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着物を仕立てる”和裁”とは?洋裁との違いと学び方のススメ

着物と和裁の5つの学び <入門編>さくらおばあちゃん直伝!和裁と洋裁の違い~

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長年和裁の仕事をしてきたさくらおばあちゃんに習った5つの学びを紹介いたします。洋装とのちがいとして型紙の有無・裁ち方・仕立て方があること、和裁を学べる人や場所について、また和裁に必要な道具など「和裁をはじめる前に知っておいてほしいこと」をまとめました。

和裁の道具

関東の片田舎に住むさくらおばあちゃんは、御年88歳。
今度お習字を習うんだよと、米寿を迎えてもまだまだ元気いっぱいです。
お蚕を育て、繭から糸をひき、反物を織ってそれを仕立てる…当時はとても大変だっただろうと思いますが、今考えればとても贅沢なこと。農家に産まれたさくらおばあちゃんは学校を卒業したあと、17才から農閑期の冬の間に和裁を習い、お嫁に来てからは農業の合間に和裁の仕事もしていたそうです。和裁の仕事のおかげで娘たちにいい振袖を仕立ててあげられたと、うれしそうに、そして、ちょっと自慢げに思い出話をしてくれるさくらおばあちゃん。そんな優しい時間に教わった、着物好きの方なら知っておきたい着物と和裁のあれこれを紹介します。

1 和裁とは?

そもそも「和裁」とはどのようなことを指すのでしょうか?
普段から着物をお召しになる方にはおなじみのワードですが、一般にはイメージが湧きにくいかもしれません。
和裁は、裁縫のなかでも特に和服を仕立てることを言い、簡単に言えば着物や浴衣などを制作することです。
着物などの和服を仕立てるには専用の道具を使用したり、和裁ならではの技術があったりと、洋服の仕立てとは異なる部分がたくさんあります。
洋服の作り方はイメージできるけど、着物の作り方となるとパッと頭に思い浮かばない方も多いのではないでしょうか?
和裁を知るうえで欠かせない、和裁と洋裁のちがいについて、比較しながらご説明していきます。

2 和裁と洋裁の違い① <型紙を使わない>

和裁と洋裁のちがいはいくつかありますが、大きなちがいは型紙が必要ないということ。
洋裁には、人の身体や人台に布をあてて裁断する立体裁断と、作業台などの平らな面に布と型紙を置いて裁断する平面裁断の2つの方法があります。
和裁では、「裁ち板」という板などの平らなところに反物をおいて裁断をしますが、洋裁の平面裁断とはちがって型紙は使いません。
作りたいものの寸法を物差しではかって直接反物に印をつけていきます。
さくらおばあちゃんは同じくらいの年の女の子たちと先生のお家で和裁を習っていたそうです。
はじめは先生が大きな図を描いて教えてくれるのをノートにとるところから。
それから、反物の何分の一かの大きさの紙を使って寸法の取り方を練習したのだとか。
もう70年も前のことなのに、先生に言われたことは今でもよく覚えているよと、笑顔で話してくれました。

3 和裁と洋裁の違い② <直線裁ち>

洋裁は、肩や衿などはまるく、Aラインスカートなどは布目に対して斜めに裁つこともあります。
和裁は、布目に対して縦、または横にまっすぐ裁ちます。すべて直線で裁つので、すべてのパーツが長方形をしています。
着物や浴衣を思い浮かべてみてください。
いくつもの長方形を組み合わせて仕立てられていることがわかるのではないでしょうか?
洋裁ではその洋服を作るために専用のパーツが作られるため、糸をほどいて再利用ということは難しいですよね。
和裁の直線裁ちで作られる着物は、仕立てた後も糸をほどけば反物に戻るという特徴もあり、一枚の布として別の用途に、また新たな着物としてリメイクすることもできます。

4 和裁と洋裁の違い③ <仕立て直しができる>

洋裁は、縫い代を残して余分な布は切ってしまうことがほとんど。
和裁では、サイズに合わせて印を付けた通りに縫っていきますが、余ったところは切りません。
ごわごわしないようにきれいに縫いこむので、一度仕立てた着物をすべて解くと、もとの長方形のパーツに戻せます。
もとのサイズよりも大きなものにも小さなものにも仕立て直すことができます。

和裁と洋裁の違い

5 和裁は誰に習う?

さて、和裁に挑戦してみたいと思ったら、どうしたらよいのでしょうか。
洋裁を学ぶ場合、服飾の専門学校に通うという方法がメジャーですが、和裁や着物の仕立てを専門にした学校は全国的にも少ないという現状です。
そのため和裁や着物の仕立てについて学びたい場合は、まずはあなたの身近な方に聞いてみましょう。着付けを習っている方、呉服関係のお仕事をしている方は和裁に詳しい方もいるので、聞いてみると良いと思います。
さくらおばあちゃんの若いころの女性はみんな和裁を習っていて、和裁の仕事をしていた方も多かったそうです。
今のおばあちゃん世代の方は和裁ができる方も多いと思うので、ご家族や親戚の方におばあちゃん世代の方がいたら、ぜひ聞いてみてくださいね。

身近に和裁を習えそうな方がいなくても大丈夫。
地域のカルチャースクールや個人の和裁教室などでも学べます。
和裁・洋裁含めてお裁縫ビギナーの方は、はじめは先生によく見てもらいながらゆっくり時間をかけて学ぶのがよいですので、通えそうなところのスクールやお教室を探してみましょう。
本格的に習いたい方は、和裁の専門学校や着物について学び技術を身につけられる学校を探してみるのもおすすめです。

和裁をやったことがある・洋裁なら得意という方、お教室に通うのはなかなか難しいという方には本やネット動画で学ぶという方法もあります。
洋裁と和裁では用語や必要な道具にちがいはありますが、基本的なことが分かっていれば独学も可能です。
和裁本や動画でチャレンジするなら、単衣(ひとえ)で、扱いやすい綿の生地の浴衣がおすすめ。
まず浴衣を縫ってみて、ひとりでもできそうなら袷に挑戦してみてもよいですし、あらためてお教室を探してみるのもよいでしょう。
和裁学校の中には通信教育を行っているところもあるようです。
和裁にはいろいろな学び方があるので、あなたの学びたいレベルやペースに合うところを見つけてみてはいかがでしょうか。

6 和裁には何が必要?

