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風に揺られる小舟のような女君、浮舟 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.14

風に揺られる小舟のような女君、浮舟 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.14

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幸せを希求するのにどこまで行っても幸せになれない浮舟には読み進めていくうちにどんどん感情移入して重たい気持ちになってしまいます。浮舟は、どんな色が好きだったのでしょうね?着物を選ぶならどんな柄を着たいと言うでしょうか。

2025.01.22

まなぶ

奔放に自分らしい幸せを追い求める、源典侍 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.13

まなぶ

3兄弟母、時々きもの

こんにちは。tomekkoです。

前回は源氏物語の中ではギャグ要素強く描かれていた源典侍の隠れた魅力を掘り下げてみましたがいかがでしたか?

千年の時を経ても「こういう人いるよね〜」と共感できる人々の個性。現代だったらこんな生活をしていそう……と想像するのも楽しいですね。

さて、今回は前回から一転!残念ながらひたすら暗い哀しい人生となってしまった女君を取り上げてみたいと思います。

俗に『宇治十帖』と呼ばれる光源氏没後の物語の中心人物的な女君、浮舟です。

宇治十帖はそれ以前の『源氏物語』とは毛色が違っていて、作者が紫式部ではない説も有力。源氏物語自体もハッピー全開な物語とは言い難いのですが、宇治十帖はことのほか重い雰囲気があります

筋書き自体はとてもよくできていてよりドラマティックな仕上がり感があるので、好みは分かれるところかもしれません。

橘の 小島の色は 変はらじを この浮舟ぞ 行方知られぬ
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫
橘の小島の色は変わらなくてもこの浮舟のような私の身はどこへ行くのやら

浮舟は、その名の通り川に浮かんで流れにまかせている小舟のような女性です。

自分自身の意志や行動ではなく幼少期からずっと親、世間、そして男性によってあちこちへ連れていかれたかと思えば放置されたり勝手に奪われたり……

親王を父に持つ本来ならば高貴な血筋なのに、母の身分が低く認知されなかった出自の不幸からして彼女本人の落ち度は何もありません

でも、これを理由にどこまでも蔑まれ見下される半生を過ごし、それを不憫に思う母が奔走してどうにか上流貴族である右大将、薫(柏木と女三の宮の子)に娶られることになるのですが、今度は更に高貴な匂宮(明石中宮あかしのちゅうぐうと今上帝の親王)との三角関係に悩み、どうすることもできない浮舟は死を選ぶのです。

2024.10.24

まなぶ

穏やかな感性で愛や友情を育む、秋好中宮 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.10

浮舟はまるで人形のように扱われます

母の再婚相手、常陸介の家では自分にきた縁談を、私生児だからという理由で実娘に簡単にすげ替えられてしまいます。常陸介は受領で身分は高くないものの財力があるため、婿側がそちらにメリットを感じて浮舟との縁談を破談にしてしまうのです。

「あやまりても、かう心もとなきはいとよし。教へつつも見てむ。田舎びたるされ心もてつけて、品々しからず、はやりかならましかば、形代不用ならまし」
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫
「間違ってもこのように頼りないのはとてもよい。教えながら世話をしよう。田舎風のしゃれ気があって、品が悪く軽はずみだったならば(大君の)身代わりにはならなかっただろうに」

居場所を無くした浮舟を、異母姉(父宮から認知されている)にあたる中君に託しどうにか幸せになることを願う母でしたが、今度は中君の姉大君に通っていた薫が大君を亡くして意気消沈しているところへ、身代わりとして差し出されます。

しかも、それなのに中君の夫である匂宮に見つかり言い寄られてしまう浮舟。その結果本人は何も悪いことをしていないのにお世話になった異母姉も、自分を娶ってくれた夫も裏切る事態となりまた一層苦しめられるわけですが……

とっかえひっかえ、それぞれの都合で本人の気持ちなど関係なく扱われたら反発したくなりますよね。でもこの時代、生活を支えてくれる男性をつかまえることしか貴族として生きていく道がなかった女性たちは、むしろ高貴な人の身代わりに選んでもらったことを感謝すらするのです。

思えば源氏物語も身代わりがたくさん登場しましたね。桐壺更衣きりつぼのこういの代わりに入内した藤壺女御ふじつぼのにょうご、藤壺の身代わりに引き取られた紫の上。女三の宮との結婚を断り切れなかったのも、藤壺との血縁がちらついたためでした。

2024.11.24

まなぶ

光源氏のすべての恋の土台、藤壺の女御 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.11

2024.04.24

まなぶ

紫の上と並ぶ”春の姫君”、玉鬘 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.4

そんな彼女には、何色にでも染められそうな白地に、何色とも定まらないぼかし染めの、優しい質感の着物を

源氏物語の女君がきものを着たなら3

男は、過ぎにし方のあはれをも思し出で、女は、今より添ひたる身の憂さを嘆き加へて、かたみにもの思はし。
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫
薫は、亡くなった姫君(大君)のことを思い出しなさって、浮舟は新しいもの思いになった(匂宮との)恋に苦しみ、双方とも別々のことを考えていた。

