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着物ファンが思わず二度見する。 和洋MIX着物家 マサキモノさん

着物ファンが思わず二度見する。和洋MIX着物家 マサキモノさん

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着物にスカジャンやロシアン帽など、大胆なスタイリングでSNS界隈を騒がせる「和洋MIX着物家」マサキモノさん。コーディネートの提案に留まらず、斬新なアイデアや、着物に関する根源的な考え方を発信する先に願う…自由と平和への想いとは。

”マサキモノ”とは?

平成から令和へ。
新しい時代の訪れとともに、突如としてきもの界隈に現れた新風・マサキモノさん。

着物にダウンジャケットやスカジャンを合わせ、ロシアン帽やハット、ヘッドフォン、サングラスといった小物使いを、着物姿のコーディネートに取り入れ尽くす。
羽織を裏返しに着たかと思うと…女性用の着物にも臆することなく袖を通して。

そんな、”着物ファンが思わず二度見する”コーディネートが、マサキモノさんのInstagramには並びます。

「9割女着物を着てるメンズ(173cm)」
「1,000円から始められる着物の楽しさを伝えたい」

Twitterはこちら。
プロフィールからすでに”気になる”こと満載であり、日々のつぶやきには、着物に関しての芯を捉えた発言や、まだ着物デビューしていない方も思わず”ひっかかる”新たな視点がいっぱいに詰め込まれています。

マサキモノさんのnote

さらにnoteでは、一層深く書き込まれた投稿が。
天性の文才をお持ちなのでしょうか…思わずにやりとしてしまうワードセレクトにぐぐっと引き込まれ読み進めるうちに、「着物=高価なもの」「着物=ルール」「着物=コーディネートが難しい」といった固定概念が、まるで雲が晴れゆくように、楽しく覆されていきます。

そんな多くの人を魅了しているマサキモノさんの正体とは?

SNSでは詳細なプロフィールを公開していないマサキモノさん。
ちまたでは「”マサキモノ”という人物は存在せずプロジェクト名なのでは?」とも囁かれるなか…

ワクワクしながらオンラインにて画面を開くと、スクリーンの向こうには、『ROBE JAPONICA』の浴衣を着こなすファッショナブルな男性が現れました。

和モンドリアン
ROBE JAPONICA『和モンドリアン』×黒のメッシュベルト

浴衣の柄は、画家ピート・モンドリアンお馴染みの赤・青・黄で構成された抽象絵画を元にした『和モンドリアン』。
帯はなんと、洋服用に作られた黒のメッシュベルト(!)です。

個性的で、和装とも洋装とも形容しがたいスタイリングを確立されているマサキモノさん。さぞかし和と洋、どちらのファッションにも精通された方なのかと思いきや…意外にも着物をご自身の生活に取り入れはじめたのは令和元年とのこと。

きっかけは、お父様が癌を患われたことだったといいます。

「父が、大晦日だけ着物を着て年越しを迎える文化を持っていたんです。正直、幼い頃は『変な人だな』としか思っていなかったですね。でも歳を重ねるに連れ、父のそのこだわりをかっこいいなと思いはじめ、それでも照れくさくて着物を着れなかったんですが…
3年前に父が癌を患い彼から何かを引き継ごうと思った時に、“着物を着る文化”を思い浮かべました」

リサイクルショップで出会った1000円の着物

そこで、マサキモノさんが最初に向かったのは、一般的に着物を購入する場である「呉服屋さん」。

しかしながら、そこに並ぶ着物は少なくとも10万円以上…
着物に興味はあっても、洋ファッションの感覚で呉服店を訪れその価格差に驚き諦める、ということは非常によくあること。
マサキモノさんも例にたがわず、その日はそっとお店を後にされたそうです。

そんなある日、自身と同じように着物への憧れを抱いていた海外出身の友人へのプレゼント探しに、初めて着物のリサイクルショップへ。
そこで出会ったのが、「着物と羽織がセットで1000円」のアンサンブル着物だったのです。

はじめて着物を着た自分の姿を見た時の感想は…「我ながらよく似合う」。

下半身が太短く上半身に厚みのある体型で、どちらかに洋服のサイズを合わせると上下のバランスが取れないという長年の悩みが、着物を着た途端に解消されたといいます。

「尊敬する坂本先生(龍馬)みたいじゃん!とも思いました(笑)」

そう語るマサキモノさんの表情には、少年のような笑顔が浮かびます。

そうして1000円でも着物が手に入ると知ったマサキモノさんは、以降、着物を生活に取り入れるように。
会社にも着物姿で出勤してみたところ、当初は同僚に(好意的に)ニヤニヤとされることもありましたが、もともと友人間でも”変わり種”だったマサキモノさん。「着物着るんだ」みたいな感じで、少しずつ周りもマサキモノさんの着物姿に慣れていきました。

それと同時に、マサキモノさんの気持ちにも変化が。

「着物を普通に着るだけじゃつまらない。自分なりにアレンジを加えてみよう」

それが、和洋MIX着物家としての第一歩でした。

おしゃれする理由は「平和だから」

おしゃれをする理由

「男きもの」といえば、どこか”リッチな年配の男性”が着るものという印象はないでしょうか。価格帯はもちろんですが、男性の着物は色味や柄が少ないシンプルなデザインが多いため、若い方だと物足りないと思われるかもしれません。

