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スタイリッシュな魅力を放つ銀細工の簪(かんざし)と帯留め ―京都伝統工芸の技とプロダクトデザインの融合 

スタイリッシュな魅力を放つ銀細工の簪(かんざし)と帯留め ―京都伝統工芸の技とプロダクトデザインの融合 

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「京都の伝統工芸の技と現代デザインが融合した逸品」を世界へ提供し、情報発信することをビジョンに掲げるWGD京都。プロダクトデザイナーの福定良佑さんと、200年以上の歴史を持つ錺匠(かざりしょう)「竹影堂」がタッグを組んだ、銀細工の和装小物の製作プロジェクトをご紹介します。

伝統工芸の技と現代デザインの融合で現状打破

コロナの影響で国内外からの観光客が急速に減少している今、京都の伝統産業は苦境に立たされています。

2020年5月には、京都の工芸品を販売するオンラインショップ「京もの専門店みやび」が特設サイトを開設し、「このままではコロナに京都の伝統産業が負けてしまいます」というメッセージを発信。実際に廃業に追い込まれる事業者も増え、世界に誇る日本のすばらしい技術が失われようとしているのです。

200年以上、代々京都で錺(かざり)金具を制作してきた「竹影堂」もそのひとつ。
職人の横田さんは「以前はお店にリピーターの方やネットを通じた新規のお客様が定期的に来てくださったのですが、今は店内がガランとしています。コロナ以前と比べると、売り上げは1/5。緊急事態宣言も繰り返し発令されているので、お客様との交流も難しい状況です」と語ります。

竹影堂が手がけた銀細工・銀飾りを販売するアンテナショップ「かざりや 鐐」
竹影堂が手がけた銀細工・銀飾りを販売するアンテナショップ「かざりや 鐐」
かざりや 鐐」で販売されている純銀の水次やかん
「かざりや 鐐」で販売されている純銀の水次やかん

そんな中、竹影堂に“ある企画”が持ち上がります。

声をかけたのは、「京都の伝統工芸の技と現代デザインが融合した逸品」を世界へ提供し、情報発信することをビジョンに掲げるWGD京都(World Good Design 京都)。

伝統産業に関わる数社と商品開発を行い、現代の生活に馴染むプロダクトを生んできた会社です。

”ある企画”とは、「歴史ある竹影堂の手工芸の技術に、世界的なプロダクトデザイナー・福定良佑さんのデザインを組み合わせ、今までにない魅力的な銀細工を作る」というもの。

そこに「京都きもの市場」も着物ユーザーの意見を届ける役割として参加し、現代の和姿に映える、かつてない銀製の和装小物を作るプロジェクトが発足しました。

伝統工芸と着物の未来を支える、“本当に欲しい和装小物”を

そもそもなぜ、WGD京都は“京都の伝統工芸と現代デザインの融合”を目指すのか。

フォトグラファーであり、同社でディレクターを務める久藤美智子さんは大学院の授業で代表の山本恵さんと出会いました。

「私と山本は“ビジネスにデザインをどう活かすか”を勉強していました。その最中、『伝統工芸をもっと発展させたい』という相談を受けたんです。当時はプロダクトデザイナーの深澤直人さんと京都漆工芸の職人・下出祐太郎さんのコラボ商品を製作。それをきっかけに山本と私は勉強したことを実践する場として会社を立ち上げ、京都の伝統工芸と絡めたプロダクトを作ってきました」(久藤)

深澤直人さんと島田祐太郎さんによる漆黒の仏壇「壇」。 2007年度GOOD DESIGN AWARD受賞
深澤直人さんと下出祐太郎さんによる漆黒の仏壇「壇」。 2007年度GOOD DESIGN AWARD受賞 提供:WGD京都

たくさんの人の手に届く、そして長く愛用してもらえるモノを届けたい。そんな思いで竹影堂に声をかけたのは、コロナ禍で売り上げが落ちている現状を知ったことがきっかけ。

また、今回のプロジェクトでプロダクトデザイナーを務める福定さんは、大手家電メーカーおよびイタリア・ミラノのスタジオにて経験を積んだ後に国際的なデザイン賞も多数受賞されている注目のデザイナー。
「伝統工芸の技を生かしながら、今の生活に新しいデザインとしてモノを発展させることに長けている方」と絶大な信頼を寄せていました。

今回のプロジェクトで製作した銀細工の帯留め飾り

そして、双方から賛同を得て始まったWGD京都率いるプロジェクト。役者は揃い、次に“何を作るか”ですが、久藤さんには企画の段階から和装小物を作りたいという想いがあったのです。

「私は普段フォトグラファーとして着物姿のモデルさんや一般の方を撮影することもあるのですが、そこで知り合った方から『本当に欲しい和装小物がない』という声を聞くことがありました。そのためアクセサリー感覚で日常的につけられる銀細工の和装小物が作れないかと思ったんです」(久藤)

もし良い商品を生み出すことができたら、それをつける機会を増やしたいということで着物を今まで以上に着る人が増えるのではないか。または、その商品をきっかけに伝統工芸品にも興味を持ってもらえるのではないか。

