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浴衣が子どもたちの“やる気スイッチ”に 尾上博美先生が教える5歳児クラスの日本舞踊(後編)

浴衣が子どもたちの“やる気スイッチ”に 尾上博美先生が教える5歳児クラスの日本舞踊(後編)

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『若葉インターナショナル幼保園 行徳園』の子どもたちに日本舞踊や浴衣の着付けを教えている尾上博美先生。日本の文化に触れ、子どもたちにどのような変化があったのでしょう。

2024.02.05

まなぶ

子どもたちのポテンシャルが光り出す! 尾上博美先生が教える5歳児クラスの日本舞踊(前編)

子どもたちに現れた変化とは?

子どもたちに舞踊を教える尾上先生

株式会社ニュー・クックリーフが運営する千葉県認可保育園『若葉インターナショナル幼保園 行徳園』で月に2度、年長組の子どもたちに日本舞踊を教えている尾上博美先生

前編では実際の稽古風景をご覧いただきましたが、子どもたちの自分で浴衣を着付ける姿や踊りに取り組む真剣な眼差しをみて、驚かれた方も多いことと思います。

自分で浴衣を着る子どもたち

そもそも、この取り組みはどのように始まったのでしょうか

また、舞踊や浴衣など、日本の文化に触れたことで子どもたちにはどんな変化が現れたのでしょうか

後編では尾上先生と総括園長の渡邉文子先生、そして舞踊の時間に尾上先生をサポートされているたいこ先生にお話を伺いました。

浴衣が子どもたちの“やる気スイッチ”に

(左から)尾上博美先生、統括園長の渡邉文子さん、たえこ先生

(左から)尾上博美先生、総括園長の渡邉文子先生、主任のたいこ先生

尾上先生がこの園で子どもたちに日本舞踊を教え始めたのは、今から3年前のこと。

人気アニメ『鬼滅の刃』の踊りを作っていったところ、子どもたちは大喜びで踊ってくれたといいます。そんなきっかけがあり、尾上先生は年長組の子どもたちに毎年、発表会で披露する舞踊を教えてきました

日本舞踊を踊る子どもたちの様子

西洋のダンスともまた異なり、優美な動きや繊細な表現が必要とされる日本舞踊。大人でも習得するまでに多くの時間を要しますが、子どもたちに教える難しさはなかったのでしょうか

「1年目は古典舞踊にチャレンジしたものの、それは難しかった」という尾上先生。

そもそも日本舞踊の音楽には音がツーンと引き延ばされる“産字”があり、そこに日本のうすらぼんやりと移ろっていく美が現れているそう。

ですが、「1・2・3・4・」と拍をとることができないため、子どもたちはどこで動き出していいか分からず戸惑っていたといいます。

それぞれの“梅の精”を表現している年長組の女の子たち

それぞれの”梅の姫様”を表現している年長組の女の子たち

そんな反省を生かし、2年目からはもう少し拍の取りやすい楽曲を使った創作舞踊を教えるに至りました。

また、モチーフを伝えることで子どもたちのやる気もアップするそう。例えば、今年の年長組の女の子たちは”梅の姫様”をイメージした踊りを踊る予定です。

メリハリを持って子どもたちを指導しているたえ子先生

メリハリをつけて子どもたちを指導しているたい子先生

女の子たちには変身願望があるので、モチーフがあるだけで喜ぶんですよね。やっぱりそれぞれ自分の思うイメージがあるみたいで、弾ける笑顔ではなく”おしとやか”な笑顔を作ってみたり。すっごく可愛いんですよ」と、たいこ先生。

男の子たちは刀を持って踊るのが憧れとのこと

男の子たちは刀を持って踊るのが憧れとのこと

また、モチベーションの一つになっているのが、発表会で着る振袖

子どもたちは毎年発表会での年長さんの振袖姿を見ているので、自分もあの振袖を着たい!という憧れがあるのだそう。「私はピンクの着物がいい!」「ねーねが着てた白いのが着たい……」と早い段階から希望を伝えてくる子もいるそうです。

振袖を着た子どもたちは鏡を離さないそう

2022年から始まった「浴衣DAY」。

月に一度浴衣で過ごす時間を設けているのは、「子どもたちに日本の文化に触れてほしい」という願いからでした。

一般的には、「まだ5歳の子どもが浴衣を一人で着れるものなの?」と疑問に思うところ。しかし、「難しいことは何もない」と尾上先生はいいます

子どもたちに着付けを教える尾上先生

子どもって何でも果敢に挑戦するんですよね。子どもにも自我があるので強制的ではなく『こっちだよ~』という風に”呼び水”のように導くと、こちらに身を委ねて覚えることに集中してくれるんです。帯の締め方に関してもぎゅっと締め付けるのではなく、楽に閉じるイメージを子どもたちも覚えていっている気がします」

