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蚕『小石丸』はやんちゃ坊主。だけど味がある  染織作家・秋山眞和さん(インタビュー後編)「染織がたり」vol.2

蚕『小石丸』はやんちゃ坊主。だけど味がある  染織作家・秋山眞和さん(インタビュー後編)「染織がたり」vol.2

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インタビュー前編では、秋山眞和さんが染織の道に進まれた経緯や、天然染料を使うようになったきっかけなどについてうかがいました。後編では、『綾の手紬』の”糸へのこだわり”について、深く掘り下げます。

2025.05.21

まなぶ

家業から逃れたくて最初は会社員に。 染織作家・秋山眞和さん(インタビュー前編)「染織がたり」vol.1

染織作家、『綾の手紬』秋山眞和さん

各地の染織作家をお招きして、作品を取り上げつつ、もの作りへの思いやここだけのエピソードなどについて「京都きもの市場」銀座店店長の菅野が聞き出します。

前編に引き続き、隠れ家バーを会場に、秋山眞和さんにお話をうかがいます。後編では『綾の手紬』の糸へのこだわりについて深く掘り下げます。

日本在来種の蚕『小石丸』、天然藍染、貝紫染で、きもの愛好家に人気の高い秋山眞和さん。

インタビュー後編では、小石丸を選んだ理由とその後の苦労についてうかがいます。小石丸の意外な?性質など、生産者ならではのお話も飛び出しました。

蚕『小石丸』入手までの苦労

菅野大介(以下、菅野):藍染の反物も見ましょう……素晴らしいですね。

秋山眞和さん(以下、秋山さん):これも経絣で花織です。貝紫の花織と同じ組織なんです、織りの方法、足の踏み方は。糸は『小石丸』。

経絣で花織の着尺

菅野:小石丸は皇室の御養蚕所で飼育されてきた蚕ですね。日本の蚕の在来種のひとつ。小石丸をもらうために、研究所を作ったとうかがったのですが。

秋山さん:そうなんです。小石丸の種をなかなか分けてもらえなくて。研究施設だったら分けてくれるかもと思って、山梨県の小淵沢に「照葉樹林文化研究所」を作りました。名義だけと思われるといけないから、木灰を売ったんですよ。

菅野:なるほど。

秋山さん

秋山さん:染色に木灰はとても重要なんです。媒染や精練に使いますから。

今は木灰がないでしょう。昔はおくどさんで火を炊くので、灰はどこにでもありました。

京都にも灰屋さんがたくさんあったんですけどね。みんなプロパンガスとかになってしまったから、灰は貴重かなと思って。京都の田中直染料店にその木灰を売ったりしてました。

菅野:面白いですねぇ(笑)。そこから製品にするまでどのくらいかかったんですか。

秋山さん:研究所を設けて実績を作って、小石丸の種をもらうまで3年くらい。昭和63年に3蛾分だけ、種をもらいました。1頭で約400粒なので、1200粒の種から始まりました。次の年には1万頭ぐらいになって、3年目くらいから反物ができるくらいになり、さらに増やしていって今の状態になりました。

蚕『小石丸』の魅力とは

菅野:そこまで追い求めた、小石丸の魅力とは?

秋山さん:草木染を始めたのはいいものの、良いと思う昔の染色品のような色にならないんです。糸が原因かもと思って、茨城県筑波にある農林水産省の研究所に行って調べて、藍染に適した糸を調べました。絹糸は分解するとヒゲがあるんです。少し毛が出てるわけ。それが一番少ないのが小石丸だったんです。そのせいではないかと。

今の蚕の糸は改良されて太くて重い糸になってるから、そうなる前の昔の蚕を探しました。糸の細さも違いますね。今の絹糸の3分の1くらい。いや半分くらいかな。

菅野店長

菅野:今の通常の糸よりも、小石丸の糸は細くて表面が滑らかってことですか。いや~、それにしても、その情熱はどこからきたんですか?

秋山さん:若かったからでしょうね。まだ20歳そこそこで、新しい織物を作るんですから。

小石丸2

菅野:小石丸は繊細とかストレスに弱いとか、そういうのはありますか?

秋山さん:今の蚕は人間の扱いやすいように改良されています。例えば、今の蚕は同じ日に繭を吐き始めたり、時期が揃うんですよ。あちこち逃げなくて大人しくて、人間の言うことよく聞くお利口さんなんです。

小石丸はわがままな”やんちゃ坊主”。逃げ出して天井に繭を作ったり、蚕になる時期もずれるんです。手間がかかりますね。病気に弱いとは思いませんけど。

菅野:小石丸に合わせてあげないといけないということですね。大変ですね。

秋山さん:でもね、蚕糸本来の味があるんですね。

例えるなら、キュウリとかの野菜も、今は美味しさよりもまっすぐできれいに揃ってることが優先されますよね。それと絹糸も同じです。商業化すると仕方ない部分もあるんでしょうけれどね。

作り手だけが見られる、色が出た瞬間

菅野:作っていてワクワクする瞬間はどういうときですか?

秋山さん:藍も貝紫も同じですけど、染めて、空気に触れて、本当の色が出たときは、ワクワクしますね。焼き物屋さんが釜出しのときに思いがけない物が出るのと同じですね。

菅野:染めて、液に浸かってるときの色と、空気に触れて色が一気に変わる瞬間。

秋山さん:そう、その瞬間が面白いですね。藍の場合は、緑になって藍色になるでしょ。貝紫は黄色になって、空気に触れると紫になるんです。

菅野:色が変わる様子は、染めてるご本人しか見られませんね。

乾杯!

2023.03.08

まなぶ

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着物を着て、街に出かけてほしい

バーにて語る

菅野:最後にメッセージがありましたら。

秋山さん:街中で自分の作ったきものを着ている方にたまに会うんですよ。展示会場じゃなくてね。そういうときには本当に感激しますね。

菅野:それは嬉しいですね。今日ちょうどイベントで美術館に行ったんですけど、秋山先生の着物を着てらっしゃる方をお見掛けしましたよ。

秋山さん:え?!え~?! それは嬉しいですね。

菅野:先生は、着物はぜひ着ていただきたいという思いで作っているんですね。これを見て聞かれている方にも、ぜひ着物を着て、出掛けていただけると、作り手の願いにも繋がりますね!

取材・文・構成/笹川茂美

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