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”品”と”説得力”、そして”スタイル”「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第十二夜

”品”と”説得力”、そして”スタイル”「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第十二夜

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着物でよく使われる独特な言い回し「染めに織り、織りに染め」とは。「着物1枚に帯3本」、その逆もアリ。セオリーを外れるときほど必要不可欠なものー”品と”説得力”、そして”スタイル”。

大輪の杜若と大胆な鯉

気温差の激しいこの時期は、袷、単衣、羽織に至っては薄物、と各種入り乱れての調整期間。いわゆる”暦”にとらわれすぎず、その日の気温や体調によって、さまざまな組み合わせで心地よい着こなしを。

染めに織り、織りに染め

着物にまつわる独特な言い回しには、ときに混乱を招きがちなものがいくつかありますが、この「染めに織り、織りに染め」というのもそのうちのひとつ。

これは「染めの着物には織りの帯を、織りの着物には染めの帯を合わせましょう」という意味で使われていますが、じゃあ「染めの着物に染めの帯」はダメなの?紬の着物にざっくりした紬の帯は相性良いのでは…?という疑問をお持ちの方も多いようです。

この混乱は、「染め」「織り」という言葉が、【格】の話と【コーディネートの相性】の話、二重の意味を含んでしまっており、それらが入り混じってしまっていることが原因のような気がします。

まず、もともとの意味。

着物において「染め」というと、留袖・振袖・訪問着・色無地・小紋などの礼装(フォーマル〜セミフォーマル)を、「織り」というと御召や紬・木綿・麻などの日常着(カジュアル)を意味します。

「染め」の着物=白生地に色柄を染めて作られるもの
 ※やわらかもの、後染め(あとぞめ)の着物、とも。

「織り」の着物=染めた糸を織ることによって柄をあらわすもの
 ※かたい着物(かたもの)、先染め(さきぞめ)の着物、とも。

逆に、帯においては「織り」=フォーマル(錦織など)、「染め」=カジュアル(友禅染めや型染め・絞りなど)を指す、という大まかな前提があります。

この大前提に基づいた「染めに織り、織りに染め」とは、「礼装用の着物には礼装用の帯を、普段着の着物には普段着用の帯を合わせましょうね」という意味。

カジュアル用であるざっくりした紬の八寸帯などは、この場合の「織の帯」のカテゴリーには最初から入っていないのです。

そして、ちょっとややこしくなる原因である、もうひとつの意味【コーディネートの相性】について。

20〜30年ほど前に起こった紬ブームの折、紬をモダンに、シックに着こなすのがおしゃれ、と着物雑誌だけでなくファッション誌などもこぞって取り上げた中で、織りの着物に染めの帯を合わせると優しい着こなしになる、という紹介の仕方が多くなりました。

クラシックに着こなすならこんな帯、柔らかい雰囲気なら…シャープにするなら…というような(もちろん今もよく使われる手法ですが。私自身も含め)。

ただ、この辺りで、あくまでも「【格】を合わせましょう」という意味で用いられていた言い回しに【コーディネートの相性】のニュアンスが混じってしまったがために、混乱を招いたのではないかと私は考えています(あくまでも個人的な意見です)。

ということで、結論。

普段着としての着こなしなら

染めの着物 × 染めの帯
染めの着物 ×(普段着用の)織りの帯

織りの着物 × 染めの帯
織りの着物 ×(普段着用の)織りの帯

どの組み合わせでも好きに合わせてOK

ということになりますね。

※ただ、ちょっと気をつけたいのは、ざっくりと粗い紬の帯はやはり基本的に織りの着物との相性が良く、染めの着物(大前提がセミフォーマル扱い)である小紋(特に綸子などの艶のあるドレッシーな小紋には、組み合わせの相性として)には合わないことが多いということ。

