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【対談】映画作家 河瀨直美さん×着物家 伊藤仁美さん ――着物はひとりで着るものじゃない。

【対談】映画作家 河瀨直美さん×着物家 伊藤仁美さん ――着物はひとりで着るものじゃない。

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過日、建仁寺塔頭両足院で映像作家・河瀨直美さんと伊藤姉弟との対談が行われました。副住職である伊藤東凌さんからバトンを受け取ったのは、姉の伊藤仁美さん。生まれ育った場所で、念願だった河瀨監督との顔合わせが叶いました。着物家である仁美さんとの対談テーマは、ずばり「着物」。その魅力や文化について、想いの籠った語りが重ねられました。

2025.07.30

インタビュー

【対談】映画作家 河瀨直美さん×両足院副住職 伊藤東凌さん ―「対話」は、愛。

涼感あふれる夏の装いへ託した想い

――まずは、本日のおふたりの装いについてお聞かせください。

2ショット

生まれ育った両足院で、朗らかな表情と凛とした佇まいで河瀨監督を出迎えた仁美さんは、現在東京暮らし。着物家として活動されています

伊藤仁美(以下、仁美さん私の中では、監督は、クラフト感のあるものを好んでお召しになられるイメージがあるので、対比が生まれるようなつるっとした、京都らしい染めのものを選びました。

お着物って調和が大事で、ひとりだけで完結するものじゃないと思っているんです。だから、お話しをする上で、監督をはじめ、(スタッフの)みなさんにとって目にも愉しい組み合わせになるかな、と。

仁美さん

ヘアは、引き算したくくり髪で。「ラフに心を解放してお話したくて、かしこまらない気軽なヘアセットにしました」(仁美さん)

仁美さん:本当に今日を愉しみにしていたので、その喜びを帯の勝虫で表現しました。前にしか進めない縁起のいい柄に、この対談が自分に変化をもたらしてくれる予感めいた気持ちを込めました。

2021.02.12

インタビュー

着物家 enso主宰 伊藤仁美さん

河瀨直美監督(以下、監督):監督業で世界中を飛び回っていると、なかなか着物を着る時間や場をもつことができなくて……50歳になったら機会をつくりたいと思っていたんですね。そんなとき、お誕生日に紅型の反物をいただいたことがきっかけで、産地での伝統的なものづくりを意識するようになりました。

奄美で撮った映画(『2つ目の窓』2014年/アスミック・エース)がカンヌで選ばれたときも、大島紬を着ていきました。大島はフォーマルじゃないって言われますが、外国の人たちからとったらどれも「KIMONO」。

褒められることも多くて、さらに着物の価値や魅力に感じ入って。そういった経験から、自分へのご褒美として、一つひとつ集めていこうかなと思うようになりました。今日はその中から、能登の上布をセレクトしました。

河瀨監督

この日、「一年に一度か二度しか袖を通す機会がない夏着物」の出番を全身で愉しんでいた河瀨監督

2025.01.02

インタビュー

「対話」を通して分断を超えたい― 映画作家 河瀨直美さん(前編)

映画『殯の森』の製作裏話

――能登の地震は、現地でのものづくりにとっても大きな打撃だったと思います。

監督:能登上布の工房はもう一軒残すのみ。細々と長らく受け継いできたものが壊れ、それを復興するには100年かかるかもしれません。何もなくても途絶えそうだからこそ、私たち世代が着ないと。同世代の頑張っている人たちを応援する意味でも、普段から着物を着ることを大事にしたいですね。仁美さんも、そういう気持ちで活動されてるのかな。

仁美さん:お寺に生まれて、祖父や父が衣を一日に何度も着替える姿を見ながら育ちました。作務衣で庭掃除をして、袈裟でお勤めをした後は、また違う衣に着替えるといったように、何をするか、どこへ行くかで身にまとうものを選ぶんですね。それって、覚悟やスタンスの表れであり、おもてなしの心なんだなぁって。

それが着る物に興味をもった源流だと思います。だけど、20代半ば頃に、自分ひとりではきちんと着られないことに気づいて……そこから20年、ずっと着物に魅せられています。

対談風景

――仁美さんにとって印象的な河瀨作品は何ですか?

