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美人画は当時のファッション雑誌!? 「浮世絵きほんのき!」vol.5(最終回)

美人画は当時のファッション雑誌!? 「浮世絵きほんのき!」vol.5(最終回)

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”浮世絵コンシェルジュ”の畑江麻里さんが解説する「浮世絵きほんのき!」。最終回は…「流行ファッションの情報源」としての役割も担っていた「美人画」について。

2023.03.10

まなぶ

浮世絵の題材はこんなにも幅広い! 「浮世絵きほんのき!」vol.4

浮世絵はメディアだった

前回、浮世絵には様々なジャンルがあることをお話しましたが、今回は、当時の浮世絵が鑑賞する絵画であっただけではなく、メディア(情報を伝達する媒体)でもあったということをご紹介したいと思います。

例えば、役者絵

その時に上演されている歌舞伎演目の情報源になるのはもちろん、役者が亡くなった時には「死絵」が出されることで訃報が人々に伝えられました

また風景画(名所絵)は、江戸の庶民の間で高まっていた旅行人気に応えるガイドブックとして閲覧されていました。

このように各ジャンルの浮世絵はそれぞれ違ったメディアとして機能していましたが……

今回は、なかでも読者のみなさんの関心が高いと想定される美人画(美人絵)について掘り下げてみたいと思います。

当時の美人画は、現代の女性ファッション誌のような役割を果たしていたんですよ!

美人画から分かる当時の流行

vol.1でお話したように、木版画における「浮世絵」いわゆる「浮世絵版画」は、同じ絵を大量に摺ることができ、かけそば一杯程の安さ(約300円)だったので、一般大衆も手軽に手に入れて楽しむことができるものもありました。

2022.08.25

まなぶ

一点もの?大量生産? 「浮世絵きほんのき!」vol.1

今から約400年も昔、プリンターなどの機械のない時代ですから、これは大変画期的なことでした。

この「同じ絵を大量に摺ることができるようになった」ことによって、当時の浮世絵版画は絵画として鑑賞されるだけでなく、現代のテレビや雑誌のようなマスメディアとしての役割も担うようになったのです。

なかでも、美しい女性が描かれた浮世絵版画、いわゆる「美人画」を見れば、現代の女性向けファッション雑誌と同じように、その美人画が描かれた時に人気だった髪型やファッションなどが鮮明に見て取れます

ここからは、当時流行の女性ファッションを反映しているといえる、典型的な美人画作品の例をいくつかご覧いただきましょう。

流行の髪型

こちらは、喜多川歌麿の代表作《當時三美人》です。

図1 喜多川歌麿《當時三美人》寬政5年(1793)頃大判錦絵 メトロポリタン美術館藏

図1 喜多川歌麿《當時三美人》
 寬政5年(1793)頃 大判錦絵
 メトロポリタン美術館蔵

まず一人目。手前右に桐の紋が入った団扇を持って描かれている美人は、当時人気の浅草寺門前の茶屋娘、難波屋おきた。

手前左、三つ柏の紋の着物を着た美人は、同じく両国広小路の茶屋娘の高島おひさ。

そして真ん中、桜草の着物の紋が入った美人は、吉原の富本節の芸者、富本豊雛です。

3人は顔形や着物の柄などはよく見ると細かく描き分けられていますが、髪型は全く同一に描かれていることが分かります。

これは主に安永~寛政頃に流行した髪型で、鬢が横にピンと張った「燈籠鬢(とうろうびん)」と呼ばれたものです。向こう側が透けて見えることや、燈籠の笠に形が似ていることからこう名付けられたといいます。

図3 喜多川歌麿《當時三美人》寬政5年(1793)頃大判錦給 メトロポリタン美術館藏 部分図

図2 喜多川歌麿《當時三美人》
 寬政5年(1793)頃 大判錦絵
 メトロポリタン美術館蔵 部分図

vol.2でご紹介した鈴木春信の美人とは、髪型が異なるのがお分かりになりますでしょうか。

2022.09.30

まなぶ

黒一色からフルカラーへ 「浮世絵きほんのき!」vol.2

また、こちらに描かれている明和期流行の髪型は「かもめ髱(たぼ)」といって、カモメのしっぽのように後ろのたぼ(後ろ髪)が張り出したものでした。

図2 鈴木春信《かぎやお仙》

図3 鈴木春信《かぎやお仙》
 明和5、6年(1768,69)頃 柱絵判錦絵
東京国立博物館蔵
出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)部分図
  国立文化財機構所蔵品統合検索システムを元に加工して作成

流行の着物

加えて美人画には、当時の女性たちがどんな柄の着物をどのように着こなしていたのか、最新の流行が切り取られています。

例えばこちらの作品には、縞模様の着物をまとう女性が描かれています。

図4 爱川国芳当流女諸礼義方 障子の出入仕やう》文政元年〜万延元年(1818〜1860)大判錦絵 足立区立郷土博物館藏

図4 歌川国芳《當流女諸禮躾方 障子の出入仕やう》
文政元年〜万延元年(1818〜1860) 大判錦絵
足立区立郷土博物館蔵

江戸時代初期には鹿子絞りや刺繍などの華やかな小袖も作られていますが、享保の改革の頃には、幕府から出された奢侈禁止令によって豪華な小袖は徐々に減り、江戸時代後期には茶色、鼠色などの渋めの色の小袖に、一種類の文様を全体に散らす縞などの模様が流行しました。

