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時代劇の聖地・京都太秦の技術を世界へ。「エミー賞受賞!『SHOGUN 将軍』の座組から」vol.3 テクニカル・スーパーバイザー・原田徹監督

時代劇の聖地・京都太秦の技術を世界へ。「エミー賞受賞!『SHOGUN 将軍』の座組から」vol.3 テクニカル・スーパーバイザー・原田徹監督

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エミー賞18冠を皮切りに、ゴールデングローブ賞や全米映画俳優組合賞でも輝かしい栄冠を手にした海外ドラマ『SHOGUN 将軍』。世界にその名を轟かせる時代劇を創り上げた縁の下のプロフェッショナルたちの活躍に迫るシリーズvol.3は、現場での調整役を担った映画監督の原田徹さんにご登場いただきます。

2025.01.06

まなぶ

2100頁ものマニュアルこそ作品の要。「エミー賞受賞!『SHOGUN 将軍』の座組から」vol.2 時代考証・フレデリック・クレインス教授

テクニカル・スーパーバイザーは「現地調整役」

場面画像

エミー賞で史上最多となる18冠に輝く大快挙を果たした海外ドラマ『SHOGUN 将軍』が、年明けには第82回ゴールデングローブ賞でドラマ部門を制覇。2月23日(現地時間)には、第31回全米映画俳優組合賞(SAGアワード)のテレビ部門で最多4冠も達成しました。

※エミー賞……アメリカで放送されるドラマ番組に与えられる賞。「テレビ版アカデミー賞」とも称され、アカデミー賞(映画)・トニー賞(演劇)・グラミー賞(音楽)と並ぶ、アメリカで最も権威ある文化賞のひとつ

※ゴールデングローブ賞……毎年1月に発表される、アメリカにおける映画とテレビドラマに与えられる賞。1943年に創設された歴史ある賞で、アカデミー賞の前哨戦としても注目度が高い

※全米映画俳優組合賞(Screen Actors Guild Awards)……アカデミー賞前哨戦として知られる、アメリカの映画賞のひとつ。2024年より、授賞式がNetflixで配信されている

監督とあきこさん

原田徹監督(左)と所作指導のこばやしあきこさん(右)。こばやしさんは侍女役で出演も
提供:原田徹

本作でテクニカル・スーパーバイザー(監修)を務めたのが、数多くの時代劇を手掛けてきた原田徹監督です。

2021年8月15日にバンクーバーの空港に降り立ち、第一陣として現地入りしたスタッフのひとり。所作指導のこばやしあきこさんとは、成田でリアル顔合わせを果たしました。

2024.10.16

まなぶ

世界観を下支えした所作指導とは? 「エミー賞受賞!『SHOGUN 将軍』の座組から」vol.1 女優・こばやしあきこさん

テクニカル・スーパーバイザーとは、時代劇そのものの考証を行うプロフェッショナル。各キャラクターに必要な衣裳や所作はもちろん、調度品や小道具の位置、役者の動線、鎧兜や手裏剣の意匠、燭台の置き方や床の間の設えに至るまで、全体を俯瞰で見ながら、日本人が見ても違和感のない“ほんまもん”の空間をつくることが仕事です。

こばやしあきこさん(以下、あきこさん):私が、苔を踏んではいけないことを伝えるのに苦心したように、監督にも侘び寂びを理解してもらうのに頭を悩ませたこともたくさんあったのでは?

原田徹監督(以下、監督):当初はけっこうぶつかったりもしたね。彼らは、壺があると花を入れようとするし、格好いいからとすぐ鎧を着せたがる。身分の低い者でも建物の奥へとはけていくし、何かというと庭を見せたがる。

セットの障子や襖が3枚しかなかったときはたまげました。日本人なら、障子も襖も2枚か4枚だと知っていますが、設計図だけではそれが伝わらなかったんでしょう。

場面写真

監督:忍者は本来、いかにもな黒い服を着てはおらず、町衆に紛れるような恰好をしているし、十字の手裏剣も投げない。そういうことを一つひとつ説明していき、本格的にやりたい!と言う彼らの望むこととリアルなところをすり合わせるのが、僕の役目でした。いわば、現地調整役ですね

ゼロからの下準備を担った「フロンティアの同志」

あきこさん:撮影前が本当に大変でしたよね。空手道場みたいな場所でのオーディションは衝撃的でした。

監督:椅子が2脚置いてあるだけの空間に、何をするかも分からないまま放り込まれて(笑)。30~40人くらい来てたかな?

