1. TOP
  2. インタビュー
  3. エキゾチックな”大和撫子”ー イマジンワンワールド ババホジャエヴァ・オルズグルさん

エキゾチックな”大和撫子”ー イマジンワンワールド ババホジャエヴァ・オルズグルさん

世界中の国々を表現した213の着物と帯を制作、着物を通じて世界をつなぎ、平和のメッセージを伝えるKIMONOプロジェクト「イマジンワンワールド」。ウズベキスタン出身のババホジャエヴァ・オルズグルさんは、KIMONOプロジェクトのピース・アンバサダーを務めています。全4回、プロジェクトに関わる方々への取材から、そこにある想いや描かれる未来図を伺いました。

イマジンワンワールド、これまでの取材記事はこちら

本来ならば東京オリンピック2020の開会日であった2020年7月24日。
一般社団法人イマジンワンワールドは、全世界、総数213の国と地域(※1)をイメージした KIMONO(振袖と帯)が完成したことを発表。

(※1)日本と国交のある国、東京2020大会に出場予定の国及び地域、IOCに所属する難民選手団、英国内のカントリー等を対象とする。

◆制作費は各国平等に200万円(着物100万円、帯50万円、仕立てや小物に50万円)
◆制作費はすべて寄付によって賄われ、全額を各制作者にお渡しする
◆プロジェクトメンバーは、全員ボランティア

これが、KIMONOプロジェクト「イマジンワンワールド」のルール。

日本の“ひらがな”に魅せられた幼少期

「日本語は、丸みを帯びた美しい平仮名と、四角くてエッジの効いた漢字のバランスが絶妙。例えるなら、甘口の白ワインとブルーチーズみたいに相性抜群なんです!」

ワインバーを経営するオルズグルさん

溌剌とした笑顔をこちらに向け、流暢な日本語でそう語ってくれたのは、KINOMOプロジェクトでピース・アンバサダーを務めるババホジャエヴァ・オルズグルさん。

現在は、春になると桜並木を堪能できる目黒川沿いに住所・名前非公開、完全紹介制のワインバーを経営しています。

ウズベキスタン出身の彼女が日本と最初に接点を持ったのは、13歳の頃。
“ひらがな”に一目惚れしたのをきっかけに日本語の勉強をはじめ、わずか14歳で大学に進学。在学中に勉強をしながら、現地で日本語の通訳やガイドを務めていました。

ウズベキスタン出身のオルズグルさん

そんなある日、仕事を通じて日本人の男性と出会います。それが、現在のご主人でした。きものとのファーストインプレッションはウズベキスタンで挙げた結婚式。幼少期からきものに憧れていたというオルズグルさんは、日本に住むご主人の親戚からきものを取り寄せ、初めてきものに袖を通しました。

きものを身につけると首が正しい位置に戻り、姿勢も良くなるー
「女性の美を最も際立たせる衣裳」だと思ったオルズグルさんは、今も特別な日にはきものを着ます。

目鼻立ちがくっきりとしたエキゾチックな美しさが魅力的なオルズグルさんですが、不思議ときものを着ているときは“大和撫子”という印象に。

そう伝えると笑顔で「うれしい!大和撫子が一番と言っていいほど好きな日本語なんです」と、少女のような瞳をひときわキラキラと輝かせます。

「特に訪問着が好きなんですが、きものを着ているときに似合うね、日本人らしいねと言われると私も日本から愛されているという気持ちになります。それに、日本が好きということを伝える一番の近道は、きものを身に付けることなんですよね」

現地で結婚したオルズグルさんは21歳の頃に、ご主人と一緒に日本へ。「主婦として夫を支えたい」。誇りに思っている主婦業と並行して働きながら、日本の魅力を伝えるべくガイドブックの編集に参加したり、タレントとして日本の番組に出演することも。

「日本には美しい四季や温泉、山や川、すばらしい食文化も歴史もある。もっとそれを発信していけたらと、温泉ソムリエやフードアナリストの資格を取りました」。そんなオルズクルさんにKIMONOプロジェクトから声がかかります。

