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色のお話 〜好きな色をまとう幸せ〜 「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第四夜

色のお話 〜好きな色をまとう幸せ〜 「徒然雨夜話ーつれづれ、あめのよばなしー」第四夜

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似合う色と好きな色は違う?肌の色やタイプもあるけれど、でも最終的に大事なのは、結局、好きかどうか。何をどう主役にするかで、イメージはがらりと変わる。それが着物の面白いところだと思うのです。

好きな色 ≠ 似合う色、でも…

まだまだ厳しい残暑が続いていますが、そろそろ秋の気配も漂ってきた(と、思いたい)今日この頃なので…今回は色のお話を。

好きな色と似合う色が違う、というのは意外と多くの方が感じているお悩みのようです。
ファッションやメイクの業界においては、パーソナルカラー診断なども盛んでスプリングやサマー、イエベ、ブルベ、といった分類もよく耳にしますね。

確かに、大別される傾向というのはあると思いますし、そういう基準も、自分に合う着物を選ぶ参考にはなります。
ただ、あまりに囚われすぎても、ちょっとつまらないかな…と。(診断自体を否定しているわけではありませんので、誤解なさらないようお願いいたします)

私は、人ってわりと単純なので、好きな色を身につけると気持ちが上がる、というのはシンプルな事実だと思っていて。
スタイリストという職業は、何よりもまず、その時々のシーンにおいて着る方自身をもっとも場にふさわしく魅力的に魅せるものを選ぶ、というのがお仕事。
俳優さんなど、公の場やドラマ等の特別な設定のある場面における衣裳の場合も、一般の方が日常的に着られる着物の場合ももちろん基本の考え方は同じです。

展示会などで、実際にお客さまと接することもありますしご相談に乗ることもありますが、その際、鏡の前で羽織ってみたり反物を着装(着物に仕立てた場合のイメージに近くなるように巻き付けること)したりしたときに、その組み合わせが好きか嫌いかでその方の表情はまったく変わります。

カラー診断としてもぴったり当てはまり、客観的に見てもすごく似合っていても、着ている本人が好きじゃなければ今ひとつ表情が晴れない。
逆に、もしかしたら診断的には当てはまっていなくても「これ好き!」っていうひと揃いと、気持ちがぴたっとはまったときって本当に表情がぱっと華やぐんですよね。
それはもう、びっくりするくらいわかりやすく。

診断ももちろん参考にはするけれど、最終的には、好きかどうか。
それに尽きるのでは、と思っています。

とはいえ…すごく好きな色なのに、その色一色だったり全体的な地色だったりすると、残念ながら似合わない…という場合も確かにあります。
なんかぱっとしない、と言いますか。
これに関しては、パーソナルカラー診断などで当てはまる場合が多いかもしれません。
(例えば女優さんなどでも、ご自分のことをよくご存知な方からは「○○色系は顔色が悪くなるから避けて欲しい」といったようなご要望がある場合もあります)

小紋や紬といった普段着では特にですが、着物は基本的に全身が同じ色柄になります。
ほぼ全身を覆う同じ色柄の分量の布というのは、洋服で考えると長袖&フルレングスのドレスくらいの勢い。

“物理的な布の分量”が圧倒的に多くなるので、どうしても印象が強くなりますし、反物で見ていた印象と仕立て上がったときの印象が変わってしまうこともあります。
(なので、反物を購入する際には、着装してもらうとイメージが掴みやすいかと。慣れるとだいたい想像できるようになりますが、最初のうちは、その方が、あれ?なんか違う…といった失敗のリスクが減るのではと思います)

幸いにと言いますか、着物の場合、着物単体で着用することはまずありませんので、何を主役にするかはコーディネート次第。

着姿のもっとも印象的な色として好きな色を活かす、もしくは、映えさせる。

そんな風に考えてみると、俄然“似合わない”のハードルが下がるのではないでしょうか。

色の分量を加減する

例えば、綺麗な澄んだペパーミントグリーンやターコイズブルー。
大好きなのだけど、地色としてはちょっと難しい…と、よく聞く色です。この色を例に、ご紹介してみたいと思います。

まずはシンプルに、単純に“分量を減らし”てみるところから。

〜 帯の地色に選ぶ 〜

同じ地色でも、帯にすると当然ながら色の分量は減ります。
顔から比較的遠い位置になりますので、着物に自分の肌映りの良い色の無地感覚の着物を選んで合わせると、帯が主役の装いに。

京の工芸染匠 特選京友禅九寸名古屋帯 <五泉ブランド・駒塩瀬地> 「葛に花」
京友禅塩瀬染め帯「葛に花」

裏も染められた両面染めの江戸小紋は、単衣にもぴったり。
綺麗な地色に秋の七草のひとつ、葛(くず)が染められた塩瀬の帯は、単衣から袷の時期まで合わせられて重宝します。
残暑の残る9月後半に、澄んだ冷たい秋の空気を感じさせるようなコーディネートに。

