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毎年新調! 祇園祭・長刀鉾保存会の「浴衣」、その図案の魅力とは。

毎年新調! 祇園祭・長刀鉾保存会の「浴衣」、その図案の魅力とは。

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コンチキチンの音色が響く宵。3年ぶりに、京のまちに祇園祭の活気が帰ってきました。最大のハイライト「山鉾巡行」の復活も決まり、各保存会の面々は大忙しです。そんななか、長刀鉾(なぎなたぼこ)の浴衣を手掛ける図案家・島村一範さんを訪ねました。

初めて挑戦した浴衣の図案

長刀鉾の浴衣は毎年新調されることを、ご存じでしょうか。

古来より “くじ取らず”で巡行の先頭をゆく長刀鉾は、生稚児(いきちご)を乗せる唯一の鉾(ほこ)。その名はもちろん、鉾頭としてそびえる疫病邪悪を祓う大長刀が由来です。

長刀鉾

山鉾の代表格である長刀鉾では、稚児と禿(かむろ)を務めた少年たちの多くが、翌年から鉦方(かねかた)として祭に参加することが慣例となっています。成人すると太鼓方や笛方へ回り、現在、囃子方は全部で104名という大所帯。その一員として笛方に名を連ねる島村一範さんは、大学卒業後、父親に弟子入りし西陣織の図案家としての修業をスタートさせました。

「囃子方としてずっと着てきた浴衣の図案を、まさか自分が考えることになるなんて思いもよりませんでした」と、当時を振り返る島村さん。長らく大先輩がデザインしてきた浴衣の雰囲気を一新しようという試みから、彼に白羽の矢が立ったのは2015年のことでした。

展開図&色見本

ふだんは帯の図案を手掛けているため、注染は初めて。帯はお太鼓がどう見えるかをいつも考えているのに対して、浴衣は反物から仕立てると同じ図案でも人によって違った仕上がりになります。それが面白くもあり、難しい。

「癖がないよう展開したときの図案を意識していますが、毎年手探りです」

展開図&色見本

自身の図案を複数コピーして繋げてみたり、年毎に色見本を作っておいたり。手探りだからこそ、丁寧に。そこには島村さんのものづくりへの姿勢が伺えます。

「一人でやってると、ほんまにこれでええんかな?って迷うんです。そういう時、相談できる相手がいるのはありがたい。浴衣の図案も、毎年父に見せています。技術面ではまだまだ越えられない存在ですが、アイデアについては受け入れてくれるようになりました。父からの助言については…聞いたり、聞かなかったりですね(笑)」

浴衣らしさを追求する藍濃淡

浴衣ずらり
上段左から2015年、2016年、2017年、2018年
下段左から2019年、2021年、2022年

記念すべき最初の図案は、水の輪っかをモチーフにしたダイナミックな仕上がり。白地に藍濃淡の落ち着いた雰囲気は、「浴衣らしさ」を目指した結果だといいます。

2015年浴衣
2015年浴衣

続く、2016年の竹については、「少し黒すぎて、暑苦しかったかなと反省しています」とご本人談。

2016年浴衣
2016年浴衣

濃い色味の面積が広いと力強さを感じさせるものの、浴衣ゆえの涼しげな印象は薄らいでしまいます。

「浴衣であること」を大事にしたいと、翌年2017年は雲の意匠に。入道雲を思わせる「もくもくさ」が夏らしい一枚です。

2017年浴衣
2017年浴衣

「男もんの浴衣なので、花もなぁ…と。どういうのがええのか、一年中頭を悩ませています」

その言葉通り、長刀鉾保存会では祇園祭で一年が終わり、祇園祭によって一年が始まります。毎年終わった瞬間から次のことを考えないといけないのは、年が明けると「今年はどうや?」という確認が入るから。

「分かっているのに、毎年ギリギリです(笑)」

座って話す笑顔の島村さん

曲線、直線、曲線ときて…2018年は雷。こちらは、能衣装からインスピレーションを得た図案なんだとか。

2018年浴衣
2018年浴衣

そして、波の2019年を経て、オリンピックイヤーだった2020年は五輪をイメージした輪繋ぎデザイン。残念ながら、この年はほとんどの行事が中止となり、浴衣の出番もありませんでした。

2020年浴衣
2020年浴衣

それを翌年2021年に着用したため、「今年の間に次の分も作っておこうと思ったけど、無理でした(笑)」と、これまた正直なお声。

昔の本をひっくり返して自然のものや割付からヒントを得るだけでなく、気になるものや「こんなん面白いな」と思ったものを写真に撮って専用フォルダに保存し、参考にすることもあるのだそう。

最新作となる2022年バージョンは、籠目柄。お決まりの「長」の字と八坂さんの紋が、全体的にバランスよく散らしてあります。

2022年浴衣
2022年浴衣

ポイントは「間を作る」こと。「長の字の出方も人それぞれで面白いですね」と言うご本人の背中には、ちょうど“背番号”を思わせるような場所に白場ができていました。

2022年浴衣の後ろ姿
保存会にて、島村さんご自身に羽織っていただきました

守り受け継ぐための心意気

ロビーの織物

島村さんが考案した図案を引き受けるのが、鉾町の中心地に本社を構える呉服商「外市」です。代々社長が保存会代表を務められ、地域との交流を重んじながら長刀鉾の保存と継承に尽力されています。

社員もボランティアで祭をサポートする環境のなか、その重要性や意義を伝えていくことにも注力されていて、その証拠に、この時期はロビーも祇園祭一色!とくに壁に飾られた緞帳は圧巻です。

ロビーの織物
社章

さらには、社章にも長刀鉾が光ります。

東急ハンズがテナントとして入っている本社ビルは、四条通に面して広めの空間が取られているだけでなく、3階には観覧スペースも確保されており、長刀鉾を上から眺められる特等席となっています。

いつもとは違った角度から山鉾を鑑賞するのもオツなもの。「動く美術館」と名高い山鉾の装飾品を間近でご覧ください。その際は、囃子方の浴衣にもぜひご注目あれ!

長刀鉾保存会より
保存会の窓で揺れる提灯

撮影協力/公益財団法人長刀鉾保存会、外市株式会社
撮影(長刀鉾カット除く)/スタジオヒサフジ

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