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100年の時を経た布とデザインの融合『紀[KI]- SIÈCLE』 “苧麻の絣”の古布から生まれた洋服ブランド

100年の時を経た布とデザインの融合『紀[KI]- SIÈCLE』 “苧麻の絣”の古布から生まれた洋服ブランド

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古い苧麻の絣の着物を収集し、布地へのリスペクトとともに自ら洗い、解いて洋服に仕立てたコレクション『紀[KI]- SIÈCLE』。美と粋を知り尽くした大人たちが集う新スポット『A LITTLE PLACE』にて、ブランドを立ち上げた宇佐見紀子さんのお話を伺いました。

2023.03.27

よみもの

美と粋を知り尽くした大人たちが集う、京都『A LITTLE PLACE』 ―千家十職 袋師・土田友湖家の軒下から

美を掬うギャラリーショップ『A LITTLE PLACE』

千家十職の職家、袋師・土田友湖家の仕事場の軒下に開かれた『A LITTLE PLACE』。

千家十職の職家、袋師・土田友湖家の仕事場の軒下に開かれた『A LITTLE PLACE』。

京都とフランスの感性が融合した『A LITTLE PLACE(ア リトル プレイス)』。

ここは……

庭師でありアンティークと石造美術品コレクターでもある成井大甫(なるいだいすけ)さんと、30年に渡りパリを拠点とし、世界各国の衣食住全般の買い付けに携わってきた宇佐見紀子さんのふたりが京都に場を開いたギャラリーショップです。

看板はなく、店名を記した白いのれんがかかったら、オープンの合図。初めて足を踏み入れるには、少しばかり勇気のいる店構えかもしれません。

庭師、アンティークと石造美術品コレクターとして、京都を拠点に東京や海外でも活動する成井大甫さん

庭師、アンティークと石造美術品コレクターとして、京都を拠点に東京や海外でも活動する成井大甫さん

成井さん:お店なのか、ギャラリーなのか……うーん、実験の場かな。僕たちふたりがスタートさせたけど、主軸ではない。おもしろい人たちが集まる場になればいいと思っています。僕らがつくったものを、喜んでくれはる人が来てくれはったら、それがいちばん、うれしいなあ。

空間のところどころに、成井さんの見立てた骨董の花器が配されている。

空間のところどころに、成井さんの見立てた骨董の花器が配されている。

骨董市で魅かれた苧麻の絣

『A LITTLE PLACE』のはじまりにまるで導かれるように、2022年の春、京都に移住した宇佐見紀子さんは、アパレル企業のパリ支局でバイイングなどを手掛けた後、日本に帰国。

『紀[KI]- SIÈCLE』を立ち上げ、ものづくりをスタートしました。

30年に渡り、パリを拠点として世界各国の衣食住全般の買い付けに携わってきた宇佐見紀子さん。

30年に渡り、パリを拠点として世界各国の衣食住全般の買い付けに携わってきた宇佐見紀子さん

宇佐見さん:6年くらい前から、京都にはよく訪れていたんです。

――その頃から通いはじめた東寺の骨董市やガラクタ市などでひとめ惚れしたのが、「苧麻の絣」。

宇佐美さんが骨董市で出会って惚れ込んだ、苧麻の白絣。

宇佐見さんが骨董市で出会って惚れ込んだ、苧麻の白絣。

宇佐見さん:着物のことも何もわからず、でも、足を運ぶたびにやっぱり同じタイプのこの上布で作られた着物が気になって。

「好きだな」というささやかな思いから少しずつ買いはじめたんですが、そこではじめて、これが苧麻(ちょま)という素材で、自然布で、コットンのように簡単に糸になるわけでなく、大変な時間をかけてつくっていくものだということ、そして大変な手間をかけて絣模様の布地にするということを知るようになりました。

――同じ「麻」でも、パリのリネンとは別もの。

シルクもコットンも触るとあたたかいけれど、上布はひんやりと冷たい。リネンは洗うとトロッと柔らかくなるけれど、苧麻はそうならない。自分で洗えるので手入れも楽、ほかの素材にはない独特のハリ感があるー

宇佐見さん:苧麻の麻織物はアジア中心の文化で、ヨーロッパでは見たことがありません。この日本の美しい手仕事を、パリの友達に見せたい、伝えたい!という思いで苧麻の絣の古布を買い集めはじめました。

上布は夏の着物。同じ「麻」でも、苧麻にはフランスリネンとは違う魅力がある。

上布は夏の着物。同じ「麻」でも、苧麻にはフランスリネンとは違う魅力がある。

――バイヤーとしての宇佐見さんのアンテナを、これほどまでに大きく震わせた上布ですが、ご存知のように、洋服と違って、着物にはタグがついていません。売っている人が、能登上布だとか宮古上布だとか言ってくれることを知識として蓄積しながら覚えてきた、といいます。

宇佐見さん:なかには経糸(たていと)がコットンやシルクのものもあるよと教えてもらったり、苧麻だと言われたのにコットン100%のものがあったりして(笑)。今ようやく自分の知識が追いついて、納得のいく買い付けが出来るようになりましたが、知れば知るほどに奥深い世界であるのも身にしみています。

