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メディア王・蔦屋重三郎の武器は、”今より半歩先のトレンド”!「知ってた?べらぼうなお江戸話」vol.1

メディア王・蔦屋重三郎の武器は、”今より半歩先のトレンド”!「知ってた?べらぼうなお江戸話」vol.1

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今回から蔦重とその身近な人々にフォーカスしながら、この時代の価値観や社会、文化を知っていく連載をスタートします!

まなぶ

源氏物語の女君がきものを着たなら

新連載のテーマは蔦重と江戸の文化

こんにちは。tomekkoです。

「きものと」では、着物と子育て(「3兄弟母、時々きもの」)、服飾史のこと(「のんびり楽しむイラスト服飾史」)、古典と着物(「源氏物語の女君がきものを着たなら」)……と、ありがたいことにその時々の関心ごとに合わせてさまざまな連載をさせていただいています。

まなぶ

3兄弟母、時々きもの

2025.07.06

まなぶ

のんびり楽しむイラスト服飾史

さあ新しい連載テーマですが……

やっぱり今一番気になっているのは、大河ドラマで話題の蔦屋重三郎つたやじゅうざぶろうと彼の生きた江戸時代後期、そして吉原という特殊な環境のこと!

2025.03.14

よみもの

『べらぼう 江戸たいとう 大河ドラマ館』浅草に開館 「きものでミュージアム」vol.44

蔦重つたじゅうこと蔦屋重三郎については大河ドラマで初めて知ることが多かったのですが、この時代の文化の隆盛、江戸の人々の暮らしにはもともと興味がありました。

そこで今回から蔦重とその身近な人々にフォーカスしながら、この時代の価値観や社会、文化を知っていく連載をスタートします!

天明・寛政期のメディア王、蔦屋重三郎とは?

まずはやっぱり天明・寛政期のメディア王、蔦屋重三郎から。

出版・広告ビジネスを成功させた秘訣を掘り下げてみましょう!

知ってた?べらぼうなお江戸話1

蔦重は生涯に渡り多岐にわたるジャンルの出版物を手がけましたが、なんと48歳の若さで亡くなっていたとは……驚きました!

しかも、本屋の前身である貸本屋を義兄の営む茶屋の軒先を借りて始めたのだって、25歳。実はものすごい短期間にビジネスを成功させ、広く展開させたんですね。

新吉原で生まれ、幼くして吉原の喜多川家に養子に入った蔦重は生粋の吉原者。蔑まれる出自と環境が彼のビジネスを成功に導いた最強の武器だったのは、皮肉なもんです。

2025.07.07

よみもの

『大吉原展』 東京藝術大学大学美術館 「きものでミュージアム」vol.33

当時の商人が歩む既定路線って、商家に生まれて跡を継ぐか、幼い頃から商家に丁稚奉公して住み込みで働きながら仕事を覚え、仕事ぶりを認められ出世し番頭を勤めてから暖簾分けしてもらいようやく独立……と一生をかけて積み上げていくものでした。

ところが蔦重は全く業界違いのポッと出なんです。

吉原内の遊女たちを相手にした貸本屋に始まり、妓楼に所属する遊女を紹介する「細見」を出版する地本問屋・鱗形屋の「改め」(所属遊女のランクや出入りなどの変更を確認修正する仕事)を任されたことをきっかけに当時のビジネスの隙間を突くやり方で下剋上のように出版業界へと参入していく……当時としては驚異の行動力と商機をモノにするセンスですよね。これは同業者たちが恐れ反発した心理も分かります。

2025.05.19

よみもの

特別展『蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児』東京国立博物館 平成館 「きものでミュージアム」vol.47

江戸市中の地本問屋さん達を真っ当だとして見ると、異端児が戸の割れ目から乱入してきた感じだし、筋が通っていないように感じたことでしょう。

でもこういう成り上がりがあってこそ人生は面白いし、特に当時の身分社会において庶民は希望を持てますよね。遊女の出世・身請けにも似ています。こんな境遇からでも勝ち上がれる可能性があるんだ!という夢を持たせてくれる存在だったことと思います。

吉原は究極のトレンドスポットだった!?