温厚で呑気というか淡白というか、あまり積極的に愛情を見せるタイプではない薫と、情熱的でどの恋にも本気な匂宮。真逆の2人に挟まれる浮舟ですが、これまでの人生で人から強く求められたり存在を肯定されることがなかったからでしょうか。次第に匂宮に惹かれてしまいます

ひとつ、浮舟をめぐる物語を象徴するようなシーンがあります。

夫婦である薫と浮舟が寄り添っているのに、薫は亡き恋人を、浮舟は匂宮との逢瀬を……お互いに他の人のことを思っているのです。

この後、匂宮と薫の使者が浮舟の元で鉢合わせすることで事態が発覚し、自分を責めた浮舟は死出の旅を思いつめるようになるのですが……

源氏物語の女君がきものを着たなら4

「まろは、いかで死なばや。世づかず心憂かりける身かな。かく、憂きことあるためしは、下衆などの中にだに多くやはあなる」
『全訳源氏物語 上巻』角川文庫
「私はなんとかして死にたい。世間並みに生きられない身になってしまったのだもの。このように情ないことは身分の低い者たちにも多くはないはず」
【野蚕糸紬】 特選手加工ぼかし染め紬訪問着「白藍色/薄クリーム色/灰紫色」

ところで、超がつくほど高貴な2人の公達に求められた浮舟、どれほど美しい人だったのでしょう?

浮舟の容姿についての描写はけっこうあります。可憐、かわいらしい、ほっそりと頼りなげ……そんな表現が多いけれど、気品や艶めいた魅力はやはり東国育ちゆえか、高貴な姫には劣ると言われていますね。

匂宮は、浮舟を連れ出して舟に乗せて出かけたりもするんですね。水面に映る月と2人の姿にうっとりしたり、完全に浮かれちゃってるプレイボーイ。

匂宮としては、薫が宇治に隠していた浮舟を略奪した興奮と恋情で「こんな美女がいたものか」と盲目的に”付き合いたてフィルター”がかかっちゃってますが、おそらく浮舟自身は、身分に似合わぬ抜きん出た美貌の持ち主というわけではなかったのでしょう。

でもねぇ……小中高……1人はいたでしょ?薄幸そうな、どこか陰のある女性って、魅力的に見えるんですよね。なんかわかりますよねぇ。

匂宮との燃えるような恋に、おそらく「意志」を呼び起こされたのであろう浮舟。

ふたつめの着物コーディネートでは、やはり無地の落ち着いた同系色コーデに、帯揚げの赤を差し色として足して「意思」の芽生えを感じさせる着こなしにしてみました。

ただ、匂宮とのことが露見した後も、あまり大事にしないように周りが気遣っているなか、失踪と自殺未遂をしてしまうあたりはやはり情緒が荒削りというか、どうしても田舎臭がしてしまいますね。

実は夫である薫の母、女三の宮もまた似た境遇に陥り、薫を産んですぐに仏門に入ってしまいました。

当時の考え方では、出家することはその時点で社会的に死を意味します。つまり浮舟も尼になるという選択肢もあったわけです。

申し分のない身分の女三の宮は、髪を下ろすことで男たちに振り回される女としての人生に静かに幕を引いたのですが、身分の低い浮舟は、直接的、物理的に離れ消えてしまうことを選んだわけですね。

2024.12.24

まなぶ

現代的な感性の持ち主、女三の宮 「源氏物語の女君がきものを着たなら」vol.12

実は川に身を投げるまではせず、その前に行き倒れてしまったところを助けられ結局出家するわけですが。

その後、行方を探していた薫に見つけられ、どんなに説得されても再会を拒み続けた浮舟

これまで扱ってきた女君たちは、どこかしらで心の折り合いをつけ、自分なりの幸福な人生を見出した人が多いと思うんですね(その結果、光源氏から離れる決断をした人多数!なわけですが……)。

幸せを希求するのにどこまで行っても幸せになれない浮舟には、読み進めていくうちにどんどん感情移入して、重たい気持ちになってしまいます。

浮舟は、どんな色が好きだったのでしょう? 着物を選ぶのなら、どんな柄を着たいと言うのでしょうか?

きっとどんな着物も美しい姿で着こなすのでしょうが、浮舟自身に色や柄のイメージが湧いてこなかったのがまさに、霧のかかった川辺で風の吹くままに流される彼女そのものでした。

翻って現代、子育てや仕事をしていると毎日毎時間毎分と意思決定の連続ですよね。自分でスケジュールやToDoを組んであれこれ決めるのは正直ストレス!それでも宇治十帖を読み返して、「自由」「意志」の恩恵を改めて感じたのでした……

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