仁美さん:もがりの森』(2007年/組画)ですね。最初に観た監督の作品で、ひどく感動したのを憶えています。名もなき日常の情景をものすごく美しく描かれていることに感激したんです。何気ないところに本当の美しさがあるってことに、改めて気づかせてもらいました。撮ってらっしゃったときは、そういうことを意識されていたんでしょうか。

監督:あのときは、2歳の息子の育児と92歳の養母の介護の両方に追われていたんですね。

妊娠が判って出産して、泣く泣く子どもを保育園に預けて。もっと一緒にいたいという気持ちはあったけれど、3年間セーブしていたこともあって、とにかく映画が撮りたくて。

河瀨監督

監督:ちょうどその頃、養母が認知症を患い始めたこともあって、認知症の男性が亡き妻のお墓を探すという、たったそれだけのシンプルな筋書きにしました。彼女を独りにしておけない、でも撮りたい。現場へ養母を連れていって、グループホームのシーンには彼女も出演しています。

仁美さん:そのような状況で撮影されていたとは、想像もしていませんでした。日常とクリエイティブのバランスって、どう取られていたんですか?

監督:日常とクリエイティブを上手く分けられなくて、ごはんを準備することもままならない。そうすると、近所に住む恩師の奥様が差し入れをしてくださったり。お金を渡すのも失礼な話だし、でもお礼ができないことを気に病んでいたら、彼女から「自分たちがいなくなった後に、私が今していることを、直美ちゃんが私らの孫にしてあげて」と言われたんです。その言葉にすごく学びました。

仁美さん:恩送り、ですね。

2025.07.18

インタビュー

幸福学研究者 前野隆司さん(前編)「温故知新ー日本の美と健康を巡るー」vol.3

監督:『殯の森』を撮ったことで、できないことって自分で決めちゃってるんだなと気づかされました。周りにどれだけ迷惑をかけようとも、「お願い!」って言いながら助けを求めて、ちょっとずつフォローしてもらって完成した映画だったので、カンヌでグランプリをいただけて本当にうれしかったですね。3歳の息子を膝にのせて公式上映を観たのも、いまとなってはいい思い出です。彼は忘れてるでしょうけど(笑)

没頭できる何かでストレスを吹き飛ばす

対談風景

――和裁もされる監督ですが、ご多忙を極めるなかでどうやって趣味の時間を捻出されているのでしょうか。

監督:和裁はもう、楽しくてしょうがない。やったらやっただけできるのが最大の魅力かな。あとは、ガーデニングも大好き。グリーンはずぅぅっといじってられます(笑)

仁美さん:素敵ですね!

監督:玄関や床の間に花がないと嫌なんです。でも、夏場は部屋が暑くてすぐ花が萎れちゃうので、最近は盆栽ええなぁと思ってます。家庭菜園がやりたくて、家の横の庭を買っちゃいました。いま夏野菜を育てています。料理も好きで、やったらやっただけ結果の出ることって、ストレス発散になるんですよね。

盆栽

対談中、監督が興味津々だった盆栽がこちら

監督:対して、映画って時間もかかるしお金もかかる。かけた分、返ってくるかといえば、それは分からない。そういったストレスを、和裁やグリーンや料理といった手触りのあるもので発散してます。仁美さんは何かありますか、ストレス解消法。

仁美さん:私も没頭できるものが好きですね。いろいろ考えなくて、それだけやっていればいいもの。実は私、30年間ペーパードライバーだったんですが、最近また運転を始めて。すっごく楽しいです!