〜 着物の柄のメインカラーとして 〜

柔らかく顔映りの良いクリームは、日本人の肌を綺麗に見せてくれる肌馴染みの良い色。全体に柄として配されたターコイズブルーは濃淡の具合も相まって、印象の強さはありながら肌映りを邪魔しない分量に収まっています。

実際の分量としてはかなり減っていますが、全体の印象としてはさまざまな濃度のターコイズブルーが印象的な一枚です。

京摺り友禅小紋「翡翠更紗文」
京摺り友禅小紋「翡翠更紗文」
河村織物 河村つづれ 特選手織紋綴れ八寸名古屋帯
河村つづれ 手織紋綴れ八寸帯

柔らかな地色のクリームに溶かし込むような綴れの帯を合わせて、より唐花のターコイズブルーを際立たせるコーディネートに。
たれの焦茶色が、後ろ姿を引き締めてくれます。

〜 白の力を借りる 〜

白シャツが似合わない、という人はわりと少ないのではないでしょうか。

特にこの着物のように柔らかい白なら、なおさら。
揺らぎのある縞で表された色は、物理的な色の分量で言えば半分くらいになっているでしょうか。
また、柔らかい白の効果と濃淡のある染めで奥行きが生まれ、平坦な一色の地色だと強すぎると感じる方にも似合いやすくなります。

米沢・絹紙布八寸帯「流星」
米沢・絹紙布八寸帯「流星」

焦茶にブルーの点が織り出された紙布の八寸帯。
シックな色合わせで秋の気配を。5・6月なら白やグレー、パステルカラー、あるいは紺やブルー系の帯を合わせるなど、初夏と初秋で着分ける楽しみも。

〜 彩度を落としたグレイッシュな配色に 〜

色を考える際に、その素材も大切な要素のひとつになります。
染めでも、素材の艶(ツヤ)の有無でずいぶん違いますが、織の着物は、糸が絡むことで染めほど鮮やかに発色しないものが多いので、好きな色を地色に選んでも、染めより合わせやすい場合が多いです。

また、この御召のように、グレーとミックスされたものはモダンな印象になり、コーディネートしやすくなります。

きものと帯のセット

ぜんまい紬の地に、ちょうど実りの時期を迎えるオリーブが描かれた帯を合わせて。
季節の柄と言えば、クラシカルな和のモチーフが定番ですが、こんなボタニカルな雰囲気の帯を合わせたら、ワンピースみたいな新鮮な着こなしに。
コスモスの半衿やオリーブの実のような帯留を添えて、スペインバルやイタリアンのランチに出かけたくなりますね。

〜 小さく効かせる 〜

地色で着るにはさすがに臆してしまいそうな鮮やかなターコイズブルーも、黒on黒の胸元にきっぱりと映え、個性的な装いに。
ここでは黒系の組み合わせをご紹介しましたが、白やグレー系などのモノトーンの組み合わせや、紺系はもちろん茶系や紫系とも相性が良いので、映えると思います。

こんな風に強い色をアクセントにする際は、帯揚げに使うのがおすすめです。
他者から見た際に、目線が高い位置に来た方がすっきりと縦長に見えますし、少し強すぎるなと思ったら、帯に押し込むことで出す量を調整できます。

帯締めだと、身体の真ん中を分断してしまうことになりちょっと詰まった印象になりがち。また、強過ぎたとしても隠しようがないので…。
もし帯締めに使うなら、帯留など、小さな分量で添えるとバランス良く仕上がります。

鼻緒のツボやバッグ、リングやネイル、簪など、帯から離れた場所に小さく同系の色を散らすと、全体がまとまって、より洗練された印象に。

きものと帯のセット
着物・帯:同上 衿秀・紋紗帯揚げ その他小物:スタイリスト私物
きものと帯のセット
着物・帯:同上 衿秀・絽帯揚げ その他小物:スタイリスト私物

しゃりっとした地風が着心地の良い縮結城に、ざっくりした素材感が愛おしい葛布の帯を合わせて。第二夜でもご紹介した自然布は、透け感がそこまで強くないので単衣の時期にも重宝します。

柄ものの帯揚げや帯締め、帯留が活かせるのも、無地帯ならでは。挿し色が際立つ軽やかな遊び心のあるコーディネートになります。

“小さく効かせる”。その効かせ方も、あしらう分量によっていろいろ違った雰囲気が楽しめます。

結局は好きかどうか

着物って、身につけるアイテムが多いだけに、何を主役にするかで、かなり印象を変えることができます。

基本的に形状が同じなので、色柄の印象を左右するのは、主に色の分量。
その加減を意識してみると、今まで難しいと思っていた色が意外にすんなり馴染んでくれるのではないかと思います。

