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人間国宝・野村万作氏の狂言に捧げた90年『六つの顔』 「きもの de シネマ」vol.68

人間国宝・野村万作氏の狂言に捧げた90年『六つの顔』 「きもの de シネマ」vol.68

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銀幕に登場する数々の着物たちは、着こなしやコーディネートの良きお手本。せっかくなら、歌舞伎やコンサートみたいに映画だってキモノで愉しみませんか。本日公開の『六つの顔』は、狂言師・野村万作氏の磨き上げた『川上』と彼の人生に迫るドキュメンタリー映画。90年をかけて万作氏が到達した芸の境地が、ここにあります。

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芸歴90年、人間国宝・野村万作氏の至芸

まだまだ残暑が厳しくとも、五山の送り火が終えた京都には、秋めいた風が吹き始めました。
ごきげんよう、椿屋です。

2024年8月から1年間密着した大蔵流狂言師・茂山千五郎家の月々をご紹介する連載の終了間近、茂山逸平しげやまいっぺいさんがこんなポストをされました。

2025.07.28

まなぶ

大蔵流狂言師・茂山千五郎家の365日

これは、観なければなりますまい。

©2025万作の会

©2025万作の会

一言でいえば、この作品は狂言『川上』の記録です。

2024年6月22日に宝生能楽堂で行われた「野村万作師文化勲章受章記念狂言会~狂言、舞歌と講演~」を主軸に、万作氏の過去と現在の姿をスクリーンに刻み込みます。

メガホンを託されたのは、『のぼうの城』(2012年/東宝、アスミック・エース)で野村萬斎さんとタッグを組んだ犬童一心監督。

©2025万作の会

©2025万作の会

劇中、万作氏が過去を振り返るなかで心に浮かんだ「六つの顔」をアニメーションで表現し、ナレーションをオダギリジョーさんが務めるなど、豊かな映像表現で観客を魅了します。

モノクロームで映し出される「現在」、アニメーションで立ち上がる「過去」、そしてカラーで眼前に迫る狂言『川上』で織り成される美しいドキュメンタリー映画です。

2025.06.06

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禁断の歌舞伎世界へと誘う、圧巻の一代記『国宝』 「きもの de シネマ」vol.66

夫婦愛を描く珠玉の狂言『川上』の世界観

650年以上にわたって、市井に生きる人々の喜怒哀楽を笑いと共に表現し、観る者の心を魅了し続けている「狂言」。

3歳で初舞台を踏んでから、いまなお現役で舞台に立ち続ける人間国宝の狂言師・野村万作氏が、長い年月をかけて磨き上げてきた演目が、『川上』なのです。

©2025万作の会

©2025万作の会

1956年に25歳で初上演し、以来、コミカルでユーモラスな笑いを本旨とする狂言においてシリアスかつ写実的な異色作『川上』に向き合ってきた万作氏は言います。

「面白くて楽しい狂言もいいけれど、私は人と人との心の交流、あるいは優しさ、平和、そうしたものを表現した狂言が大変好きで、大事にしなくてはいけないものだと思っています。繰り返し演じた役も、歳を経て見える世界が変わっていく。93歳のいま、思う『川上』を演じたい」と。

©2025万作の会

©2025万作の会

奈良県の川上村が舞台となった狂言『川上』は、和泉流のみに伝承される演目(ですので、冒頭でふれた茂山家で演じられることはありません)。

願いをかなえてくれるという川上の地蔵に参詣した盲目の男が、その甲斐あって視力を得ます。しかし、男の夢に現れた地蔵は、視力と引き換えに妻と離別せよと告げたのです。

視力か、寄り添い尽くしてくれた妻か――。男は、究極の選択を迫られます。

現代にも通ずるテーマ性をもつ、夫婦愛と宿命を深く問う物語です。

©2025万作の会

©2025万作の会
劇中、物語の舞台である奈良の川上村・金剛寺の荘厳な原風景も登場する

型から脱した自然体で物語の人物を生きる

本来、物事を良くしたり無償で願いを叶えてくれたりする神や仏のお告げが夫婦関係を破壊させる――それこそが、『川上』の見どころのひとつ。

だからこそ、万作氏はお告げに勝る夫婦の絆の強さを大事にしながら演じていると言います。

©2025万作の会

©2025万作の会

加えて、万作氏が大切にしているのは、演じている「いま」

「例えば、父の万蔵に教わった当時は、最後の場面で男が妻に引きずられるように、いかにも悲劇のように手を引っ張られて入りました。けれども、いまは男と女が共に手を携えて、一緒に歩んで幕へ入っていくようにしています。そういう風にいささか自分流に演出を変えてきたところもあって、いまの時代に演じる夫婦愛のひとつの形は、そういうものであろうと思っています」

プレスリリースInterviewより

©2025万作の会

©2025万作の会

妻役を演じたのは、息子の萬斎さん。

「きものと」読者の目を奪うのは、美しい装束です。華やかな地紋と爽やかな地色の着物に施された雪輪文様。中には、四季の草花が描かれています。

合わせるのはマリーゴールドのような色味の帯で、八掛の薄い橙色とさりげなくリンクしていることから、ラストシーンの橋掛りを並んで歩いていく後ろ姿が粋に映し出されているのを、どうぞお見逃しなく。

©2025万作の会

©2025万作の会

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