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茂山千五郎家と祇園祭 「大蔵流狂言師・茂山千五郎家の365日」vol.11(最終回)

茂山千五郎家と祇園祭 「大蔵流狂言師・茂山千五郎家の365日」vol.11(最終回)

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室町時代から400年にわたって京都で狂言の普及・継承に勤めている茂山千五郎家の1年間に密着する連載も、いよいよ最終回です。装束の虫干しから始まった当連載の最後となる今回は、日本三大祭のひとつである「祇園祭」と茂山千五郎家の関わりについてご紹介します。

2025.05.27

まなぶ

千五郎家所蔵の狂言装束、大解剖! 「大蔵流狂言師・茂山千五郎家の365日」vol.10

3年連続×2回!前代未聞のお稚児歴

コンチキチンのお囃子の音色と共に、今年も祇園祭の季節がやってきました。

7月1日の神事始めである『吉符入きっぷいり』から31日の『疫神社夏越祭』まで、1か月間にわたってさまざまな行事が続きます。

中でも、最も有名なのが17日と24日に行われる山鉾巡行。そしてその巡行に欠かせない祇園祭の象徴ともいえる存在が、長刀鉾のお稚児さんです。

昔の祇園祭の様子

馬上にあるのは二世千之丞さん
写真提供:茂山狂言会事務局

茂山千五郎家では過去6回のお稚児さんを出されています。

ご当主・千五郎さんの祖父・四世千作せんさくさんが昭和3年に、続く4年と5年に連続して四世千作さんの弟・二世千之丞せんのじょうさんが、そしてさらに遡れば、おふたりの父である十一世千五郎せんごろう(三世千作)さんが8~10歳で3年連続して生き稚児を務め上げました。

四世千作さんの稚児姿

お稚児さん姿の四世千作さん(11歳)の手を引く正重さん
写真提供:茂山狂言会事務局

なんでも、現当主の代から見れば高祖父にあたる十世千五郎正重まさしげさん(二世千作)が、神社仏閣のお世話に奔走するなか、とりわけ祇園祭への想いが強く、「千五郎家からもお稚児さんを出したい」という気持ちで、能楽会の方々にも力添えを仰いだといいます。

2025.07.07

まなぶ

文月、祇園祭の思い出とともに 「未生流笹岡家元に学ぶ、華やぎあるくらし」vol.11

2025.07.06

まなぶ

毎年新調! 祇園祭・長刀鉾保存会の「浴衣」、その図案の魅力とは。

祇園祭に由来する衣装・装束を拝見!

こちらの写真は、四世千作さんの裃姿。

四世千作さん

写真提供:茂山狂言会事務局

モノクロでは分かりませんが、この裃、能舞台の松を思わせる深緑で、地紋の透け感も美しい絽紗の夏物です。

裃

「こんな生地、いまではなかなかないなぁ」と、茂山あきらさん

お稚児さんを務めた人は、その後、鉾へご奉仕するのが習わし。四世千作さんも長らく笛方を担当されていました。

長刀鉾の囃子方

柱の右、写真中央で笛を吹くのが四世千作さん
写真提供:茂山狂言会事務局

恐らく四世千作さんが締めていたであろう長刀鉾のオリジナル角帯がこちら。

長刀鉾角帯

現在のものよりは細目の帯。端には「茂山七五三」の名が記されています

「形見分けでいただいた年代物の角帯です」と、茂山逸平しげやまいっぺいさん。

千五郎さん曰く、

「祖父や大叔父は小柄だったので、私は身幅が、逸平は裄が足りなくて着物は着られないので、どうしてもこういった小物を受け継ぐことになります」

厚板

傷みが激しく、いまはもう現役を引退した厚板

こちらは、茂山千五郎家の子どもたちは必ず一度は袖を通したという見事な厚板。

真一じいさん(三世千作)がお稚児さんに出たときにつくった(巡行)当日の衣装と聞いています」

と教えてくださった茂山七五三しげやましめさんは、長年京都中央信用金庫に勤めていたご縁から、1996年より函谷鉾の町内にある本店の営業部ロビーにて『中信宵山狂言会』に出演しています。

毎年5月下旬に募集要項がリリースされ、抽選で250名が無料招待されますので、興味がある方は京都中央信用金庫の公式サイトをご覧ください。

「鷺踊」の復興と継承にも尽力を

七五三さんだけでなく、あきらさんもまた、祇園祭とは長いお付き合いがあります。

1956年、長らく途絶えていた奉納行事「鷺踊さぎおどり」を、あきらさんの父・二世千之丞さんが尽力して復興させました。

その後を継いで、あきらさんも踊りの監修・指導を担ってきました。もちろん、7月10日に行われる「お迎提灯」の行列にも参加し、紋付袴姿で子どもたちと一緒に歩きます。

※お迎提灯……「神輿洗」の神輿を迎えるための先触れとしてのお練り。太鼓を先頭とする提灯を掲げた行列が京都市役所まで向かい、舞踊を披露し、八坂神社まで戻ってくる。祇園石段下にて神輿を迎え、その後、境内にて鷺踊などの奉納が行われる。

