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六代目尾上松助夫人・井上盛恵さん「歌舞伎俳優 ご夫人方の装い」vol.9  ―松助に松也、“松”にちなんだものを身に着けて

六代目尾上松助夫人・井上盛恵さん「歌舞伎俳優 ご夫人方の装い」vol.9  ―松助に松也、“松”にちなんだものを身に着けて

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二代目尾上松緑さんの部屋子となられ、菊五郎劇団でも活躍された六代目尾上松助さん。惜しくも2005年に59歳でお亡くなりになりました。今回は松助さんご夫人であり、二代目尾上松也さんのお母さま、また劇団新派の俳優でもあった井上盛恵さんにご登場いただき、劇場での装いから、思い入れのあるお品についてうかがいます。

2025.02.27

よみもの

二代目大谷廣松夫人・青木夕実さん「歌舞伎俳優 ご夫人方の装い」vol.8  ―どれだけ着物が必要になるのか、震えていました

劇場でお客さまをお迎えする装い

──「劇場でお客さまをお迎えするさいの装い」をテーマにお越しいただいております。どのようなお召し物かうかがってもよろしいですか。

「今日は舞台初日でしたので、訪問着に近い付け下げで参りました。白い着物のほうがレフ板効果で顔映りがいいのでこちらに。

当初は焦げ茶色の付け下げの予定だったのですが、昨日突然この着物が箪笥から出てきまして、この着物にしました。

しつけ糸が付いたままでしたから、仕立てたままで着ていなかったんでしょうね。身幅が狭いですから、若いころに作ったのかな、と思います」

──新しい着物がでてくるなんてことあるんですね(笑)。紗綾型の綸子地にぼかし、蝶の刺繍がかわいらしく入っていて素敵です。

蝶々が舞飛んで

「私、あんまり綸子が好きではないんですけれども、この蝶々が本当にかわいらしくて、またすべて縫いっていうところがね、気に入っています。

子どものころから蝶々が大好きなんです。理由もなく惹かれるんですよね」

──帯は箔使いの紬地に笠松の意匠が織り出されている趣味性の高いものですね。こちらを選ばれたのは。

帯姿

「これは完全に“松”だからですね。松助に松也ですから、やはり松にちなんだものを身に着けたいなと思いまして。

白い帯にしようかとも思ったんです。最近は白い着物に白い帯というのも多いじゃないですか。だけど、少し違うような気がして……ほかの黒い帯は強すぎるものしかなくて。

この帯だとちょうど格もあがるし、風格もあるのでこの着物に合わせてもおかしくないなと。作ってから、もう20年近くなるかしら」

2023.01.30

よみもの

柄に込められた物語に思いをはせて 「歌舞伎へGO!大久保信子先生に聞く着物スタイル」vol.18

──また、袖口からのぞく長襦袢がかわいらしいですね。動いたときに袖口からちらっと赤い輪出しが見えて……

輪出しの長襦袢

長襦袢の輪出し絞りも蝶のモチーフ

ゑり萬さんです。私の自慢の襦袢ですね。着物よりも自慢だわ(笑)。ちらっと見えるだけのところに贅沢するというのが着物の素敵さですよね。昔はそんなこと考えていませんでしたが、今はそういうものなんだなと思います。

京都の舞妓さん芸妓さんは、こういったものをお稽古着にもされるかと思うと、本当に贅沢〜!と思います」

──帯揚げと帯締めを白でまとめられて。

「それこそ祇園の芸舞妓さんたちも、帯締めは白を使うことが多いですよね。房だけ赤とかね。今日は赤はやめましてグリーンの房のものにしてきました。

今日は帯揚げもゑり萬さん、とも思ったんですが、少し落ち着いたもののほうがいいかなと思って若松の柄が入った地味めなものを選んできました」

若松の柄の入った帯揚げ

「私、基本的に帯揚げは京都でしか買わないんですよ。京都のほうが絞りでもなんでも種類があるでしょ。

この帯締めも京都で買いました。井澤屋さんです。南座の前にありますから、息子がでるときに立ち寄るんです」

歌舞伎俳優の妻として

──歌舞伎俳優の妻として大変だったことはありますか。

井上盛恵さま

「主人の襲名のときでしょうか。あの当時は辰之助(初代)さんが亡くなられて、松緑(二代目)さんも亡くなられてしまったころでした。

ですので、七代目尾上菊五郎さんのお父さまである尾上梅幸先生が、全面的に協力してくださり、お姉さま(初代辰之助さんのお姉さま)、初代辰之助さんの奥さま、そして紀尾井町で番頭をなさっていらした矢田部さん、たくさんの方々のお力をお借りしながら、なんとか襲名をやりとげました。尾上梅幸先生のお力をお借りできなければ、松助襲名は実現できなかったのではないかと思います。

お嫁に来たころには、先輩方の奥さま方にご挨拶するのもとても緊張していました。新参者なので、勝手に緊張してしまって……もう、始めのころは、慣れていないから変な格好してるんですよ」