では、実際に和裁をはじめるのに必要なものをそろえていきましょう。
さくらおばあちゃんは、だいたいこんなのがあればいいよ、と教えてくれました。

必要な道具

(1)裁ち板
(2)くけ台
(3)ものさし
(4)縫い針
(5)くけ針
(6)まち針
(7)裁ちばさみ
(8)ヘラまたはチャコペン
(9)コテまたはアイロン
(10)糸
(11)糸切りばさみ
(12)指ぬき

あると便利なもの
リッパー
コンパス

(1)裁ち板、(2)くけ台、(3)ものさし、(4)縫い針、(5)くけ針は和裁特有なものですので、少し説明いたします。

(1)の裁ち板は、反物を置いて印を付けたり裁ったり、アイロンをかけたりするときに使います。
裁ち板というように昔は厚めの板で作られていましたが、今は布が張ってある折りたたみ式もものもあります。
折りたたみ式のものは軽いし場所も取らないので、持ち運びや保管に便利。
さくらおばあちゃんのものは板でできていました。
幅は反物の幅より少し大きめで長さは畳の縦の長さと同じくらいです。
まな板よりも厚めの板に脚がついていて、正座して使うのにちょうどよいくらいの高さになっています。
木の板なので重いし折りたたみもできません。
それを嫁入り道具のひとつとして持ってきたのだと聞いて驚きました。
裁縫道具はみんな自分で持ってきたんだよ、と話すさくらおばあちゃん。
運んでくるだけでも大変だったでしょうね。

くけ台
くけ台の使い方

(2)のくけ台は、まち針をうつとき、キセをかけるとき、端をくけるときなどに使います。
和裁は正座ですることが多いのですが、くけ台は使うときにはL字形にして、脚と床の間に挟みます。
脚に挟んでいない方の先端には針坊主を置けるようになっていて、さくらおばあちゃんが若いころは、針坊主の中にゴマなどを入れて針の滑りがようなるようにしたそうです。
生活の知恵ですね。針坊主の少し下には、金属製の布を挟むはさみがついています。
さくらおばあちゃんはこれを「かんばり」と呼んでいますが、かたはり(ひっぱり器)ともいうようです。
L字形タイプではなく、机などに取り付けて使うタイプもあるそうです。

(3)のものさしは、和裁専用のものでなくても、竹尺やメジャーなど使いやすいもので大丈夫です。
最近は「cm」で仕立てる方も多いのですが「寸」で仕立てたい方は「寸」が刻まれたものさしが必要。「寸」のものさしやメジャーを使う場合は、必ず和裁用のものを用意してください(鯨尺のもの)。
さくらおばあちゃんが愛用していたのは、昔ながらの「寸」の竹尺。
年季が入っています。最近では、片側が「cm」片側が「寸」の竹尺もあります。
これはわざわざ換算する必要がなくどちらにも使えて便利です。

(4)の縫い針は、浴衣くらいなら洋裁用のものを使っても大丈夫ですが、和裁用の針もあるので、着物の仕立てなどのしっかり和裁をしたい方は用意しておいて損はありません。
和裁では、厚地のものを縫うときには太めの針、絹などの薄く繊細な生地のものを縫うときには細い針を使うのだそうです。
「四ノ二(しのに)」「四ノ三(しのさん)」など針の長さや太さによっていくつか種類があって、縫う生地によって使い分けるそうです。

いろいろな針

(5)のくけ針は、和裁独特のものですね。
「くける」というのは、洋裁でいう「まつる」と同じようなことですが、針の運び方や糸の見え方がちがいます。
縫い針でも代用できますが、縫い針より長いくけ針を使った方が仕事がしやすいので、和裁初心者の方は持っておくと便利です。

(6)以降のものは、普段使っているものがあればそれで大丈夫です。
糸は縫う生地に合う素材や太さのものを用意してください。

ちなみに、リッパーは、縫い目をほどいて縫い直すときや、衿の先端のとがったところをきれいに作るときに使うと便利なんだそうです。
コンパスは袖の丸みの形をとるときに使えます。
もちろんフリーハンドでも良いのですが「浴衣用・振袖用・男物用など、厚紙の四隅にそれぞれちがう大きさの円弧描いて型を作っておくとすぐに使えていいよ」と、さくらおばあちゃんが教えてくれました。

7 さいごに

さくらおばあちゃんの手・紙でつもる様子

型紙の有無、裁ち方、仕立て方や使う道具など和裁と洋裁のちがいを知っていただけましたでしょうか。
文字にすると何やら難しそうに感じられるかもしれませんが、実際にやってみるとそう難しくはありません。
単衣や袷、男物や女物というちがいはありますが、それぞれの着物の形は基本的に同じなので、仕立て方も同じです。
一度着物の仕立て方をマスターしてしまえば、あとは思いのまま。
「昔は、着物の仕立てがてきて一人前、和裁も花嫁修行のひとつだったんだよ」と懐かしそうに話すさくらおばあちゃん。
着物が好きな方、和裁に興味がある方はぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

 

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