一着のシャツやコートの中に、3~4種類の反物を使用している。

一着のシャツやコートの中に、3~4種類の反物を使用している

――このショップのオープンが決まってからは、なんと400~500枚もの苧麻の絣の着物を収集したといいます。

宇佐見さん:1枚解くのに3時間ぐらいかかるんですけど、解いているうちにも縫った人の気持ちが伝わってくるんです。当て布に違う柄の苧麻が使われていると、ラッキーって思う瞬間があったりしてね。

日本とフランスの100年が出会う

上布の着物を解き生み出されるブランド

日本で100年の時間を経た手織りの苧麻の絣布を解き、フランスの100年前の服のシルエットに重ねて生み出されるブランド『紀[KI]- SIÈCLE』。

SIÈCLE(スィエクル)はセンチュリー、「世紀」を表すフランス語です。

宇佐見さん:私の名前「紀子」なんですけど、あ、そういえば糸篇だなぁって。それに、世紀の紀でもある。それで、サークル、センチュリーという意味を込めてブランド名をつけました。

宇佐美さん

――それまで宇佐見さんが買い集めていたのはフランスの1900~1940年ごろの洋服。クラシックだけれど、ヴィンテージとして今も着られる服たち。主に収集するのは、ワークウェアやおじいさんシャツと呼ばれるものです。

『紀[KI]- SIÈCLE』のシャツ。

『紀[KI]- SIÈCLE』のシャツ

宇佐見さん私がみつけた100年前の着物を解いて、私の気に入っている100年前のフランスのワークシャツなど古着の型にトレースする、というやり方です。手に入れた上布はそれぞれ柄も違うし、傷やシミ、色褪せなどがある部分は、味としてあえて使うか使わないかを判断しています。できあがった服は、型は同じでも柄合わせが違うので、すべてが一点ものですね。

100年前の着物を解いて、100年前のフランスの古着の形に。『紀[KI]- SIÈCLE』のシャツ。

100年前の着物を解いて、100年前のフランスの古着の形に

――一着のシャツやコートの中に、時間を超えた3~4種類の反物の出会いがある。

自然光でよく見るとわかる程度の、淡く変色した部分のグラデーションには、愛おしさすらある。

『紀[KI]- SIÈCLE』のコート。すべて1点もの。

『紀[KI]- SIÈCLE』のコート。すべて1点もの。

宇佐見さん:100年前の苧麻の絣、という特別な素材があってこそのブランドです。上布は夏の着物ですから「秋冬どうするんだ」って自分でもつっこんでみたんですけど……これでいくんだ、と決めました。

生地のアップ

――男性は「モード系の若い方と、シニアのジェントルマンが気に入ってくださる」という傾向もなかなか興味深い。しっかりと準備が整ったら、パリの仲間たちにも見てもらいたい、と宇佐見さん。

宇佐見さんただ古いだけでなく、今のライフスタイルにフィットする日本の古物と一緒に持って行けたらいいですね。でも、自己満足ではない形できちんとやりたい。

『紀[KI]- SIÈCLE』新作の日傘。夏が待ち遠しくなるほど素敵。

『紀[KI]- SIÈCLE』新作の日傘。夏が待ち遠しくなるほどステキ

“ちょっとした” はじまりの場所

『紀[KI]- SIÈCLE』は、まるで必然のような、このすばらしい町家とのご縁から始まった、宇佐見さんの新しい挑戦。

まさにたくさんの「ア リトル=小さなこと」が重なって、彼女の背中を押したように思えます。

宇佐美さん

宇佐見さん:“ちょっとしたところで” “ちょっとしたことを” 始める、というときに英語で表すと、a little place、little thingsというんです。この場所が、私だけでなく、みんながひとりひとり、リトルなコンセプトを持ったリトルズのスタートの場みたいになればいいな、と思います。

MAISON HERMÈSで活躍してきたロラン・ステファンによる『ACCALMIE by Laurent STEPHAN』の革製品も扱う。

MAISON HERMÈSで活躍してきたロラン・ステファンによる『ACCALMIE by Laurent STEPHAN』の革製品も扱う

運命のようなバトンを継いだ京の町家を守りながら

かつて、夏目漱石や富岡鉄斎は、西川一草亭と、ここで何を語り合ったのでしょう……

そんなイメージからわき上がってくるような場づくり。

花いけ、職人さんのお話し会、三味線の会、お茶会……畳の小間を使った取り組みも、少しずつ。運命のようなバトンを継いだ京の町家を守りながら、現代の文化サロン、表現し続ける場として何ができるだろう。

成井さんと宇佐見さんの二人三脚は、新たな100年先の未来に向かって、小さな歩みが始まったばかりです。

成井大甫さんと宇佐見紀子さん。京都『A LITTLE PLACE』ののれんの前で。

成井大甫さんと宇佐見紀子さん。京都『A LITTLE PLACE』ののれんの前で

撮影/スタジオヒサフジ

しをりの会

しをりの会

提供:a little place

しをりとは山野辺で人々が道に迷わぬよう、手折った枝を道しるべの代わりにするのが始まりだそうです。
しをりの会は花人 平間磨理夫氏と
A LITTLE PLACEが植物を通じて改めて自然との向き合い方を考え、伝える現代のサロンです。

開催月は2日間、朝に山からいただいてきた植物と骨董の花入れを合わせる自由なスタイルが人気で日本各地から参加いただいております。
次回は4月26日(水)-27(木)となります。
ご参加お待ちしております。

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