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“祇園祭オタク”の祭と着物の楽しみ方 秋尾沙戸子さん(後編)【YouTube連動】「着物沼Interview」vol.2

“祇園祭オタク”の祭と着物の楽しみ方 秋尾沙戸子さん(後編)【YouTube連動】「着物沼Interview」vol.2

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国際ジャーナリスト・ノンフィクション作家の秋尾沙戸子さんに着物沼について語っていただいたYouTube連動インタビュー。長刀鉾保存会の2階にて、京都愛いっぱいの秋尾さんに祇園祭と着物の楽しみ方を伺いました。

コミュニケーションのきっかけをくれる着物&帯

続く後編での秋尾さんのお召し物は、真っ赤な浴衣。誉田屋源兵衛の破れ格子柄です。

国際ジャーナリスト・ノンフィクション作家の秋尾沙戸子さん

国際ジャーナリスト・ノンフィクション作家の秋尾沙戸子さん

「実を言うと、赤の着物は夏に相応しくないと思っていたんですが……。ほとんどの山鉾は赤を基調としていて、八坂神社の本殿や鳥居の色と相俟って、今では赤=祇園祭のイメージカラーという認識です」と、秋尾さん。

破れ格子は、本来の格子が切れていることで、“江戸幕府の言いなりにはならない”という武士たちの反骨精神を表しているとされます。この浴衣を着用している時、鷹山で「(破れ格子は)武士の文様やね」と声をかけられたこともあるそう。

破れ格子の浴衣

八坂神社に行けば「青龍だからですね」と言われ、鉾町を歩いていれば「懸装品と同じですね!」と話しかけられるという、龍神がおわす絽の夏帯を合わせて。

帯のお太鼓カット

「当時はまだポピュラーではなかったネット通販で買いました。絽で龍文の帯を見つけたのは、相当周囲に褒められました」と秋尾さん

秋尾さん

「以前、柄や文様を生かしたい時は、地の色に近い帯締めを締めるといいと教わったので」、龍を立たせるために黒の帯締めで。

「祇園祭の度に本当によく締めていたので、メンテナンスが必要なほど」愛用している夏帯です。

文様で涼を取る、着物ならではの遊び心

著書『京都占領』

秋尾さんの手にあるのは、戦中・戦後の京都がどうであったか、占領軍が京都で何をしていたのかを日米双方の資料で明らかにした『京都占領ー1945年の真実ー』(新潮新書)

長刀鉾さんとのご縁のきっかけは、『京都占領』の取材でした。戦後占領期の資料の中に、くじ取らずで先頭を行く長刀鉾の前を、米軍のジープが先導している写真をみつけたのです。これは一体どういうことか? 長刀鉾保存会に通い続けました。

また、八坂神社の神々が乗られるお神輿については、神輿を先導する宮本組(祇園の旦那衆による氏子組織)にご協力頂いたのですが、組員の方から、『明日からお祭なんだから、当然、取材も着物だよね』と言われてしまい、緊張しました」

何を着ていけばいいのか頭を悩ませた秋尾さんを救ってくれたのが、祖母から譲り受けた着物たちでした。

祖母から譲り受けた着物の数々

活躍したのは、新潟産の上布(麻着物)。「祖母は越後上布だと言ってましたが、小千谷縮のようでもあり……」と秋尾さんは笑います。

次に、ご自分で購入した、透け感のある琉球絣。「これには赤の帯を乗せると収まりが良くて」

最も出番が多かったのが、襦袢の文様も透けて見えるという、絹芭蕉。お気に入りの組み合わせは、誉田屋源兵衛の雪華文の帯。

「雪の結晶を描いて涼を取る、これぞ和服の醍醐味です!」

「祇園祭には祇園祭の帯を締めたい」

自他共に認める“祇園祭オタク”の秋尾さんの元には、祇園祭モチーフのあれこれが集まってきます。

まずは、こちら。

粽のブローチ

「祇園祭オタクと知っている友人からの贈り物で、長刀鉾の粽を模したブローチです。これは帯留めとしてだけではなく、カチューシャについて髪飾りにしてみるのも面白いかなと思っています」

粽のブローチをカチューシャに

続いて、長刀鉾と八坂神社の神紋「五瓜に唐花(木瓜)」が描かれたブローチ。

長刀鉾のブローチ

「これは、大丸京都店で見つけて購入したもの。どう活かすかはまだ思案中です。小物だけじゃなくて、祇園祭には祇園祭の帯を締めたくなるんですよね。それこそ、私が着物沼にハマった最大の理由と言えます」

先述の龍文ばかりでもな……と思い、探し当てたのが駒形提灯が描かれた帯。

駒形提灯の帯

宵山で山鉾関係者の方からお褒めの言葉をいただけるのが、この帯です。粽に合わせて緑色の浴衣に合わせたりもします」

長刀鉾の赤い網隠しから鉾頭までを描いた帯など、祇園祭関係の帯は全て作り帯に改造済の秋尾さん。理由は、

「結ぶ間に汗だくになるから!」

とのこと。

それは、最もお気に入りの5基の山鉾が並ぶ豪華な帯でも同様です

山鉾の帯

ついに出逢った絽の帯です!これは神戸の呉服屋さんから購入しました。実はインスタで見つけたもので、名立たる呉服屋さんがSNSに商品をあげているので、探しているアイテムが見つけやすくなりました。そういうアピールも着物文化を広げるのに役立っていると思います

龍の帯

さらに、こちらは東京で買い求めたアンティーク刺繍の袋帯。中国の役人の服をリメイクしたもので、山鉾の懸装品とシンクロできそうな一本です。

祇園祭には藍色浴衣が似合う?

