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ちらり、秘かな愉しみ 〜裏とか紋とか〜 「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第六夜

ちらり、秘かな愉しみ 〜裏とか紋とか〜 「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第六夜

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動きによってちらりと見える八掛や長襦袢、脱がないと見えない羽裏。小さくとも存在感のある背紋などは、自分からは見えないけれど、人の目にはとても印象的に映る部分だったりする。

柄と柄の力学

柄 on 柄の組み合わせは、バランスが大事。引き算というより、力の拮抗加減ーベクトルーで考えると、意外な面白さが発見できるかもしれません。

裏の愉しみ

袷の着物を肩に羽織ったときの、絹の程よい重みを心地よく感じることに季節の移り変わりを実感します。ついこの間まで、単衣でもまだ暑い…とげんなりしていたのに。

袷の季節、それは、裏の愉しみを味わえる季節。
私にとっては、夏の透け感と双璧とも言える着物の醍醐味です。

アンティークの煙草入れや印籠、刀の装飾などを見ていると、金具や装飾のひとつひとつに施されたモチーフに関連した意味があり、トータルで物語が完成されていることが多く、日本人の“小さな世界”に対する惜しみない愛情、愛着、こだわりと繊細な美意識を感じます。

もちろん、着物にも。

動きによってちらりと見える八掛や長襦袢、脱がないと見えない羽裏。
小さくとも存在感のある背紋などは、自分からは見えないけれど人の目には、とても印象的に映る部分だったり。

まだ慣れないうちは、どうしても着物や帯の取り合わせだけに意識が行ってしまい、長襦袢や八掛は二の次になりがちです。

表地を選んだら、裏ものはお店にお任せ、という方も多いかもしれません。(なんてもったいない…そこがいちばん楽しいのに!と、私などはつい思ってしまいますが)

こだわってくださるお店で、そのセンスを全面的に信頼しているお店なら待つ楽しみもありそれはそれで良いのですが、無難なものや、あまりこだわりのない選び方をしている場合も。(リサイクルの着物などを見ていると、なぜこれを付けた…?と首を傾げたくなるものも多々あります。笑)

何度も着て、洗い張りや仕立て直しを自分たちの手でするのが当たり前だった時代は、若いうちは赤などの若々しく可愛らしさを感じる色を付け、年齢を重ねるごとにだんだん落ち着いた色に変えていく、というのが一般的でしたから、リサイクル市場ではお嫁入りの際など若い頃に作った赤系の八掛が付いたままタンスに眠っていた着物が出回っている…と思えば
無理からぬことではありますけどね。

昭和のある一時期、やたらと反対色が流行った時期もあり、八掛を見ると、なんとなくその時代背景が見て取れ面白いものです。

反対色や奇抜な色柄の八掛も、それはそれで魅力的ではあるのですが、やはり帯合わせに多少の制限が出るのは否めません。

同じ傾向のインパクトのある帯が多く、そういうコーディネートを好む方ならもちろん何の問題もなくかっこよく着こなせるでしょうが、とりあえず、まだそう手持ちの着物の枚数も多くないのでいろんな帯を違和感なく合わせたい…という場合はまずは同色系でまとめておくと安心。
帯の合わせやすさと遊び心の両立が叶います。

基本同系色(表地と同色、もしくは共薄or共濃色*)でほんのひと匙のアクセント。
帯合わせを邪魔せず違和感なくなじみながら、その遊び心が着るひとの気持ちも、見るひとの目も楽しませてくれます。

お気に入りの下着や、小さなアクセサリーを身に付けたときのような。

心浮き立つような、秘かな愉しみがそこにはあります。

*共薄(ともうす)/共濃(ともこい):生地の色よりやや薄い/濃い色のこと

八掛で変わる表情

表地に合わせた、綺麗な銀鼠のぼかしの八掛が付いた白大島。
どんな帯を合わせても邪魔することなく、上品にまとまりそうです。

〜南天小紋の八掛〜

本場白大島紬9マルキ + 帯屋捨松・真綿八寸名古屋帯
本場白大島紬9マルキ + 帯屋捨松・真綿八寸名古屋帯

表地の薄茶の方に合わせた、南天の小紋柄の八掛。
クールな白大島が、どことなく甘さのある柔らかな表情に感じられます。
ざっくりとした風合いの八寸帯を合わせて、秋冬の色を楽しむ装いに。
難を転ずる、という南天柄ですから、おめでたいモチーフを合わせればお正月などにも活躍してくれますね。

〜縞大島の八掛〜

本場白大島紬9マルキ + 京友禅紬地染め帯「ガレオン船」

薄水色と銀鼠の縞の八掛を合わせてみると、爽やかさが際立ちます。
きっと私は春から初夏にかけて着ることが多いだろうな、という方は、あえてクールさを強調するのも一興ですね。
濃紺地に船の柄が描かれた紬の染め帯で3〜5月あたりに大活躍してくれそうな雰囲気に。

背紋の力

厳密にいうと裏ではないけれど、主に背中側で、自分からは見えないという意味では裏へのこだわりに近いものがある気がする…
それが紋。

世界的なハイブランドに影響を与えていることもよく知られているように、デザインセンス、完成度に優れた日本の家紋ですが、紋付きの着物と聞くと、まずは紋付きの羽織袴や留袖など第一礼装を想像する方が多いかと思います。

日常着る着物には無縁、と思っていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

確かに、留袖などの正装に付けられる家紋は、紋の入れ方の中でももっとも正式な染め抜き日向紋が主流なので、日常遣いの着物にはちょっと不釣り合い。例え色無地でも、染め抜きの紋を入れてしまうと普段遣いの帯などは、やはり合わせにくくなってしまいますね。

