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譲るだけでなく、一緒に。 ~夢訪庵・桝蔵順彦氏の世界~「帯に宿る、わたしだけの物語」vol.9

譲るだけでなく、一緒に。 ~夢訪庵・桝蔵順彦氏の世界~「帯に宿る、わたしだけの物語」vol.9

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草木染め、手機という伝統に最大の敬意を払いながら、さらに立ち止まることなく、さまざまな織組織と図案を発表し続ける夢訪庵。そして唯一無二のその美に魅了される、感度の高い女性たち。両者が出会った瞬間、多くの物語が生まれます。この連載では、無限に広がる「帯とわたし」の物語をお届けします。

2025.03.03

よみもの

”きもの好き”だから出会えた。 ~夢訪庵・桝蔵順彦氏の世界~「帯に宿る、わたしだけの物語」vol.8

世にも楽しい、ふたりの物語

今回は、大阪できものライフを楽しむ赤羽真理さんと美咲さん親子の物語です。

母から娘へきものや帯を受け継ぐという、これまでのスタイルとは少し異なるご様子。

仲睦まじく語らうお二人の姿は、ときに親友同士にも見えます。

一度離れ、再び生活の一部になったきもの

赤羽真理

赤羽真理さん

看護の専門学生時代から看護師として勤め始めてからしばらくは、寮暮らしをしていた。

その裏手にあったお寺で、お茶やお花、着付け教室があることを知ったのは、寮生活にもだいぶ慣れてきたころだったはず。

「せっかくの機会やし、行かへん?」

寮の仲間に誘われるまま、着付け教室へ通うことになった。

きものが着られるようになるとそれが嬉しくて、今度はきものを着る機会を増やそうとお茶やお花の教室へも通い始めた。

この経験は、私にとって和の文化を学ぶ素晴らしい時間だったと思う。

赤羽真理さん後ろ

夢訪庵『瑞雲』

その後、結婚をきっかけに離職してからは、子育てメインの生活に。慌ただしい日々を送っていて、きものどころではなかった。

けれど、子どもが成長するに従って、自分の時間が作れるようになっていた。

そんな折、今から6年前のこと、4番目の息子が卒業式と入学式を迎えることに。きもので参列したことがきっかけで、再びきものを着て出かけるようになった。

月に一度のお出かけは、いつしか週末ごとのお楽しみに。

きものを着ることが私にとって、もっとも楽しい時間になっていた。

「きもの着て、美味しいもの食べに行かへん?」

娘の美咲がきものを着るきっかけを作ったのは私。確か3年ほど前だったはず。はじめ彼女は、きものに対して苦手意識を持っていたように思う。

当時美咲は21歳で、まだまだ洋服に興味がある年ごろでもあった。けれど、娘と一緒にきもので出かけたい。母親なら誰もが思うことではないだろうか。

「きもの着て、美味しいものでも食べに行かへん?」

「きものは苦しいから嫌やなぁ」

と言いながらも、美味しいものに目がない娘。話題のレストランへ行くならと、誘いに乗ってくれた。

赤羽美咲さん

二人で京都へ。赤羽美咲さん/写真提供:赤羽真理さん

そしてこの「美味しいもん作戦」を何度か重ねるうちに、きものを着ることも楽しくなったようで、

「お母さん、明日はこんな髪型してみたいんやけど」

「これ紬って言うんや。きものってこんなんあるんや〜」

「お母さん、この紬、こんな風に着たら可愛いんちゃう?」

「きものって可愛いなぁ」

と言い始めた。

以来、食事、旅行、コンサート……京都まで足を延ばして『京をどり』、そしてきもの愛好家が集う産地巡りやきものでのおでかけイベントにも、ふたりで行った。

私がきものを着始めたころに買ったきものは今、彼女が着ている。

私はそれを見るのがたまらなく愛おしく、嬉しい。

娘の鶴のひと声が、新たな発見に

きものを着るようになると、やはり彼女なりの好みがあるようで、呉服屋さんへも一緒に行くようになった。

「2024夢訪庵展 代官山」にて。

「2024夢訪庵展 代官山」にて。赤羽美咲さん

「これ、ええなあと思う」

鶴のひと声とはまさにこのこと。彼女がきものに興味を持ってくれたことが嬉しくて、つい財布の紐も緩む。