そんなシナジー効果を期待していたという久藤さん。

一方プロジェクトの概要を聞いた竹影堂の職人さんたちも、「今までも帯留めや簪(かんざし)を作った経験はありましたが、外部のデザイナーさんと共に製品を作るのはこれが初めて。プロダクトデザイナーである福定さんが伝統工芸にどんな新しい風を吹かせてくれるのか、また一方でどこまで寄り添ってくれるのか。製作の過程がとても楽しみで、ワクワクしました」と言います。

抽象的な幾何学模様のデザインであらゆるシーンに対応

帯留めのデザイン

製作過程で、最も苦労したのはやはりデザイン。一般の方に手に取ってもらえる価格で、さらには長く使い続けられるようなデザイン性と丈夫さを兼ね備えていなければなりません。

「陶磁器などの伝統工芸品をデザインしたことは過去にもあったので、ある程度理解しているつもりだったのですが……やはりデザイン面にこだわればこだわるほど価格帯は上がってしまうので、予算内でかつ良いものを作るのは簡単なことではありません。ですが、竹影堂さんにもアドバイスをいただきながら量産できて、これなら着物ユーザーの方々に支持いただけるのでは!と思うものができました」(福定)

銀細工の簪と帯留め
銀細工の簪と帯留め(石庭)

簪と帯留めは、「石庭」と「南天」をモチーフとした抽象的なデザインに。
1910年〜1930年代にヨーロッパを中心に流行した“アール・デコ”に着想を得て、上品で都会的な幾何学模様のプロダクトが完成しました。

市場に出回っている銀細工の和装小物は、生き物や植物をモチーフとした具象的なデザインが多いのですが、対照的に抽象的なものを作った理由は、幅広いコーディネートや場面に合わせてもらうため。

職人技で複雑な形状の原型を作る職人さん
職人技で複雑な形状の原型を作る職人さん

今回は量産できるように溶かした銀を型に流し込む鋳造(ちゅうぞう)という製法で商品を作りましたが、元となる原型は職人さんの手作り。細かく複雑な下絵に沿って、彫金を進めていきます。

「僕自身も経験があるのでわかるのですが、曲線を何かしら刃物で切ると絶対に歪むんです。ですが、完成した製品をみると全くそれがなかった。3Dプリンタもなく、手作りであれだけ精密な原型を作り上げる職人技に感動しました」(福定)

シンプルながら上品で、どんな着物にも合う美しい簪と帯留めが生み出されました。

帯留めはリバーシブル使用
緩やかなアーチを重ねたデザインの帯留めは裏表別柄のリバーシブル仕様

洗練された雰囲気の中に感じられる手のぬくもり

銀細工の簪と帯留め
銀細工の簪と帯留め(南天)

竹影堂の職人技と現代的な福定さんのデザインにより生み出された今回の商品は、クラウドファンディングを通して発売。集めた資金は京都の伝統産業を担う企業と、新しい価値を見つけるための資金に当てられ、金額に応じてリターンとして簪や帯留めが送られます。

「クラウドファンディングは我々のように小さくまだ知名度もない会社でも、たくさんの方に活動を見ていただける機会だと思いました。もし今回のプロジェクトがうまくいき、発信したメッセージを受け取っていただけるのなら、京都が誇る伝統工芸の発展に寄与する新たな道となることと思います」(久藤)

簪と帯留めのバリエーション

「福定さんがデザインしてくださった石庭と南天をモチーフとした2つの商品はそれぞれに魅力があります。どちらもプロダクトデザインとして洗練された雰囲気と、ひとつひとつ手作業で作った温かみも兼ね備えている。私たちはどうしても伝統的なモチーフを使うことが多いので、今回新しいチャレンジができてうれしかったです。これをきっかけに、今までにないような製品を作っていきたいと思います」(竹影堂)

クラウドファンディングは8月31日(火)からスタートし、9月下旬まで支援を募集。ぜひご参加の上、「どんな着物にも調和する上品でモダンなデザイン」と「京都伝統の手工芸のぬくもり」を同時に感じられる銀細工の簪や帯留めを実際にお手に取ってみてください。
古典的かつスタイリッシュな空気感に、今までにない”普遍性”を実感いただけることでしょう。またさらにそれが、逆境に立たされている京都の伝統産業の応援にもつながるのです。

インスタグラマー“すーこ”さんが着用モデルに

すーこさんの着用イメージ
着用イメージ
すーこさんの着用イメージ
着用イメージ

着用モデルを務めるのは、「きものと」でも着物や和髪に関するコラムを連載しているインスタグラマーの“すーこ”さん。

白帯が映えるライトグレーの色無地に、丁寧な銀細工の帯留めが和姿全体にストーリーを添えて。スタンダードな和髪に添えたほどよいサイズ感の上品な簪も、帯留めと美しく共鳴しています。

実は“すーこ”さんには、制作前のヒアリングから協力をいただいていたとのこと。
普段の巧みなアンティーク使いのコーディネートとはまた異なる、銀細工の簪や帯留めに合わせた、スタイリッシュなコーディネートを提案してくださいました。

お茶会やちょっとしたパーティーなど、華やかな場所でも目を引く銀細工の和装小物。「そのステキな和装小物はどこで?」と話に花が咲きそうです。

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