”を意味する仏教用語。

「辛いことや苦しいこともあるかもしれないけれど、それでも子どもたちに“一期”を全うしてほしいんです。」

“社会=自分”として、私ができることは何だろう

市ケ坪さんが活動を始めたのは、2008年に秋葉原で起こった無差別殺傷事件がきっかけ。

「衝撃でした。当時、娘が2歳だったのですが、ある日突然自分の大切な人の命が奪われてしまうかもしれない恐怖を感じました」。

それと同時に、加害者のことについても考えるようになります。

「社会から疎外された人の恨みや怒りは、“特定の誰か”にではなく“社会”に向けられることもあるんじゃないかって」。

理不尽な目にあっている人が罪を犯すという意味では決してなく、社会=自分たちとして捉えた時に、その痛みや悲しみから目を逸らしてはならないような気がして自分の中で何かがカチッとハマった気がしたのだそう。

当時は、児童に対する福祉や支援、または虐待に関する世間の関心はまだまだ低く、自身も知らないことだらけだったと振り返る市ケ坪さん。

「何とかしなければと児童相談所に行こうと思い立ったのですが、場所も知らなかった。しかも行ってはみたものの、当事者でもなければ専門家でもないので、何の相談もできなかったんです」。

児童養護施設の門をたたく
撮影:南部 智則 TOMONORI NAMBU

それでも、とにかく自分にも何かできることを…と、最寄りの施設である『聖フランシスコ子ども寮(東京都大田区)』の門を叩きます。

「まずは児童の誕生日を祝いたいとポートレート撮影から始めました。誕生日って人種も国籍も性別も関係なく一人ひとりが持つお祝いできるものなので」。

現在の活動の柱となっている七五三のお祝いは、活動2年目に、渋谷区にある施設側からの打診がきっかけに。

「お祝いから繋がったせっかくのご縁なので、あれこれ決めつけずに、コミュニケーションの中から進化させていこうと手探りでのスタートでした」。

晴れ着に込められたお祝いのメッセージを受け継いでいく

もともと、市ケ坪さん自身は着物との繋がりはそれほど強くなかったそうです。

「七五三や成人式の他は、20代の頃にお茶を習っていた時に誂えたくらい。普段から着ていたわけではないので、着付けなどは全然できない方なんですよ(笑)」。

むしろ、着ていた頃より現在の活動を始めてからの方が、着物の良さやそれを誂えてくれた人の気持ちが深く感じられるようになった気がするとのこと。

「こんなにもお祝いのメッセージが大胆に、全面に、絵画のように描かれた衣裳は着物くらいじゃないでしょうか。私たちの活動報告では子どもの顔を出すことはできません。でも、着物なら後ろ姿でも祝意や喜びを表すことができるんです」。

着物には時間も手間もかかる、だからこそ愛着が湧く。
現代の貧困の問題は、経済的な意味だけでなく、時間的な貧困もあるのではと、市ケ坪さんは問います。

活動を続けている中では、長い間大切にされてきた着物を寄贈してもらうこともあるそうで、そんな時は着物と一緒にその方たちの気持ちも受け継がせてもらったような心持ちになるのだとか。
モノとコトのSDGsともいえるかもしれません。

撮影:脇田 ジョージ JOJI WAKITA

子どもたちの成長が感じられるのは、何よりも得がたい奇跡の時間

現役で活躍するヘアメイクアーティストや着付け師が支えあって

現役で活躍するヘアメイクアーティストや着付け師、フォトグラファーなど、仕事で知り合った仲間が支えてくれることも市ケ坪さんの人脈の為せる技。
プロの手による着付けやメイクでおめかしした子どもたちは、はにかんだり、すましたり、元気になったりと、短時間で驚くほどの成長を見せてくれます。

「当初は何をお金にもならないことをやっているんだろう?と周囲から思われていたみたいですけれど、参加したメンバーは、それ以上に得るものが大きいと感じています」。

また、子どもたちにとって、施設外の“働く大人”の姿を見てもらうことは職業観の形成にも繋がるとの思いから、現在はお祝いのメンバーだけでなく、カフェオーナーやスタイリスト、漫画家などから力を借りて、新しい学びを体験するワークショップにも取り組みを広げています。

着物を愛する美意識の高さで、社会を見つめることができたなら

子どもたちが抱えるものの重さに時に胸が苦しくなる

一方で、普段なら見えないものが見えてしまう現実にも直面します。
ある時、振袖の中から長袖のインナーが見えている子がいたので、美容のメンバーに「脱いでもらったら?」と何気なく伝えた市ケ坪さん。
メンバーから返ってきたのは「違うの、イッチー。…」という言葉にならない返事。
それから幾度も目にした晴れ着から覗く手首を隠す長袖のインナー。

「そのインナーを見ると、その子が抱えているものの重さに胸が苦しくなり、自分たちが何かできるなんて言えなくなるんです。知れば知るほど、何も言えない」。

最初はそうした現実に憤り、もっと強く直接的なメッセージを発信すれば、多くの人にこの彼女たちの痛みが届くのではないかとも考えたそう。
だが、さまざまな家庭の状況が透けて見える中で、子どもが親よりも大人になってしまう現実を目の当たりにすると「子どものため」「弱者のため」という言葉の白々しさがじぶんの中に際立つように思えてならない。

肉親であるなし関係なく子どもを見守る大人たち

「私たちの活動って何か意味があるのかなってよく思うんです。でも、以前、福祉新聞の取材を受けた時に使われている写真をみて、あぁ、私はこの風景が見たかったんだな、って思ったんです」。

それは、お祝いされている子どもを真ん中にして、その周りを幾重にも見守る大人たちがいる風景。

「肉親であるなし関係なく、その子に大丈夫だよって伝えられたら、それが一番だと思うんです」。

ならば、ありったけの「おめでとう」を言ってあげたい。
イチゴイニシアチブの発信するメッセージの明るさが、かくも鮮やかなのは、その裏側にいろんな秘めた想いを抱きしめているからに違いありません。

「着物を愛する方たちは、美を感受する能力が高いのではないでしょうか。その美意識の高さで、社会を見つめれば、美しさと同時に醜さも見分けることができると思います」。

かくも鮮やかなイチゴイニシアチブのメッセージ

活動は敢えて大きくせず、心を寄せてくれる方たちと“丁寧に”やっていきたいと話す市ケ坪さん。

「子どもたちには本物に触れてほしいと思います。それは着物の素材の話ではなくて、本物の問題意識を持った大人が、持てる才能を周囲のために使う活動でありたいということです。“支援”というとかたい感じがするので、“おくりもの”くらいのやわらかいものを、これからも届けられたらいいなと思います」。

子どもたちには本物に触れてほしい
本物の問題意識を持った大人たちを増やしたい

株式会社京都きもの市場は、
「”あらゆる理由で親元を離れて暮らす子どもたち”の誕生日と成長のお祝いをみんなの才能で贈るプロジェクトチーム」
イチゴイニシアチブの活動に賛同いたします。
たくさんの大人たちの想いが、あたたかく豊かに、子どもたちへ伝わりますように。

◆ イチゴイニシアチブへの寄付はこちらまで ◆

〝生きるを祝福する〟
日本の伝統的な慶びを子どもたちに贈る活動をしているイチゴイニシアチブ。
その活動は皆さまからのご寄付によって支えられています。
お問い合わせはこちらまで。

ichigoinitiative.jp@gmail.com

https://www.facebook.com/ichigo.initiative

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