とはいえ、紬の帯全般が小紋に合わないということではなく、縮緬などの艶のない素朴系の小紋に紬の染め帯などは似合う場合もあり、この辺りは個々の相性やセンス、雰囲気による部分もあったりします。

セオリーから外れるとき

「着物のいろは」的な、初心者向けのマニュアル本や文字数の限られた雑誌などでは、◯✖をはっきりさせないと読む方をかえって混乱させてしまうため、どうしても断定的に決まり事として書かないといけないというジレンマがあるのですが、このコラムではそうじゃないことも多いですよってことをお伝えしたかったので、これまでも結構曖昧なニュアンスにしてきました。なので、回りくどい文章になっていることも多かったと思います(今もかな…)。

前章の最後で「小紋に紬の帯を合わせることもある」と書きましたが、昨年、とある女優さんに着ていただいたコーディネートがそんな感じでした。

片身変わりの訪問着に合わせたのは、墨描きで一輪の椿が描かれたひげ紬(生地から糸がたくさん飛び出した個性的な紬地)の染め帯。

ひげ紬
ひげ紬の染め帯 ※スタイリスト私物

手描きの太縞と白無地の片身変わりという個性的な着物とは言え、地紋のある紋綸子地の訪問着でしたから、セオリー通りにいけば紬の帯はあまり合わせませんよね。

私自身も、これが他の方だったらその組み合わせではご提案しなかったと思います。

ですが、その帯と着物の雰囲気が着られる方の雰囲気にとてもしっくりきて、まったく違和感のない組み合わせになっていました。

その方自身がいつもエネルギッシュで魅力的というのはもちろんのこと、着物であれ洋服であれ、何を着られても個性的でありながら上品で、存在感というか、セオリーだなんだということが既に野暮としか言いようがない説得力があるので、間違いなく着こなしてくださることはわかっていましたし。

セオリーを外れるときほど、何よりも必要なもの。

まず”品”と”説得力”、そして”スタイル”。

わかりやすく言えば”センス”で良いのかもしれませんが、これについては好みもあるので、”美意識”あるいは”スタイル”と言った方がしっくりくるかもしれません。

例えば和洋ミックスの着こなしなども、その着こなしに”品”と”説得力”があって着る方に似合っていれば、何も違和感を感じず、すっと入ってくるんだと思うのですよね。

SNSなどを拝見していると「素敵だなー」と思う着こなしをされている方もたくさんいらっしゃいますし。
(毎度論争を巻き起こす某美を競う国際大会の衣裳なども、結局のところその3つが決定的に欠けているからなんだろうなと、思ったりしているのですが…)

着物に限らず何でもそうだと思うのですが、知った上で崩すのと、知らないでやってしまうのは違う。

スタイリングの仕事をしていて、ただ普通に綺麗に着せるより、崩す方がよっぽど難しいなと思います。
背景にちゃんと”説得力”を持たせられているだろうか、”品”がなくなっていないだろうか。
着る方や作品に、マイナスのイメージを持たせることになってはいないだろうか…と、とても神経を遣うので。

稀に、何だかよくわからないけど、とにかく格好いいからよし!と納得してしまうくらいパワーのある場合もあるけど、それはもう、ある意味アートと言われる分野の才能というべき特殊な力だと思うので、そんな力を持ち合わせない私としては”品” ”説得力”はとても重要な要素なのではないかと思うのです。

きものスタイリストという仕事をしている中で、スタイリングという作業は、その言葉の通り“style -スタイル-を作る”ということなのかもしれないなと、ふと考えることがあります。

