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雛人形をもっと身近に。京雛の老舗『安藤人形店』ご夫妻の挑戦

雛人形をもっと身近に。京雛の老舗『安藤人形店』ご夫妻の挑戦

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有名ホテルや百貨店にも飾られる京雛の老舗『安藤人形店』の雛人形は、乙女の憧れ。明治36年創業の同店を訪れ、京の名工・三代目安藤桂甫さんと、奥様である雛人形コーディネーター・安藤啓子さんにお話をお伺いしました。

2025.02.03

よみもの

初春の候 ―立春から雨水 「感じたい、七十二候」vol.7

最高峰の雛人形を手掛ける「雛人形着付師」

桂甫さん

雛人形の最高峰である”京雛”、その老舗である『安藤人形店』。

三代目 安藤桂甫さんは、「雛人形着付師」です。

桂甫さん

京都における雛人形制作は、京友禅のそれと同じく「手作業の分業制」。

頭師・織物師・小道具師・手足師・髪付師・着付師の6つの部門に分かれ、「雛人形着付師」は全体の総仕上げとなる最後の工程を担います。

頭部
織物
衣裳
重ねられた衣裳

同店の雛人形は、生き生きとした躍動感を特長とし、どこから見ても美しい佇まいがその魅力。

京雛の老舗の挑戦

「美術織物」という新しい分野を確立したことで知られる『龍村美術織物』が手掛ける最高級裂地などを使用し、職人の証となる手折り作業で雅やかな着姿を表現しています。

龍村美術織物の裂地を用いて

「大小に関わらず、どんなお人形にも同じ心持ちで向き合っています。

着付けをしているときは無心ですね。配色や柄がぴたっと合うと気持ちいいもの。

袖口の幅をきっちりと揃えることはもちろんですが、衿回りには気を遣います」

桂甫さん
桂甫さん

桂甫さんが着付ける様子

衿元の優雅さに定評のある桂甫さんの雛人形。

衿まわり

その華麗な衣裳の色柄合わせについて提案するのは、「雛人形コーディネーター」の肩書をもつ奥様の啓子さんです。

2021.02.28

まなぶ

”上巳の節句(桃の節句)” 女性らしくいける桃のいけばな – 嵯峨御流「はじめましょう 花であそぶ節句」vol.1

唯一無二の「雛人形コーディネーター」

雛人形コーディネーター

――雛人形コーディネーターというお仕事があることを、初めて知りました。

啓子さん:14、5年前から名乗っていますが、日本では私ひとりだけです。以前から、お客様の疑問にお答えしたり、人形選びのお手伝いをさせていただいたり、いろいろとご提案もしていましたので、やっていることは変わりません。

どこから見ても美しい

――お客様の要望や好みの傾向などをお聞きするなかで、時代による変化を感じますか。

啓子さん:はい。昔は、床の間の暗いところに飾る家が多かったので赤いおべべが主流でしたが、現代のマンションでは陽が燦々と入る場所に飾られるため、ピンクやパープル、シルバーといったお色味が好まれるようになりました。

また、居住空間がスリムになったことで、お人形もどんどんコンパクトになってきています。

サイズ違いの雛人形

桂甫さんが手掛ける雛人形は、一番大きい5番サイズ(後列)から最も小さな13番サイズ(前列)まで9段階。並べると、その違いは一目瞭然。大きさが違っても作業工程は同じなので、「小さい方が大変です」と桂甫さん

――雛人形の売れ行きにも少子化の影響がありますか?

啓子さん:あります。ですが、雛人形は小さな女の子だけのものではないと思います。

還暦を迎えるご両親に、開業祝いや会社の創立記念に、定年を祝う贈りものに、ご自分へのご褒美に……様々な記念日の品としてお求めいただくことも少なくありません。

海外からのお客様が日本のお土産にと買っていかれることもあります。

モダンなおひなさま

――安藤人形店オリジナル、『モダンなおひなさま』ですね。

啓子さん:おひなさまを慈しむ気持ちに年齢や国籍、性別は関係ありません。シンプルで落ち着いたワンカラーだけの衣裳をまとった雛人形は、和室はもちろん洋の設えにも自然と溶け込み、季節を問わずインテリアとして愛でていただけます。

還暦雛人形

ご両親がどちらも還暦頃に他界していることから不安を抱いていた妻・啓子さんを励ますためにつくられた『還暦雛人形』は、還暦や長寿の祝いはもちろん、心の癒しや元気を与えてくれるシリーズ

啓子さん:きっかけとなったのは、私が60歳を迎えたときに主人がつくってくれた『還暦雛人形』でした。

生命力やエネルギーを表す赤一色の親王飾り雛は、友好150周年の年にベルギー王室に招待されたり、日本大使館で雛人形についてお話する機会をいただいたりと、運を開いてくれました。私たちの宝物です。

冊子

ベルギー王室へ雛人形を贈呈したことが記された記念冊子

もだんなおひなさま

『モダンなおひなさま』ラインナップ

職人の技と心意気が詰まった人形たち

後ろ姿

ふだんは目にすることのない後ろ姿。啓子さんは、「うちのおひなさんは、どこから見てもきれいなんですよ」と微笑む

自身や贈る相手の好みやイメージを伝えて重ねの色を相談することもできる上に、思い出の着物や帯をリメイクすることだって可能な安藤人形店。もちろん、お直しもウェルカムです。

五つ重ね

正面からは見えない五つ重ねの色選びは、啓子さんの得意とするところ

黄櫨染の男雛

平安時代は笏板がカンペ代わりだったことを踏まえて、桂甫さんが仕上げる男雛はピンとした背筋で、手元も少し高い位置に

愛着のある雛人形を長く大切にしてほしいからこそ、量産はせず、一対一対、丁寧に仕上げていきます。

京人形

文化庁が京に移転してきたのを機に、京人形に新しい風を吹き込むべく桂甫さんが製作した京人形、京の姫「NIJI」

「20年前には、デパートから『求めやすい金額でつくってくれないか』と相談を受けたこともありますが、丁重にお断りしました。

受けてしまうと、どこかで妥協やコストカットのための省略をすることになり、“ほんまもん”じゃない雛人形になってしまうからです」

と、啓子さん。

カープ坊や

着物姿のカープ坊や。熱烈な広島ファンである桂甫さんがお気に入りの作品

まゆまろ

京都府のPRキャラクター・まゆまろの雛バージョン。国民文化祭のために製作され、京都市の幼稚園で順に披露された「まゆまろ雛」は府庁にも一対保管されている

東日本大震災後には、仙台の仮設住宅へ七段飾りを寄付。

ベルギー王室だけでなく、シャーロット王女のご誕生祝いとして英国王室へ雛人形を献上したことも。

日本古来の節句が薄らいできていることに危機感を抱き、既存の形に囚われることなく、「雛人形の良さを広めたい!」と奮闘する安藤夫妻の挑戦は、まだまだ続きます。

雛壇の前で

2021.02.17

まなぶ

雨水:雪が雨に変わり、雪解けがはじまる頃! 「二十四節気で楽しむ着物スタイル」

撮影/スタジオヒサフジ

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