監督:運転、いいですよね。

仁美さん:世界が広がるかんじがしています。

2025.04.13

インタビュー

和裁で日本から世界救う!と、本気で願う。 映画作家 河瀨直美さん(後編)

監督の憧れは、”惑わす女”?!

仁美さん:監督の作品には日本特有の美しさが描かれていると感じるんですが、監督の考える「日本的な美」はどういうものですか?

監督:『あん』(2015年/エレファントハウス)で樹木希林さんが演じてくださった老女に代表されるような、日の目を見ないけれどユーモアがあって、陰ながら誰かを支えている存在でしょうか。肝心なのは、引き際。相手を立てて、ときに引いて、控えて、慮るといったことは、世界を熟知していないとできないんですよね。

仁美さん:そうですね、それ相応の覚悟がいりますよね。

河瀨監督

監督:だから、私のなかで光明皇后と峰不二子は永遠の憧れです。

仁美さん:面白いですね!

――光明皇后の偉業は素晴らしいですが、峰不二子はどういったところが??

仁美さん:(笑)

監督:ルパンを惑わすくらい魅力があり、チャーミングなところが。

――監督、ルパン推しなんですね。

監督:彼は、やっぱりすべてにおいて主役級なんでねぇ。ふ~じこちゃ~んって言いながら、もっていくところは絶対もっていく(笑)

――(監督と峰不二子は)イメージ、近い気もしますが……。

監督:(強気な顔で)峰不二子って言われることは割とあります。

一同:(笑)

2025.07.17

インタビュー

【対談】映画作家 河瀨直美さん × 東大寺塔頭宝珠院住職夫人 着付士 佐保山素子さん ―語り尽くせぬ、奈良への愛。

無理なく、心地よく。着物を愉しもう!

――話を少し戻しまして……引き算によって相手を立てる、場を慮るといった考え方は、着物にも通じるところがあるかと思いますが。

仁美さん:言葉にできないことをラブレターのようにしてギフトできるチャンスが、”装い”だと思います。お会いする方の好きそうな色を着ていくとか、お好みのモチーフの何かを身につけるとか。そういったことで喜んでいただくといったことを、恥ずかしげもなくできるのは、お洋服よりもお着物の方が体現しやすいのではないでしょうか。

仁美さん

仁美さん:これまで拝見した中で最も印象に残っているのは、江戸時代の打掛。表には梅の蕾が描かれていて、裏の八掛が満開で。脱がないと分からない、見えないところに花を咲かせるという心意気に美しさを感じました。そういう和装ならではの遊び心って、すごく素敵ですよね。

監督:今日は物語のある着物を2枚用意してきていて、最後の最後まで悩んだんだけど。撮影の準備中にお庭に出てみたら、半夏生が満開で、風がすっと通っていって。お座敷には藍のアート作品が展示されていて。それらが揃うって、奇跡的な出合い。この場にあるもの、この場がもっているもの、それは空気だったり光だったり……。そういったものに寄り添って着るものを決めることができるのは、着物の魅力のひとつ。

先ほど着物はひとりで着るものじゃないっておっしゃってた通り、一緒に場を共有する人を思いながら、まとうものの質感や色目なども考えながら、できるだけ涼しげに見えるように意識しました。

仁美さん:こんなに暑いのに涼しげに見えるって、着物ならではですね。

2025.07.04

よみもの

葉月、マイナスを美に変える夏小物 「現代衣歳時記」vol.7

監督:この生活に根づいた寄り添い方は、海外の方にはなかなか伝わらない感覚かも。とくに京都や奈良では、日差しさえまとうものとコラボレーションする美しい瞬間を身近に感じます。

