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世界でも類稀なる”布天国”、日本!【着物研究家 シーラ・クリフさん】(後編)「着物ひろこが会いに行く!憧れのキモノビト」vol.4

世界でも類稀なる”布天国”、日本!【着物研究家 シーラ・クリフさん】(後編)「着物ひろこが会いに行く!憧れのキモノビト」vol.4

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海外での着物生活を送った後、2024年に帰国して日本での活動を始めた”着物ひろこ”こと長谷川普子さんが憧れの人に会いに行く連載。第二回のゲストは、イギリス・ブリストル出身の着物研究家、シーラ・クリフさん。海外の目線で見た着物の魅力とは?

2025.03.25

よみもの

イギリスから、着物に一目惚れ! 【着物研究家 シーラ・クリフさん】(前編)「着物ひろこが会いに行く!憧れのキモノビト」vol.3

着物研究家 シーラ・クリフさん

”着物ひろこ”こと長谷川普子さんと、着物研究家のシーラ・クリフさんによる対談後編。

シーラさんプロフィール画像

シーラ・クリフ

1961年生まれ、イギリス出身。ほぼ365日着物生活。十文字学園女子大学名誉教授。1983年にイギリスのロンドン大学を卒業し、1985年に来日。2002年には、民族衣裳文化普及協会から「きもの文化普及賞」を受賞。著書に『Sheila Kimono Style』(東海教育研究所刊)。

シーラさんはこれまで、大学で着物について教える傍ら、さまざまな織物の産地に足を運びながら研究を続けてきました。

着物関連の書籍は、共著を含めて5冊も出版。丹後織物工業組合のアンバサダーとしても活動されています。

一気に春爛漫な着物コーディネートが大好評だった前編に続きまして今回は……

海外での経験を通じて二人が感じる、「着物」というテキスタイル文化の深さについて語っていただきました!

日本ほど「布地の種類が豊富な国」を他に知らない

着物ひろこ(以下、ひろこ):シーラさんは、どうしてここまで着物に惹かれたんでしょうか。

柄やテキスタイル? それとも文化?

シーラ・クリフ(以下、シーラ):最初はテキスタイルからですね。洋服はどんどんポリエステルになっていくけれど、着物だと絹で美しいものがたくさんあります。「こんなに魅力的なことってあるの?」と最初に驚いたのを今も覚えています。

ひろこ:うれしい!着物は日本人の「民族衣装」ですが、それを現代でも普段着として着られるものって、世界的にも少ないと思うんです。

私、一時期インドにしょっちゅう行っていたんですが、インドのサリーも減ってきている気がします。でも日本だと、日本に住んでいる海外の方も着物を着ることがありますよね。それくらい、魅力があるのかな、と思っています。

シーラ:私の母国は民族衣装が少ないんです。

スコットランドやウェールズにはあるけれど、彼らはイギリスに対して「私たちはイギリス人ではない」という意志があって、イギリスと区別したいからこそウェールズの大きなスカートや帽子、赤いショールを纏う文化が残っている、という印象です。

ひろこ:なくなってきたものへの郷愁、というのもあるんでしょうね。今残っている日本の文化に対しても、何か感じられたりしますでしょうか。

シーラ:私は本当に、日本の布の文化が素晴らしいと思うんです。

以前、ウズベキスタンに行ったのですが、そこでは「縦絣」「金属刺繍」「スサニ刺繍」の3種類がありました。バリに行ったら、「更紗」と「イカット」と呼ばれる横絣の2種類。

それに比べて日本は50〜100種類のテキスタイルがあります。他にそんな国ってあるのかしら?と考えたときに、思い当たるところがなくて。織りと染めだけでもバリエーションがあるのに、それらの糸も、絹糸から綿糸、麻、芭蕉までさまざまにあります。

シーラ:これは本当にすごいことだから、日本人にもっともっとわかってほしい!と思っています。着物は日本のファッションだから、私は「借りている」という気持ちで着ています。

ひろこ:そういえば、台湾にも民族衣装がないんです。統治されていた時代があって『チーパオ』と呼ばれるいわゆるチャイナドレスのようなものもありますが、それは蒋介石の奥さまが台湾に持ち込んだもの。漢服も実は文献などが残っておらず、想像上で作っているものだと言われています。

それに比べて、これほどまでに多様で、かつ生活に根付いている衣服文化があるというのは、日本のすごさなのかもしれません。

シーラ:日本人が着物を着たら、自分の国やアイデンティティといったものを服装で表現できますからね!

ひろこ:国内で「すごいんだよ」と言われてもそれほど実感できない魅力を、海外の方から言ってもらってはじめてハッとする……外からの評価で再確認することが多い気がします。一人一人が「やっぱりすごかったんだ!」と自信を取り戻す感覚を持ってくれたらなぁ、と思います。

大学で教えてこそわかる、若い人たちの着物への熱意

ひろこ:シーラさんは長く大学で教鞭をとっておられますよね。どんなことを教えていらっしゃるのでしょうか。

シーラ:今は引退したので、着付けを教える4日間のワークショップを主に行っています。みんなすごく一生懸命に練習してくれますし、卒業して着物業界に勤めはじめた子もいるんですよ。

ひろこ:それは素晴らしい!

