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和裁で日本から世界救う!と、本気で願う。 映画作家 河瀨直美さん(後編)

和裁で日本から世界救う!と、本気で願う。 映画作家 河瀨直美さん(後編)

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本日、「大阪・関西万博」が開幕です!前編では、シグネチャーパビリオンへの取り組みについて語ってくださった映画作家・河瀨直美監督。後編は、着物への愛はもちろん、着ることから一歩踏み込んで始めた和裁に対する想いをお聞きしました。

2025.01.02

インタビュー

「対話」を通して分断を超えたい― 映画作家 河瀨直美さん(前編)

ルーツある奄美の紬で臨んだカンヌ

能楽師・田中春奈さんや着付け士・佐保山素子さんとの対談を通じて、メディアが伝える世界の“ナオミ・カワセ”のイメージとは少し異なる印象を受けた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

2025.02.11

インタビュー

【対談】映画作家 河瀨直美さん × 能楽師 田中春奈さん ―世界平和のため、家内安全を願う。

2025.03.07

インタビュー

【対談】語り尽くせぬ、奈良への愛。映画作家 河瀨直美さん × 東大寺塔頭宝珠院住職夫人 着付士 佐保山素子さん

監督という肩書を外した“直美さん”は想像以上にキュートで、シンプルな生き方を好むようにお見受けしました。

河瀨監督

プライベートではどんな時間を大切にされているのかと問えば、

「床の間に花を飾ったり、お香を焚いたり……自分を整える要素を大事にしたいと思っています。YouTubeを見ている時間を少し減らして自分を見つめるひとときが好きですね」

とのこと。

その"自分を見つめるひととき”に着物がある河瀨監督は、内覧会やスピーチの場といった改まった場所へ出かけるときに着物をまとうことも少なくありません。

例えば、映画『2つ目の窓』(2014年/アスミック・エース)でカンヌへ赴く際、ご自身のルーツでもある奄美大島の伝統工芸品として知られる大島紬を誂えました。

日本を代表するかのような白大島での凛々しい姿で登壇した際、「あなたの国をリスペクトする」と声をかけられたといいます。

それは「日本を意識し、母国を誇りに思えた経験」だったと振り返った監督の瞳は、とても凪いでいました。

河瀨監督が愛する白大島コーデとは

数ある色柄の中から、監督はなぜ「白」の大島紬を選んだのでしょうか。

河瀨監督

「白は、ユタ神様からのお告げです。洋服も白いものを身につけるようにとのことだったので、大島も自然と『白』を選びました。大島紬村の会⾧がデザインした優しくて柔らかな柄です」

※ユタ神様……奄美大島などで、神の言葉を代弁するとされる民間の霊媒師。集落に深く根付き、地元の人の悩み相談に乗ったりする生活に密着した存在

ご存じのとおり、職人の技が光る大島紬は着物好きには憧れの伝統工芸品のひとつ。ですが、あくまで大島はカジュアル着物。

それに関して、監督の考えはこうです。

「大島そのものがフォーマルではないのですが、白はそれなりにフォーマルに見えるため、何かの会合とか、お正月の集まりとかに着用しています。帯を変えるだけで、様子も変わるのが着物の楽しいところ」

例えば、どんなコーディネートを愉しまれているのかといえば――

「最初に白大島を購入したときに一緒に選んだ、大人ピンク色の、三日月と満月から少し欠けたくらいの月があしらわれた名古屋帯を合わせることが多いです。

奄美や沖縄では、かみごとで魔除けに使われていた夜光貝の帯留めをつけたりします。

海外の映画祭のパーティに出席するときは、少し派手な感じもしますが、蔦の柄の帯とのコーデで華やかな印象を出すことも」

「和裁を通して学ぶことがいっぱいある」

一服する監督

着物に魅せられた河瀨監督は、着るだけに留まらず、和裁にも挑戦しているというから驚きです。

「沖縄の友人に紅型の帯の反物をいただいた際に、旧友で和裁士の吉住美波さんに連絡をとって、彼女の工房を覗きにいったことがきっかけです。彼女は和裁教室をやっていて、昔から手づくりするのが好きだった私は着物を縫ってみたいと思い立ち、ここぞとばかりに通い始めたんです」

