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終戦80年、長崎に想い馳せる夏『長崎―閃光の影で―』『遠い山なみの光』 「きもの de シネマ」vol.67

終戦80年、長崎に想い馳せる夏『長崎―閃光の影で―』『遠い山なみの光』 「きもの de シネマ」vol.67

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銀幕に登場する数々の着物たちは、着こなしやコーディネートの良きお手本。せっかくなら、歌舞伎やコンサートみたいに映画だってキモノで愉しみませんか。今回は長崎を舞台にした戦争にまつわる映画を2本まとめてご紹介します。

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2025.06.06

よみもの

禁断の歌舞伎世界へと誘う、圧巻の一代記『国宝』 「きもの de シネマ」vol.66

看護学生として戦った少女たちの物語

ごきげんよう、椿屋です。

2025年は、終戦80年の節目の年。そのため今夏は邦画洋画を問わず、終戦記念日となる8月15日公開『雪風 YUKIKAZE』(ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/バンダイナムコフィルムワークス)を筆頭に、ドキュメンタリーも含め20~30本の“戦争もの”が公開となります。

そんな中、わたくしが注目したのは8月9日に原爆投下された長崎を舞台とした2作品。

1本目は、7月25日長崎先行公開後、8月1日に全国公開する『長崎―閃光の影で―』です

©2025「長崎―閃光の影で―」製作委員会

©2025「長崎―閃光の影で―」製作委員会

原案となったのは、原爆投下直後の長崎で若き看護学生らが奔走したことを記録した日本赤十字社の看護師たちによる証言集『閃光の影でー原爆被害者救護赤十字看護婦の手記―』。この本に記された体験をもとに脚色を加えつつ、看護学生だった少女たちの視線から原爆投下という悲劇を描いた物語です。

©2025「長崎―閃光の影で―」製作委員会

©2025「長崎―閃光の影で―」製作委員会

混乱する医療現場において、薬品や器具もままならない状況下で、命と向き合い続けた一か月に及ぶ救護活動の日々をスクリーンに刻み込んだ本作。

家族や友人に囲まれ、夢と希望を胸に看護師を志した少女たちが、たった一発の見たことのない爆弾で青春を奪われながらも、未来をあきらめなかった姿を、まざまざと映し出します。

©2025「長崎―閃光の影で―」製作委員会

©2025「長崎―閃光の影で―」製作委員会

長崎ゆかりの人々が紡ぐ平和への祈り

見どころは、長崎原爆投下までの24時間の家族を描いた名作『TOMORROW 明日』(1988年/ヘラルド・エース、日本ヘラルド映画)で、三姉妹の次女・三浦ヤエを演じた南果歩さんが、30年以上の時を経て、再び重要な役どころで長崎を舞台とする物語に出演されていること。

原爆遺児たちを引き取って育てる南原令子に扮する南さんの慈愛に満ちた表情と真摯な言葉こそが、この物語の最大の救いです。

©2025「長崎―閃光の影で―」製作委員会

©2025「長崎―閃光の影で―」製作委員会

加えて、原案となった手記に体験を寄せた元看護学生のひとりであり山下フジヱさんが特別出演されています。また、その山下さんの想いを語りとして体現したのは、長崎出身で10歳のときに自宅で被爆した経験をもつ美輪明宏さん。

あの独特な声で、観る者を一気に1945年へと連れていってくれます。

©2025「長崎―閃光の影で―」製作委員会

©2025「長崎―閃光の影で―」製作委員会

さらには、主題歌「クスノキー閃光の影でー」のプロデュース・ディレクションを、長崎出身の福山雅治さんが担当されています。

爆心地から800メートルの地点で被爆し、一時は枯死寸前となったものの、驚異の生命力でいまなお逞しく命をつなぐ山王神社の被爆クスノキを題材とした2014年発表の自身の楽曲をアレンジ。

3人の少女役を担ったフレッシュな女優たちが歌唱する特別バージョンを、ぜひ劇場でお聴きください。

©2025「長崎―閃光の影で―」製作委員会

©2025「長崎―閃光の影で―」製作委員会

女たちが吐いた“嘘”から始まる物語

続く2本目は、1950年代の長崎と1980年代のイギリスを舞台とするヒューマンミステリー『遠い山なみの光』です。

©2025 A Pale View of Hills Film Partners

©2025 A Pale View of Hills Film Partners

2017年にノーベル文学賞を受賞し、映画化された『日の名残り』『私を離さないで』などでも知られる作家カズオ・イシグロ氏の長編小説デビュー作品が原作となっている本作。自身の出生地である長崎を舞台として繰り広げられるのは、時代と場所を超えて交錯する記憶の秘密を紐解く物語です。

「第二次世界大戦の惨禍と原爆投下後の、急激に変化していく日本に生きた人々の、憧れ、希望、そして恐怖を描いています」

と、イシグロ氏は言います。

作家を目指す娘・ニキ(カミラ・アイコ)に乞われ、悦子(吉田羊)は戦後間もないナガサキでの思い出を語り始めます。それは、佐知子(二階堂ふみ)という魅惑的な女性と彼女の幼い娘(鈴木碧桜)と過ごしたひと夏の記憶でした。

©2025 A Pale View of Hills Film Partners

©2025 A Pale View of Hills Film Partners

若かりし頃の悦子を演じるのは、広瀬すずさん。彼女のキャスティングについて、原作者であるイシグロ氏は「国際的な舞台において今最もエキサイティングな若手俳優の一人」と大絶賛されたといいます。

時代を映し出すために欠かせない衣裳

その広瀬さんこそが、我らが着物沼の民の欲望を満たしてくれます!

2025.03.03

よみもの

女優に扮する広瀬すずの衣裳裏話『ゆきてかへらぬ』 「きもの de シネマ」vol.60

悦子が戦前に勤めていた小学校の元校長だった義父の緒方誠二(三浦友和)が訳あって元教え子を訪ねる際、同行するのに選んだ藍色の夏着物の着こなしはお見事のひと言!

©2025 A Pale View of Hills Film Partners

©2025 A Pale View of Hills Film Partners

日傘を差し、上品なヘアスタイル。なのに、足元は裸足で下駄。カラフルな帯を締めて、臙脂色の帯締めを合わせた小粋なコーディネートです。妊娠中とは思えない軽やかな佇まい。その装いは、驚くほど物語の世界観を体現していました。

©2025 A Pale View of Hills Film Partners

©2025 A Pale View of Hills Film Partners

ちなみに、1950年代の長崎を知る人たちに取材をして、その頃のファッションや生活スタイルについてリサーチを重ねた衣裳チームが、ときには雑誌『装苑』(文化出版局)に掲載されていた型紙から洋服を縫うなど、細やかに設計された衣裳や小道具が当時の暮らしをそのまま浮き彫りにしているディテールを、どうかお見逃しなく。

©2025 A Pale View of Hills Film Partners

©2025 A Pale View of Hills Film Partners

イギリスパートにご出演の吉田羊さんの着姿を拝見することが叶わず、残念至極ではございますが……。そこは、夫役の松下洸平さんと義父役の三浦友和さんのラフな寝間着(浴衣)姿で欲を満たすことといたしましょう。

2025.01.02

インタビュー

「対話」を通して分断を超えたい― 映画作家 河瀨直美さん(前編)

2025.07.05

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