着物・和・京都に関する情報ならきものと

イギリスから、着物に一目惚れ! 【着物研究家 シーラ・クリフさん】(前編)「着物ひろこが会いに行く!憧れのキモノビト」vol.3

イギリスから、着物に一目惚れ! 【着物研究家 シーラ・クリフさん】(前編)「着物ひろこが会いに行く!憧れのキモノビト」vol.3

記事を共有する

”着物ひろこ”こと長谷川普子さんが、憧れの人に会いに行く!という連載第二弾。ゲストは、イギリス・ブリストル出身の着物研究家、シーラ・クリフさんです。海外からの目線で見た着物の魅力とは?

2025.01.25

よみもの

着物で海外を歩くとどうなる?【フォトグラファー ヨシダナギさん】(前編)「着物ひろこが会いに行く!憧れのキモノビト」vol.1

着物研究家 シーラ・クリフさん

今回着物ひろこさんが会いに行ったのは、かねてより憧れていたという、イギリス出身の着物研究家であり、十文字学園女子大学名誉教授でもあるシーラ・クリフさん。

シーラさんプロフィール画像

シーラ・クリフ

1961年生まれ、イギリス出身。ほぼ365日着物生活。十文字学園女子大学名誉教授。1983年にイギリスのロンドン大学を卒業し、1985年に来日。2002年には、民族衣裳文化普及協会から「きもの文化普及賞」を受賞。著書に『Sheila Kimono Style』(東海教育研究所刊)。

シーラさんはこれまで、大学で着物について教える傍ら、さまざまな織物の産地に足を運びながら研究を続けてきました。

着物関連の書籍は、共著を含めて5冊も出版。丹後織物工業組合のアンバサダーとしても活動されています。

SNSでのやり取りはしたことがあったものの、対面で会うのは初めて、というシーラさんとひろこさん。

2月末の取材日、華やかなカラーコーディネートの二人がまるで春を連れてきたかのような、一気にあたたかくなった気候のなかで対談が行われました。

まるで桜と菜の花のよう!春らしさ満開の着物コーディネート

ひろこさんが「とても可愛らしくてチャーミング!」と目を輝かせた、シーラさんのピンクを基調としたトータルコーディネート。

シーラ・クリフさん

シーラさんがこの日初めて袖を通したという着物は、秩父産の太織の単衣を、和裁を始めて2年半というご自身が仕立てた一枚。絹糸でありながら、糸が捩られていないので洗えるのもポイントだとか。

そして、戦前に流行したという縞模様が印象的な帯は、本繻子に刺繍をあしらった鮮やかな一本。

縞模様が印象的な帯

シーラさんはこういった帯がお気に入りのようで、同じような、縞の繻子に刺繍模様の帯を何本も持っているそうです。

また、お足元のアクセントになっているビビッドなピンク色の足袋はなんと、ご自身で染めたもの(!)とのこと。

シーラさん全身

ピンクコーデの差し色となる芥子色の「飾り腰紐」は、シーラさんが考案されたもので、「作り手の方にオーダーして特別な長さで誂えてもらった」と微笑みながら語ってくださいました。

そんなシーラさんのピンク一色な装いとのバランスを考えてひろこさんが選んだのは……

春らしい明るい黄色の色無地! 艶やかな地紋の藤の花もまた、春らしさを加えています。

黄色の色無地、地紋は藤の花。

桜の帯も落ち着いた大人らしい雰囲気で、金彩と着物のイエローが相まってトータルコーディネート感もプラス。一見すべて白い花びらかと思いきや、よく見ると、ところどころ花びらに絹糸の刺繍が。光の加減でつやっと輝きます。

桜の帯も落ち着いた大人らしい雰囲気

そしてなによりも、今回のコーディネートの特徴は、今にも飛び立ちそうな蝶の半衿!

