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透明感あふれる白の世界。【日本画家 定家亜由子さん】(前編)「着物ひろこが会いに行く!憧れのキモノビト」vol.5

透明感あふれる白の世界。【日本画家 定家亜由子さん】(前編)「着物ひろこが会いに行く!憧れのキモノビト」vol.5

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国内での活動もますます広がりを見せる”着物ひろこ”こと長谷川普子さん。憧れの人に会いに行く連載3人目のゲストは、京都にアトリエを構える日本画家・定家亜由子さんです。まずは、薫風運ぶふたりのコーディネートから。

2025.05.15

よみもの

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日本画家 定家亜由子さん

着物ひろこさんが今回会いたいと願ったのは、京都を拠点に日本画家として活躍されている定家亜由子さん。

亜由子さんプロフィール画像

定家亜由子

1982年滋賀県生まれ。京都市立芸術大学大学院美術研究科修了。

自然をこよなく愛し、草花や虫といったモチーフを伝統的な技法で描く。

数々の展覧会で作品を発表し、メディア出演も多数。著書に、画文集『美しいものを、美しく 定家亜由子が描く日本画の世界』(2018年/淡交社刊)。

今回のロケーションは、いちはつが咲き誇る上御霊神社と、そこから徒歩数分のところに構える亜由子さんのアトリエです。

いちはつの花

いちはつ(一八/鳶尾)は、例年2月下旬に開花し、5月初旬に満開を迎える。水辺ではなく陸地に育ち、菖蒲や杜若などアヤメ科の花の中で“最も早く”咲くことから「いちはつ」と名づけられた

新緑が眩しい初夏、初対面とは思えないほどの近しさと朗らかさで、対談は始まりました。

ごりょうさんを訪れるふたり

心ときめく“合わせの妙”

亜由子さんのナビゲートで訪れた上御霊神社は、ちょうど御霊祭の真っ只中でした。

境内には還幸祭までの期間、3基の神輿が鎮座しています。

見上げて、「かっこいい!」と目を輝かせるふたり。まずは本殿にお参りして、この日の出逢いに感謝しました。

お参りするおふたり

定家亜由子(以下、亜由子):ごりょうさん(上御霊神社)にとって一年で一番大事にされているお祭りのときにいらしてくださって本当にうれしいです。しかも、いつもなら見頃が終わっている「いちはつ」がまだ咲いているのもすごい!

着物ひろこ(以下、ひろこ):私こそ!念願叶って亜由子さんとこんなふうにお話できる機会が得られるなんて。私、一方的に亜由子さんの大ファンで。帰国後、機会があれば生で作品を拝見したいとずっと思っていたところ、京都に来るタイミングで展覧会があると聞きつけて、隙間時間にひとりでパッと観に行ったことがあるんです。

亜由子:プライベートで来てくださっているのが分かって、とても感激しました。

ひろこ:その後すぐにメッセージをいただいて、私の方こそ大興奮でした!

亜由子さんとひろこさん

瑞々しい木々に目を細めながら、「(鳥居の)朱といちはつの紫と新緑の濃さ、コントラストが本当に美しいですよね」と呟いた亜由子さん。

控えめにカメラの前に立つ彼女を見つめるひろこさんは、何度も「キレイすぎるー!!!」と歓声を上げていました。

ひろこさんが絶賛した、透明感あふれる亜由子さんの着姿がこちら。

亜由子さん着姿

コーデの主役は、夏椿柄が印象的な絽綴れの夏帯。同色系の着物を合わせて、爽やかな風を運んでくるかのような装いです。

亜由子:お着物は、お茶の先生やお客様からお譲りいただくことが多いのですが、この夏椿の帯は気に入って自ら買ったものです。

ひとりでは上手に(着物を)着られないのに、簪や帯留めといった小物を、つい“愛でるためだけ”に買っちゃいます(笑)

