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DJ・きものスタイリスト マドモアゼル・ユリアさん (前編)

DJ・きものスタイリスト マドモアゼル・ユリアさん (前編)

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DJ兼シンガーとして世界の音楽シーンで活躍する傍ら、独自のセンスが世界から評価され、一流メゾンのショーに毎シーズン招待されるファッショニスタでもあるマドモアゼル・ユリアさん。ロンドンV&A博物館の着物展キャンペーンビジュアルのスタイリングを手がけるなど、ここ数年で着物スタイリストとしての存在感も高まっています。

音楽とファッション、着物をつなぐニューアイコン

10代のころから音楽活動を開始し、DJ兼シンガーとして世界の音楽シーンで活躍する傍ら、独自のセンスが世界から評価され、一流メゾンのファッションショーに毎シーズン招待されるファッショニスタでもあるマドモアゼル・ユリアさん。

洋服一辺倒だった彼女だが、家族からの影響や、高畠華宵の作品、池田重子さんのコーディネート、好きなデザイナー、ヴィヴィアン・ウエストウッドやジョン・ガリアーノらの着物からインスピレーションを受けたデザインを目の当たりにし、着物の魅力を再発見することに。

2020年2月にはロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート(V&A)博物館で開催中(現地時間2020年10月25日まで)の着物展「Kimono Kyoto to Catwalk」のキャンペーンビジュアルのスタイリングを手がけるなど、ここ数年で着物スタイリストとしての存在感も高まっています。

また2020年3月には、京都造形大学和の伝統文化学科を卒業。センスだけではなく、歴史や伝統文化への造詣を深め、現在、『VOGUE』や『ELLE』を始めとするファッション誌のウェブサイトで着物をまとう楽しさを紹介する連載を始めました。

無邪気に美しいー和洋の自由な往来

マドモアゼル・ユリアさんの着物の着こなしはアンティークのものを中心にしながら、最先端の「いまっぽさ」を感じさせてくれるモダンなスタイリング。
くだんのシャネルのパリコレクションでは、鶴模様の振袖にシャネルのクラッチバッグとブローチをとても自然にコーディネートされていました。

ともすれば散らかってしまう和洋ミックスのスタイリングですが、ユリアさんの着物姿には常に気品が感じられます。ボーダーレスで自由、清潔感があり、無邪気に美しい。ユリアさんにとっての「着物とは何か」「着物への夢」をうかがってみました。

マドモアゼル・ユリア、パリにて

真夏の夜の夢…贅沢な夏のお振袖、アンティークの浪漫

「真夏の夜の夢」というテーマが浮かびそうな、とてもロマンチックな夏着物の装いで夜の東京ステーションホテルに現れたユリアさん。

「本当に夢の中のような色合いの振袖ですよね。紫の空に、これは月。そしてピンクの橋とか、とても幻想的で。夕暮れのどきのピンクの雲から夜が始まるような、そんな景色も目に浮かびます。今日のコーディネートは、どうしてもこの振袖が着たい、という一心で考えたものなのでテーマありきではないんですけれど、川や海がモチーフになっていて、夏っぽいかなと。あえていうなら、水辺がテーマでしょうか」

「かんざしにも船がついているものを選びました。この船、動くんですよ。下の千鳥も、かかっている橋まで動くんです。ずいぶん昔のものだと思いますが、すごい細工ですよね。職人さんの技術にときめきが止まりません。小物一つ一つに物語を感じられるのも、和装のいいところだと思います」

かんざしには動く船と揺れる千鳥が

こういった振袖や小物、どういったところでみつけてくるのでしょう。

「アンティークのものはつねに探しています。ネットでのチェックも欠かしませんし、アンティークフェアには必ず足を運ぶようにしています。好きなお店も京都にありますね。アンティークのもの、実物に関しては京都のほうが探しやすいのかもしれません」