仁美さん:音や香りなんかも含めた自然とのセッションによって着こなしを考えるって、日本らしいあり方だと思います。

監督:こういうところで生まれて育たはったんですねぇ……。

仁美さん:襖越しに衣擦れの音や足音なんかを聞きながら育ったことが、いまの生地が好きな自分に繋がっているのかもしれません。

監督:しきたりやルールが厳しいイメージもありますが、昨今の着物警察についてはどうですか? 彼女たちもこの暑さで、以前ほど細かいことを言わなくなった気がするけど。

2025.07.05

インタビュー

”着物警察”から”着物サポーター”へ 「3兄弟母、時々きもの」vol.18

仁美さん:「道」とつく場所ではある程度守るべきものがあるとは思いますが、愉しむために着るのであれば、無理して着るよりもご自身の心地よさを大事にしてほしいですね。季節の移り変わりと共に、グラデーションでいい気がしています。

――愉しむ着物は自由に、心地よく。おふたりが心のままにまとう装いは、それぞれの人となりも体現していました。まだまだ残暑厳しいなか、みなさんもどうか無理なく着物ライフをお過ごしください。

ご案内

なら国際映画祭 for Youth 2025開幕に向けて参加者募集中!

なら国際映画祭

2010 年になら国際映画祭を発足してから15年。
偶数年度は本祭を開幕しておりますが、 今年の2025年度は学生たちが主役となるユースシネマプロジェクトを軸に映画祭を開幕いたします。

・「映画を創る」ユース映画制作ワークショップ
・「映画を観る」ユース映画審査員
・「映画魅せる」ユースシネマインターンの3つのプログラムを展開します。

開催に先駆けて、夏休み企画として、【ユース映画制作ワークショップ】を実施し、 開催期間中は【ユース映画審査員】【ユースシネマインターン】を実施しており、 このプロジェクトと若き表現者の参加を募集しています。

>>詳しくは応募要項をご覧ください → https://nara-iff.jp/news/3309/

【ユース映画制作ワークショップ】 ※13歳~18歳対象
「大人が口出ししない」をモットーに、奈良の自然や歴史ある場所を舞台に、 映画制作を1から体験できる1週間のワークショップが開催されます。
企画・撮影・編集・上映までを映画作家・河瀨直美さんや現役の映画監督、映画祭スタッフと共に、 自分たちだけの映画づくりが体験できる。

【ユース映画審査員】 ※15歳~23歳対象
世界の映画作品をじっくりと鑑賞し、自分の感性で「最優秀作品」を選び、審査するプログラム。
ベルリン国際映画祭やショートショート フィルムフェスティバル & アジアの推薦作品を鑑賞し、意見を交わしながら審査を行う。
最終的には、実際の映画祭の舞台で作品発表も行う貴重な機会。

【ユースシネマインターン】 ※13歳~23歳対象
YouTube や SNSが身近な今だからこそ、「映画祭をどう伝えるか?」という課題に、学生の皆さんが自由な発想で発信していくプログラム。
装飾制作、SNS発信、会場運営など、映画祭のPRや広報・運営に関わりながら、 映画祭を魅せる戦略を一緒に計画し、「観る側」から「つくる側」として映画祭に関わる貴重な体験ができる。

3つの魅力あるプログラムに興味のある方、映画が大好きな方はぜひ、募集フォームからエントリーお願いいたします。
>>募集フォームはこちら→https://forms.gle/Lrztp1bC7F9sSCRw9

映画祭を通じて、新しい出会いの場に参加しませんか?
ご応募お待ちしております。

なら国際映画祭

なら国際映画祭実行委員会

お問い合わせ→info@nara-iff.jp
公式サイト→https://nara-iff.jp/

取材・構成/椿屋
撮影/松村シナ
撮影協力/建仁寺塔頭 両足院

2025.02.11

インタビュー

【対談】映画作家 河瀨直美さん × 能楽師 田中春奈さん ―世界平和のため、家内安全を願う。

2025.05.12

よみもの

奈良×沖縄によるケミストリー。映画作家 河瀨直美さんの愛用品

2025.07.18

よみもの

櫻井焙茶研究所所長 櫻井真也さん(前編)「温故知新ー日本の美と健康を巡るー」vol.1

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