「KIMONOプロジェクトのきものを着てみたい」

オルズグルさんとイマジンワンワールドとの出会いは、2017年9月。大使館パーティーに参加した彼女は、KIMONOプロジェクトの代表理事を務める手嶋信道さんと知り合います。
特に心惹かれたのは、モデルの指導にあたっている和奏スミレさんの存在。
オルズグルさんは、常に穏やかな笑顔を浮かべるスミレさんの美しい所作に感動し、より一層きものに興味を持ちました。

「一度でいいからKIMONOプロジェクトのきものを着てみたい」

憧れ続けていたオルズグルさんの携帯に、2019年9月、手嶋さんから電話がかかります。
それは「ラグビーW杯の開会式があるので、そこできものを着ませんか?」というお誘い。G7、G20などのサミットで成功を収めたイマジンワンワールドは、ラグビーW杯のオープニングセレモニーを飾ることになったのです。

ラグビーには、「試合が終わった後は敵味方なし」という意味合いを持つ“ノーサイド”という言葉があります。まさしくKIMONOプロジェクトが掲げる理念「世界はきっと、ひとつになれる」とも共通する言葉です。

そして、セレモニーのために制作されたのはW杯に参加する20カ国を表現したKIMONO。
“ノーサイド”をイメージし、参加する国と、その国のKIMONOを着るモデルさんたちが生まれた国もシャッフル。
ウズベキスタンに生まれ育ちながら、日本人以上に日本の文化を愛するオルズグルさんなら、KIMONOプロジェクトの理念に共感してくれるはずー
声をかけられたオルズグルさんは、「着ます!」と前のめりに答えました。

KIMONOで「世界はきっと、ひとつになれる。」を実感

ラグビーW杯のオープニングセレモニー
センター(左から7番目)がオルズグルさん

ラグビーW杯のオープニングセレモニーで、オルズグルさんが着たのはイタリアを表現したKIMONOでした。

KIMONO制作者:工芸染匠 成謙
KIMONO制作者:工芸染匠 成謙
http://kimono.piow.jp/nation/166.html

きものは創業以来、手描き友禅にこだわりを持つ工芸染匠の成謙が制作を担当。
ルネサンス建築様式のアーチデザインに注目し、アーチ越しにイタリアの大聖堂や建築物が映り込むデザインに。天才画家レオナルド・ダ・ヴィンチが開発したヘリコプターが上部に⾶び、ダヴィンチコードも隠れています。

また龍村美術織物が制作した帯地には、フィアットやフェラーリ、マセラティなどイタリアを代表する車のヘッドライトが織り描かれています。イタリアの建築物や、歴史的な背景まで国のすべてをひとつに表現したきものにオルズグルさんは感動しました。

「日本のきものだけど、表現しているのはイタリア。しかも、着ているのはウズベク人の私でしょ。着た時に国境がないように感じられて、ああ、本当にきもので世界はひとつになれるんだなと思いました」

KIMONO制作者:龍村美術織物
KIMONO制作者:龍村美術織物
http://kimono.piow.jp/nation/166.html
左)ニュージーランド 右)南アフリカ共和国(ayumuさん)

次に、ニュージーランドと南アフリカによるW杯予選のノーサイドレセプションに着たのがニュージーランドを表現したきもの。

東京手描友禅作家の大地佐和子さんが描いた、国を象徴する植物シルバー・ファーンや、その新芽コルを見て興味を持ったオルズグルさん。より深く知るため、自分でもニュージーランドについて調べると、世界が広まったといいます。

特に感動したのは、帯に描かれたニュージーランドが誇る美しい星空。帯を手織で織りあげた服部織物は、プラチナの箔を用いて、吸い込まれるような星座を繊細に描き出しています。

美しい星空を織りあげた服部織物の袋帯
KIMONO制作者:大地佐和子
http://kimono.piow.jp/nation/150.html
KIMONO制作者:服部織物
KIMONO制作者:服部織物
http://kimono.piow.jp/nation/150.html

「KIMONOプロジェクトのKIMONOは着物以上の作品。きものの枠を超え、一枚一枚が国を体現しているんです」

左から4番目がオルズグルさん

そして2020年1月、東京証券取引所の大発会に続いて開催されたオリンピック200日前セレモニーにおいてついに、オルズグルさんは母国・ウズベキスタンのKIMONOを身につけてステージに立ちました。