着る方や作品世界の”美意識”や”スタイル”を損なわず、最大限にその魅力を発揮できるようなお手伝いが出来たら、それはとても幸せなことだなといつも思っています。

着物1枚に帯3本

これも良く聞く言葉ですが、まぁこれはそのものずばり、3本あれば着回しが楽しめるという意味ですね(必ずしも3本じゃなくても良いのですけど)。

留袖やゴージャスな訪問着のように完全にフォーマル、あるいは木綿やざっくりした紬などのように完全にカジュアル、といった着物であれば、帯によって変わるのはあくまでも雰囲気のみで格までは変わらないのですが、以前第九、十夜でご紹介したような上げ下げできる着物であれば、単純に雰囲気が変わるという意味だけではなく、フォーマル、カジュアルの格の違いも含めた何種類かの帯を持つことによって、TPOも幅広く楽しめます。

ちょっと、きちんと

洋服が主流の現代において、ワンピースやスーツのような感覚で、“ちょっと気を張る席にきちんとしたイメージ”で違和感なく着こなせる着物。今求められているのは、そんな着物ではないでしょうか。

そろそろ桜も

無地感覚の「付下げ」や「訪問着」に祈りを込めた帯を合わせた装いなら、ゴージャス過ぎず、大多数の人から“きちんとしている”と認識されやすい適度なフォーマル感もある。スーツやワンピースで出席するクラスの現代のフォーマルシーンには、ほぼ対応すると思います。

例えばこんな、流水の小紋。

流水自体はどちらかというとクラシカルな文様ですが、グレー地にニュアンスのある配色で、どことなくモダンな印象も。

シックな印象に。

水面に映る月光を思わせるような幾何学柄が織り出された綴れの帯をあわせて、モダンな印象をより強めシックな印象に。

華やかなワンピースの感覚でドレッシーに装いたい、洋の観劇やパーティーシーンなどにも似合う組み合わせ。

この金糸を用いた綴れは、訪問着などにも合わせられるきちんとした格を持つ帯。こんなふうに小紋に合わせると、ガーデンスタイルの結婚式などにもふさわしい着こなしになります。

また、こんな組み合わせも楽しい。

物語性のある着こなし。

どこかメルヘンチックな雰囲気の南蛮船が繊細な相良刺繍であらわされた袋帯を合わせたコーディネートは、大海原を悠々とゆく風景が思い浮かぶ物語性のある着こなし。

袋帯ですが、金銀をあまり用いず、ゴージャス過ぎない落ち着いた配色の帯なので、紬などに合わせて普段使いにも楽しめそうです。

もっと軽やかにカジュアルに着こなしたいときには、同じ「織り」帯でも柳が織り出された博多の八寸名古屋帯をセレクト。

カジュアルに着こなす

ゆったりと大らかな流水に枝垂れかかる柳、どこか日本画を思わせるような組み合わせです。

普段のお出かけはもちろん、歌舞伎や落語など、さりげないこだわりのお洒落が似合う場にも。

涼やかな初夏の風景を。
※小物はスタイリスト私物

博多の八寸名古屋帯は、単衣にも合わせやすく重宝します。

楊柳の帯揚げに、アンティークの白珊瑚の金魚の帯留を添えて、涼やかな初夏の風景を。

ここでは3本とも織りの帯を選び、単衣に仕立てた場合をイメージして帯を合わせましたが、最初の項で述べたように染め帯も似合います。

秋の単衣なら、秋草に虫籠の帯を合わせても。

この帯は裏面も使えるリバーシブル。どちらも似合いそうなので、二本分使えて便利そう。

袷に仕立てて、紅葉を合わせれば定番の「竜田川」。

梅や亀甲などの吉祥文様を合わせて、お正月に。

無季の柄なら、水繋がりの幾何学模様や謡曲『竹生島』に由来する波兎など。

春ならば、桜はもちろん、曲水の宴にちなんだ盃なども素敵でしょうね。

帯3本どころか際限なく続きそうなので、このくらいにしておきますが(笑)。

逆もアリ

ある程度自分の好みがはっきり定まっている方は、帯を単品で購入したとしてもそうコーディネートに困ることはないと思うのですが、譲られたものが多かったり、まだ自分の好みがはっきりわからなかったりする場合は、一目惚れで購入した帯なのに合う着物がない…なんていうお悩みを抱えていることが多いようです。