でも、刺繍や友禅染めの技法を用いた洒落紋や伊達紋と呼ばれる軽やかな遊びの紋なら、日常着る着物にも似合います。

スーツのような感覚できちんとした席にも着たいし、カジュアルダウンして遊びの着こなしもしたい、時には金銀があしらわれた帯を合わせてドレスアップもできたら…
そんな風に着こなしたい江戸小紋や無地紬、軽めの付下げなどに洒落紋をあしらっておくと、より着こなしの幅が広がりますし、物語性も高まって愉しみが増します。

家紋でも、共色の刺繍ならあまり仰々し過ぎず着こなせます。
また、好きなモチーフや植物でオリジナルデザインを作りご自身のものとしてあしらうのも素敵ですね。

家紋にアレンジを加えて、自分だけのオリジナルに仕上げるのもおすすめです。

三割桐の紋

お客さまからのご依頼を受けてデザインした、ご自身が受け継がれている「三割桐」の紋の周囲に、桐の木に棲むという鳳凰の羽根をあしらったもの。華やかな雰囲気をお持ちの方なので、アシンメトリーなデザインで動きのある優雅な雰囲気にしました。

自分からは見えないけれど、背に一つ、ぽつりと小さなあしらいがあるだけで背後から忍び寄る魔から守ってもらえるような、なんとなく心強く温かい気持ちになるから不思議。
そして心持ち凛とした、引き締まった気持ちにもなる。

無地っぽい着物の後ろ姿に、華やぎも添えてくれる紋の愉しみをぜひ。

例えばこんな、遊び方

瑞雲の訪問着
駆け上がる雨龍を

表地が瑞雲の模様だったので、背には駆け上る雨龍を。

八掛には古代文字の「雲」

共色の八掛には、古代文字の『雲』という字を直書きしました。

“瑞雲”からするすると繋がった連想ゲーム、考えている間も書いている間も待っている間も(もちろん、出来上がってからも)楽しみが続くので、なんだか得した気分になりますね。

八掛に書を書いて

雨縞の江戸小紋。
雨の異名を散らし書きしたものを、白抜きで染めて。
雨の名前って季節ごとにたくさんあって(中には1年のうち1日、しかも12時ごろ、というピンポイントで降る雨の名前なども)、響きが綺麗なものが多いんですよね…

この着物には、まだ紋は入れていないのですが、いずれ入れようかと。
やっぱり、傘モチーフかな。

三つ扇の紋が入った御召

アンティークの、縞に玩具柄の御召。背と袖には、三つ扇の紋が入っています。
こういった縞に紋を入れるということは、現代ではほぼしないですし、先程も「染め抜きは日常着には…」とも述べましたが、アンティークではわりとよく見かけます。

この着物が実際に着られていた昭和初期くらいまでは、意外とよくあることでした。

すべてにおいて言えることですが、現代の着物のルールと言われているものは、だいたい近年になって決められたものが多いので、アンティークなどを見ると、わりと自由に、いろいろと楽しんでいたのだなということがよくわかります。

八掛を作り変えて

実はこの着物、入手した際綺麗に仕立て直してあったのですが、目が覚めるような鮮やかな青の八掛が付けられていて(笑)。
それがあまりにも表の雰囲気と合わなかったので当たり矢の刺繍を入れた八掛を作り付け替えました。

季節のコーディネート
〜残菊二様〜

金彩友禅訪問着「糸菊の宴」 + 京友禅塩瀬染め帯「吹き寄せ」

煌めく雪の粒や霜をまとったような、銀線で繊細な糸菊が描かれた訪問着。
訪問着ではありますが、それほど仰々しくないので、観劇やお食事など、日常のお出かけにも着こなせそう。
深い色遣いが魅力的な吹寄せの染め帯を合わせて、秋の名残と初冬の気配が漂う静かでドラマティックな装いに。

京友禅訪問着「慶寿刷毛霞重陽菊紋」 + 京友禅塩瀬染め帯「鼓」
京友禅訪問着「慶寿刷毛霞重陽菊紋」 + 京友禅塩瀬染め帯「鼓」

大胆に散らした菊の葉の中に、菊の花をあしらったどこかアンティークなニュアンスのある訪問着。深みのある紫の、しっとりと重みのあるとろりとした縮緬地の表情と相まって、深まる秋を思わせる一枚です。深い栗皮色の地に金彩で鼓胴と霞を描いた染め帯を合わせて。鼓胴の中には菊が描かれており、まさに菊尽くしの装いに。

訪問着の場合は、共色の生地に表地に合わせた柄が描かれている場合が多く、裏まで含めた世界観へのこだわりを感じます。

共生地(共色)、柄入りの八掛は、八掛が付いていないことの多い付下げとの見分け方の判断材料にもなります。

至極当然の選択ではあるのですが、最初に仕立てる際はどうしても万能なものを選ぶことが多いと思います。
でももし、何度も着て洗い張りするタイミングがあったり、人から譲られた着物を自分らしく着るために仕立て直しを考えたりといった、何か”きっかけ”があったなら、ぜひ八掛や紋の遊びを取り入れてみてほしいなと思います。

もちろん余分な費用はかかりますが、きっとその価値はあるはず。
より一層愛着が湧き、より楽しんで着られるようになると思いますので。

さて、次回の第七夜は…

今回、襦袢や羽裏まで到達しなかったので(笑)引き続き裏もので。

やっぱり襦袢は大事、というお話です。

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