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『香老舗 松栄堂』 専務取締役 畑元章さん【YouTube連動・インタビュー編】「元芸妓 紗月が聞く!京都、つなぐ世代」vol.1

『香老舗 松栄堂』 専務取締役 畑元章さん【YouTube連動・インタビュー編】「元芸妓 紗月が聞く!京都、つなぐ世代」vol.1

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元芸妓の紗月さんがMCを務める新スペシャル番組がスタート!古くから京都で商いを続ける老舗を訪れ、伝統の担い手として奮闘する方々にお話を伺います。初回は日本の香文化を継承してきた『香老舗 松栄堂』の専務取締役・畑元章さんの奮闘記です。

元芸妓・紗月さんの新連載!【YouTubeリンク】

794年から約1000年に渡り、日本の都として栄えた京都。その間に育まれた独自の文化や伝統は、今も耐えることなく街の中に息づいています。

そこには、いつの時代も“伝統文化の担い手”として切磋琢磨してきた人々の姿がありました。

MCとしてお話を伺う紗月さん
MCとしてお話を伺う紗月さん

この度、京都きもの市場の公式YouTubeチャンネルにて新たなスペシャル番組「紗月が聞く!京都、つなぐ世代」がスタートしました。

MCを務めるのは、2015年から2021年まで祇園甲部の人気芸妓として活躍した紗月さん。

引退後は花街や京都に根付く伝統文化の素晴らしさを伝えていきたいと語っていた紗月さんが、代々家業を受け継ぎ、また次の世代に引き継ぐべく奮闘されている方々に“老舗を守りつなぐお話”を伺います。
た。

本企画は月1でお届け予定!スペシャル番組のスタートと同時に「きものと」では、文章とたくさんの写真を掲載した連載を掲載いたします!

こちらでしか見られないオフショットも多数。四季折々の装いに身を包んだ紗月さんの着こなしも見どころのひとつです。

今回、紗月さんがお召しになったのは、細かな桜模様がモノトーンであらわされた京染めの小紋。間道模様のように表現された小桜模様の縦ラインが、すらりとした美しいシルエットを作り出しています。

お姉さんらしい小紋の装いは、一般の方も参考にしたいところ。

普段使いしやすい小紋と名古屋帯の組み合わせで軽やかな仕上がりに
普段使いしやすい小紋と名古屋帯の組み合わせで軽やかな仕上がりに
少しだけ赤色の柄が顔を出す、飛び絞りの帯揚げがアクセントに
少しだけ赤色の柄が顔を出す、飛び絞りの帯揚げがアクセントに

着物がシックなお色味のため、匂やかさは帯でプラス。無地感覚で使える淡いピンク色の帯には、全体に青海波模様が織りあわされています。

これから続いてゆく花のリレーを予感させる、紫のグラデーションが印象的な帯締めを合わせて。

新番組のMCを務める元芸妓の紗月さん

創業300年、お香の老舗「松栄堂」

松栄堂本社の看板

記念すべき第1回目に訪れたのは、京都・烏丸二条を上がったところに本店を構える『香老舗 松栄堂』。約300年前に京都で創業されて以来、お香の製造と販売に携わってきた、まさに“老舗”のメーカーです。

「松栄堂」専務取締役・畑元章さん
「松栄堂」専務取締役・畑元章さん

今回はそんな松栄堂で専務取締役を務める畑元章さんにお香の歴史と、家業を継ぐに至るまでのストーリーを伺いました。

「正しい記録は残っていませんが、口伝では、およそ300年ほど前に丹波篠山にいた者が縁あって京都に出てきて商いを始め、3代目から本格的にお香づくりをはじめたと言われています」

本店には香文化の情報発信拠点となるミュージアム「薫習館」が隣接する
本店には香文化の情報発信拠点となるミュージアム「薫習館」が隣接する

お香とは、木の皮や樹脂、植物の葉など様々な天然原料を調合してつくられる“自然からのおくりもの”。しかし、沈香、白檀、丁子といったほとんどの原材料は日本では採れず、それらは仏教とともにインドや中国大陸からシルクロードを通って伝来してきました。

そこではお香の貴重な原料が展示されているスペースも
そこではお香の貴重な原料が展示されているスペースも

そのうち、松栄堂が創業から現在まで扱ってきた原料はおよそ10種類ほど。ただ産地や採取時期によって、同じ香りの原料でも品質やにおいに変化があるようで……

「経験豊富な調合師がこれは酸っぱい、今回は甘味がしっかりしているという風にグレードで分けて、それをブレンドしていくので、基本的には10種類だけど実際の数はもっとたくさんあります」と畑さんは語ります。

様々な香りと出会える薫習館の「香りのさんぽ」コーナー

またお香といえども、お焼香やお線香のように宗教的な行事で使われることもあれば、お部屋のくつろぎの香りとして使用されたりと目的は様々。

鎌倉・室町時代には、香木の繊細な香りを鑑賞する「聞香(もんこう)」という方法が確立されました。

「政治の中心地であり、宗教的にもとてもレベルの高い土地だったことから、京都を中心に香文化が栄えてきたのだと思います」

まさにここでは色んな香りを“聞いて”、楽しむことができる

お香の香りが染みつく、職住一体の暮らし

取材風景

お父様から家業を受け継いだ畑さんの生活にも、生まれた時からお香は身近な存在でした。当時2.5階建ての京町屋に松栄堂の事務所と自宅があり、そこでオーナー家族と職人さんが一緒に生活していたそうです。

