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武家の妻の矜持を描く本格時代劇『陽が落ちる』 「きもの de シネマ」vol.63

武家の妻の矜持を描く本格時代劇『陽が落ちる』 「きもの de シネマ」vol.63

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銀幕に登場する数々のキモノたちは、着こなしやコーディネートの良きお手本。せっかくなら、歌舞伎やコンサートみたいに映画だってキモノで愉しみませんか。今回注目する作品は、切腹を言い渡された夫と妻の最後の一夜を描いた『陽が落ちる』です。

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2025.03.27

よみもの

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夫婦の覚悟を描く、たった一晩の人間ドラマ

戦や剣戟が繰り広げられない時代劇。そこにあるのは、武士の誇りと妻の献身のみ。

時は文政12(1829)年9月2日――蝉の声と風鈴の音色が残暑を感じさせる穏やかな晩夏、蟄居ちっきょを命じられた徳川将軍家旗本・吉田久蔵正成(出合正幸であい まさゆきのもとに届いたのは、旧友が詠んだ一首の歌でした。

※蟄居……罪を犯した武士が自宅で謹慎する処分。登城や他者との面会が制限される。

©2024 Kart Entertainment Co.,Ltd.

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「夏の世の夢路儚き武士もののふの晴れて行方の西の雲の端」

閉ざされた門の外から響いた歌は、久蔵に切腹の沙汰が下されたという報せだったのです。
残された僅かばかりの時間で、何ができるのか。何を為さねばならぬのか。

妻・よし乃(竹島由夏たけしま ゆかは、武家の女として、武士の妻として、夫の誇りを守り、息子の未来を繋ぐため、気丈に事を進めていきます。

たった一夜のうちに起こる人々の命運を静かにスクリーンに刻み込んだ本作は、「ロンドン国際映画祭2025」「エディンバラ国際映画祭2025」で最優秀監督賞をはじめとした数々の賞に輝きました。

©2024 Kart Entertainment Co.,Ltd.

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武士の妻に焦点を当てた、重厚な本格時代劇

最大の見どころは、夫を支え、家族を守るために意志を貫く“武家の女”の生き様を主軸とするストーリー展開です。

封建の世、武士社会において主君への忠誠は命にも勝るもの。義心や責任感はもちろん、己を律し、礼節を重んじる生き方を通して、夫婦間の絆や信頼、親が子へ託す想い、主人と奉公とで結ばれた信義といったさまざまな機微を丁寧に掬い上げています。

©2024 Kart Entertainment Co.,Ltd.

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「きものと」読者としては、妻・よし乃と奉公人・しげ(笹田優花ささだゆか)との着姿の対比も興味深い要素ではないでしょうか。

片や、逞しく肝の座った武家の人間に相違ない佇まいの女が身にまとう、藤色の地紋が美しい着物に黒い帯を合わせた堅実な着こなし。ピンッと立ったお文庫の羽が、彼女の気立ての表れのようでもあり。

「武家の妻は凜としていなければならない」というセリフと相俟って、見事な出で立ちとなっています。

©2024 Kart Entertainment Co.,Ltd.

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対する、農家の娘であるしげは、洗いざらした縞の木綿着物に臙脂色の帯を矢の字に結んでいます。裾も短めに着付け、下働きをする若い女性らしい装いです。彼女は翌日も同じ格好をしています。

夜が明けて、よし乃は墨色の小紋に着替えます。合わせているのは深緑色の帯。薄暗い室内では一見、全身黒い印象です。喪に服す心構えなのか……覚悟を決めた彼女の胸の内が、着るものにも表れている興味深い取り合わせです。

片ばさみ&村上弘明氏への好き好みを語る

ここからは、わたくしの偏愛語りになりますが……。
殿方の帯結びは、断然!片ばさみ派です。

ベーシックな貝ノ口以外にも、神田結び、一文字結び、片流しなど角帯の結び方もいろいろありますが、最も色気と余裕を感じるのが片ばさみ。

久蔵の介錯を務めることになる江藤伝兵衛(前川泰之まえかわ やすゆき)の後ろ姿の、なんとまあ男前なこと!結び目のポジショニングとサイズ、帯両端の長さと角度、何から何まで完璧な帯結びでした。腰の二本差しのバランスも絶妙で、彼の歩き方に惚れ惚れすること間違いありません。

©2024 Kart Entertainment Co.,Ltd.

また、わたくしが何より興奮したのが、御目付役として登場する村上弘明むらかみ ひろあきさんのキャスティングです。

時代劇には欠かせない圧倒的存在感をもつベテラン俳優のひとりで、彼の最たる魅力はその声! 低音ボイスがウリの声優をも凌駕する、エロスさえにじみ出る剛柔な声音に沼落ちしないことがあるものか、いやない。

彼の一番の当たり役は、時代劇ドラマ『新・御宿かわせみ』(1997~1998年/テレビ朝日系)で演じた、南町奉行所吟味方与力の弟で剣豪な美男子・神林東吾でしょう(椿屋調べ)。

その後の『髪結い伊佐次』(1999年/フジテレビ)では定廻り同心・不破友之進、『八丁堀の七人』シリーズ(2000~2006年/テレビ朝日系)では北町奉行所与力・青山久蔵に扮し、見事な江戸弁で粋人を演じ切っています。

長身にも関わらず、殺陣も見事な腕前の持ち主です。本作では大立ち回りはありませんが、御目付としての威厳と懐の深さが存分に発揮されています。

ちなみに、タイトルともなる肝心要のセリフを彼が口にするシーンは、お見逃しなく。
その魅力のほど、ぜひ劇場で。そして、welcome to 弘明沼☆

©2024 Kart Entertainment Co.,Ltd.

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