とりあえず、座って、立ち上がって、歩いてという動作をやってもらうんだけど、摺り足はおろか正座もしたことがない。ひとりだけ剣道部の人がいて、出来そうなのはその人だけ。なのに、殆どの人を合格させたので、レッスンして鍛えてほしいという。なんのためのオーディションなんやと思いながら、特訓するしかなかった。

あきこさん:とにかく内腿の筋肉を鍛えてもらうところからスタートしましたね。所作ブートキャンプと呼ばれて、一ヶ月以上練習してくれて、皆さん本当に頑張って歩けるようになってくれました。日本の現場でも、時代劇の撮影の前に導入したいと思ったほどです。

監督とあきこさん

この日の取材は原田監督のご自宅にて。愛犬たちとともに、終始リラックスした雰囲気
提供:原田徹

監督:何もかもが手探り。こばやしさんとは、フロンティアの同志でしたよ。

あきこさん:日本ではあり得ないことが次から次へとやってきて、本当に驚きの連続でした。

監督:今日は霧が濃いなぁと思ってたら、思いっきりスモーク焚いてたり。櫓で漕ぐ舟が全部ラジコンで動いたりね。一番ビックリしたのは、森の中での朝礼で、熊が出たら「ベアー!」と3回叫んでくださいって注意されたこと。その日は熊対策チームが来ていて、熊が出たら安全に森へ帰すって言うんだよね。ケータリングの匂いに釣られてやってくる熊を傷つけることはしないというスタンスに感心した。

あきこさん:向こうでは、自分たちがお邪魔しているって感覚なんですよね。

場面写真

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海外ロケならではの撮影事情を振り返って

あきこさん:日本とは勝手の違うことが多くて、慣れるまでは戸惑ってばかりでした。

監督:テストしないとかね!立ち位置だけ確認して、ライティングを調整したら即本番。カットを割らず、カメラを換えて何テイクも撮る。間違えてもそのまま続けるし、どこが悪いのかの説明もない。雨を考慮しないスケジューリングで、衣裳や鬘が濡れても撮影を続行するのも、日本ではあり得ない。

場面画像

あきこさん:1日2シーン進んだら、捗った方でしたよね(苦笑)。

監督:4月頃には終わる予定だったのに、9~10話を撮ってる頃に1話の打ち合わせを始めたり。見直してみると、イギリス人が日本にたどり着いたことから始まる物語なのに按針目線のシーンが少ないから追加したいって言い出して。慣れてきて、欲張りになったのかな。

いまから撮り直すなら1か月はかかるよって話したけど、また一からセット建てて、一部しか映らないのに50軒くらいの街並みを全部再現したのには、度肝を抜かれた。お金のかけ方が桁違いだよね。7月3日の最終日に、第1話の最初のシーンを撮ってたもの(笑)。

あきこさん:クランクインしてから何度も台本が変わるのも、今回の撮影では当たり前でした。ホワイト→ピンク→グリーン→イエロー→ブルーと表紙が変わっていくので、最新のものをチェックしておかないといけないのに、日本語バージョンを待っていると撮影ギリギリになる。コールシート(=日々のスケジュールを記したもの)もしょっちゅう変更になるので、本当に大変でした。

場面画像

史実に拘りすぎない見え方を意識した画づくり

監督:こうして話していると、当時のことを思い出すなぁ。毎日いろんな苦労があって、待ったなしだった。

例えば、フレデリック教授の見解では、慶長時代では女性は立膝で座っているということだけど、画的に見るとどこまで伝わるか難しく、パブリックなシーンでは正座にして、立膝はプライベートな場所でのみにしようとその場で折衷案を出したり、武士は胸元に懐紙を入れているものだけど映像では台本を入れているみたいに見えるから止めておこうと話し合ったり。浮世絵にも描かれてない鉄漿かね(=お歯黒)は、見た目を重視して不採用にした。