「それは現在のビルが建ってもほとんど変わりなく、子供の頃は従業員の方々と一緒にご飯を食べることもありました。小学校から帰ってきて事務所で『ただいま』って挨拶すると、みんなが『お茶飲んでいくか?お菓子食べるか?』と言ってくれたのを懐かしく思います」

また、家がお香を扱っているが故のこんなエピソードも。

幼少期のエピソードについて語る畑さん

「体にお香の香りが染みついているから、友人宅に遊びに行くと私が来たことがすぐ家の人にバレたり、逆に私の家に遊びに来た友人が自分の家に帰ると『畑くんちに行っていたやろ』と指摘されるということもよくありました(笑)」

畑さんの微笑ましい幼少期のエピソードを聞いて思わず笑顔に
畑さんの微笑ましい幼少期のエピソードを聞いて思わず笑顔に

親の仕事場と生活空間が一緒で、付き合いのあるお寺へのお参りにも頻繁に同行していた畑さん。そんな自分の置かれた環境が特別だと意識し始めたのは、20歳になってからのこと。

「好きなことをすればいい」というお父様の言葉が後押しとなり、理工系の大学に進んだ畑さんでしたが、卒業後に進む道については決めかねていました。

「その頃、自分を気遣って祖父や父の仕事を知っている方が『同じことをする必要はない』とアドバイスしてくれたんですが、それが却って家業を継ぐことを意識するきっかけになりました。今の自分に一体何ができるのか、家業を継いだ場合、従業員のみんなと一緒に仕事をしていけるのか。そんな焦りと不安がごちゃ混ぜになり、結果として人よりも長く大学に在籍することになりました」

300年続く看板を背負うには並々ならぬ覚悟が必要だった
300年続く看板を背負うには並々ならぬ覚悟が必要だった

結論が出ぬまま、卒業の時を迎えた畑さん。
自分の気持ちに区切りをつけるためにも、お父様と相談して松栄堂で一から勉強をさせてもらうことに。入社後は製造部門に配属され、まずはものづくりの根幹を学ぶことになりました。

「物を作って一日を終えるというのが自分の性に合っていたのか、とても楽しかったです。職場の人たちは私にも遠慮なく厳しく指導してくださいましたし、その時にメーカーの要である製造の現場を知れて良かったなと今でも思っています」

もちろん修行時代には苦労したことも多々あり、特に大変だったのは、お香の原料となる粉が入った約30キロの袋を持ち運ぶこと。華奢な体型だった畑さんには袋を担ぐのが難しく、引きずるように運んで袋を痛めてしまい、よく叱られてしまったそうです。

粉末状になったお香の原材料が入った袋はなんと約30キロ
粉末状になったお香の原材料が入った袋はなんと約30キロ

「腕で持つんやと先輩がアドバイスしてくれるんですが、自分にはそれがどうしてもできなくて、全身で袋を支えるから私のつなぎがいつも一番汚れていました」

一日中力仕事でクタクタになり、部屋に戻って倒れるように寝て、また起きてすぐ仕事に向かう……。そんな生活を3〜4年ほど送り、ようやく父親の跡を継ぐ決心ができたと語る畑さん。

薫習館も松栄堂の新たな挑戦。こちらでは天井から吊り下る箱に頭を入れると香りが楽しめる!
薫習館も松栄堂の新たな挑戦。こちらでは天井から吊り下る箱に頭を入れると香りが楽しめる!

「最終的には商品として形にするところまで勉強させてもらったので、工場全体を把握することができました。修行期間は大変でしたが、それですっきりと仕事と向き合うことができたのだと思います」

現在は専務取締役として、現12代目社長のお父様と共に親子で代々受け継がれてきた松栄堂の看板を背負っています。

次回はそんな畑さんに方法を教わり、聞香を体験!後編もぜひお楽しみに。

紗月さんファン必見!撮影オフショット

念入りにスタッフと打ち合わせを重ねる紗月さん
念入りにスタッフと打ち合わせを重ねる紗月さん
久しぶりにカメラの前に立つため、少し緊張気味
久しぶりにカメラの前に立つため、少し緊張気味
しかし、撮影が始まると持ち前の明るさで畑さんと打ち解け、笑顔が溢れます
しかし、撮影が始まると持ち前の明るさで畑さんと打ち解け、笑顔が溢れます
老舗の看板の前で
実は寒い日の撮影でしたが、それを感じさせないにこやかさ
松栄堂の本店にはお香を楽しむための様々なグッズが並んでいます
松栄堂の本店にはお香を楽しむための様々なグッズが並んでいます
今年の干支にちなんだ虎の香り袋も
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MCの紗月さんと「松栄堂」専務取締役・畑元章さん

文章/苫とり子

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