もし気に入った帯を見つけて、購入を考えたとき、3枚以上合う着物をすぐ思い浮かべることができたら、それはまず買って正解。

よく言われるのは、先程の【着物1に帯3】というパターンですが、もちろん逆もアリ。

1本の帯を着物3枚に合わせるということですが、意外とこの逆パターンの方が使い勝手が良かったりもします。

何本も帯を持っていても、結局コレばっかり締めてる…なんていうこともありますから。

先程取り上げた、相良刺繍の南蛮船の帯。

流水の小紋の他に、こんな組み合わせも。

遊び心のある着物にあわせる

上前にカラフルな格子が織り出されたざっくりとした真綿紬の訪問着。

こんな遊び心のある着物に合わせると、相良刺繍の立体感がより際立って感じられます。

木製のビーズを帯留にして、半衿や帯揚げで色遊びを楽しむコーディネートに。
ギャラリーや美術館巡りなどにも良さそう。

そしてこちらは、若苗色の立涌万筋の江戸小紋に合わせたコーディネート。

門出のお祝いの気持ちをこめて

運気が立ち昇りゆくさまを文様化したと言われる吉祥文様のひとつである立涌文。

縫いのひとつ紋を入れるとより格式のある装いとなり、茶席などにも重宝します。
門出のお祝いの気持ちを込めて、卒業や入学、結婚式といったシーンにも。

ペリドットの帯留を添えて
※小物はスタイリスト私物

例えば結婚式なら、礼装感を高めてくれる白金の小物と、“夫婦の愛”という意味を持つペリドットのヴィンテージの帯留を添えて。

他にも、こんな無地紬や縞の小紋、異国情緒あふれる更紗の付下げなどさまざまに合わせて楽しめそう。

最初の段階で、まず3枚使える着物があれば十分元が取れるほど使い倒せると思います。

もし仮にすぐに浮かぶのが2枚でも、本当に気に入った帯なら、その帯を活かす違うタイプの着物を…と、今後着物を増やしていく計画の軸にもできるので眠らせておくことにはならないはず。

季節のコーディネート

〜雨に想う、単衣二様〜

初夏の風景をイメージ

ごく細い万筋が織り出された“本塩沢”と呼ばれる御召は、強い撚りのかかった糸で織られることによって生まれる、そのしなやかさと丈夫さ、身体に沿う心地良さが単衣にぴったりと言われます。

合わせたのは、紫陽花が織り出された夏帯。
音もなく静かに降り続く糸雨に打たれる紫陽花、そんな初夏の風景をイメージして。

あ、ちなみに…この本塩沢のみならず、御召は湿気の影響を受け縮みやすいので、本当の雨の日のお出かけにはやめておきましょう。

帯合わせを楽しめる一枚
ぜんまい紬着尺「無地・オフホワイト」 + 綴れ織名古屋帯「番傘」

そして、さらりと軽やかな生成りのぜんまい紬。

柔らかいナチュラルな白は顔映りも良く、帯合わせを楽しめる一枚です。
織り込まれたぜんまいを雨に見立て、利休白茶に筆書きのような蛇の目の柄が織り出された綴れの八寸を。

とある雨の日の江戸の風景を思わせる
※小物はスタイリスト私物

冒頭でご紹介したのは、とある雨の日の江戸の風景を思わせる組み合わせ。

渡し舟を操る船頭のアンティークの帯留に、蛇の目に落ちる雨粒みたいな硝子細工の根付を添えて。

時代小説の1ページを纏う、そんな気分になれるコーディネートです。

雨って、なんか好きなんですよね。
(出かけなくて良いなら、というのが大前提ではありますが…)

さて、次回の第十三夜からは少し趣向を変えて
『小説の中の着物』を取り上げてみたいと思います。

第一弾、どの小説にしようかな。

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