KIMONO制作者:古泉良範
KIMONO制作者:古泉良範
http://kimono.piow.jp/nation/008.html
KIMONO制作者:齋藤織物 監修 帛撰
KIMONO制作者:齋藤織物 監修 帛撰
http://kimono.piow.jp/nation/008.html

ウズベキスタンは日本との繋がりが深い国のひとつ。首都タシュケントには、旧日本兵が建設したオペラハウス「ナヴォイ劇場」があり、公園には日本からウズベキスタンに寄贈した桜の木が植えられています。
加賀友禅作家の古泉良範さんはそういった歴史的な背景を含め、きものにウズベキスタンを表現。
ウズベク人のオルズグルさんも「理想的な完成感。これほどまでに違和感なく、国の特徴がひとつのきものにまとめられていることに感動しました」。

左から4番目がオルズグルさん

やはり⺟国のKIMONOに袖を通した時は、他の国とは違った思いがありますか?の問いに、オルズグルさんはこう答えます。

「違いはない、どれも袖を通せばワクワクし、どれも等しく、世界がひとつになっていることを実感できる」

美学に合致したKIMONOプロジェクトの活動

日本で暮らしはじめて、今年で14年目。飽きることなく、日本の良いところを見つけては惚れ直しているというオルズグルさんは日本を“第二の故郷”と呼びます。

「母国を愛しているからこそ、日本も他国も愛せる。国に対しても人に対してもネガティブなイメージを持つことはないですね。たとえ嫌なことをされても良いところを見るようにしています」

彼女がおおらかな気持ちで人に接することができるのは、お母様からの「自分より相手のことを考えなさい。そして、人に良いことをもたらす行動をしなさい」という教えが活きているからです。人間にとって大切なのは、生きているうちにどれだけ「ありがとう」と言われたか、だと。

母子家庭で育ったオルズグルさんは、学費を稼ぐため、またお母様の支えになるため、16歳から勉強しながらもシフト制の仕事をスタート。早く大人の社会に入ったからこそ、しっかりとした価値観がついたと言います。

オルズグルさんにとっての”美”とは何か?
この質問に、吸い込まれそうなほどに大きな瞳をまっすぐこちらへ向けて「美しい行動をできること」と答えるオルズグルさん。

「美しい行動とは、約束を守ること、人を助けること、言葉に責任を持つこと、周りの人を考えること、配慮、決断力、実行力、気配りできること、いろいろな意味で人を傷つけないこと、許すこと、裏切らないこと、恨まないこと、妬まないこと、軽蔑しないこと、見下さないこと、裏で悪口を言わないこと、感謝の気持ちを持つこと」

「春になると桜を眺め、秋は紅葉を堪能する。日差しを浴びながら綺麗な海を見て、休日は大好きな友人や家族とワインで乾杯…そういったかけがえのない瞬間に感じられる幸せが”美”であり、それを他者にも感じてもらいたい」

オルズグルさんの美学は、KIMONOプロジェクトの活動にも合致しました。はじめて理念を聞いた時、これは運命だと思ったそうです。

「作られたKIMONOは見た目にも美しいけれど、それ以上に“世界はきっと、ひとつになれる”という理念を発信しながら世界の平和に貢献しているところがプロジェクトの意義だと思います。そんなプロジェクトのピース・アンバサダーに選ばれたのは光栄なこと。私自身もきものの新しい可能性や、平和へのメッセージを発信していきたい」

そんな彼女は、ウズベキスタンと日本の架け橋となり母国からワインを輸入していました。今年はじめたワインバーでは、そこで得た知識を活かして、知り合った方々に世界中のワインをふるまっています。

ワインが好きな人たちがくつろげる場所を。
お客さんのプライバシーや、コロナ禍で人と接することに不安を覚える人の安心・安全を守るため、完全紹介制にしました。

「〇〇さん、こんにちは!」
「今日はこのワインがオススメですよ」

まるで家族のように笑顔で出迎えるオルズグルさんは、今日も訪れるお客さんから、“オルちゃん”という愛称で親しまれています。

オリンピック200日前セレモニー・母国ウズベキスタン共和国のKIMONO姿

関連記事を読む