お練り

3歳から小学6年生までの子どもたちが6月末から毎日、本番に向けて練習を重ねます
写真提供:八坂神社

携帯電話に保存されたたくさんの鷺踊の写真を開きながら、「ねぇ、かわいいでしょう!」と目を細めるあきらさんの様子が印象的でした。

鷺踊

写真提供:八坂神社

近年は、息子である三世千之丞(童司)さんと共に指導にあたっています。茂山千五郎家と祇園祭のご縁は、これからも続いていくのです。

四世千作さんゆかりの銘菓「祇園ちご餅」

祇園祭にちなんだ菓子やスイーツは多々あれど、最も有名なもののひとつが三條若狭屋の『祇園ちご餅』でしょう。

ちご餅イメージ

甘く炊いた白味噌を求肥で包み氷餅をまぶした「祇園ちご餅」は昔ながらの素朴な味わい。1包み3本入り648円~

その昔、祇園祭には6月1日に社参しゃさんという稚児の御位貰い儀の行列があり、八坂神社の帰り楼門前の茶屋にて稚児が一同に味噌だれをつけた餅と茶を振る舞ったといわれています。

そのちご餅が厄を除き福を招くと、洛中で評判になりました

三條若狭屋外観

大正初期、お稚児さんのお世話をしていた二代目主人如泉じょせんさんが、しばらく忘れられていたその餅について知り、創意工夫をして創作した京菓子が、同店の銘菓として知られる『祇園ちご餅』なのです。

そのお稚児さんこそが、「うちのじいさん(四世千作さん)やと聞いてます」と、茂山千五郎しげやませんごろうさん。なんとここにも!千五郎家と祇園祭のご縁が、いまに伝わっているのでした。

2024.09.30

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京都・和の菓子めぐり

店内

木箱以外にも鉾ケースや絵馬箱などもあり、手土産にもおすすめ

今月の狂言師

茂山あきら

茂山あきら

1952年6月12日生まれ。二世千之丞の長男。
1956年、『以呂波』のシテにて初舞台。その後、『三番三』『釣狐』『花子』を披く。1976年、従兄弟の正義(五世千作)、眞吾(現七五三)と主宰する「花形狂言会」を発足。
古典狂言に留まらず、小松左京作SF狂言をはじめとする新作狂言や、千年ぶりの復曲『袈裟求』などを演じ、狂言の大衆化に力を注いできた。多才な演劇人であった父・千之丞の影響を受け、テレビ・ラジオ、新劇、実験劇などにも参加。英語狂言など海外公演も積極的に行う。その他、演出家としてもさまざまな企画・構成・演出などを手掛ける“舞台マルチ人間”。著書に、『京都の罠』(KKベストセラーズ刊)がある。

茂山千五郎家家系図

「茂山千五郎家の家訓は『お豆腐狂言』。由来は、十世正重(二世千作)への悪口です。戦後、世の中に笑いが必要だと感じた正重が、気軽に狂言を楽しんでもらうため、地蔵盆などの地域の行事、結婚式などのお祝いの席にも出向いていきました。能から独立した狂言だけの営業を始めた際に、『茂山の狂言は、どこの家の食卓にも上がる豆腐のような安いもんや』と言われたんですね。

その悪口を逆手にとって、呼ばれた場所に合わせて狂言をする『お豆腐狂言』を名乗りました。お豆腐のようにどんなところでも喜んでいただける狂言を、より美味しいお豆腐になる努力を怠らないという姿勢がいまに受け継がれています。

お豆腐みたいな狂言、ええ表現やと思います。日常に活かされてこその狂言。博物館に展示されるようになったら終わりです。いつまでも、普通の“見せもん”でありたいですね」

公演告知

Cutting Edge KYOGEN 芸文20周年スペシャル

2025年8月9日(土) 兵庫県立芸術文化センター(兵庫)

CEKの前身であるHANAGATAから通算15回目の公演となる記念イヤーは、芸術文化センター開館20周年の年。

記念すべき2025年の公演「HANAGATA・CEK BEST SELECTION」は、これまでの上演作品から出演者・スタッフが「もう一度やりたい!」「何度も観たい!」という熱い気持ちと自信をもってセレクトした番組が揃う。

第一部・第二部、合わせて10作品を一挙に観られるまたとないチャンス。狂言の概念を変えるユニークな作品の数々を、ぜひ生でご覧あれ!

茂山狂言会 秋~竜正・虎真「釣狐」開曲~

〈竜正〉2025年9月20日(土) 金剛能楽堂(京都)
〈虎真〉2025年9月21日(日) 金剛能楽堂(京都)

21歳を迎える竜正さん&虎真さんが、狂言師の登竜門である『釣狐』を披きます。双子兄弟の同時開曲は、狂言史上初では?!

1日目は兄である竜正さんが、2日目に弟の虎真さんが狐を披露します。茂山千五郎家が総出で二人の披キを祝う会に相応しい小舞や番組がずらり。それぞれの個性が光る“狐”が愉しめる機会をお見逃しなく!

逸青会

2025年9月27日(土) セルリアンタワー能楽堂(東京)
2025年9月28日(日) セルリアンタワー能楽堂(東京)

日本舞踊尾上流四代家元、尾上菊之丞さんと、茂山逸平さんが立ち上げた「逸青会」。

16回目となる本年は、マイムを中心に沈黙と身体で物語を立ち上げる表現者、「カンパニーデラシネラ」主宰の小野寺修二氏をゲストに迎え、新作には「おじぞうさん」を上演します。

撮影/スタジオヒサフジ

2025.07.06

よみもの

衣裳で愉しむ祇園祭「京都・祇園甲部芸妓、佳つ雛日記!」vol.4

2025.07.06

まなぶ

子どもたちの瞳が輝き出す! 尾上博美先生が教える5歳児クラスの日本舞踊(前編)「日本舞踊の愉しみ」vol.1

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