最初は「右」と「左」が分からない子も、浴衣を着ることで確実に覚えることができるそう。

また、子どもたちにとっての難関「リボン結び」も、浴衣を通してできるようになる子が続出!クッキングの時間に後ろでエプロンの紐を結ばなければいけない時にも、スッとお友達の後ろに回って結んであげる子もいるそうです。

独自の取り組みである浴衣DAYについて語る渡邉さん

日本舞踊の時間はいつもお昼寝の後。最初は眠気まなこの子どもたちも、浴衣を着た瞬間に顔つきが変わるのだとか。

大人でも着物を着ると背筋が伸びるように、浴衣がある種、子どもたちの”やる気スイッチ”になっているのですね!

着物や浴衣を身近な存在に

そしてなんと、「子どもたちの前に、まずは大人が着れなきゃダメだよね」ということで、尾上先生から着付けを習っているという先生たち。そのうち、先生方ご自身もどんどん和装に興味を持ち始めたといいます。

渡邉先生曰く、子どもたちは先生たちの姿をよく見ているそう。

子どもたちも注目するたえこ先生の帯留め

子どもたちも注目するたいこ先生の帯留め

たいこ先生がたまたま帯留めをつけていない時には「いつも先生がしているキラキラがないよ!」とすぐに気づいたり、尾上先生の着物の色にも敏感で「最近ピンクのお着物きてないね」という風に言われることもあるのです。

子どもの頃から、着物や浴衣が身近な存在であること――尾上先生はそこに、この取り組みの意義を感じています。

子どものうちから和装に触れる意義について語る尾上先生

「もちろん今は子ども用の浴衣なのでおはしょりをしなくて良いようになっているんですが、それでも大人になった時に『私、5歳児の頃に一人で浴衣着れたよね』という確かな自信に繋がると思うんです。そうしたら、自ずと着物や浴衣に抵抗感を持たずに済むし、また着てみようかなという気持ちになりますよね」(尾上先生)

浴衣を風呂敷に包むのも貴重な体験です

浴衣や帯をたたむのも貴重な体験です

あるとき、尾上先生がレッスンの後に葬儀があり、悩みながら喪服で園を訪れた時にも、

「これはね、お葬式の時に着る着物なんだよ」

と説明したら、なんとなくではあるものの理解を示してくれたそう。そんな風に子どもたちは、舞踊や浴衣から派生してさまざまな文化や風習を学んでいます

楽しかった記憶が原体験になってほしい

この取り組みを始めてから、思わず笑顔になってしまう思い出がたくさん

この園で子どもたちに日本舞踊を教え始めて3年。尾上先生には、強く記憶に刻まれている光景があります。

とても大人しく、4歳児の時の発表会では泣き出してしまった女の子がいたそう。

しかし、年長になった瞬間、その子は殻が剥けたように成長発表会では見事”センター”を飾り、しなやかで美しい踊りを披露したといいます。

日本舞踊を初めて才能を開花させる子どもたちも

「自分の本番の前に男の子たちの発表を見ている時も、まるでローザンヌ国際バレエコンクールに出る幕前のバレリーナみたいな涼やかな目をしていて、今思い出しても鳥肌が立ちます

こう当時を振り返る尾上先生。

こういった日本の文化を保育の現場に取り入れていくことに関して、どうお考えになっているのか……

総括園長である渡邉先生は、「子どもたちに、できる限り、いろんなことに触れさせてあげたい」といいます。

様々なプログラムを保育に取り入れている理由について明かす渡邉さん

何か一つでも大人になった時に「あの時、楽しかったからまたやってみようかな」と思えるような原体験になってくれたら……そんな風に願っているそうです。

大事なのは、何よりも子どもたちが楽しめること。そのためにも、先生たちは日々一丸となって子どもたちのやる気を育てています。

子どもたちが楽しめるように日本舞踊を教えている尾上先生

子どもたちの真剣な姿に胸が熱くなるような1日となった今回の取材。

快く迎え入れてくださった保育園の先生方、尾上博美先生、本当にありがとうございました!

撮影/TADEAI 久野藍

2020.06.17

インタビュー

イチゴイニシアチブ主宰 市ケ坪さゆりさん

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