シーラ:以前は「着物文化」のコースを立ち上げて、平安時代の着物から江戸時代までの社会的な変化が着物に及ぼした影響、さらには大正明治、近代化の時代の着物についてなど、歴史的なことも教えていました。

あとは、ものづくりについても。絹とはどういうものなのか、糸をどうやって作っているのか。染め織りの職人さんを紹介したり、紬をつくるのがどう大変なのかを見せたり。

そこから、コーディネートについても授業に取り入れていましたね。帯の種類を見せながら、どんな着物が合うのかなど。学生さんは、振袖くらいはわかるけれど、留袖と小紋の違いも最初は分からない状態ですから。

ひろこ:興味を持ってくださる生徒さんも多そうですね。

シーラ:そうなんです。毎年70人以上が受講を希望してくれて、普通の教室では入りきれないため、大教室で教えていました。

30年間同じ大学に勤めていましたが、最初に入ったときは卒業式の服装が、全員リクルートスーツだったんです!年によって黒だったり、グレーだったり、淡いパステルカラーだったりしたものの、卒業式で着物が見られるようになったのはここ15年くらいでしょうか。

ひろこ:意外です!私は昭和40年代の生まれですが、その頃は夏にお祭りへ行くときには浴衣を着て、お正月には晴れ着を着てお屠蘇を飲んで、というのをギリギリやっていた年代。お見合いのときにも着物を着る世代でした。

シーラ:私が1985年に日本に来た頃は、たしかにときどき街中で着物の人を見かけました。でもそれは結婚式に行く人と、お花かお茶のお稽古に行く人ばかり。あとは、おばあちゃんが早朝、着物で家の前を掃除している景色など。若い人が好きで着物を着る、という場面はあまり多くなかったと思います。

ひろこ:どうして最近になって、卒業式に着物を着る若い人が増えたのだと思われますか。

シーラ:ハレの場で着物を着る若い人が増えたことが大きいと思います。

ひろこ:たしかに、YouTubeやインスタで着姿を上げる人も増えてきましたもんね。着物ってこんなに素敵!チャーミング!と思ってくださる人が、けん引してくれているのかもしれません。

50人の着物箪笥を開いて見えてきたもの

ひろこ:着物というものにこれだけ向き合ってきたシーラさんが「これからやってみたいこと」はどんなことなのでしょう。

シーラ:実はもうすでに、50人の方々にご自身の着物箪笥をみせてもらっているんです。

ひろこ:50人!すごい!

シーラ:お一人おひとりに頼んで、何があるか、どうやって保存して、どうやって修理をしているのかを見せてもらいました。一竿ずつの箪笥をじっくり時間をかけて開いていったので、4年くらいかかりましたね。

これを本にして伝えたいというのが今一番やりたいことなのだけど、どうやったら実現できるんだろう?と考えています。なにしろ、ボリュームがすごく多いので(笑)。

ひろこ:シーラさんとお話ししていると、着物で周囲をインスパイアしよう!という思いが常に根底にあるんだな、と感じます。

シーラ:ありがとうございます。まさにそうなんです。そう思い始めたのは、多分最初のスタイルブックを出した2018年ごろから。

「古いものを使ってもいいし、自分がもともと持っていたバッグやイヤリングを使ってもいいよ。気楽に楽しくいきましょう」

と思っていました。

シーラ:洋服は無地なものが増えていて、色も、黒やベージュが多い気がします。

着物もその影響を受けてか、すごく地味になってきているようにも感じています。でも、もっと四季を伝えるものがあってもいいですよね。

シーラ:大正や昭和には、もっと楽しく、みんなが鮮やかな色で、大きな模様で、大胆な柄を着ていたと思います。きっと今の人は、派手なものを着るのに慣れていないのかも。

ひろこ:たしかに。目立つよりも「和」や「溶け込む」ことを大事にする感覚が今の日本人の中にはあるのかもしれません。私自身も、今日はシーラさんのイメージに合わせて明るい色を選びましたが、普段は東京の街に馴染むような落ち着いた色を選ぶことが多いです。

だからこそ、華やかな色柄を躊躇なく「美しいから」と纏って楽しんでいらっしゃるシーラさんに魅了されている気がします。今お召しになっている羽織も鮮やかで素敵ですよね。

シーラ:これは銘仙で、森と橋が描かれているんです。橋の形状は日本っぽいけれど、ここにピンクを使っているのが面白くて。

ひろこ:森の描き方が印象派のような雰囲気なのも珍しいですね。

シーラ:コーディネートを考える時間って、すごく楽しいんです!きっと、ファッションが好きな人がこれから着物に出会ったら、きっとハマっちゃうはず。

ひろこ:わかります!

今日シーラさんとお話しして、日本人の私やこれから着物を着る人にとって、誇りを持てる「着物」というものが日常にあるってとてもうれしいことだな、とあらためて感じました。

シーラさん、ありがとうございました!

構成・文/山本梨央
撮影/伊藤圭

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