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後ろ姿の美意識 「のんびり楽しむイラスト服飾史」vol.1

後ろ姿の美意識 「のんびり楽しむイラスト服飾史」vol.1

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「見返り美人」どころじゃなくて、まるで「後ろ姿を褒められてこそ本物の美人!」と言わんばかり。奈良時代以降全く女性のファッションに登場しなくなっていたアクセサリーも、大きく複雑な形状になっていく髷を支え飾るための「かんざし」や「櫛」が、それはそれはすばらしい職人技で作り出されていきます。

こんにちは、tomekkoです。

4月からは連載の趣向を変えて、着物や日本文化の歴史、価値観の変遷などについて、あまり肩肘張らずに個人的な考えを書いていきたいと思います。

着物は好きだけど日本史には興味がないな〜という方にも、おもしろいと思っていただけるような記事を目指しますよ〜!

第一回目は、「後ろ姿の美意識」について。

これね、日本特有の価値観なんじゃないかな?と思うんです(世界中調べたわけではないけれど…)。

後ろ姿の美意識

現代ではあたりまえのように身につけているイヤリングやネックレスなど、「顔まわりを飾るアクセサリー」が日本では平安期以降ほとんど流行らなかったこと。

平安時代なら、立てば床に届くほどの長い黒髪。
江戸時代には、髷がどんどん複雑に進化していく日本髪。そして大きく背中に存在感を放つ帯結びの発達。

なんだか日本の、特に女性の美意識って「後ろ姿が映えることが重要!!」って感じ、しませんか?

これ、なぜなのでしょう…?

私は日本史専攻だった大学生時代に服飾文化史を研究していて、政治経済の発達や進化に合わせて女性たちの立場が変わっていったこと、そして求められる在り方に応じて服装にも変化が起きていったことはわかりました。

そこから、この独特な美意識の根底にある価値観を探ってみたいと思います。

日本の女性たちが政治の表舞台から姿を消していくのは、平安時代に入ってからです。

生活様式や儀式の進め方が唐から輸入した立礼式(屋外で立って行う)から雨が多い日本の気候に合わせた座礼式(屋内で座って行う)に変わっていくとともに、政治運営は男性中心に。

特に高貴な女性は人前に出なくなっていきます。

奈良時代から平安時代への変遷

日常生活の多くを座って過ごすのにふさわしい服装に進化していくとともに、お化粧や顔まわりを彩るアクセサリーよりも、衣の裾の色彩センスや、長く伸ばした髪の豊かさや艶にこだわりを持つようになっていく価値観の変化、おもしろいですよね〜!

しかし武家が台頭し女性も再び表舞台に出て来るようになると、後ろ姿へのこだわりは薄れていきます。

下着だった小袖が表着として発達し、衣全体に柄を描き出したり、下着の襟に豪華な生地をつかって顔まわりを華やかにするようなファッションも楽しむようになるんです。

髪型も庶民はどんどん高く結い上げたりカラフルな組紐で飾ったり、ロザリオなどの舶来品を身に付けたり…

安土桃山時代から江戸時代へ

「内にこもるか外に出て行くか」でファッションの嗜好が変わっていくというのがわかりやすいですね。

そして戦国時代を経て平和になった江戸時代、ファッションは目覚ましい発展を遂げます。

ここでまた不思議で興味深いのは、江戸時代には女性も顔を出して外出できるんですよ。それでもどんどん帯も髪型も後ろへ、後ろへ…

「見返り美人」どころじゃなくて、まるで「後ろ姿を褒められてこそ本物の美人!」と言わんばかり。

奈良時代以降全く女性のファッションに登場しなくなっていたアクセサリーも、大きく複雑な形状になっていく髷を支え飾るための「かんざし」や「櫛」が、それはそれはすばらしい職人技で作り出されていきます。

どうしてなんでしょう?

帯は、当初、適当な紐で括るだけだったのがより華やかさを出すためにどんどん太く重いものになっていった結果、前結びでは日常生活に支障をきたすようになったことが理由だと思われます。

実際、江戸時代中期以降、帯を前結びにしているのは、遊女や裕福な高齢者ぐらいですね。

そして髪型は、つと(関東では「たぼ」)が関係あるのではないかと思っています。

どうしても重みで落ちてきてしまう後ろ髪の膨らみをあえてデザインとして利用し、バランスをとって髷が後ろに大きく張り出していったのかな、と。

日本髪についての考察

これは私の憶測ですので、いつか結髪師さんにお話しをうかがってみたいところです。

こうして見ると、平安時代とは違い実利的な側面でできあがっていったような江戸時代の後ろ姿文化ですが、実はとても日本人らしい価値観があることに気がつきました。

後ろ姿というのは、鏡で見ないかぎり自分では見えません。

顔周りや胸元を飾るファッションは当然自分の目で見ることができますよね。
ネイルをしたことがある方ならわかると思いますが、綺麗に仕上がった手元が目に入るたびに気分が上がりませんか?

ファッションって、自己満足上等、綺麗になった自分を愛でる部分があると思うんです。

でも後ろ姿って、主に見るのは他人です。
日本女性のファッションは、常に他人の視線を意識しているのではないでしょうか?

「他人の目を気にする」というのは日本人の悪いところとして言及されることが多いですが、単一民族で島国という独特な環境で、周囲の人たちと協調しながらやっていく中では必要不可欠な感覚だったのだろうと思います。

この価値観は現代の着物の約束事にもよくあらわれている部分なので、次回詳しく考察してみたいと思います!

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