逆に、似合うのはわかるんだけど好きじゃない、という場合もありますね。

例えば私自身は、客観的に見て似合うであろうことはわかっていても、彩度の高い澄んだ綺麗な色は、まず着ません。というか、着ていられない。
基本的に華やかなものが苦手なので、なんだか気恥ずかしくて。
居心地が悪いというか落ち着かないというか…いたたまれない。
(かなり挙動不審な人になるであろうことが、容易に予想されます…)

ふらりと知らないお店に立ち寄ったりした際に、綺麗なピンクや澄んだ水色を勧められること、多いんですよね。まぁさすがに最近では年齢的なこともあってだいぶそれも減りましたが(笑)

20代の頃は今以上に渋好みだったので、勧められるものはほぼその辺りで、私が手に取るものは「そんなおばあさんみたいなの…」とか「もっと若々しいのを着た方が…」とか、あるあるなアドバイスはひと通り経験しました。
苦笑いしながらやんわり断っていましたが、頭でわかっていても、こればかりは好みの問題なのでどうしようもないですね。

自分自身がそうなので、私は、購入を相談された場合、その方が好きかどうかを最優先に考えます。

迷うのが、着こなせるかどうか自信がないだけで、とても好きだしチャレンジしたい気持ちがある、というのであれば間違いなく似合っているから大丈夫!と背中を押しますが、好きじゃない気配が感じられたら、無理はしない方が良いと思いますよ、とお伝えするようにしています。

どんなに他人から見て似合っていても、来ていて心地良くないのであれば意味がないし(実際に表情も曇る)、好きじゃないものはきっと着なくなってしまうでしょうから。

“好き”がベースにあれば、いろいろ工夫して自分なりに着こなせるようにきっとなる。

その工夫も、ぜひ楽しんでいただきたいと思います。

季節のコーディネート「中秋の名月に寄せて」

このところの温暖化で、単衣が登場する時期が長くなりました。
裏表がないため単衣向きと言える織の着物は、10月の衣更以降も結構長い間活躍します。

ちなみに2021年は、9月21日が十五夜、10月18日が十三夜とのこと。

先程も登場した、しなやかな風合いが着心地の良い花織の単衣に、ほんのり秋色が挿されたうさぎの帯を合わせて、お月見などいかがでしょうか?

きものと帯のセット

深みのある濃紫の地に、絞りで二羽のうさぎと露芝が表された名古屋帯。
素朴な表情とシックな色使いのバランスが絶妙で、甘くなりすぎず、大人の女性にも似合いそう。黒に近い、ニュアンスのある紫の地色は着物を選ばず合わせやすいので、いろいろな着物に合わせて楽しめそうなひと筋です。

きものと帯のセット
着物・帯:同上 小物:スタイリスト私物

9月の十五夜には、関東側の銀鼠のうさぎを前に。衿元には、絽縮緬に薄の刺繍半衿、楊柳の帯揚げと、単衣ならではの素材を楽しみたい。

雲がかかった満月のような、アンティークの鼈甲(べっこう)の帯留に、まだ暑さの残る時期、白を添えた同系色の小物でまとめて目に涼やかさを。

きものと帯のセット
着物・帯:同上 小物:スタイリスト私物

「栗名月」とも呼ばれる十三夜。関西側のほんのり挿された橙色が、秋の実りを感じさせてくれます。

ぷっくりと素朴な雰囲気が愛らしい木彫の栗の帯留に、焦茶やからし色など秋色の小物を添えて。衿元には、先取りの紅葉をはらり。

季節のコーディネート「モダンに初秋の色をまとう」

例えまだ残暑が厳しくても、やっぱり秋らしい色合いに手を伸ばしたくなる。しゃりっとした独特の風合いを持つ御召もまた、単衣向きな素材です。

適度な艶のある御召は、織の着物の中でも小紋に通じるドレッシーさがあり、ハリのある織りの着物と柔らかく身体に馴染む染めの着物との、ちょうど中間のような着心地。帯次第で、さまざまなシーンに合わせた着こなしが楽しめます。

きものと帯のセット

灰みを含んだベージュは、和名で呼ぶなら白橡(しろつるばみ)色。
どんぐりの古名由来のその名にも、秋らしい風情が漂います。リズミカルなラインが同系色でもぼんやりせず、ワントーンながらメリハリのあるコーディネートに。シャープでモダンな印象の博多帯を合わせて、芸術の秋、美術館やギャラリー巡りも良いですね。

さて、次回の第五夜は。
今回色のお話だったので、お次はやっぱり…柄、でしょうか。

着物ならでは、とも言える“柄on柄”の着こなしも、コツさえ押さえておけば、意外と難しくなかったりします。

京都きもの市場 きものセット

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