かんざしも素敵でしたが、このやわらかいピンクの帯留めも素敵です。

「振袖の柄が、川に橋、帯には波模様を持って来たので、帯留めも船かなと思い合わせました。この船の帯留めはローズクォーツです。半襟の柄は団扇で夏を意識しています」

振袖といえばお正月や成人式など冬のイメージがどうしてもあります。そんな中、珍しい夏の振袖。贅沢に感じますね。

「夏の着物は、着ている本人は暑いけれど、透け感のあるものを着ていると涼しげに見えますよね。そういう涼しげに見える着物がとくに好きなんです。今日の振袖も透け感がよくて気に入っています。絽や紗の薄衣に着物の持つロマンティックさを感じます。今日のものはそこまでではないけれど、透け感の強い着物に柄のある襦袢をもってきて、重ねたときに透けているとか、超おしゃれですよね。昔、高畠華宵かなにかの絵で、襦袢を透かしているのを見て、なんておしゃれなんだ!と感激したんです」

珍しい夏のお振袖はとても贅沢

襦袢に描かれた文様を透かして見せることで、特別な意味やメッセージが生まれる。
なんと洒落たことか…言葉ではなくメッセージや気持ちを、着物を纏うことで伝える事が一番の楽しみだと、ユリアさんは言います。

着物の楽しみは物語をまとえること

「やっぱり着物を着る楽しみは物語をまとえることだと思うんです。洋服って形が決まっているから、自分がその形に合わせていくという感じだけど、着物は着方でその人自身が出てしまうと思うんですよね。着物一枚だけで完成しないというか、組み合わせるもの、選んだものによって、自分で物語を作ることができてしまうので。

また、小さい小物一つにも物語があるし、世界が広がるじゃないですか。例えば、このかんざし、買ったはいいけどずっと付けるタイミングがなくて寝かせていたんですが、この振袖を買ったときに、ああこれだ、これと一緒にぜったい付けようってひらめいて。そういうアイテム同士の世界観が一致すると、より広がる。そういうのにわくわくして興奮してしまうんです」

着物の組み合わせの妙。物語が無限に広がる可能性に胸をときめかせられるのも、着物ならでは。ではそのアイテムたち、ユリアさん自身のコレクションはどう管理しているのでしょうか。

「携帯で写真に撮って、フォルダで管理しているんですが、写真に撮り切れていないものも半分くらいあります。数えたことがなんですけど、着物だけで100枚以上はありますね、把握できていないのですが。コレクター気質なので、素敵なものをみつけるとどんどん集めてしまうんです」

外へ目を向けるほどに、内から湧き上がる着物・美容一家のDNA

ユリアさんのお祖母さま、お母さまは着付師という環境。子供のころから着物は身近にあったのでしょうか。

もともとは洋服のほうが断然好きだった

「みなさんと同じで、しょっちゅう着物を着ていたかといえば、そんなことはないです。興味を持てばもっと着る機会はあったかもしれませんが、子供の頃は、自分は洋服のほうが断然好きだったので、節目節目で着るぐらいでした。

でも、海外のファッションを好きになればなるほど、着物の楽しさ、美しさを無視できなくなっていったんです。

自分が好きなデザイナー、ジョン・ガリアーノやヴィヴィアン・ウエストウッドたちが、着物をモチーフにしたり、着物からインスピレーション受けたデザインを出していて、そこからまた魅力に気づいていったというのもあります」

「着物まわりの小物って細部までかわいいじゃないですか。凝った細工がほどこされていて、とくに昔のものだと唯一無二のものだったりするし、見れば見るほど小さい世界がいっぱい広がっていて。

それを全部組み合わせたとき、自分だけの世界を作れるっていうのが、洋服にはない楽しみだな、と。勿論着物も持っていたし着たりもしていましたが、そんなことは考えたことがなくて、あらためて気付かされたのがつい6年くらい前で、最近です。

一番のきっかけは、母に池田重子さんの本を勧められたこと。それまでも自分で着物を着たりはしていたんですけど、アンティークのものを組み合わせるようなことはしていませんでした。

その本で池田重子さんの考え方に出会って、私の好きな画家、高畠華宵とか竹久夢二とかの、あの世界観、時代感に近いって感じたんですね。自分で再現できたら、すごく素敵じゃないですか。そこからアンティークのものを集め出しましたね」

池田重子さんに憧れて

取材・文/渋谷チカ
撮影/スタジオヒサフジ

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