──どういうところが変だったりするんですか。

「まず、髪の毛をいい形に結えるところがみつからなくて。だから、ひっつめてお団子付けてしまったりしていました。

新橋で芸者をしていた主人の母は、銀座の家のすぐ近くの美容院でやってましたけど、私がやってもらってもいい形にならなかったんですよね」

新派時代の思い出

──盛恵さんが着物を着始めたのはいつごろからですか。

着物を着始めたころ

「小さいころから着物がとても好きでした。東映や大映の女優さんのお姫さま姿に憧れていましたので、よく着物を着ておりましたね。

大人になってからは『劇団新派』というところで俳優をさせていただいておりまして。私の師匠は水谷八重子(初代)さんでしたので、たくさんのことを教えていただきました。

師匠が亡くなったあとは、玉三郎さんが新派に出演されることも多かったので、玉三郎さんにもたくさんのことを教えていただきました。俳優をさせていただいていた、そのころのことというのは、私にとっていまでも宝物です」

2023.11.21

よみもの

絶対にバレない、お太鼓の作り帯 「きくちいまが、今考えるきもののこと」vol.32

思い入れのあるお品

──思い入れのあるお品をお持ちいただきました。

鼈甲べっこうの蝶の髪飾りと帯留め、香箱、主人の襲名のときの扇子を持ってきました。

蝶の髪飾りと帯留めは2つとも、松也が『新春浅草歌舞伎』10年目を終えたときに買ってくれたものです」

鼈甲のかんざし

「浅草公会堂の並びに鼈甲のお店があるんですね、そこで私が10年間、この蝶々をほしいよ、ほしいよと言っていたのですが、高いですから買えなかったんです」

──昨年までの10年間、松也さんは浅草新春歌舞伎のリーダーを務められて。

「その間、ずっとこの鼈甲を見続けていたんです。毎年「こんにちは」ってお店に入って「まだあった!あった!」って。

お店のかたも「お安くしますよ」とは言ってくださるんですけれど、なにぶん高いですから無理だなぁと思っていたんです。それで、浅草も去年で最後でしょう。でも売らないでとっておいてくれたんです」

鼈甲の帯留め

黒がまったく入っていない逸品

「お店にも申し訳ないですし、息子に「じつはこういうわけで……」と話したら、「じゃあ買おう」って! 男前ですよね、うれしくて涙がでました。

今日ぜったいに紹介しなきゃ! と思って持って参りました(笑)」

──こちらの香箱は。

香箱

「下に匂い袋をいれておいて、蓋を引いて開けると香りがでてくる香箱です。

主人が病床のとき、なにかいい香りがほしいというものですから探しました。私がたまたま銀座松屋でみつけたんです。大事な思い出の品ですね。

とても風流でしょ。こういうものはきっと京都からきたんでしょうね。桜の模様などいろいろあるんですけれど、主人が松助ですから松をね。内蓋を閉めると香りが止まるんです。枕元に置いておいてあげました。

今年の三月大歌舞伎では、うちの主人がやりたかったようなお役を息子がやらせていただきましたので、仏壇に「パパがやりたかった役をね、あの龍一(松也)がやるからね」と伝えています」

──そして、こちらが六代目尾上松助襲名の扇子ですね。

松助襲名のときに

「七代目菊五郎さんのお父さまである梅幸先生が描いてくださった絵を、主人の松助襲名のときに扇子にしてお配りしたものです。

師匠である松緑旦那が亡くなられたところで、「じゃあ僕が描いてあげるよ」と言ってくださって、本当にうれしかったです」

扇子

着物ファンへのメッセージ

──着物で歌舞伎観劇をしたい方へのメッセージをお願いいたします。

着物ファンへのメッセージ

「そうですね、せっかく歌舞伎座にいらっしゃるんですから、オシャレをして女方さんよりも私のほうがキレイよ、と思うくらいのお気持ちで、ぜひお着物を着て劇場にいらしてください!

2024.11.21

よみもの

大谷友右衛門夫人 青木かずこさん 「歌舞伎俳優 ご夫人方の装い」vol.6  ―歌舞伎俳優の妻はみな”プロデューサー”

公演情報

2025年5月2日(金)より歌舞伎座にて始まります、尾上菊之助改め八代目尾上菊五郎襲名披露、尾上丑之助改め六代目尾上菊之助襲名披露「團菊祭五月大歌舞伎」に尾上松也さんが出演されます。

チケットなど詳細はこちらのサイトをご参照ください。

また尾上松也さん主演の歌舞伎『刀剣乱舞』が、7月は新橋演舞場、8月前半は博多座、8月後半は南座にて上演されます。

チケットなど詳細は歌舞伎『刀剣乱舞』公式ホームページをご参照ください。

取材・構成・文/渋谷チカ
撮影/五十川満

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