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【対談】語り尽くせぬ、奈良への愛。映画作家 河瀨直美さん × 東大寺塔頭宝珠院住職夫人 着付士 佐保山素子さん

【対談】語り尽くせぬ、奈良への愛。映画作家 河瀨直美さん × 東大寺塔頭宝珠院住職夫人 着付士 佐保山素子さん

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東大寺塔頭宝珠院で行われた映画作家・河瀨直美監督のインタビュー取材。今回は、監督が着物沼に足を踏み入れるきっかけとなった着付士・佐保山素子さんとの対談をお届けします。

2025.02.11

インタビュー

【対談】映画作家 河瀨直美さん × 能楽師 田中春奈さん ―世界平和のため、家内安全を願う。

出逢いは界隈で人気のタイ料理店

佐保山素子さんと河瀨監督

ロケ地として通常非公開の東大寺塔頭宝珠院をお借りできたのは、住職夫人である佐保山素子さんと河瀨監督のご縁によるものでした。

まずは、監督の着付けの先生でもある佐保山さんのご紹介から。

佐保山さん着姿

年の半分以上を着物で過ごす佐保山さん。「肌に触れるところが気持ちいいのが着物の魅力」とのこと

この日の彼女のお召し物は、統一感のある同色コーデ。着物は東大寺初代別当・良弁上人の厨子に描かれた散華をモチーフに誂えた付下げ。

「2024年の良弁上人1250年御遠忌法要にて、幼稚園の息子の稚児行列の付き添いを務める際に着用するために誂えました。下絵の段階から呉服屋さんを通じて職人さんと何度もやり取りを重ね、蓮の花びらが舞う意匠を表現していただきました。地色も厳選し、こだわりの一枚に仕上がったと思います」

と佐保山さん。

佐保山さん帯回り

着物の柄とリンクさせた淡い色合いの帯揚げに対する帯締めは濃茶。全体のやわらかい雰囲気をきゅっと締めた組み合わせ

愛知県に生まれ、奈良女子大学進学を機に奈良へ移住した佐保山さん。卒業後はそのまま奈良で就職し、東大寺塔頭宝珠院の住職を務める佐保山家に嫁ぐことに。第2子出産後、2018年から着付士として活動を始め、奈良から着物の魅力を発信し続けています。

河瀨監督との出逢いは、彼女が働いていたタイ料理店「RAhOTSU(ラホツ)」でした。

河瀨直美監督(以下、監督):もっちゃんはラホツの看板娘で、あらゆる男性を魅了していました(笑)。第一印象は、“しっかりしたキレイな人”でした。

しばらく会えてない時期もあったけど、奈良ならではのご縁もあって、オクトーバーフェストですれ違ったり、ギャラリーで偶然会ったり。どっか行くと会うよね(笑)。もっちゃんは、約束してなくても会える人。

監督は「強い着物を着こなせる人」

――佐保山さんから見た河瀨監督って、どんな方ですか?

佐保山素子さん(以下、佐保山):昔から言ってることが変わってないな、という印象です。「後世に遺したい」「子どものために」というようなことをずっと言ってて、そのために動き続けていますよね。着物に関して言えば、“強いものをすんなり着こなせる人”です。

監督:2022年にもっちゃんが自装の着付け教室を始めるって聞いて、習われませんか?って訊かれたから、行く!って。5回でマスターできると謳っていたので、仕事の合間を縫って、それなら何とかなるかも?と。

佐保山:それでも忙し過ぎて時間がつくれなくて、レッスン後3日で覚えはりましたよね。その後はYouTubeで復習を重ねて……。着物でのお仕事のときには直前に寄ってくれはるので、ご自身で着るのを見守ってます。

2ショット

佐保山:今日のコーディネートも本当に素敵です。

監督:足袋は誂えで、草履は「祇園ない藤」。

佐保山:そこに形見の着物とネットで買った帯。絶妙なバランスですよね!すべてをオーダーで揃えなくても、程よい抜け感があって、組み合わせの妙が光ります。まさに監督ならではのセンスですよね。

以前、お茶のお師匠さんが亡くなられたときに譲り受けた着物があった際も、黒地に竹がすーっと描かれた着物があって、誰が着るの!ってなったんですけど、監督なら似合う!!ってなったことも。インパクトや存在感のある着物を着こなせるのは、さすがです。

対談風景

不思議と縁が繋がっていく奈良の力

――監督と佐保山さんは共通のお知り合いも多そうですね。

監督:奈良ってまちは、芋づる式にご縁が繋がっていく場所なんですよ(笑)。仏さまの世界を描く会に呼ばれたり、宮廷文化を学ぶ会に誘われたり。

そういったところで和文化の道を極めている人たちと会って、近況報告をして。和を身近に感じるようになりました。いろんなものを奪ったコロナの期間が、皮肉にもゆっくりと自分と向き合う時間をもたらしたのは事実です。

佐保山:監督が周囲の人たちを巻き込んでいくというか、旗振り役なんですよね。映画からの印象だと、強いイメージというか……

ストイックで小難しそうって思う人も多いかもしれませんが、実は優しいし、あったかい。マメだし。皆会ったら好きになっちゃうんですよ。以前、知人の茶農家さんが「心地よい迷惑をかけられてる」って言ってたことがあって、なるほどなぁ!と。

監督:そんなに振り回してないでしょ(笑)。

対談風景

佐保山:10年以上前に長らく放置されていた田んぼの整理を始めて、収穫祭を開くまでになったんですが、それも軌道に乗ったら信頼できる人に任せてしまう。

いまやその日を目掛けて県外に出ている若者たちが帰ってきたり、地域に暮らす年輩の人たちのモチベーションになってたりという、年に1度ハイキングをする会も、『萌の朱雀』のロケ地である西吉野町平雄地区で開催されており、監督発信で始まって10年続くイベントになっています。その運営も得意な人に投げて、監督自身は次に何をやるかを常に考えてるようなかんじですよね。

監督:それもこれも、奈良という土地が秘める力があるから。余所にはない“あたり前”がたくさんあるのも、奈良のいいところです。

佐保山:繋がりの話の中にいる安心感が、奈良の魅力だと思います。

対談風景

ご案内

「Dialogue Theater - いのちのあかし - 」対話者募集中

©Chiyoe Sugita

現在、河瀨直美監督が手掛けるシグネチャーパビリオン「Dialogue Theater - いのちのあかし - 」では、3期(2025年8月17日~10月13日)出演者の応募を受け付けています。

対話者本人はもちろん、それを目撃する人々にとっても驚きや気づきのある、生き生きとした対話が実現できる対話者を育成するプロジェクトです。

オーディション合格者は、河瀨監督の映画づくりにおけるメソッドを通して、監督本人が直々にレクチャーするワークショップにも参加できますので、ぜひ挑戦してみてください。

「Dialogue Theater - いのちのあかし - 」対話者募集サイト
https://expo2025-inochinoakashi.com/interlocutors/
「Dialogue Theater - いのちのあかし - 」公式サイト
https://expo2025-inochinoakashi.com/

取材・構成/椿屋
撮影/松村シナ

2025.01.02

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