亜由子さん後ろ姿

ひろこ:茄子の帯留め、素敵です。京野菜がお好きって連載でも書いておられましたよね。お気に入りの八百屋さんや道の駅で野菜を眺めるだけでも楽しいって。

亜由子さんの帯回り

亜由子:そうなんです。お野菜だけでなく、草花や虫といった身近な動植物の自然の造形や意匠に感嘆すると、描かずにはいられません。

今日は、他にも翡翠、パール、友人がつくった雪輪の帯留めと迷いましたが、骨董の象牙の茄子を選んでみました。こういった着物ならではの“合わせの妙”にときめきます。

亜由子さんの帯留めたち

亜由子さんの帯留めたち

亜由子さんが手掛けた絵の扇子

宮脇賈扇庵とコラボレーションした、四季の花を描いた扇子

その名を映す“清流”コーデ

対して、ひろこさんの装いは――

ひろこさん着姿

ひろこ:亜由子さんのお名前にちなんで、「鮎」の夏帯です。

亜由子:お会いした瞬間に「あっ、鮎だ!」ってテンションが上がりました。

ひろこさん帯回り

ひろこ:私の中で亜由子さんは、白いお花のイメージ。その印象に寄り添って、清流を表現する水色の着物を選びました。

亜由子:地紋がキラキラと、まるで水面のようで美しい……。

ひろこ:澄んだ清流にのみ生息する鮎からご両親が祈りを込めて「亜由子」と名づけられたというエピソードに心打たれて、鮎の帯以外ない!と思っていたんです。すぐに気づいていただけてよかった。

亜由子:名前の由来について綴った私のブログも読んでくださっているなんて!とってもうれしいです。撮影の合間にもさり気なく日傘を差しかけてくださるなど、濃やかな気遣いに感激しました。

おふたりの後ろ姿

撮影中、亜由子さんを筆頭にクルー全員が代わる代わる「美味しそう……」と呟いた鮎はいまが旬

鳥居でのひろこさん

境内にある福寿稲荷神社の鳥居での撮影では、ひろこさんが亜由子さんに着物が美しく見えるポージングを伝授する一幕も

白ってセルフプロデュース?

ひろこ:佇まいはもちろん、お声も言葉選びも笑顔も……亜由子さんはご自身の絵画そのままの方ですね。作品やSNSなどから受け取っていた、白くて透き通ったイメージのまま。

亜由子さんの作品はどれも、白の使い方が特長的だなと感じます。亜由子さんにとって、白は特別な色ですか?

鳥居でのおふたり

亜由子:そうですね。白は感覚とリンクとするというか……色のついているものより自分に馴染む気がします。

ひろこ:もしかして、画家としてのセルフプロデュース的な色使いなのかな?とも思ったんですが、そうではなくて、白という色が本当にお好きなんですね。

亜由子:はい、大好きです。日本画では、白は胡粉ごふんといって貝殻からつくられる岩絵具を使いますが、その原料となる貝が海の中にいたと思うと、それだけで愛おしく感じられます。

日本画に出合うまで油絵や版画などさまざまな手法で絵を描いてきましたが、絵具はあくまでも道具にすぎなくて、表現を手伝ってくれる手段のひとつという認識でした。けれど、日本画で使う画材はその多くが天然素材。まるで自分と溶け合うような感じさえします。

どっちが主役でもなく、お互いがお互いの声を聴きながら、表現したいもの、すべきものを描きつつ、対象と自分との距離の中間にある何かを目指すような感覚……といったらいいのかな?

岩絵具

ひろこ:なるほど。亜由子さんにとって、日本画の画材はただの道具ではなく、“活かし合うもの”なんですね。

亜由子:岩絵具の濃淡を調整するために溶く水の瑞々しさや透明感、しなやかさまでも絵に表れます。だからこそ、水の流れに身を任せて描くのが心地良いですし、水が乾いてその存在が残るのも魅力のひとつだと感じます。

いちはつの花とおふたり

流れのままに、あるがままに。

亜由子さんが作品づくりにおいて大切にしていることやモチーフとの向き合い方など、続く後編では、日本画家・定家亜由子の在り方について深掘りします。

着付け・ヘアセット/株式会社結喜 YUKI 西名由紀子
構成・文/椿屋
撮影/伊藤圭

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