すでに4枚の着物を仕立てた河瀨監督曰く、「和裁を通して学ぶことがいっぱいある」。

提供:河瀨直美事務所

友人のお子さんのために縫い上げた浴衣の前で。「今年は自分の着物を2枚縫ってみようと思っています」
提供:河瀨直美事務所

「誰かのためにひと針ひと針縫うことは、その人への想いが宿ること。贈ったときの笑顔を想いながら仕立てることで、物事を真っ直ぐに見つめることができます。

さらに、お贈りした人たちが笑顔で喜んでくれたら、自分の中で何かがほわっと温かくなるのを感じます。すると、ゆっくりぐっすり眠れるんです」

「いまの時代、さまざまな物事に翻弄され、ひとつの価値観だけでは判断できず、何が正解か分からないことも多くて、戸惑うばかりですが……

和裁をしていると、自分にとって一番大事なものの輪郭が見え始め、集中力が高まります。

私にとって美波先生のもとで和裁に勤しむ時間は、自分を整える時間。いまは何よりも、和裁教室に行くのが愉しみでなりません。

整った自分は、どうやらとびっきりの笑顔をしているようです。そんなふうに整った私は、誰かの悪口を言ったり、何かを羨んだり、社会を憂いたりする必要がありません。つまりは、この世界から戦争が起こることなんて、まったく無くなるわけです。

そういう意味で、和裁で日本から世界を救うことができる!と、けっこう本気で想っているのです」

素晴らしき着物文化から多くを知る

河瀨監督

海外で着物を着るときは、もちろん自ら着付けをする河瀨監督。

美しい着姿を維持するために、着物で出かける際に気をつけていることを教えていただきました。

「大股で歩かない。いつも、急いでいることが多いので(笑)、ついつい大股で歩いていて。注意されてから、気をつけてます。

襟がスッとしているか、帯のタレが折れてないか、座るときに、前裾がシワにならないように座る……など、カタチとして気をつけている部分がありますが、気持ちとしては、日本古来からの伝統的なお召し物を着けさせてもらっていることの緊張感と誇りをしっかり持って、姿勢を正すように心がけています。

そうやって少し意識しているだけで、みなさんに良く声をかけていただくので、口角を上げて、小さく会釈したりして、愛想よくふるまっています。

そうすると、自然と女性らしい所作になっているものなんですね。素晴らしき、着物文化♡」

河瀨監督

その身にまとうだけで、無心になって縫い進めることで、多くの気づきを与えてくれる着物文化。その素晴らしさを肌で感じられる着物のある暮らし。

もっと自由に、もっと愉しく。

みなさんも、着たり縫ったりを愉しんでみてはいかがですか。

ご案内

いよいよ、「大阪 関西万博」開幕!

オフィシャル画像

2025年4月13日、待ちに待った「大阪・関西万博」が開幕しました!

2025年大阪・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。人々の生活を豊かにし、持続可能な社会を実現するための新しい技術やアイデアに基づいた多種多様な展示やイベントが開催され、来場者は未来の社会を体験することができるのです。

各パビリオンでは、「いのちを救う」「いのちに力を与える」「いのちをつなぐ」の3つサブテーマに沿った展示が行われます。

中でも、河瀨直美監督が手掛けるシグネチャーパビリオン「Dialogue Theater - いのちのあかし - 」は、184日間にわたって、「対話」を通じて、世界の至るところにある「分断」を明らかにし、解決を試みる実験場になります。毎日問いかけられる異なるテーマの対話によって、多くの気づきが得られる特別な空間です。

人はもっとお互いを理解することができる。よりよい未来を一緒にうみだすことができる。

分断のない未来への第一歩を、ぜひ見届けてください。

「Dialogue Theater - いのちのあかし - 」公式サイト
https://expo2025-inochinoakashi.com/

取材・構成/椿屋
撮影/松村シナ

2022.10.08

インタビュー

大島紬で際立つ”静かな迫力” feat. 俳優・片岡礼子「きもの、着てみませんか?」 vol.2-1

2024.07.08

まなぶ

和裁のいま

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