図5 歌川房種《古代名所揃》弘化4年〜嘉水5年(1847〜1852)団扇絵錦絵 足立区立郷土博物館藏

図5 歌川房種《古代名所揃》弘化4年〜嘉水5年(1847〜1852) 団扇絵錦絵 足立区立郷土博物館蔵

縞模様の他にも、こちらの作品のように、小袖の裏側や襟先・裾のみに模様をおくなど、時代が進むにつれて、豪華な装飾ではなく、目立たないところに凝った装飾や素材が使われるようになっていきます。

図6 渓斎英泉《當世料理通 洲崎武蔵屋》
文政期(1818〜1830) 大判錦絵
足立区立郷土博物館蔵

図7 渓斎英泉《花名所東百景 根津権現楓》文政期(1818〜1830)大判錦絵 足立区立郷土博物館藏

図7 渓斎英泉《花名所東百景 根津権現楓》
文政期(1818〜1830) 大判錦絵
足立区立郷土博物館蔵

あからさまな華美ではなく、さりげない華やかさを楽しむ趣向は、江戸の人々が大切にした「粋」の美意識のひとつのあらわれと言えるでしょう。

江戸後期には、江戸小紋の柄も流行りました。

図8 喜多川歌麿《針仕事》

図8 喜多川歌麿《針仕事》
寬政7年(1795)頃 大判錦絵三枚続うち一枚
東京国立博物館蔵
出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/

図9 喜多川歌麿

図9 喜多川歌麿《婦女相十品  文読む女》
寬政3、4年(1791、92)頃 大判錦絵
東京国立博物館蔵
出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/

図8の若い母親が透かして見ているのは黒い霰小紋の絽、図9の年増女房がまとっているのは松皮菱小紋の着物、というように小紋には数多くの種類があることも美人画からわかります。

拡大するとこのような表現がなされています。

図10 図8部分図

図10 図8部分図
国立文化財機構所蔵品統合検索システムを元に加工して作成

図9部分図

図11 図9部分図
国立文化財機構所蔵品統合検索システムを元に加工して作成

明治期における文化風俗の近代化

浮世絵は江戸時代だけ刊行されたものではなく、明治時代にもあらたな浮世絵が制作されました。

時代が江戸から明治に変わると、浮世絵も近代化による西洋文化の影響を色濃く受けるようになり、新時代の文物を取り上げた新しい種類の浮世絵が生まれます。それに伴い、美人画のジャンルでも、洋装などの新時代の文化風俗をまとった女性を描いた作品が登場しました。

こちらの作品は、明治時代の美人画を代表する楊洲周延の作品です。

図12 楊洲周延《墨田花高貴の遊覧》明治21年(1888)大判锦絵三枚続 足立区立郷土博物館藏

図12 楊洲周延《墨田花高貴ノ遊覧》明治21年(1888) 大判錦絵三枚続 足立区立郷土博物館蔵

咲き誇る隅田川の桜の下、画面中央には明治天皇、その視線の先には扇子を持つ皇后(後の昭憲皇太后)、そしてそのまわりには侍女たちが描かれています。

彼女たちが身にまとう、後ろの腰を膨らませヒップラインを強調した華やかなドレスは、ヨーロッパで大流行した「バッスル・スタイル」と呼ばれるものです。ヨーロッパから輸入されたこのファッションは、鹿鳴館時代に文明開化の世相の中でも明治の先端をいく洋装のドレスとして、上流階級の女性たちに好まれました。

このように美人画は、ただ鑑賞する絵画というだけではなく、流行ファッションの情報源としての役割も担っていたので、浮世絵美人画に写し取られた着物の柄や着こなし方を参考に、当時の女性たちは自分たちの装いを選んでいたのでしょうね。

浮世絵美人画をご覧になる際、そこに描かれた美人の装いに注目していただき、当時どのような着物が流行っていたのか、現代とどこが共通していて、どこが違うのか、といったことを考えながら鑑賞していただくのも楽しいかと思います。

フランステレビ局ARTE「歌川広重特集」に出演

畑江麻里さん

昨年5月末の妊娠初期、京都きもの市場さんの東京丸の内KITTEの催事にて、着物姿の写真を撮ってもらいました。

双子を妊娠しており、妊娠初期でもお腹が少し出ていましたが、カメラマンの方が目立たないように撮影してくださいました!

同じ着物を着て、フランステレビ局ARTEの歌川広重特集にも出演しましたよ。

ARTEの歌川広重特集に出演
ARTEの歌川広重特集に出演
ARTEの歌川広重特集に出演
ARTEの歌川広重特集に出演

この番組は、日本の風光明媚な景色と名所絵の第一人者・歌川広重が描いた浮世絵を特集したもので、私は江の島編・箱根編に出演し、それぞれ当時はどのような場所であったのか現地へ赴き、広重が描いた浮世絵の魅力を現在の場所と比較しながら説明しました。


「浮世絵きほんのき!」は今回で最終回。

全5回で書ききれなかったことも、まだまだたくさんあります!

またの機会に浮世絵の魅力をご紹介できればと思います!ありがとうございました!

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