さて、この吉原という環境。一般的には貧しい家の少女を買ってきて借金を背負わせながら劣悪な環境で性産業に従事させる地獄のような場所、というイメージかと思います。

もちろんその側面もあるのは否定できませんが長くなるので別の機会に置いておきまして、今回は吉原という場所のビジネス上の役割を見てみたいと思います。

知ってた?べらぼうなお江戸話2

吉原に来る男性たちの目的は遊女を買うためですが、武士も町民も金さえあれば同じレベルの座敷で遊べるわけで、それゆえに身分制の敷かれた江戸時代において非常に特殊な場所になっていました。

2025.07.08

まなぶ

江戸の粋・不自由のなかの自由 「自分らしさを解き放つ、シーン別着物コーディネート」 vol.1

お金と余裕がある人は当然それなりの社会的地位についていて教養もあり、文化人の交流が自然発生していきます。また遊女や妓楼主を通じて紹介されたり評判になった人が呼ばれるなど、接点の無かった人同士が縁を結ぶ場でもありました。

社会的地位が高い人々は下々の者には知り得ない政治情勢や手に入りにくい物を持っていることも多く、それらが遊女たちを通じて広まる最新流行の発信地としても機能しました。そんな場所には金も名も無いけれどセンスや技術を持つ若手クリエイターたちが集まってきます。

知ってた?べらぼうなお江戸話3

つまり吉原は当時の江戸最新ファッションや文化が生まれる場所であり、また情報が自ずと集まる場所、かつ日常では関わることの少ない官民融合・交流ができる究極のトレンドスポットだったと言えます。江戸の最新流行を体感できるマーケティングの聖地、それが吉原だったのでしょう。

吉原者、忘八……江戸市中に暮らす人々からは白い目で見られ差別されるのに、夜大門が開けば途端にそこはビジネスチャンスの溢れる夢の国に変わる不思議な場所をホームに持つ蔦重は、少なくともビジネスマンとしては誰よりも恵まれた環境にあったのではないでしょうか?

2025.07.06

まなぶ

美人画は当時のファッション雑誌!? 「浮世絵きほんのき!」vol.5(最終回)

2024.02.27

よみもの

江戸の暮らしに思いを馳せて 料理家・和田明日香さん(インタビュー前編)「きもの、着てみませんか?」 vol.7-2

遊びから始まる新しいビジネスの世界

ふと、かつて勤めていた職場での出来事を思い出しました。

私は過去アパレル会社に勤務しており、社内改革プロジェクトメンバーになったことがあります。

全ての社員が各自で数値目標を持ち、四半期ごとに達成度合いを評価する。社員の平等な評価を実現するための働き方改革でしたが、もともと売り上げや経費の予算を持つ営業部門や生産部門はまだしも、デザイナーやパタンナー、PRや間接部門にも数値目標を持たせるという考え方には反発も多くありました。

私自身は感性が大切な職種でも企業で働く以上は数値目標は持つべきだと思って社内に啓蒙していたのですが、ある時前衛的なブランドの先輩と一緒にタクシーに乗ると、表参道の街並みを眺めながら先輩が言ったのです。

「プレス(PR)の子たちは会社になんかいちゃいけないんだよ。あいつらはいつも最先端のトレンドが集まる場所にいて、夜通し遊んでこそセンスが磨かれるし堅い場では得られない縁ができる。商談では絶対に取れないすごい大物とのコラボに繋がったりもする。それが一番大事な仕事なんだよ。あいつらを出勤時間や数値目標で縛ったらブランドがダサくなる。そういう仕事もあるって理解してほしい」

知ってた?べらぼうなお江戸話4

あの時もハッとさせられましたが、今思うとまさに吉原ですね。

日中のお堅い場所では出会えない格差のある人物と夜の街の気楽な雰囲気の中で個人的に仲良くなって、センス合うね!実はこういう者です!じゃあ今度コラボしない!?とトントン拍子にビジネスになる。それが抜群に新鮮で世間の話題をさらう。

その場を取り持つのが、当時は妓楼主や遊女であり、そこでの縁を作品にしていったのが蔦重、というところでしょうか。

今もなおインスピレーションを与えてくれる蔦重の生き方

25歳という遅咲き、それも資本ゼロスタートで、吉原が持つ江戸の”今より半歩先のトレンド”を武器に江戸市中で完全に出来上がっていた出版業界と並び競うまでのし上がっていった蔦重。

成功の秘訣が吉原の人脈と環境にあるのは言うまでもありませんが、同じ環境で生まれ育った男衆だってたくさんいるわけですよね。でも自分のいる環境がチャンスの山だと気付けるのはほんの一握り。

固定観念に縛られずに工夫を重ね人脈を上手に使った蔦重のビジネスセンスは天性でもありますが、平賀源内や様々な通人、洒落者、若手クリエイターたちとの出会いと交流で視野が広がったことも大いに関係ありそうです。

現代はビジネスチャンスは一箇所ではなく、なんなら家にいたってスマホ一つで世界中のトレンドを知ることもできますが、やっぱり話題の場所には足を運んで直に関わることが大切ですね。普段在宅座りっぱなし生活の私ですが、東博の蔦重展に足を運んでたくさんのインスピレーションをもらってきて尚更実感したのでした。

2025.05.19

よみもの

特別展『蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児』東京国立博物館 平成館 「きものでミュージアム」vol.47

2025.06.29

まなぶ

徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー

2022.06.25

まなぶ

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