あきこさん:一つひとつは些細なことのようですが、その積み重ねがリアリティを生み出していきますよね。

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監督:台本に布団と書かれているシーンでは、敷布団しかなくてね。僕らにしたら布団=敷布団+掛け布団のセットなんだけど。仕方がないから、薄物の打掛けでそれらしく見せたことも。

あきこさん:そうでした。本当によく調べて、色んなものを用意してくださってましたが…例えば扇子はたくさん持ってきてくださっても、それぞれ用途が違うので、使えるものは僅かだったことも。

私たちだって、仮にヨーロッパの時代劇をつくろうとして準備するとして、それがスペインのものかイタリアのものか判断するのはなかなか難しいですよね。そんななか、本当によく勉強して揃えてくれてました。

監督:燭台も、時代に合ったものを用意しているけど、置き方までは分からないんだよね。だから、人と人の間にずら~っと置きたがる(笑)

あきこさん:でないと、明るさが足りないっていう現地スタッフの気持ちも分かりますが、そもそも昔の部屋は薄暗いものですから(苦笑)

愛犬同伴が当たり前!バンクーバーでのロケ現場

あきこさん:スケールの大きさ以外に、ハリウッド式の撮影から得た刺激はありましたか?

監督:刺激というか、いいなぁと思ったのはみんなが当たり前のように愛犬を連れてくること。向こうでは、職場に犬を連れてくることが珍しくないんだよね。

あきこさん:今回の撮影現場にも、お散歩係のスタッフがいましたよね。

監督:長丁場の現場は激務。だから、犬に仕事のストレスを癒してもらおうという考え方は素敵だな、と思った。

あきこさん:監督の愛犬、パンくんもIDをもらって現地入りしてましたもんね。

監督の愛犬、パンくん

提供:原田徹

監督:バンクーバーへ来たのが、12月14日。主人想いのパンが討ち入りしてくれて、僕の気苦労を晴らしてくれた。

あきこさん:愛犬同伴については、日本の撮影現場でも導入されるといいですよね。

監督:以前、大学(=教鞭を取る大阪芸術大学)へパンを連れていったら、誰の犬だ!ってちょっとした騒ぎになっちゃった(笑)。

『SHOGUN 将軍』が世界へ発信するメッセージ

あきこさん:『SHOGUN 将軍』は、多くの賞を受賞したことで日本の良さを世界に知らしめてくれました。

監督:時代劇は古くない。時代劇は格好いい!

あきこさん:日本人が素晴らしい宝物を持っているんだよと、教えてくれたと思います。それは世界だけでなく、時代劇から離れていた日本人にも届いたメッセージではないでしょうか。

監督:セットも機材もスタッフの技術も本当に凄くて、日本映画にはないスケールの撮影現場に参加することができたのは、本当に嬉しかった。過去の撮影でモンゴルに行ったこともあるけど、それとは比べものにならない人生最大と言ってもいいプロジェクトでした。

場面画像

監督:この作品は、映画の信頼を回復させてくれたと思います。ちゃんとしたものをつくることができたと自負しているし、その作品が世界中で評価されていることで、大変だったことは全部忘れてしまえるよ。

原田監督宅を訪問されたあきこさんの着こなし

最後に、この日のあきこさんの着こなしにも注目しておきましょう。

「江戸小紋の竹縞に蝶々の刺繍があしらわれている着物に、アンティーク羽織を合わせました。バンクーバーでは、着物姿がとても喜ばれましたが、なかでも一番人気だったのがこの濃紺に花扇面の華やかなアンティーク羽織です」

提供:こばやしあきこ

提供:こばやしあきこ

「そして帯は、縮緬の姉さま人形。帯締めは、真田紐にしました。『おおきに』の吹き出し型のブローチを帯留め代わりにして、姉さま人形にしゃべらせてます」

「こちらも現地でとても人気で、『彼女たちは何て言ってるの?』と聞かれて『ありがとうを京都の言葉で話している』と伝えると、『thanks!ブローチも作らなくちゃ!』とよく言われました」

SHOGUN 将軍
“Courtesy of FX Networks”
ディズニープラスで全話独占配信中

取材・構成/椿屋
聞き手/こばやしあきこ

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