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守り継がれてきた瑟瑟の桜に、想い寄せる春。〈三月 桜〉「日本画家・定家亜由子 帯のたもとに隠す花」vol.3

守り継がれてきた瑟瑟しつしつの桜に、想い寄せる春。〈三月 桜〉「日本画家・定家亜由子 帯のたもとに隠す花」vol.3

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日本画家・定家亜由子さんが描く月々の花たち。扇のかたち(扇面)に閉じ込められた美をお届けする連載3回目の花は「桜」です。敬愛する女流画家・織田瑟瑟しつしつの桜と共に、花咲く頃になると思い出される素晴らしき展覧会のお話をお届けします。

2026.02.05

カルチャー

余白から香り立つ、気配こそが魅力。〈二月 扇面はりまぜ屏風〉「日本画家・定家亜由子 帯のたもとに隠す花」vol.2

桜を描き続けた女流画家

桜は、描かれ続けてきた花です。同時に、描き続けることそのものを、画家に問いかけてくる花でもあるように思います。

時は江戸時代後期。桜画で評判を集めた、ひとりの女流画家がいました。その名は、織田瑟瑟しつしつ(1779–1832)。

近江国神崎郡、現在の滋賀県東近江市にある川合寺で生まれ、幼い頃から絵を描くことに秀でていたと伝えられています。やがて、桜の絵を得意とした京都の画家・三熊露香みくまろこうに入門しました。

瑟瑟の描く桜は、幹や枝が力強く、花びらや桜葉は勢いよく、旺盛な生命感に満ちています。その画風は、桜の美しさだけでなく、「生きていること」そのものを描こうとするかのようです。

夫と子を亡くし、都を離れて故郷の川合寺へ戻った後も、瑟瑟は生涯、桜を描き続けました。いまも、数多くの瑟瑟の桜画が残されています。

驚くべきことに、それらの多くは有名なコレクターのもとではなく、川合寺に暮らす人々の家々で長い間大切に守られてきたものです。

ワークショップの様子

さらに素敵なのは、桜の季節になると、それらの桜画を瑟瑟のお墓のある西蓮寺へ持ち寄り、本堂にて展覧会が開かれてきたこと。学芸員さんが企画されるような展覧会ではなく、地元の方々による開催なのです。

この展覧会の大ファンとなって毎年通ううちにご縁がつながり、訪れた方々へふるまわれる桜餅や地元の蒟蒻芋を使った甘辛煮づくりを、婦人会の方々と一緒になって、ほんの少しお手伝いさせていただきました。その後、2017年には展覧会開催中のお寺にて桜を囲んで桜の絵を描く日本画のワークショップなどを通して、地域の方々と交流させていただく機会を頂戴しました。

展覧会の様子

代々古い桜木を守るように、桜の絵を守ってきた人々の存在に勇気づけられ、花を描く者としてあまりにも感動的で、深く胸に刻まれる体験となりました。

見続ける人がいるということ

この展覧会は、ご住職ご夫妻と地元の方々の、長年にわたるご尽力があってこそ実現してきたものです。

昨年、50年にわたってお寺をお守りされてきたご住職夫妻が無事に後継者の方へ引継ぎ、引退されました。今年頂いた年賀状には、「永年、年末年始の行事に専念、忙殺されてまいりましたが、静穏な新年を迎え深い感慨を覚えています。」と書かれていました。

桜の頃に必ず開催されていた展覧会は、パンデミック中は政府の要請通りお休みとなり、数年、間が空きました。その後は、素朴ながらも美しいお寺の空間から、地元の美術館等での開催へと移っていったようです。

少し寂しさも覚えておりましたが、それは同時に、川合寺の皆さまの尽力によって、織田瑟瑟の名が広く知られるようになった結果でもあります。心から「ブラボー」と拍手を送りたい気持ちです。

そして、このエッセイの執筆の途中、西連寺様よりうれしいニュースが届きました。以前のように、毎年の開催となるかはわからず、手探りであるということを強調されてはおられましたが、今年、2026年4月5日(日)、再び西連寺を会場として、織田瑟瑟の桜画展が開催される予定ということなのです。

桜を描く手元カット

江戸時代にも、絵描きは本当に数多く存在していました。

安政4(1857)年に発刊された『現古漢画名画集鑑』にも、瑟瑟以外に多くの名前が並んでいますが、いまでは忘れられてしまった画家も少なくありません。作品がひとつも現存していない方もいるでしょう。

織田瑟瑟の作品が、いまもこのようなかたちで存在していることは、奇跡としか言いようがありません。作品や作家そのものの魅力はもちろんですが、作家と作品が存在し続けるためには、見続け、守り続ける人が必要なのだと、あらためて思います。

この世界の片隅で、この村で、このような展覧会が行われてきたこと。その事実そのものを、ぜひ語り継いでいきたいと、強く思います。

絵を描く者として、これ以上に力をもらえる展覧会、感謝の気持ちで満たされる展覧会はありません。

桜を描くたびに、私はこの風景と、人々の姿を思い起こすのです。

花見月の亜由子好み

骨董屋さんで、「まくり」の状態の作品が山積みになっているなかから、偶然出会った一枚の扇面画――それが、織田瑟瑟の桜でした。

こんな宝探しは、私の大きな楽しみのひとつ。

まさか自分が織田瑟瑟の絵を手にする日が来るとは想像もしておらず、その思いがけない出会いに歓喜したことを、いまもはっきりと覚えています。

※まくり(捲り)……表装しないまま置かれてある書画や屏風・襖などの書画を剥がしたもの。めくり、とも。

璱璱の作品

「おそらく、比較的若い頃の作風では」と推察される

掛け軸に仕立てていただくと、見違えるように美しい宝物になりました。少しオリエンタルな雰囲気のある華やかめの裂に、古代朱色に塗られた軸先。

私好みのお仕立てです。

三月の半ばを過ぎ、桜の開花が楽しみになる頃。

画室にて、織田瑟瑟のお軸で一足先のお花見ができることも毎年の愉楽のひとときなのです。

2025.05.25

ライフスタイル

透明感あふれる白の世界。【日本画家 定家亜由子さん】(前編)「着物ひろこが会いに行く!憧れのキモノビト」vol.5

2022.02.26

エッセイ

そろそろ桜も 〜現代フォーマル着物考その2〜「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第十夜

構成協力/椿屋

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