そんな概念を一気に払拭するマサキモノさんの着物スタイリング。
大胆な着こなしと、男性の着物姿としては派手な色味、和洋縦横無尽な小物使いが特徴的ですが、マサキモノさんは色の数を限定してコーディネートを完成させています。
なかでも原色を好んで取り入れているのは、「サプール」の影響。

サプールとは…

アフリカ・コンゴで90年以上続く独自の文化。コンゴはかつての植民地化の影響もあり、現在まで内戦や紛争が多発し、経済的にも不安定なことから「世界で最も貧しい国」とも言われています。しかし、そこには1ヶ月の収入を上回る派手で高級な着物を身につけているジェントルマンたちの姿があります。

彼らの姿をテレビで見たマサキモノさんは一瞬、生活のすべてを服に注ぎ込む異常なこだわりに少しだけ愚かさを感じたそう。
ですが、そこに隠された「服が汚れるから戦わない」という平和へのメッセージに感動し、一気にサプールという文化に惹かれました。

「やっぱり、おしゃれというものは精神的にも環境的にも安定した土台がなければ楽しめない。特にアジア系ヘイトクライムを見ていると思います。反日感情がある国では着物なんて着れないですからね。着物をはじめ、他国の民族衣装を自由にどこでも着られる国は平和。おしゃれしている理由が“平和だから”ってすごくいいじゃないですか」

ただ奇抜なだけではなく色を限定したり、反対に首から上がシンプルになりすぎないように帽子をかぶったり、髪をルーズにまとめたり、と、全体のバランスを考えながらスタイリングされているマサキモノさん。

拠点である北海道・札幌市はおしゃれな地方都市ですが、やはり他の人よりは目立ってしまうはず。目立つことに抵抗はないのでしょうか…

「ソーシャルに顔出ししている以上、目立ちたがりではあります。ただ、個人的な“納得感”がほしい。
単純に”奇抜な格好”をしたいというわけではなく、例えば『今日は映画館に行くから』『デートに行くから』といった”目的に沿ったスタイリング”であれば、目立ってしまっても自分自身が納得できますから」

その言葉通り、マサキモノさんが自身のInstagramにアップされているコーディネート例にはそれぞれにタイトルがつけられています。

例えば、2020年11月1日に投稿された写真は「区役所に行くトキモノ」。
黒を基調としたシックなコーディネートですが、アシンメトリーのコートにアイヌ文様の半端帯というスパイスがピリリと効いています。

テーマ「本を返しに行くトキモノ」で着用した女物長着は、お祖母様の形見。
珍しいライダースの羽織は、ドラァグクイーンとして活躍されているhossyさんに発注したモノです。

他にも、なんと女物長着に大胆にもニットベストを重ねたのは、「気さくなスタッフしかいないサンドイッチ屋に行くトキモノ」。

パッと目立つドット柄の着物に、女性用の帯を解いてミシンで縫ったハンドメイドの角帯を合わせたのは「ランチ経由で映画館に行くトキモノ」、など。

個性的でアーティスティックなコーディネートばかりですが、テーマを見れば思わず「うんうん」と頷いてしまうような“納得感”のあるスタイリングですよね。

自由に好きなものを着れる時代だからこそ

お父様から受け継いだ文化、1000円のアンサンブル着物、サプールという伝統との出会い。それらから導かれるように、洋服とMIXした着物生活を送っているマサキモノさん。

コーディネート例として、着物に対する抵抗がある方や着方について迷っている初心者さんに向けての提案をしているだけではなく、Twitterでは積極的に「着物という文化」そのものに対するご自身の考え方や哲学を発信されています。
その理由とは―

「目的は、着物普及です。特に”着物を着る男性”を増やしたい。
僕自身、着物に出会ってから今回のように取材を受けたり、街ゆくおばあちゃんに突然褒められたり、着物文化を継承するために先端で戦っている方々に出会ったり…と世界が広がったんです。

男らしく、女らしくといった価値観を押し付けられる時代から、自由に好きなものを着よう!という時代に確実に変わった今だからこそ、もっと多くの人に“着物”という選択肢を広めたいと思っています」

マサキモノさんが、各SNSプラットフォームの特性に合った発信を行なっているのはそのため。
「Instagram」はカタログのように眺めてもらうためにコーディネート例を投稿、「Twitter」はアイデアや考え方を発信する場、根源的な想いを「note」にまとめ、流行りの「Clubhouse」は交流用に。

着物好きの人なら誰でも知っているような情報でも、まだ着物に出会っていない人のために繰り返し伝えていく。それがマサキモノさんの、計算され尽くしたSNSの活用法です。

「今後は、影響力のある若い男性などとコラボして、着物の楽しさを作品化していきたい。
もちろん伝統を重んじる方からすれば、もっと勉強しろと思われるかもしれませんが…
まずは垣根を下げて、1000円から着物ははじめられるんだよ、こんな着方もありだよと提案していくことが自分の役目だと思っています」

マサキモノさんにとって着物とは、「世界と自分とのズレを調和させる”服”」。

誰かに押し付けられるのではなく、着物も洋服もMIXした自分らしくいられる装い。
自由と平和の象徴でもある“おしゃれ”の楽しみ方を、マサキモノさんは発信しています。

マサキモノ

構成・文/苫とり子

京都きもの市場 男物
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