「東京にいた頃も祇園祭に招待されて、普段は入れない京町家の奥座敷にご案内頂いたこともあるのですが、そういう時、女将さんたちは皆さん上布の着物を着ていらした。とっても素敵だったので、『私も真似て着てみよう!』と挑戦しました。

が、麻だと熱がこもるんですね。広衿仕立てだと襦袢も合わせて衿元に3枚も布が重なるので、暑くて暑くて。その暑さに耐えられず、気づけば浴衣に移行していきました。今年は、初めてバチ衿で上布を仕立てたので、少しはマシかな?と思っていますが、どうなることやら(苦笑)」

長刀鉾保存会イメージカット

そんなふうに語ってくれた秋尾さん曰く、

「祇園祭には藍色浴衣が似合う!」

とのこと。なぜなら、各山鉾の囃子方の皆さんが藍の浴衣を着ているから。

「藍の浴衣は、山鉾の前に立った時に映えるんです」

と力説されます。

京都ならではの大人浴衣の可能性

秋尾さんが見せてくれたのは、ヘビロテの藍色浴衣たち。

藍色浴衣たち

写真手前から、芭蕉文、こむらさき、ペイズリー柄。全て紫織庵

芭蕉は水玉が配されているところがすごくお気に入りで、過去の写真を見てみるとこればっかり着てたりします(笑)。そこまで目立つのは避けたい時には、ペイズリーの浴衣が重宝します。珍しい柄ですが、文様が主張しないので邪魔にならないのがいいですね。

その2枚の間をとったのが、こむらさき柄の浴衣。これらは綿絽という生地で、涼しさを追求するなら綿絽が一番!と力強くお勧めしますね」

小百合柄の浴衣

よくある文様ではなく、デザインによっては小紋のようにも見える“大人浴衣”が最近よく出回っていると教えてくれた秋尾さん。

月釜くらいのお茶席にはいいんだよって言われて、いろいろと買い求めました。この小さい百合がたくさん咲いている浴衣とか、小紋風で便利です」

大人浴衣の例

誉田屋源兵衛の『月照乱華』は、濃い緑に白い大きな花が大胆な一枚。

「これは帯が難しくて……白をもってくると飛んでしまうので、淡い水色の織の帯を合わせました

まるで誂えたかのような、縁が緑で中が白の帯締めを路上で見つけ、飛びついたそう。

「祇園祭の期間中は、室町や新町の路上でお値打ちの品に出会えるのものも見逃がせません」

とのこと。同じく誉田屋源兵衛「支那の夜」(写真中央)は、

「大胆なだけじゃなくて、花や鳥が可憐に描かれているのが魅力

と秋尾さんは言います。

襦袢を着れば浴衣でもお茶席へ行けると京都で言われたって話したら、東京のお姉さんに『冗談じゃありません!』って叱られたことがありますが、京都では、小紋にも見える文様の浴衣が豊富にあるんです。月釜などには洋服で来る人も増えている中、浴衣をまとうことは十分にお茶室へのリスペクトを表明できると思っています」

また、片身替わり(写真右下)の浴衣もユニークな一枚。兵児帯風の緑の帯と組み合わせたそう。

祇園祭モチーフで祭りを100万倍楽しむ!

秋尾さんは言います。「季節限定のモチーフでコーデを考える楽しさこそ、着物の醍醐味です」と。

「それが私たちを沼に引っ張り込むんですけど(笑)」とも。

秋尾さん

「東京にいたら着る機会がないので祇園祭モチーフは避けようと思いがちですが、祭りにちなんだものを手に入れて、それを身に着けて、実際にお祭に行けばいいのです!

縁のものを買って現場にまとって行けば、祭を100万倍楽しめることは間違いなしです。山鉾の帯を締めるとなると、その山鉾の由来を調べたり、訪ねたくなったりしますよね。それこそが重要なポイント。手に入れたものに用いられているモチーフについて徹底的に調べれば、より深く日本を知ることができます

秋尾さん

「京都という場がなせる技でもあるかもしれませんが、着物を通じて、さまざまなことを奥深く早く教えてもらえました。着物で神事や行事に参加させてもらって、私自身、知識や教養が10万倍増えたように感じています。皆さんにもぜひその喜びを味わってほしいですね。京都に来て、いろんな学びを得て、着物沼的にはやっと中級かな。ここから上が果てしない。死ぬまでハマっているんでしょうね(笑)」

文章/椿屋
撮影/松村シナ

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