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優しさと強さと。上田紬の格子のさりげなさ 「つむぎみち」 vol.11

優しさと強さと。上田紬の格子のさりげなさ 「つむぎみち」 vol.11

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『きものが着たくなったなら』(技術評論社)の著者・山崎陽子さんが綴る連載「つむぎみち」。おだやかな日常にある大人の着物のたのしみを、織りのきものが紡ぎ出す豊かなストーリーとともに語ります。

いよいよ袷の季節がやってきた

冷気に目が覚め、布団をかけ直す明け方を経験すると、いよいよ袷の季節がやってきたと実感します。今年は10月10日から袷を着始めました。
シーズンのはじめには、軽い大島紬や本塩沢などを着ますが、季節が進んでくると着たくなるのが、上田紬です。信州の澄んだ空気、少しずつ黄色く染まっていく山々、頂が冠雪し、裸木が増えていく冷涼な晩秋。大好きな八ヶ岳やアルプスの麓の風景に、この紬が重なるのです。

 
『エクラ』2月号・モデル亜季さん

優しい草木染めの色合い、艶やかな格子は、しっかり私の記憶に刻まれたのでしょう。2年後、この紬をふと目にした時、すぐに小山さんの作だとわかりました。秋の夕暮れの、すべてが調和した幸せな撮影風景が蘇ってきて、つい反物を手元に引き寄せました。

小山憲市さんが織る上田紬

信州は養蚕が盛んな土地で、松本紬、上田紬のほかにも自家用紬が各地で織られ、江戸時代に最盛期を迎えました。中でも、上田は縞と格子が特徴で、丈夫なことから「三裏縞」と呼ばれたほど。縞の表地1枚に、裏地が3枚代わるほど長く着られるとの意味が込められています。
小山さんの織についていえば、私は糸の色の美しさに心を掴まれてきました。この着物の染料は、柳の葉と枝、胡桃、栗のいが、刈安、梅の枝。ウッディなアロマのように、静かで落ち着くのです。その織りは、色の構成、ピッチの変化など、見れば見るほど熟考されていて。清潔感のある格子のさりげなさは、確かな技術の裏打ちがあってこそ、とわかります。

今日はちょっとおめかし風に着たくて、塩瀬の染め帯を合わせてみました。この帯には、純国産のオスの蚕から作られる絹糸が使われています。オスは子を産まないので栄養をすべて糸づくりに使えること、メスに比べて口が小さく、細く長い糸を吐き出すことに目をつけて、37年の歳月をかけて研究を重ね、品種改良された最高峰の絹。この深い光沢に竹花更紗が描かれた帯に出合ったのは、2014年の夏でした。

染色作家・仁平幸春さんの描く更紗

染色作家・仁平幸春さんの描くミニマルで緊張感に満ちた更紗の表現は、今まで見てきたどんな更紗とも違っていました。微細な金のラインが抑制された華やかさを醸し出し、黒い壁面に飾られた美しい絵画のように見えたのです。
仁平さんの言葉を借りれば、「古典的な更紗の特徴と雰囲気の核心を捉えつつ、日本的であり使いやすい。技法的には糸目友禅とろうけつ技法を組み合わせることが多く、日本の技法で、本歌の更紗の波長を出すという感じ」と。
大らかで素朴な更紗とはまったく趣を異にする「フォリア工房の更紗」は、和装に都会的なニュアンスを与えてくれるのです。
その後、仁平さんの仕事を見たくて、板橋にあるフォリア工房を訪ねました。細い筆で下絵を描き、糸目糊を置く繊細な作業、色を挿したり地染めをしたり、染色のプロセスを実地で拝見したことは、染めの基本を知る上でとても勉強になりました。

シンプルな格子とモダンな更紗、ナチュラルなアイボリーと深い黒、織りと染め。互いが共鳴し合うとき、着物の悦びが湧き上がってきます。

上田紬のコーディネート

・上田紬 小山憲市(まつや染織)
・変わり塩瀬名古屋帯 竹花更紗 仁平幸春(フォリオ工房)
・帯揚げ 二色暈し市松模様
・帯締め 和小物さくら
・帯留め ケシパールに蒔絵「銀河」
・草履 エナメルに絞りの鼻緒(楽艸)
・バッグ アンティーク

長襦袢と半衿はどちらも鱗文様で揃えて。

小山憲市さんが織る上田紬を知ったのは、雑誌の撮影で着物のスタイリングをした時のこと。2017年の年末に発売された『エクラ』2月号、「もっと、カジュアルに着物。」という特集で、モデルは亜希さんでした。ストールを羽織って芝犬と土手を散歩する亜希さんの姿は、何度も見返すほどお気に入りのページになりました。

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