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甘春堂 『金魚』で良いこと尽くめの夏支度 「和菓子のデザインから」vol.4

甘春堂 『金魚』で良いこと尽くめの夏支度 「和菓子のデザインから」vol.4

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旬の食材を取り入れるだけでなく、見た目の季節感も大切にする和菓子の世界。季節を少しだけ先取りするところも、きものと通ずる心があります。共通する意匠やモチーフを通して、昔から大切にされてきた人々の想いに触れてみませんか。 今回は「甘春堂」で見つけた金魚のお干菓子をご紹介します。

6月16日は「和菓子の日」です。
みなさまもおいしい和菓子で心を潤してくださいね。

と言いつつ、今回は「潤い」とは真逆の「お干菓子」のご紹介です。

京都・川端正面の「甘春堂」は生菓子だけでなく、お干菓子にも定評があります。
本物の抹茶碗と見まごう『茶寿器(ちゃじゅのうつわ)』は、お干菓子でありながら実際にお薄を点てて飲むことができるとあって、贈答にも喜ばれる同店の看板商品。

また、普段のお茶請けに最適な一口サイズの落雁や和三盆も豊富に揃っています。
薬箪笥のような引き出しにお行儀よく収まった色とりどりのお干菓子たち。

手芸用品店のボタンコーナーやアンティークのカボションがお好きな方は、この小さな芸術品を前に胸の高鳴りを抑えられないはず。

干菓子の商品棚

「甘春堂」では季節に合わせた意匠を中心に、お干菓子も一つずつ手仕事でつくっています。
生菓子に比べて日持ちがする一方、毎日ちょっとだけつくるスタイルには不向きなため、店頭の商品の減り具合に応じてある程度の数を一気に仕込むそうです。

干菓子の木型

取材の日に幸運にも目にすることができたのは、生砂糖(きざと)でできたお干菓子『松葉』の仕込み。
板状の生地から松の一針を等幅に切り出していくベテラン職人の技は見飽きることがありません。

松葉の製作風景

完成品よりもまだ水分量が多くやわらかい状態の『松葉』は、緑がひと際鮮やか。
おめでたさが大渋滞しております…!

こちらは和三盆のお干菓子。
藤の花に胡蝶に、京おどりの「ぼんぼり」や鴨川おどりの提灯でおなじみの「千鳥」など、春らしい意匠が並びます。

和三盆
落雁

続きまして落雁。
朝顔や紫陽花など、梅雨から夏にかけての意匠が揃います。

粒子の細かい和三盆糖のみでつくる和三盆のお干菓子の繊細さに対して、穀類の粉が入る落雁はまた異なる表情ですね。

落雁と和三盆と松葉、そして金平糖が二段のお重に入った『季節の重箱』はお干菓子の愛らしさを存分に堪能できる、ご機嫌なひとかさね。

干菓子の入った季節の重箱

店頭に置いてある組み合わせは、あくまでも見本。
季節の移ろいに合わせ、落雁や和三盆の内容も少しずつ変化していきます。

前もって注文をすれば要望も聞いていただけるようなので、自分の好みや、贈る相手が喜んでくれる組み合わせを考えるのも楽しそう。ちょっとしたお誂え気分も味わえますね。

夏を先取りして組んでいただいたのが、紫陽花やカニ、朝顔などが入った、こちらのお重。
バラバラの形のお干菓子をぴったりと隙間なく正方形の器に収めるのも熟練の技なのです。

金魚の落雁

今回はこの中から、「金魚」の意匠を取り上げたいと思います。

金魚の落雁

浴衣の柄や夏祭りの金魚すくいなど、THE 日本の夏! といったイメージの「金魚」ですが、実は金魚の祖先は中国・長江の生まれ。

中国では「金魚」を「チンユイ」と読みます。
お金が余るという意味の「金余/金餘」と同じ発音であるため、古くから豊かさと幸運を招く縁起物として愛されてきました。

それを知ると、「金魚すくい」がなにやらすごい遊戯に思えてきますね。

生きている金魚が日本に入ってきたのは室町時代だといわれています。
とはいえ、一般的に庶民の間でも広く親しまれるようになったのは江戸時代になってから。歌川国芳の浮世絵などが有名ですね。

さらに、着物や帯の意匠として登場したのは大正時代以降だとか。
意外と新しい柄だったことに驚きです。

涼しげで優美な金魚柄は大人の女性の浴衣にも描かれますし、愛らしい金魚柄は子どもの浴衣でも定番ですよね。
これは金魚の赤色が特に病魔や災厄を退ける魔除けの色として信仰されていたからだそうです。
黒い金魚も金運アップだけでなく「邪気を吸い込んでくれる」と風水では人気なんですって。

お出かけやお祭りの予定が少ない昨今ですが、夏はもうすぐそこ。
涼やかで、魔除けにもなって、金運までアップしてくれる金魚コーディネート。
小物でも取り入れやすいので、今こそ絶好の出番かもしれません。

それにつけても、お干菓子の愛らしさよ…!
色といい、形といい、サイズといい、そのまま帯留めにしてしまいたいと思うのは、きっと私だけではないですよね。

お干菓子

撮影/スタジオヒサフジ

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