今にも飛び立ちそうな蝶の半襟。

富士商会のバタフライの刺繍ブローチを衿元にランダムにまとうことで、とっても華やかな雰囲気に。

自然光のなかでは、透き通る質感がさらに印象的に目を惹きました。

イギリスから来日。そして着物に出会うまで

着物ひろこ(以下、ひろこ):シーラさんは、いつから日本にいらっしゃるのですか。

シーラ・クリフ(以下、シーラ):もう日本に住んで40年になりますね。24歳の時に日本に来ました。いま、63歳です。

ひろこ:40年! 私が59歳なので、シーラさんの方がちょっとお姉さんですね! 40年前に来日されて、すぐに着物を着たり勉強されたりしたのでしょうか。

シーラさんとひろこさん

シーラ:最初は着物のことは全然わからず、骨董市で器を見るのが好きだったんです。でももともとファッションが好きだから、どうしても着物に目が行ってしまって。

あるとき、気に入って羽織ってみた着物を買ったんですが、友達に見せたら「それ、着物じゃなくて長襦袢だよ!」って言われてしまって(笑)。

ひろこ:海外の方は長襦袢もファッションの一部として取り入れられますよね。パーティーで着たりとか。

シーラ:ロンドンでも、長襦袢はすごくたくさん売っているんですよ。

ひろこ:そういえば、タイでも売られているのをよく見かけました! ところで、着物のことや着付けはどうやって覚えられたのでしょうか。

シーラ:最初はね、日本に来たばかりのころ、百貨店に行って「どうぞトライして!」と言われるがままに着物を羽織り、買ってしまったんです。

そのまま持って帰れるものだと思っていたら仮仕立てだったので、最初のお値段から、裏地やら仕立てやらいろんなオプションがついて、倍くらいの金額になってしまいました。

シーラさん

シーラ:当時はお金もなかったけれど、まだ日本語もうまくなかったから「やっぱり買えない」とも言えなくて、一生懸命お金を貯めて、なんとか買いました。でも、手に入った時に「どうしよう、着られない!」と気づいて……

ひろこ:最初に百貨店でお着物を買うなんて、すごい!

シーラ:そのころ、いろんなお店に入って着物を見ていたんです。そのうちのひとつのお店の若い男性の店員さんに「実は着物を買っちゃったんだけれど、着られなくて」と相談したら「うちに着付けの学校があるよ」と紹介してくれました。

ひろこさん

ひろこ:どれくらいで着られるようになりました?

シーラ:2ヶ月経ってもまだ難しくて、結局免許を取るまで2年間通いましたね。まだ日本語もあまり話せなかったので、何度も質問したり「うまくいかないけど、なんでだろう?」と相談したり。

先生がすごく優しくて、卒業するときには特別な賞として「努力賞」をいただきました。

シーラさんが”色の魔術師”になった理由

ひろこ:シーラさんのコーディネートを拝見していると、”色の魔術師”だなと思うことがあります。色合わせなどには、もともとご興味があったのでしょうか?

シーラ:実は私、双子なんです。子どもの頃から、いつも同じ服を着せられるのがいやでした。双子と言いつつも皮膚の色も違って、私は白くて彼女はブラウン系。私の瞳は青くて、彼女は緑。なのに名前を覚えてもらえなくて、いつも「Twins」とまとめて呼ばれていました。

あるとき反発して「いやだ、同じ洋服は着ない!」と言ったのが原体験かもしれません。

シーラさん

シーラ:それから美大に行って、いろいろ学ぶ中で色の組み合わせにも興味を持ちました。組み合わせ次第で抑えたり、刺激を与えることができる「色」の存在が面白くて。とくに明るい色が好きですね。

ひろこ:お洋服でも色使いは考えますか?

シーラ:そうですね。そんなにドレスアップはしないけれど、赤いジャケットに白いスカートなどコントラストをつけたりはします。色と模様がとっても大事ですよね。着物も、形が同じだからこそ色と柄が重要ですし。

ひろこ:私は逆に、お洋服だとモノトーンが多いんです。

ただ、5年住んでいたタイなど、陽射しが強いため、映える色が日本と違うんですよ。やはり赤や黄色など鮮やかな色が似合う気がします。着物も、タイにいる時は小紋や幾何学模様などを着ていたのを思い出しました。

シーラさんとひろこさん

ひろこ:その後、台北に引っ越してからは曇りの日が多くて、落ち着いた着物が増えていった気がします。さらに今年日本に帰ってきて、街の中では黒いスーツの人たちが多いから、つい馴染む色を着てしまいます。

シーラさんは、街に馴染む色だとか、スーツの中で浮かないように、ということを考えることはありますか?

シーラ:それはあまり考えませんね。その日会う人にどんなものが合うか、どんなものを着ていったら喜んでもらえるか、というのは考えます。もちろんTPOは大切ですけれど。

シーラ:あとはどんな雰囲気を出したいか。

大正時代のロマンティックなものやヒラヒラした感じを使うこともありますし、”服は表現するものである”という考えが根底にあるんだと思います。

ひろこ:なるほど。私は特に、東京に来る時は街に馴染む色を選んでいる気がします。もしかしたらそれが、日本人特有の”周りとの調和”という感覚なのかもしれませんね。

でも同時に、私は59歳だけれど、年齢に関係なくポップな着こなしも楽しい!ということをどんどん伝えていきたいと思っています。

ひろこさんとシーラさん、二人の観点の違いからより際立って見える日本の文化、そして着物の素晴らしさについては、来月公開の後編をお楽しみに。

構成・文/山本梨央
撮影/伊藤圭

シェア

BACK NUMBERバックナンバー

LATEST最新記事

すべての記事

RANKINGランキング

  • デイリー
  • ウィークリー
  • マンスリー

HOT KEYWORDS急上昇キーワード

CATEGORYカテゴリー

記事を共有する