そしてうまいことに、私にも似合うからと言ってくる。

「でもお母さんには可愛いすぎやしない?」

「お母さん、そんなことない。当ててみて〜。よお、似合ってるわぁ」

後日、仕立て上がったきものが届くと、

「美咲のきものが届いた〜」

と、半ば冗談交じりで言っている。

大抵きものは、祖母から母、そして娘へと代々譲り受けられるもの。けれど私たちは少し異なる。

私のきものを美咲が、そして彼女が選んだきものを私が、といった具合に一緒に楽しんでいる。

だから、私たちのきものクローゼットは一緒。その日に着たいもの、好きなものをそこから選ぶ。

きものも帯も。そして小物類もすべて。

そして彼女が選んだきものや帯がクローゼットに加わったことで、私にとってそれが刺激となり、新しい自分に気づかせてくれるヒントになっている。

2023.02.21

よみもの

はじめての誂え着物で銀座ランチ 「親子できもの日和」vol.1

女性らしさをきものから学ぶ娘

きもの姿の娘を見て、大人になったな、女性になったなと感じることがある。食事中にご飯を取り分けたり箸を持つ仕草や、電車内の吊り革の持ち方が優雅になったのだ。

直接教えた覚えはない。きっときものを着る女性を見て覚えたのだろう。

赤羽美咲さん

赤羽美咲さん

2024.01.06

まなぶ

振袖の所作を学びましょう|着物での美しい立ち方、歩き方、しぐさの基本

それから、家のこともよく手伝ってくれるようになった。

私がキッチンに立っていると、

「手伝おうか〜」

と言って、一緒に食事の支度をしてくれるようになった。

「2024夢訪庵展 代官山」にて。

「2024夢訪庵展 代官山」にて。赤羽真理さん

私がきものの整理をしている時も、隣に座り、きものを畳んだり、帯揚げの収納を整理してくれる。

「この帯揚げの色、綺麗やなぁ。今度使いたい」

「お母さん、この帯買うたん? 可愛いなぁ」

そこでまた女子トークが始まる。出かけることと同じように、ふたりで箪笥に向き合うこの時間も楽しみの一つになっている。

成長の過程では反抗期もあったけれど、娘とはもともと仲のいい関係を築いていたと思う。

それでも、きものという共通の「好き」が生まれたことで、より一層仲が良くなれたと思うし、娘との、豊かな時間を過ごすことができている。

「二人とも、よう似合うとるな」

我が家の男性陣は、私たちのきものライフを快く思ってくれているようだ。夫も、そして3人の息子たちも。

27歳になった長男は、私がきものを着ていると、

「きものって、ええなぁ。お母さんはずっと長いこと、きものを着てるやんな。それもすごいなぁ」

「2024夢訪庵展 代官山」にて

写真提供:赤羽真理さん

そして友人に、私のきもの姿の画像を見せて自慢をしたと、教えてくれた。

夫も、私がきものを着るととても嬉しそう。

赤羽真理さん

以前、出かける準備を洋服でしていると、

「今日はきもので行かへんの?」

と聞いてきた。以来、夫との外出はきものを着るようになった。

「いい色やね」

「ええ組み合わせやな」

いつもは言わないその言葉に、本音だということが伝わってくる。

先日、主人の誕生日をお祝いするために京都のレストランへ。子どもたちが成長すると、予定が合いにくい。けれどこの日は、家族全員がそろった。

私たちのきもの姿を見て、男性陣が言ってくれた。

「二人とも、よう似合うとるな」

久しぶりに家族団欒で楽しい時間を過ごすことができた。きものは着ている私たちだけでなく、一緒にいる家族にも幸せをもたらしてくれている。

一緒に使う私たちの間を行き来する、夢訪庵の帯

「2024夢訪庵展 代官山」にて。

桝蔵先生の個展には必ず二人で行っている。先生は私たち(とくに娘かしら)がお邪魔すると、とても喜んでくださるので、美咲も先生のことが大好きな様子。

先生の作品はバラエティーに富んでいる。

日本の四季の美しさを表現した柄もあれば、パリやプラハの街並みもあれば古代エジプト文字や文様もある一方で、可愛いパンダやテディベアの柄まで多様で、展示された作品を見ているだけでも面白くて、つい長居をしてしまう。

