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鍵善良房 『菊寿糖』の“かいらしさ” 「和菓子のデザインから」vol.5

旬の食材を取り入れるだけでなく、見た目の季節感も大切にする和菓子の世界。季節を少しだけ先取りするところも、きものと通ずる心があります。共通する意匠やモチーフを通して、昔から大切にされてきた人々の想いに触れてみませんか。 今回は「鍵善良房」で江戸期から作られている銘菓『菊寿糖』をご紹介します。

150年続く、“かいらしさ”のカタチ

鍵善良房において喫茶室の名物が『くずきり』ならば、店を代表する銘菓に位置するのが、和三盆を使用した最高級干菓子『菊寿糖』。

いつ誕生したのかは定かではないそうですが、元治元(1864)年製の菓子型が残っていることから、少なくとも150余年の歴史があることは確か。

現在も当時と同じ型を使っているため、『菊寿糖』の姿形は変わることなく受け継がれ、今なおその“かいらしさ”(京ことばで”可愛らしい”の意味)で多くの人を虜にしています。

とても小さなお菓子ですが、150年前の人々と同じものをみてカワイイという感覚を共有できるというのは、なんだか不思議な感じ。

お干菓子「菊寿糖」

『菊寿糖』が広く知られるようになったのは昭和初期のこと。
原料を片栗粉から和三盆糖に変えたところ、当時は和三盆だけを使用した干菓子が珍しかったため、茶人や通人のあいだで人気を博したそうです。

以来、鍵善良房では『菊寿糖』の原料は四国・阿波(徳島)産の和三盆のみ。

和三盆を取り出して

銅製のボウルから上質の和三盆をすくって木型に盛り、指の腹でギュッギュッと詰めていく。何気なくやっているけれど、ここの力加減が職人の腕の見せどころ。

押しが弱すぎると崩れてしまうし、崩れるのを恐れて強く固めると今度は口どけが悪くなってしまう。

お干菓子「菊寿糖」の作業風景
お干菓子「菊寿糖」の作業風景

他にもその日の気温や湿度による水分量の微調整、エトセトラ、エトセトラ…。

木型の上に残る余分な和三盆の粉を払い上型を外すと、現れたるはすっくと美しい輪郭。

お干菓子「菊寿糖」の作業風景
菊寿糖

ことり、と微かな音とともに裏返されると、おなじみの意匠が花弁をほころばせる。
和三盆という原料から干菓子『菊寿糖』へと命が宿る瞬間を見た気がしたのでした。

聞けば、鍵善良房では職人が一番に習う干菓子が「菊寿糖」なのだという。
現在17名いる職人全員がつくることができるため、一人だけがかかりきりになることはないのだそう。

150年以上にわたりロングセラーを続ける商品に対する、老舗の矜持と職人の層の厚さに改めて感じ入ったのでした。

不老長寿の願いを託して

「菊慈童(きくじどう)」の故事に由来するという『菊寿糖』。
中国の周の時代、ある過ちから流罪にされた慈童という美しい少年が菊の葉に溜まった露を飲んだところ、少年のままの姿で七百とも八百歳ともいわれるの長命を得た。その甘露は不老長寿の霊薬として周辺の村人たちの病気を治した、という謡曲です。

お干菓子「菊寿糖」の作業風景

菊は中国原産で、奈良時代に薬草として日本に伝わった植物。
9月9日の重陽の節句では、菊花の宴を開き菊酒に長寿の願いを託すようになり、鎌倉から室町時代には菊文としての意匠化も見られ、さまざまな形の菊が古くから親しまれています。

最も有名なものは八重菊を図案化した皇室の紋章「十六八重表菊」、身近なものだとパスポートの表紙に描かれた「十六一重表菊」ではないでしょうか。

和装に見られる菊柄も、一重菊、八重菊、花びらが省略された光琳菊、流水に菊の花を浮かべた菊水、菊尽くし、花弁の細い乱菊など、可憐な野菊から大輪のものまで多種多様です。

どれもおめでたい席の装いにふさわしく、不老不死、延命長寿、無病息災、邪気払いの意味がある吉祥文様となっています。

通年楽しめるけど秋はちょっと特別

着用時期については、実際に花が咲く秋の印象が強いのですが、百花の最上ランクに位置する格調高い花なので、季節を問わずお召しいただけます。

でも、夏の終わり頃から半衿や帯などの小物で菊の意匠をとり入れている方をお見かけすると、やはり季節感を取り入れたコーディネートは素敵だなと思います。

実は鍵善良房の『菊寿糖』も通年商品ではありますが、秋だけはちょっと特別。
通常の白い『菊寿糖』に加えて、紅白黄紫の4色に染まる『菊寿糖 彩り』が店頭にお目見えするのです。

毎年、秋が楽しみという方が多いのも納得の“かいらしさ”です。

干菓子の並ぶ商品棚

撮影/スタジオヒサフジ

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