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ギオンコーナー、それは伝統への玄関口 「大蔵流狂言師・茂山千五郎家の365日」vol.9

ギオンコーナー、それは伝統への玄関口 「大蔵流狂言師・茂山千五郎家の365日」vol.9

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室町時代からの伝統を受け継ぐ大蔵流狂言師・茂山千五郎家は、芸の確かさはもとより、そのフットワークの軽さでも信頼と人気を得ています。その証となるのが、祇園甲部歌舞練場小劇場の定期公演「ギオンコーナー」への出演です。

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京都花街文化にふれる劇場「ギオンコーナー」

祇園甲部歌舞練場小劇場でほぼ毎日開催されている日本伝統文化入門公演「ギオンコーナー」は、日本が世界に誇る7つの伝統文化・芸能を一度に鑑賞することができるお得な舞台です。

舞妓による京舞をはじめ

狂言・舞楽・茶道・華道・筝曲・文楽・能

などを約1時間のダイジェストでお届けしています。

小劇場外観

狂言パートを担当するのは、もちろん茂山千五郎家。

1962(昭和37)年に始まり、現在では年間600回以上、ベテランから若手まで千五郎家の面々が日替わりで出演し続けています。

取材日の当番は、当主である茂山千五郎さんとその息子さんたち。

『棒縛』の冒頭

「昔は修学旅行生も多かったですが、最近は外国人観光客で埋まることも珍しくありません。ギオンコーナーは、いろんな人に日本の伝統芸能や文化を知ってもらう有意義なイベント。ひいじいさん(二世千作)も出演した歴史ある舞台で、2023年3月には息子たち、竜正たつまさ虎真とらまさもデビューしました

と、千五郎さん。

『棒縛』の一幕

『棒縛』で太郎冠者を演じる茂山虎真さん(右)と、次郎冠者役の竜正さん(左)

茂山千五郎家での上演回数第1位!『棒縛』

急用でひとり出かけることになった主人は、「留守中、太郎冠者たろうかじゃ次郎冠者じろうかじゃがこっそり家の酒を飲むに違いない」と思い、そうはさせじと、太郎冠者を後ろ手に縛りあげ、次郎冠者の両手に棒をくくりつけます。

「うちに盗人が入っても知りませんぞ!」と文句を言うふたりを尻目に、「これで安心」とばかりに主人は出かけてしまいます。

『棒縛』の一幕

が、そこまでされるとかえって飲みたい気持ちになるのが人情というもの。

ふたりは縛られているものの、手首のスナップが利くことに気づくと、酒蔵の戸を開け、互いに飲ませる形で酒盛りを始めるのです。

『棒縛』の一幕

虎真さん(右)と竜正(左)さんは双子。息もぴったり

後はご想像のとおり。謡や舞、主人の悪口で大いに盛り上がっているところへ、主人が帰ってきたものだから、大変!

『棒縛』の一幕

そこまでして飲みたいか!と思わずツッコミを入れてしまう、家来たちの無理くりの動きや仕草が最大の見どころとなる狂言です。

派手なアクションが多く、日本語がわからなくても分かりやすいので海外公演でもお馴染みの曲。茂山千五郎家での上演頻度ダントツの演目でもあります。

ダイジェスト版で狂言のコミカルな笑いを伝える

通常25分ほどの『棒縛』。ギオンコーナーでは、7~8分と短い時間でまとめた専用の脚本が使われています。

「二世千之丞が若い頃に書いたもので、面白いところだけを繋いで演じています」

『棒縛』の一幕

「舞台は一期一会。なるべく楽しんでもらえるように気を配ります。1回目がすごくウケたのに、2回目は全然ウケないこともあるのが生の舞台です。海外の方が多いときは、仕草や動きや声の出し方でダイレクトに伝わるように、ややオーバーアクション気味に演じることもありますね」

と、教えてくれた千五郎さん。

息子さんたちとの共演について訊いてみると――

「疲れます(苦笑)」とのこと。

自分がやるより彼らがやってる方が気になるんですよ。毎回、装束を脱ぎながら注意していますね」

『棒縛』の一幕

ギオンコーナー出演への想いを、竜正さん・虎真さんにもお訊きしました。

虎真さん「狂言会とは全然違うので、戸惑いはありました。ギオンコーナーの出演は3人ですから、ひとりで装束をつける必要があり、最初は逸平いっぺいさんにコツを教えてもらいました。その後、出演を重ねるなかで鍛えられ、いまでは人手がなければひとりでもつけられるようになりました

竜正さん「ギオンコーナーの『棒縛』は特別バージョンなので、通常の型よりあえて崩して演じることもあり、続けてやってないと通常バージョンに戻ってしまいます。逆に、ギオンコーナーが続くと、通常の公演で特別バージョンが出ないように気をつけます」

『棒縛』の一幕

竜正さん「父に『今日はどうだったか』と確認すると、以前注意されたことをまた言われることも。自分では出来ていると思っていたのにダメ出しされる際にも、論理的に伝えてくれるので、納得して指摘された箇所を修正することができます

虎真さん「1日2回の公演、その都度演者の組み合わせもお客さまも変わります。今回はどういう役でやろうか、前回とは違うことをやってみようと思えるのはギオンコーナーならではです。挑戦、失敗、挑戦、成功の繰り返しですね」

今月の狂言師

茂山竜正

茂山竜正しげやまたつまさ

2004年7月15日生まれ。十四世千五郎の長男。
2009年、『業平餅』の童で初舞台。2016年に『千歳』、2022年に『三番三』を披く。

茂山千五郎家家系図

「4月は大学の授業選択をしなければいけないので仕事と学校生活とのバランスをとるのが大変ですが、年度が変わって新しい人やモノ・コトに出逢える月でもあります。映像学科で学んでいるので、お客さまにとって良い見せ方とは何かを常に考えています」

茂山虎真

茂山虎真しげやまとらまさ

2004年7月15日生まれ。十四世千五郎の次男。
2009年『業平餅』の童にて初舞台。2016年に『千歳』、2023年に『三番三』を披く。2016年、映画『家族の日』に出演した。

茂山千五郎家家系図

「大阪にあるキャンパスに通学していると4限終わりでギオンコーナーに駆けつけることになるため、時間を意識しつつ履修を考えていました。心理学を専攻して、笑いについての考察や行動分析を通して、狂言に使えそうな心理的効果について学んでいます」

公演告知

お豆腐の和らい2025 新作CLASSICS「終」~FINAL!~

2025年4月29日(火・祝)
紀伊国屋ホール(東京)

茂山家が上演してきたこれまでの新作の中から名作/迷作を再演する人気シリーズ『新作CLASSICS』も、今回でついに最終回です。

茂山千之丞せんのじょう(童司)さん節が光る「~my sweet home~旅は道連れ」「全力で小舞を作ってみた」「死神」の3番は、お見逃しないよう!

第10回大蔵流五家狂言会

2025年5月6日(火・祝)
金剛能楽堂(京都)

大蔵流五家狂言会」は、能楽狂言大蔵流の主な五家「大藏家」「茂山忠三郎家」「山本家」「善竹家」「茂山千五郎家」の40〜50代の次代を担う総勢16名の狂言師が年1回開催している狂言会。

第10回の開催場所は京都です。名作『靱猿』と稀曲『白髭道者』を中心に、五家の面々の競演が楽しめます。

撮影/スタジオヒサフジ

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