赤羽美咲さん

とくに私は、先生の創り出す色に惹かれることが多い。織り上げられた帯の色合いが光の加減で移ろうことを初めて目にした時の衝撃と感動は忘れられない。

「細かな色の様子までは、実際に染め上がりを見るまではわからないんです。だからまったく同じ色と柄のものは作れないんです」

と、先生がおっしゃった。まさに一期一会なのだろう。

夢訪庵の帯は私に、ひと言では表現しきれない草木の神秘を教えてくれた。夢訪庵には、私たち二人が共通して素敵だと思う美がある。

撮影時に美咲さんが装った帯を翌日には真理さんがお使いに。

撮影時に美咲さんが装った帯を、翌日には真理さんが締める。「旅先には共有できるきものと帯を持って行き、翌日はチェンジします。荷物が少なくて済むんですよ」写真提供/赤羽真理さん

「お母さんのその緑の帯、次のお出かけで美咲が使いたい」

「美咲が今日締めた糸菊の帯、最終日にこのきものに合わせてみたいんやけど、どう思う?」

きものや帯を共有して楽しむ私たちの間を、行き来する。それが夢訪庵の、桝蔵先生の帯。

世代の異なる女性たちの間を、自由に、優雅に、軽やかに行き来する。

きっとこれから先も、ずっと。

2022.09.26

よみもの

⺟の祈りを帯に込めて ~夢訪庵・桝蔵順彦氏の世界~ 「帯に宿る、わたしだけの物語」vol.1

母のこと。〜From MISAKI〜

母の影響で、きものを着始めるようになりました。

始めは嫌やなと思っていたけれど、母と出かけるうちに、どんどん楽しくなりました。

洋服でのおしゃれも楽しんでいます。でも、きものを着ると明らかに気分が上がっているのが分かります。

現在は、一人暮らしをしているのですが、週末にきものを着て出かける約束があるたびに、実家に帰っています。

きもののおかげで実家に帰る頻度は増えていて、私も楽しみになっているんです。

赤羽美咲さん後ろ姿

きものを母に着せてもらった後に、鏡を見て言うんです。

「どう? 美咲可愛いやろ。今までで一番いいわぁ」

って。毎回、母に笑われています。

外出先では視線を感じることがよくあります。きものを着ている人が少ないというのもあるんやと思います。でも「素敵やなぁ」という声が聞こえてくるとやっぱり嬉しい。きものを着ると、好意的に思ってくれる人が多いんやなぁと感じます。

普段は、母のきものグループに入れてもらって、一緒にお出かけを楽しんでいますが、当然ながら母世代の方たちばかり。楽しいけれど、ちょっと寂しいなと感じるときもあります。

いつか、同世代のきもの仲間でお出かけができたらええなぁと思います。

母はきものを綺麗に着るために、日ごろからすごく努力をしています。

トルコのブルーモスク柄の帯を。

京都へのお出かけには、銀の帯芯で仕立てたトルコのブルーモスク柄の帯を。シルバーのクールな輝きを楽しむ母・真理さんの姿。写真提供/赤羽真理さん

きもののサイズを変えたくないという目的で、普段から食事に気を遣い、ヨガにも通っています。

髪の長さも、きものを着てアップスタイルにするとちょうどいい長さをキープ。美容に対する情報にも敏感だし、ネイルサロンでは、きものに合うデザインや長さにしてもらっているんです。

実際、着姿をみても、ほんまに綺麗やなと思います。

「2024夢訪庵展 代官山」にて

「美咲ちゃんのお母さん、いつも本当に綺麗やね」

こう言われると、私も嬉しい。

平日は仕事をして、帰ってきてから家族のためにご飯を作って、犬のお世話までして。そして休日はきものを着て、おしゃれをして、楽しんで。

いつも美しく優しい母は、私の自慢。理想の女性です。

モデル/赤羽真理、赤羽美咲
撮影/菅原有希子(http://yukikosugawara.com

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