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高貴な正妻、葵の上 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.5

高貴な正妻、葵の上 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.5

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深窓の令嬢なので、振袖や訪問着にできそうなところを普段着らしく小振袖にとどめ、でもしっかり良いお家柄を示す繍い紋を施していそう。帯は気品ただよう唐織でお嬢様らしくふくら雀に。

2024.04.24

まなぶ

紫の上と並ぶ”春の姫君”、玉鬘 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.4

まなぶ

3兄弟母、時々きもの

こんにちは。tomekkoです。

初夏の風が気持ちの良い5月ですね。源氏物語で5月といえば……

『葵祭(当時は賀茂祭)』でしょう!

下鴨神社と上賀茂神社で行われる優雅な祭は1500年前、源氏物語が書かれた当時から、それはそれは見応えのある美しいお祭りだったようですね。

ということで、今月の『源氏物語の女君がきものを着たなら』のモデルは、光源氏の最初の高貴な正妻『葵の上』!

なんとなく、なんとなくですよ、葵の上と聞くと、性格がキツくて気位が高くツンケンした……ちょっと嫌な性格のイメージありませんか?

ちょっと嫌な性格のイメージありませんか

世には心も解けず うとく恥づかしき ものに思して ものに情けおくれ、すくすくしきところ つきたまへるあまりに
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫

本来なら女御として入内してもおかしくない非の打ちどころのない高貴な姫君だったのに、親王どころか臣下に降りた、それも都じゅうをブイブイ言わせている年下のプレイボーイの妻になるだなんてプライドが許さない!

光源氏の流し目ひとつ、言葉ひとつにキャーキャー言う女たちとは違いますから!と言わんばかりに心に壁を作り、距離を取って打ち解けようとしない。

一方で身分の高さと正妻としての立場をかさに着て、夫の高貴な愛人に恥をかかせても知らんぷり……

あらあら、葵の上って随分ひどい人みたいですね。

でも実は、源氏物語の原文を読んでいくと印象がだいぶちがうんです。

実際の葵の上はとってもピュアでおぼこくて箱入りのお嬢様

実は先に挙げた葵の上の印象は光源氏の主観がほとんど。自分の思う理想の女性と違う、と文句を言っているだけなんです。

実際の葵の上はとってもピュアでおぼこくて箱入りのお嬢様すぎて、遊び慣れた年下の軽薄男にどう対応したら良いかわからなかっただけなのかもしれないな〜と今は思います。

幼い頃より大切に育てられ、一切の汚点も虫もつかぬように守られてきた姫君。そういう恵まれた育ちの人って実は性格悪くなりようがないんですよね。

恋の駆け引きに慣れた女君たちに囲まれて育った光源氏からしてみれば、会話を投げかけてもどう反応していいかわからず黙っている葵の上はつまらないし、困って女房たちに任せて奥へ引っ込んでしまう態度が気位高くバカにされているように見えてしまったのかもしれませんね。

そんな葵の上、着物ならやっぱり古典柄。

大ぶりなデザインの文様も派手すぎず、細やかなところに職人の技術を駆使した匠の逸品を身につけていてほしいものです。

深窓の令嬢なので、振袖や訪問着にできそうなところを普段着らしく小振袖にとどめ、でもしっかり良いお家柄を示す繍い紋を施していそう。帯は気品ただよう唐織でお嬢様らしく「ふくら雀」に。

庶民からしたらどう見てもよそいき、盛装になりそうなお着物を当たり前に普段使いしてほしいですね〜!

さて、この仮面夫婦(?)、結婚9年目にしてようやく葵の上が妊娠します。

そのあたりから光源氏も葵の上に愛着を感じることが増え、それに従って葵の上の方も徐々に素直になってきて夫婦らしさを感じ始めます。

9年って……長いですねぇ。

そしてそのころ光源氏が通っていた身分の高い愛人、六条御息所は、そんな光源氏の心の変化に気づき、またうまくいっていないと聞いていた正妻が身ごもっていると知って恨み(不倫話でよくある流れ!)を抱き始めます……

嫌な予感がしてきましたね。

いとをかしげなる人の いたう弱りそこなはれて あるかなきかのけしきにて 臥したまへるさま、いと らうたげに心苦しげなり。 御髪の乱れたる筋もなく はらはらとかかれる枕のほど ありがたきまで見ゆれば
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫
【京の名工房】 傑作総手刺繍訪問着 「蔦葉」

話は前後しますが、光源氏が長年打ち解けられなかった葵の上に初めて「可愛らしい」「愛おしい」と感じたのは、真っ白な妊婦姿で苦しむ姿(え?)。

平安時代は出産に備えてお世話する女房たちの服装も、調度品も全て真っ白に揃えて臨みました。

もともと美しい人が病みやつれて苦しむ姿が色っぽい、とは清少納言も枕草子に記しているほどで、平安貴族ってどこかメンヘラ気質というか陰や死を前にした美に惹かれるところがあるようです。

着物の帯って意外とマタニティファッションには向いているってご存知ですか?腰紐と帯がしっかりお腹を支えてくれるので、安定期なら楽しめますよ。

清純な白をベースに同色の細やかな刺繍の濃淡により立体感を感じられる上質な着物です。帯は軽くて柔らかめのものをチョイス。愛らしくて清純さが際立つ姿ですね。

出産後、素直に話し合い打ち解けた後、参内のため家を出る光源氏をじっと見送る葵の上なんてとっても可愛らしくてその後の悲劇を思うと胸が苦しくなっちゃいます(涙)。

2022.04.21

まなぶ

草木の萌え出る皐月 「月々の文様ばなし」vol.2

最後に、時を戻して災いの種となった「葵祭での車争い」。

天下のイケメン光源氏も行列に参加するということで都中が大騒ぎ。葵の上本人は妊娠中だし乗り気では無いものの、母宮からも勧められて大喜びの女房たちと出かけることに。

もう牛車を停める隙間も無いところに優雅にやってきた葵の上御一行様。従者たちが権勢を傘に着て強引に立ち退かせたうちのひとつが、控えめな車でお忍びで来ていた六条御息所の乗る車でした。従者同士の大げんかになり、結果六条御息所側がひどい仕打ちを受けて恥をかかされたことで恨み倍増、というエピソードです。

葵の上自身が従者をけしかけたり指示をしたという描写は当然無いのですが、第三者からは主人の意思と見做されるのは仕方ないですよね……

その話を後から聞いた光源氏は、妻が自分の愛人を足蹴にしたように感じて(現代人の感覚からしたら当たり前ですけど!)性格が悪いような言い方をしたわけですね。その結果、冒頭のような葵の上のイメージが出来上がってしまったのかも。

素知らぬ態度をしてしまったのはよくなかったかもしれないけど、じゃあ葵の上はどうしたらよかったのでしょうね……

『葵襲ね』を車と掛けてお着物で表してみました。

こんな、ちょっとモチーフにはしにくい出来事ですが、せっかくなので『葵襲ね』を車と掛けてお着物であらわしてみました。

シンプルで上質な白大島に葵柄を織り込み、柔らかさのある絞りで御所車を染めた帯が上品で派手すぎない若奥様のお出かけという感じ。初夏らしい涼やかさもありますよね。

明るく青空に映える立葵を表す『葵襲ね』をイメージしながらコーディネートしてお出かけしてみてはいかがでしょうか?

2023.05.08

よみもの

端午の節句に菖蒲尽くし 「#京都ガチ勢、大西里枝さん家の一年」vol.5

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【京の名工房】 傑作総手刺繍訪問着 「蔦葉」

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